声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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サラマンダー編

第三十一話 虹声の巫女

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 空は曇天に覆われている、この日。馬にまたがるゲーズの街の市長は勇んでいた。金色に光る甲冑を身に着け、腰には剣を装備している。誰がどう見ても立派な将軍である。

 しかし、それを自ら振るうことはないだろう。なにせ、こちらには強大な力が付いている。



「市長。全軍、整列しました」



 騎士が軍備を整えたことを知らせてきた。



「うむ。では、全軍前進!」



 抜いた剣をロザ王国の方角へ向けて、大きな声で号令を出す。ロザ王国も、この軍隊を見て慌てて軍を出している頃だろう。



「巫女も付いて来ているな」



 横にいる騎士に尋ねる。巫女は幼い。まさか逃げ出しやしないかと心配していた。



「はい。残ったのは二人だけですが、巫女さまは馬に乗って共に来ています」

「ならよい」



 嘆かわしいことに、討伐隊であった精霊使いたちのほとんどは街から逃げてしまった。残ったのは、巫女と年若い精霊使いのみ。リーダーですらいなくなってしまっていた。

 だが、市長はそれでもいいと思っていた。

 サラマンダーを使役している巫女さえいれば、ロザ王国など簡単にひねりつぶすことが出来るだろう。









 数時間かけて全軍を進め、騎士に合図を出す。



「全軍止まれ!」



 ここからなら肉眼で、ロザ王国の軍隊が背後の城壁を守るよう整列していたのが見える。矢も精霊の攻撃も届かない所で軍隊は停止した。ゲーズの市長は剣で天をさした。



「ロザ王国の者たちよ! 今日、この日、我々は長い戦いの決着をつけに来た! 早く降伏するがいい!」



 ざわざわとロザ王国の軍隊の騒めきが聞こえてくる。それはそうだろう。これまで幾度となく戦闘をしてきた相手だが、このように完璧な勝利宣言をしたことはない。市長は満足そうに頷き、背後を振り返った。



「では、巫女よ」



 そこには巫女が立っていた。緊張した様子で巫女はこくりと頷く。

 正直、このような少女がサラマンダーを使役するなど思ってもみなかった。サラマンダーは長年の悩みの種で、倒すことばかり考えていたものだ。実際に味方についたと聞くと、これ以上に幸運なことは無かった。

 サラマンダーを戦争に使う。圧勝することは間違いない。こんなことなら、もっと早く使役するよう命令しておくのだった。いや、それを考えても仕方がない。

 巫女は一人、平原へと進む。ロザ王国の軍隊の騒めきがさらに強くなった。巫女は杖を横に持ち、息を大きく吸った。










 教えて どうして戦うの

 空を見上げれば 星は瞬き、月は輝くのに

 争わないで かつての友たちよ

 あなたが気づけば 風が吹き、大地は歌う

 友よ、答えて どうして憎むの

 あなたの心はここにある 

 一時でもいい 憎しみは忘れて 共に歌いましょう








 巫女の声が平原に不思議とよく響く。正直、戦争にはそぐわない歌だ。

 ――だが、



「サラマンダー召喚!!」



 巫女が杖を振り上げた。同時に、杖の精霊石が赤く光る。



『ヴオオオオオオ』



 咆哮が響いた。一瞬瞬きをしてしまう。その間に、神々しい姿は巫女の頭上に現れていた。火の精霊の王、サラマンダーだ。精霊ギルドの柱の像とほとんど同じ姿。トカゲのような炎をまとった身体に羽が生えている。



虹声にじこえの巫女ユメノの呼びかけに参った。我はサラマンダーである」



 ビリビリと響く低い声。

 いいぞ。そのままロザ王国の軍隊を攻撃するのだ。

 その前に、ロザ王国側から攻撃が来た。慌てて先制攻撃をしなければと仕掛けて来たのだ。雷と水と風の攻撃だ。鋭くサラマンダーと巫女に向かってくる。しかし、それはサラマンダーの羽で払われ、あっさり霧散した。



「お、おお」



 思わず感嘆の声が出る。あれほどの攻撃が効かないとなると無敵ではないか。



「やれ! ロザ王国を焼き払ってしまえ!」



 市長は剣先で、ロザ王国の軍隊を示した。これでロザ王国の土地も手に入る。しかし、その顔をぎょろりとした眼でサラマンダーが睨んだ。



「ひっ」



 殺気のこもった眼光に思わず怯む。熱くもないのに汗が噴き出た。



「焼き払う? そうだな。焼き払ってしまおう」



 サラマンダーが凄みを増して言う。



「焼き払うのは、お前たちの醜悪な心だ!」



 叫んだサラマンダーは羽ばたく。巫女の頭上から大きく口を開け、炎を吐いたのだ。その炎はロザ王国の軍隊のみならず、ゲーズの軍隊にまで及んだ。平原は一気に赤い炎で満たされた。



「ぎゃあああ」

「火が! 火が!」



 兵士たちは赤い火に包まれている。もちろん市長も同じだ。



「な、なぜ、サラマンダーが……! ん? 熱くない?」



 火に包まれているが何故か熱くなかった。しかし、熱さに溶けていくように、剣と甲冑がドロドロと液状になっていく。気づくと市長のみならず、両軍隊とも丸腰になっていた。



「ガハハハッ! 吾輩ほどになると、炎で焼くものも選別出来るのだ! 武器が無ければ戦えまい! ユメノ、イオ!」

「うん!」「ああ」



 巫女と年若い精霊使いは呼びかけに応じて、降りてきていたサラマンダーの背中に乗り込む。



「また戦い始めれば吾輩はその心を焼き払いに来るぞ!」



 そう言って、サラマンダーは羽ばたく。



「じゃあねー」



 精霊使い二人を乗せて、サラマンダーは空高く昇って行った。







  ◇◇◇







 空の上で、大役を果たしたわたしはふうと息をつく。



「あー、緊張した! あんな大勢の前で歌うなんて初めてだったから。わたし、歌う専門の声優じゃないしさ」



 あれは全部サラマンダーが指定した演出だ。名前を呼ぶだけでいいじゃんと言ったのに、歌がないと出てこないとサラマンダーが駄々をこねたのだ。

 肩に乗るエルメラが首をひねる。



「そんな感じしなかったよ? 本当に緊張していた」

「声優は度胸がいるからね。緊張はするけれど、これも仕事と思えば味方に出来るもの」



 風にたなびく髪に掴まるエルメラ。カカはイオの布に掴まっていた。



「俺は本当に武器以外も焼いてしまわないか、ハラハラしたよ」



 イオも緊張していたのだろう。口を覆っている布を下げて言う。



「吾輩が出来ると言ったのだから、出来るに決まっているだろう! しかし、こんなことならもっと早くこうしているのであった。とても気分が良かったぞ」



 サラマンダーは空を飛びながら、背中を覗き込むように首を捻って話しかけて来る。



「そう言えば虹声の巫女ってなに?」



 勝手にサラマンダーに、そんな呼称をつけられている。



「ああ。ユメノが仲間にした精霊たちに話を聞いた。ユメノは色んな声が出せるようだから、そのように名付けた。ありがたく思うがいい」



 勝手にあだ名をつけられて、ありがたくはない。でも、あの場にいた兵士さんたちにそう呼ばれるようになるのだろう。それで、その名前で広がっていってしまう。Sランクの人たちのように。



「それはそうと、このままノームの森に行って良いのか?」



 サラマンダーが確かめるように聞いてきた。



「うん。もちろん!」



 イオも真剣な顔で頷く。わたしたちはシュウマ山をも超えて、そのまま一気にノームの森へ向かう。



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