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サラマンダー編
第二十五話 サラマンダーの巣穴
しおりを挟むやっとまともな道に出てきた。わたしは胸をなでおろす。鎖に掴まってのカニ歩きをしてきた細い道が終わり、広い場所にたどり着いたのだ。わたしより随分前に到着していたビューロさんが、道の先を見上げる。
「この先、岩を登るがこれまでほど危険ではない。ただ、道自体がなくなる。襲ってくる精霊には気を付けるんだぞ」
ビューロさんの言う通り、少し歩くと道はなくなった。大きな岩の間を登っていく。途中、精霊が出るけれど、ほとんどビューロさんが退治してくれた。
「わあ……」
岩を登っている内に、雲の上にまで来ていた。さすがにここまで来ると空気が薄いと感じるかと思ったけれど、そうでもない。精霊もいるから元の世界とは原理が違うのだろう。岩の上に立って、辺りを見回してみる。雲の切れ間から、夕陽のオレンジ色の光が差した。何が違って、何が同じなのだろう。分からないけれど、景色を美しく感じるのは確かだ。
それはエルメラも同じだったみたい。わたしの肩にとまって同じ方向を眺める。
「綺麗だね、ユメノ。わたし、こんな景色初めて」
「わたしもだよ、エルメラ」
綺麗な景色を見ると時間が止まったように感じるって本当だったんだ。景色に見惚れて、止まっているわたしたちにビューロさんが声をかけてくる。
「おーい。日が暮れるということは、暗くなるということだぞ! もう少しだ。急ごう!」
確かにこんな所で足元が見えなくなったら、滑落してしまう。急いで前を行くビューロさんを追いかけた。
日が暮れて辺りが薄暗くなり、松明を用意したころ。わたしたちはそこにたどり着いた。
「ここがサラマンダーの巣穴に続く洞窟だ」
そこは何の変哲もない岩と岩だけの隙間に見えた。わたしはそのまま通れるけれど、みんなは身を屈めないと入り口を通れないだろう。
「この奥にサラマンダーが?」
「そうだ。サラマンダーの寝床までの道のりは意外に短い」
洞窟の狭い入り口を見つめていると、ドキドキとして来た。ロオサ村から出発して、何日もかけて、わたしはやっとここまでたどり着いたのだ。ここでサラマンダーを説得して、元の世界への帰り方を聞き出さないといけない。だけど自分に出来るのだろうかと不安がよぎる。
「ダメダメ」
わたしはこっそりと自分の頬を軽く叩く。絶対に帰ってわたしは声優に復帰するのだから。わたしたちは洞窟のすぐ近くにある、少し開けた場所まで移動した。
「今日はここで野宿をする。明日の戦闘のために体力を回復するんだ」
中央には焚火をした跡もある。カカが焚火の跡に近づいて首をひねった。
「豪華な街の宿に慣れていたから野宿なんて寝られるかな」
「カカは眠れるでしょ。どこでも三秒で寝ちゃうんだもん」
エルメラが言う通り。これまでカカはイオの布の中だろうが、草むらだろうが、すぐにいびきをかいていた。
「じゃあ、まず……」
ホムラに頼めば火起こしも簡単だ。まずは少しずつ持ち込んだ薪を組まないと、と言おうとしたときだった。
「ぎゃああああああああ!」
突如、大きな悲鳴が辺りに響く。
「な、なに?」
突然の異変にわたしはどうしていいか分からず、自分の杖にしがみついた。しかし、ビューロさんたちの顔には焦りはない。シュルカさんがつぶやく。
「いるな」
「ええ」
オリビアさんも訳知った顔で頷いた。
「なに? なにがいるの? 精霊?」
だけど、カカとエルメラは無言で首を横に振る。わたしの質問には、ビューロさんが答えた。
「居るのはロザ王国の精霊使いだ」
「ロザ王国の?」
イオも驚いた口調だ。どうして分かるのだろう。
「でも、どこにもいないじゃない」
