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2章 ドノヴォン国立学院編

91 この作品のダンピールは吸血鬼絶対殺すマンではない

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 やがて、荷馬車は聖ドノヴォン帝国の帝都、モメモに到着した。

 その門を抜け、街の中に入ったところで、俺は荷馬車の持ち主のおっさんからゴミ魔剣を回収した。当然、直後、おっさんはあの廃村から記憶が飛んでいることに困惑しきっていたが、ゴブリンに襲われたことは覚えていたので、俺がそのせいでまた記憶が飛んでいると説明すると、今度はわりとあっさり信じた。

 さらに、そんな俺たちのやり取りを見ていたルーシアは、

「わざわざ私たちをここまで乗せてくれてありがとうございました。少ないですが、お礼です」

 と、おっさんに銀貨にして三万ゴンスを手渡したので、おっさんの物分かりはさらによくなった。ルーシアから金を受け取ると、ニコニコ顔で一人荷馬車に乗り込み、俺たちの前から去っていった。

「へえ、あの廃村からここまで、たいした距離でもないのに太っ腹だな」

 と、俺が素直に感心すると、

「たいした距離でもありませんから、たいした金額でもなかったはずですが」

 ルーシアは涼しい顔だった。三万ゴンスって日本円で一万五千円くらいで、タクシー代として考えても高額なのに、たいした金額でもないですって? さては金持ちか、この女。

「それより、あなたの持つ剣のほうは、なかなかたいしたもののように思えますね? 斬ったモンスターについて解析する機能があるそうですが、あのように人を操ることもできるとは」

 と、ルーシアは何か鋭く目を光らせて、俺の手のゴミ魔剣様をじっと見ている。

「何か、他にも変わった能力があるのですか、その剣には?」
「い、いや、他には別に……」

 一応、ハリセン仮面の凶器であり、重要証拠品にあたるものなので、あまり細かく説明したくはない俺だった。

「見たところ、魔剣のようですが、レジェンド・モンスターを斬ることはできるのですか?」

 ルーシアは隣に立つ、白髪の優男を指さす。そういえば、これも一応、レジェンドだったか。

「ああ、レジェンドの物理障壁なら余裕で突破できるぜ。ディヴァインだろうとな」
「ディヴァイン? 実際にディヴァインクラスと戦ったことがあるのですか?」
「え、いや……。理論上は可能ってことだ! あくまでカタログスペックの話だよ! 実際は知らん! はは……」

 やべっ! ディヴァインってこの世に数体しかいないのに、それ倒したことあるってバレるのはまずいじゃん。身バレ一直線じゃん。それじゃ、なんのために髪をセットしてイメチェンしたのかわからんし。

 と、しかし、そこで、

『マスター、ワタシは確かにディヴァインだろうと余裕で食っちまいますが、そこに立っているウスラトンカチは対象外ですヨー?』

 と、ゴミ魔剣様が言うではないか。

「どういうことだよ?」

 剣の鞘を口に近づけ、小声で尋ねると、

『リメンバー、思い出してごらん、ワタシ説明したはずですヨネ? ワタシは人の手により生み出された知的流体金属だと』(※エピソード18ですヨ?)
「まあ、最初にそういう話は聞いたかな」
『人の手により生み出された、ここのところが実は非常に重要なのです。つまり、人間はワタシのマザーにあたるわけで、あらかじめ、人間および人間っぽい亜人種は捕食できないように設定されているのですヨ』
「人間っぽい亜人種って」
『モンスターと人間の混血の種族もギリその範疇に入るので』
「そうか、ダンピールはあかんか」
『アカンですネー。純粋なヴァイパイアなら食えたんですけどネー。ハァ……』

 頭の中に響くそのネムの声は、かつてないほどがっかりしているように聞こえた。まあ、一応はロイヤルクラスらしいからな、そこに立っている優男は。

「あの、僕の顔に何かついてますか?」

 と、さっきからチラチラ見ていたせいだろう、その男が不思議そうに尋ねてきた。

「あ、いや、モメモについたんだし、早く呪いのこと何とかしてほしいかなって……」

 とっさにごまかして答えると、

「そうですね。今は一刻も早く君の体を調べなければ!」

 リュクサンドールはとたんに金色の瞳をあやしく光らせた。やべえ。そういえば、俺ってばこの後、この変態に謎器具を使われる予定だったでござる……。

「ではさっそく、僕の家に行きましょう。善は急げです」
「あ、うん……」

 まあ、あくまで呪いのことを調べるだけだよな? 俺とユリィとフィーオはとりあえず、意気揚々と歩き始めるリュクサンドールの後についていく形で歩き始めた。

 ただ、ルーシアもなぜかそんな俺たちについてきたわけだったが……。
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