声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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サラマンダー編

第二十八話 答えてサラマンダー

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 熱風でわたしの長い髪が大きく煽られる。少し走っただけで汗だくになるし、息も苦しい。



「エルメラは逃げていいのよ。上からなら飛んで逃げられるでしょ」

「ううん。ユメノの傍にいる」



 エルメラはわたしの肩に乗っている。マグマだまりの近くに行くと杖をギュッと握りしめて、ジッとビューロさんと交戦しているサラマンダーを見つめた。相変わらず黒い炎は燃え上がり、何本もある手足それ自体がメラメラと燃え上がる炎のように見えた。



「どうするの、ユメノ。普通に声を掛けても駄目だと思う」

「うん。まずは挨拶から」

「あ、挨拶?」



 エルメラはポカンとするけれど、わたしは頷く。



「どこの世界でも話をするなら挨拶は大事よ。それが例え怒り狂った人でも。ううん。怒り狂った人だからこそ」

「そっか」



 それでもあの禍々しいサラマンダーに声を掛けるのは勇気がいる。少し声を掛けただけで、襲ってきそうな勢いだ。

 シュルカさんは空に脱出するためのタイミングを図っているみたいだ。時間は思ったよりも少ないだろう。わたしは意を決っして、サラマンダーの前に出て行った。



「ごきけんよう、サラマンダー。わたしはユメノといいます。少しお話しませんか?」



 品のいいお嬢さまを意識して声を出した。だけど、すぐにゴウッと空気の塊を吐きだすような乱暴な返事があった。



『さっき言っただろう! お前は目ざわりだ!』

「ユメノ!」



 サラマンダーはわたしに向けて、炎が燃え盛るしっぽを叩きつけて来た。横から飛んできたビューロさんが抱えて避けさせてくれる。足元には雷の槍。それに乗って、ビューロさんは自在に飛び回っていた。



「ビューロさん。シュルカさんが」

「ああ、皆まで言わずとも分かっている。空から脱出するのだろう」



 さすがは以前から一緒に討伐隊を組んでいただけある。何をするか打ち合わせが無くても分かっているようだ。



「わたしは時間稼ぎを任されたけれど、その間にサラマンダーに語り掛けようと思うの」



 たったこれだけで、ビューロさんは全てを把握したように頷く。



「分かった。なら、俺も攻撃は止めよう。ユメノやシュルカに攻撃が行かないように徹する」

「ありがとう、ビューロさん!」



 わたしはイオたちが居る場所からは反対側の地面に降ろされた。狙い通りサラマンダーはこちらを見ている。



『禁忌の子よ。吾輩の牙を食らうがよい!』



 地面に降りた瞬間に、サラマンダーが手を伸ばしてきた。わたしは必死に避ける。



「サラマンダー、お願いです! 話を聞いてください!」

『許せぬ! 許せぬ、許せぬ!』



 何が許せないのだろうか。サラマンダーは叫びながら、たくさんの火の精霊の眷属を呼び出した。アルマジロの精霊だけではない。黒い火を灯したどろどろとした形状の精霊がマグマから這い出て来た。



「ユメノ、ここは俺に任せろ!」



 ビューロさんが眷属たちを槍で払っていく。それでも後から後から、出てきた。イオやシュルカさんたちの元にも火の精霊は向かっている。



「ビューロさん。わたしはいいから、向こうを!」

「しかし……」

「大丈夫。オトヒメ! お願い、やっつけて!」



 水の精霊オトヒメが出てきて、サラマンダーの眷属を水のビームで攻撃する。思った通り暴走したときほどの威力はない。ただ元の力が強いのか倒せなくても、けん制するには十分だった。それを見てビューロさんも頷く。



「すぐに戻る」



 ビューロさんは苦戦しているシュルカさんたちの元に向かった。



『やはり、やはりな! お前も戦うのだ! さあ、吾輩と踊ろうぞ!』



 踊ろうって言っても、サラマンダーは本当に踊るわけじゃない。代わりにわたしがサラマンダーの腕から避けるために踊るように避けた。



「オトヒメはけん制するだけです。わたしは戦いません。聞いてください!」

『誰とも話すことなどないッ!』



 サラマンダーの口の中が赤く光る。強い攻撃が来ることは間違いない。



「オトヒメ、水の壁を……」

『もう、遅いわ!!』



 ぽうっと緩い炎の玉がこちらに向かって来た。実際はすごい速さだったと思う。でも、わたしの目にはスローモーションのように映った。



「「「ユメノ!!」」」



 遠くからイオたちの声が響く。

 ――やだ、わたし、元の世界に帰れずに消えちゃうの?