キョロキョロ周りを見ても姿はない。ビューロさんが神妙な口調で言う。
「いや。居るのさ。サラマンダーの洞窟の中に」
「え! つまり、ただの精霊とじゃなくて、サラマンダーと戦っているの」
わたしは洞窟の方を見る。さっきと変わらない様子だけれど――
「ロザ王国も、サラマンダーの遣わす精霊には困っているんだ。彼らは山の東側から登る。同じように力を削ったり、露払いをしたりするためだ。ただ同時に登るのは珍しい。たぶん朝からサラマンダーと戦っているか、俺たちと同じように今朝から山を登って、体力に余力があったか。定かではないが……。さっきの悲鳴は一人やられたのだろう」
わたしとエルメラは息を飲む。悲鳴はどう考えても、少しやけどした程度じゃない。
「ど、どうするの?」
待っていたら彼らは洞窟から逃げ出てくるだろうか。
「そうだな」
リーダーはビューロさんだ。みんな、彼の判断を待つ。
「救出に行こう。どれほど負傷者がいるかは入ってみないと分からないが、悲鳴と出てこないところを見ると、撤退するのにも苦労しているのだろう。彼らの助けられるのは俺たちしかいない」
ビューロさんはニッカリ笑った。敵国だから無関係だと言われなくて、わたしは心底ホッとした。これでこのまま明日に備えて野宿と言われたら、気になって眠れないもの。きっとこれまでも山に登って一緒になることもあったに違いない。共通の敵がいるからという理由は微妙だけど、ここでは戦争なんて関係ないんだ。
「サラマンダーへの攻撃は気を逸らす以外にはしない。ユメノも声掛けは次の機会だ」
人命第一だから、しょうがない。Sランクで討伐隊に入ったのだから、焦って仕損じても困る。
「救出目的とはいえ、俺たちも体力は万全じゃない。十分に気を付けるんだ。五分休憩した後に突入だ」
わたしたち精霊使いの四人はしっかりと頷いた。
休憩の後、サラマンダーの巣穴に屈んで入る。洞窟に入った途端、すぐに外と空気が違うと感じた。じりじりと空気が熱せられている。歩いているだけで、額から汗が噴き出した。洞窟の中は暗くはない。行く先の光が入口付近まで届いているのだ。おそらくサラマンダーの炎の光だろう。前を行くビューロさんが声を潜めて言う。
「岩陰から様子を見るぞ」
わたしたちは頷き、足音も立てないようにそろそろと歩いた。一歩前に進むだけで、温度が上昇していくのが分かる。熱源に近づいているのだ。
狭かった道が開けた。わたしたちは二手に分かれて、大きな岩陰に隠れる。そっと広い空間を覗き見た。熱源の正体はマグマだまりだ。ぐつぐつと煮えたぎっている。岩壁には立っている人が三人、倒れている人が一人、倒れている人に付きそう一が一人。合計五人の人物がいた。
「あれ? サラマンダーは?」
洞窟内には精霊ギルドの前にあった彫刻のような姿は見られない。それでも、ロザ王国の精霊使いたちはマグマだまりを警戒していた。わたしたちも、迂闊には動けない。
どれほど、そうしていただろう。
「今のうちに助けられないかな」
わたしが岩陰から身を乗り出そうとすると、ビューロさんの腕に止められる。エルメラも真剣な表情で首を振った。
「ユメノ、ダメ。居るよ」
カカも同じように頷く。
「ああ。地の奥底をはい回っている」
妖精たちが地面を見つめるので、わたしも思わず地面を見る。
「「来る!」」
エルメラとカカが同時に言ったときだ。地面がグラグラと揺れ動き出した。あまりに大きな揺れで、わたしは地面に手をつく。
『ヴオオオオォォォォ』
耳を裂くようないななきが一帯に響いた。
「ユメノ!」
イオがわたしの上に覆いかぶさる。マグマのしぶきが飛び散ったのだ。かばわれていても熱い空気の飛沫を浴びた。それと同時に轟音のような怒鳴り声が響く。
『お前ら、許さぬ! 許さぬぞ!』