 そう思ったときだ。


 ピィィィィ


 甲高い鳥の鳴き声がどこからともなく響く。いや、どこからか、じゃない。間違いなくわたしの杖の精霊石から響いていた。精霊石の中から緑色の光が飛び出す。

 その光はすぐに形になる。小さな小鳥、ミルフィーユだ。ルーシャちゃんの精霊石にいるはずだ。でもまさにわたしの目の前に出てきたのは、間違いなく風の精霊のミルフィーユだった。ミルフィーユは前方に向けて、風の壁を作った。

 向かってくる炎の玉。それを風が吹き飛ばす、かに思えた。だが、完全には防ぎきれずに、ミルフィーユに小さくなった炎の玉が直撃する。



「ミルフィーユ!」



 わたしには全く炎は届かなかった。でも、ミルフィーユの小さな鳥の身体は、サラサラと細かな光になって消えていく。



「そんな」



 掴もうとしても、光の粒子は手の隙間からすり抜けて行ってしまった。



『何だ。ハエが一匹いたところで、運命は変わらぬ!』



 サラマンダーは再び、口に炎を貯めようとしている。



「どうして……」



 同じ精霊同士なのに。同じ世界に生きるもの同士なのに。



「どうして、……戦うの?」



 そういえば、小さい頃好きだった歌がある。小さな劇場のミュージカル。それでも何回も観て、歌の場面では一緒に歌っていた。サラマンダーたちが戦う姿は、その場面によく似ている。声優は歌う。わたしも例外ではない。

 わたしは大きく息を吸った。





  ◇◇◇





 遠い昔。今は怒り狂うサラマンダーも、人間たちと交流があった。とは言っても、直接の交流があるわけではない。人間たちは山に登り、供え物をしては帰っていく。それだけだった。ただ、眷属の火の精霊たちは人間たちの役に立ち、共に生活していた。人間たちはサラマンダーにとても感謝していたのだ。

 ときが経つ。点在していた村が大きくなり、村は町へ。町はやがて多くの人間が集まる街や国になった。そして、人間たちは街同士で争い始めたのだ。

 三百年前から続いている今の戦争だけではない。人間たちは武器を持って争い、休戦しては、それを裏切ってまた戦う。

 この地は誰の物でもないというのに。強いて言えば、サラマンダーが長く加護してきた土地だ。それを勝手に自分たちの土地だと主張して争う人間たちは醜い。人間たちはサラマンダーの加護への感謝の心を忘れ、供え物をすることは無くなった。それどころか、眷属の火の精霊たちを使い、戦争の道具とした。

 いつしか、サラマンダーは怒りに燃えるようになった。眷属の火の精霊たちを暴れさせて、加護を無くした。やがて、人間たちは火の精霊が暴れるのはサラマンダーのせいだと気づく。討伐と言って山を登るようになった。

 ――それ以来、サラマンダーは戦い続けている。







 目の前にいる小さな人間も炎で焼いてしまおうとした。しかし、小さな人間は歌い始めた。




「教えて どうして戦うの
 空を見上げれば 星は瞬き、月は輝くのに」




 月……。そういえば、久しく見ていない。

 サラマンダーは炎を吐こうとしていた口を閉じ、頭上を見上げた。そこには闇夜に星は浮かんでいるが、月の姿はなかった。




「争わないで かつての友たちよ
 あなたが気づけば 風が吹き、大地は歌う」




 風や大地。友と言うほど親しくないが、シルフやノームにも随分と会っていない。それどころか、このマグマだまりから出ることも久しかった。




「友よ、答えて どうして憎むの
 あなたの心はここにある 
 一時でもいい 憎しみは忘れて 共に歌いましょう」



 
 ――共に歌う、か。

 歌などいつ聞いたのが最後だろうか。昔はよく供え物と共に歌を聞かされていた。清らかな巫女の声が懐かしい。目の前の小さな人間は、巫女と言うには随分幼い。小さな人間は歌い終わり、サラマンダーを見上げている。










 やがて、サラマンダーは口を開く。それまでとは違い、穏やかなゆっくりとした口調だ。



「歌など久しく聞いていなかった。よい、歌だった」

「サラマンダー!」

「かつては人間たちも友と言うべきものだった。また、友となれるだろうか。争いを止めるだろうか」

「人間たち、は難しいかもしれない……」



 巫女は顔を伏せる。憂いるのも当然だ。彼らは今も変わらず争っている。

 しかし、すぐに顔を上げた。



「でもしがらみも何もない、わたしなら友達になれるわ! わたしはユメノ。よろしくね、サラマンダー」

「そうか」



 サラマンダーがゆっくりと頷いたときだ。彼の身体から黒い炎が浮き上がる。白い三白眼は輝きが戻り、異形の手足や尻尾となっていた炎は、そのままサラマンダーが脱皮するように引きはがされた。黒い炎は空中に消えていく。
闇が去ったサラマンダーは、もう怒りに囚われていない。



「もしかして、これがあなたの本当の姿?」



 サラマンダーはマグマだまりから出てきて、ユメノの目の前に鎮座する。黒い炎が全てなくなったサラマンダーは、手足も身体も羽も、赤にも青にも白にも見える炎で包まれていた。

 神々しい炎に包まれたサラマンダー。瞳は黒曜石のように黒く、それまでになかった光がある。



「吾輩の友、ユメノよ。お前が呼べば、どこにいようとも吾輩は飛んでいこうぞ」



 サラマンダーは、頭を巫女が持つ精霊石にくっつけた。すると、元々赤っぽい色をしていた精霊石はルビーのように紅く輝き始め出したのである。

 


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