イオと一緒に顔を出さないようにして、声の持ち主を見た。マグマだまりの上には、羽の生えた大きなトカゲが飛んでいる。
「あれがサラマンダー……。思ったより黒い」
赤いトカゲのイメージだったけれど、黒い炎が彼を包んでいる。その奥で、白い三白眼の瞳が光っていた。
『何度も何度も、ハエのように沸きおって! 吾輩の住処にまで穢れを持ち込むお前たち! 絶対に許さぬぞ!!』
地を揺らすほどの大きな怒号。鼓膜が大きく震えるのを感じる。
「それは、お前が精霊たちを暴走させているからだろう!」
杖を構えるロザ王国の精霊使いがサラマンダーに歯向かう。
『この地は吾輩のもの、どうしようと勝手である! さあ、制裁を受けるがよい!』
サラマンダーは再度、マグマの中に潜った。しかし、今度はすぐに飛び出してくる。一緒に出てきたのは、あの攻撃すると爆発する岩のようなアルマジロの精霊だ。ロザ王国の精霊使いたちの周りを取り囲んでしまう。既に満身創痍だろう彼らの表情は引きつらせるしかない。
「シュルカ、オリビア」
ビューロさんが反対側の大岩に隠れている二人に目配せをする。二人はこくりと頷いき、ビューロさんは指示を出す。
「俺が先陣を切る。イオとユメノは怪我人を運ぶのに手を貸してやれ」
「わ、分かりました」
「……了解」
わたしとイオが返事をするか、しないか。その間にビューロさんは杖を両手で持って、言葉を紡ぎ出す。
「我と契約せし雷の精霊ロットよ。遠き果ての地にも雷音を轟かせ。その身を我にゆだねたまえ。その真なる力を解放せん!」
サイだったロットは、黄色い光を帯電させている角の生えた男の子になった。そのまま、走って行くビューロさんに付いていく。
「フォーム、スピア!」
ビューロさんが叫ぶと、驚いたことにロットは一本の槍に変身してしまった。
「うおおおおおおお!」
ビューロさんが雄叫びを上げると、それに合わせるように槍は標準をサラマンダーに合わせて、真っ直ぐ飛んでいく。
『ぐわああああ!』
槍はサラマンダーの胸に刺さった。サラマンダーは悲鳴を上げるしかない。わたしは驚愕していた。さすがは、Sランクが集まる討伐隊のリーダーだ。これまでも強かったけれど、その比じゃない。精霊の王であるはずのサラマンダーを圧倒している。そのまま、槍は自動的にビューロさんの元に戻ってきた。
「俺が相手だ! サラマンダー!」
ビューロさんは、ロザ王国の精霊使いたちから遠ざけるように横に走り出した。サラマンダーの気を引き付けるためだろう。いきなり現れたビューロさんに、ロザ王国の精霊使いたちも驚いている様子だ。
「プルメリア! 花籠を咲かせて!」
オリビアさんは既に花の精霊を解放させていた。花を咲かせている女の子の姿になったプルメリアは、ロザ王国の精霊使いたちの頭上に行き回転を始める。すると、ツタで編んだような花籠が上から覆いかぶされた。
「クロキカゼよ。奴らを切り刻め」
今度はシュルカさんの声だ。黒い羽の生えた男の子が、炎の岩の精霊たちに体当たりしていく。あまりに速く、黒い風が円を描いているように見えた。攻撃された火の精霊たちは上空に放りだされて次々に爆発していく。爆風がわたしたちのいる岩陰にも届いた。
近くにいたロザ王国の精霊使いたちは爆発の余波を受けているだろう。大丈夫かと心配するけれど、煙が晴れると花籠はびくともしていなかった。どちらの精霊の力もすごいけれど、連携がなにより鮮やかだった。エルメラが声をかけてくる。
「ユメノ、今のうちなんじゃない?」
花籠も解かれて、ロザ王国の精霊使いたちも無事なようだし、今の内に助け出さないといけない。
「イオ、行こう!」
わたしはイオと一緒に倒れている人のところまで向かった。
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