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2章 ドノヴォン国立学院編

151 魔剣でヒャッホイ!

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「ひゃっほーい! てめーら、覚悟しやがれー!」

 テンションアゲアゲで、俺は手当たり次第にモンスターどもを斬って回った! ザシュッ! グシャッ! パシュッ! 斬ッ! 突き突きッ! ドゴーンッ! バキバキッ!

 戦いながら、俺はまさに魔剣と一体になったかのようだった。体が本当に、自然に動いた。なんて手にシックリくる剣なんだろう! あんな、わけのわからない謎生物のゴミ魔剣とはまるで使い心地が違う! これが本当の俺の魔剣! 俺の真の相棒! 感慨もひとしおで、いっそうハイになって体が激しく動いた。モンスターどもを斬って斬って斬って斬りまくった!

「うおおおおっ!」

 んー、気持ちイイイッ! ザコばっかりだけど、久々にまともな剣で肉を斬る感覚たまんねえな、ぐふふ! 

 また、俺がそんなふうに修羅羅刹モードで敵を斬りまくっている一方で、アーニャ先生やフェディニ先生も、集まっている生徒たちを守るようにして戦っていた。アーニャ先生はかなり上級の氷魔法の使い手のようで、それで敵を氷漬けにしていた。フェディニ先生は二本の短剣を両手に構えて足技なども駆使して接近戦をするバトルスタイルのようだった。いずれも、戦力としては頼もしい感じで、おかげで俺は攻撃に専念することができた。

 やがて、俺たちの周りに動く敵は一匹もいなくなってしまった。

「……もう終わりかよ」

 正直、あと千体ぐらいはモンスターどもをぶち殺して回りたい気分だった。なぜ楽しい時間はこうも早く終わってしまうのか。

「終わったんだから、その魔剣、返してもらおうか」

 エリーもすぐに俺に催促してきた。

「え、いや、この魔剣、もうちょっと俺に貸して――」
「五千万ゴンス」
「う」
「払えねーなら、とっとと返しな」

 と、エリーは有無をいわさず俺の手から魔剣を回収してしまった。うう、薄情なやつめ。少しは俺の勇者ゴコロってものを読んでくれてもいいじゃないのよ。

「いやー、すごかったっすね。今のトモキ君の剣さばき!」

 と、ラックマン刑事が俺のところに歩いてきた。すでにネムから解放された素のラックマン刑事だ。また、ついさっきまで毒で顔が紫色だったはずだが、今は普通の顔色に戻っている。

「あれ? 刑事、毒は?」
「ああ、自分の毒でしたら、あっちの小さいお嬢ちゃんに治してもらったっす!」

 ラックマン刑事は、背後の、生徒たちが集まっているほうを指さした。そっちを見ると、なるほど、ラティーナが何か回復魔法のようなものを使って、他の生徒たちの毒を治療して回っているようだった。あれは神聖属性の治療術か。そうか、だからさっき、フィーオと俺が上から落ちてきたとき、あいつらの一部が元気な顔で俺たちのところに集まってきたんだな。そのころにはもう大部分は毒の治療済みだったってわけか。

 また、さらに刑事に話を聞くと、うちの学院の生徒たちが着ている制服には状態異常への耐性がそれなりにあるそうで、それを着ていないラックマン刑事だけが毒の症状が重かったのだそうだ。

「いやー、おかげで少し記憶が飛んでるみたいなんすよ。トモキ君に絶対安全魔剣を手渡されたところから、何も思い出せないっすね。これも毒のせいですかね?」
「で、でしょうね……」

 よし、なんだか知らんが、ネムに体を乗っ取らせていた間の記憶の空白を、毒のせいにしてごまかすことができたぞ! やったぜ!

 というか、ネムは今はどこへ――と、思った直後、

「あ、トモキ君! これ、落ちてたよ」

 一人の男子生徒が俺にパチンコ屋の宣伝のノボリ旗を持ってきた。ああ、うん。やっぱり自動で俺の手元に返ってくる仕様なのね、コイツ。とりあえず、受け取るしかなかった。

「すごいよねえ、トモキ君、こんなので敵を次々に倒しちゃうなんて」

 男子生徒は素直に感心しているようだった。まあ確かに、「こんなの」ではある。さっきの真の俺の相棒たる魔剣とは大違いのお笑い武器だ。

「こんなのを手に戦うとか、どうせ、俺のことまたハリセン仮面みたいとか言うんだろ?」

 さすがにもう慣れてきたので、先回りして自分から言ってみたが、

「はは。確かに上で戦ってるときはそうだったけど、降りて来てからはまた違うよ!」

 何か男子生徒は目をキラキラさせながら答えた。

「違うって何がだよ?」
「あの理事長から剣をもらった後からだよ! あんな強そうなモンスターたちを、剣でどんどん倒しちゃうんだもん! すごいよ! まるで、伝説の勇者アルドレイ様みたい!」
「え、いや、そのう――」

 そ、それは確かにその通りで、褒められながら特定されるのは正直ちょっと、いやだいぶうれしいんだけど、俺はやはりここでは一人の普通の男子生徒でいたいわけで、そういう発言を大きい声でされるのは困っちゃうなあって……えへへ。

「ホ、ホントに俺、伝説の勇者様みたいだった?」
「うん!」
「ホントにホントに?」
「そうだってば! さっきもみんなそう話してたよ!」

 男子生徒はふと後ろを振り返った。すると、そこには、その男子生徒と同じように目をキラキラさせながら俺を見つめる無数の生徒たちが立っていた。

「さっきの戦い方、すごかったねえ、トモキ君!」
「本当に、勇者様そのものみたい!」
「あんなに強いトモキ君になら、私、レオ君をとられても許しちゃうかも!」

 約一名発言がおかしいが、みんな、俺の強さに感動し、褒めたたえているようだ!

「い、いやあ、それほどでも……」

 こういうのはやっぱ、素直にうれしい俺だった。思わず顔が緩み、にやにやしちゃう。

 だが、直後、

「やっぱ、こんなに強いんだから、トモキ君はハリセン仮面で間違いないよね!」
「一人で素手で聖騎士団ボコるとか、トモキ君ぐらいしかできそうもないしね!」

 あれ? ハリセン仮面疑惑まだ消えてない! どういうことなの君たちぃ!

「あ、あのう、君たち、今、俺のこと伝説の勇者様みたいって言ったわけじゃない?」
「うん」
「それで、そのあと、ハリセン仮面みたいとも言うってちょっと変じゃない? 伝説の勇者様が凶悪犯罪者と同じになるってあんまりすぎない? ねえってば?」
「えー、かっこいいじゃん、ハリセン仮面」
「え」
「だってあの超感じ悪い聖騎士団をボコったんだよ? ざまぁって感じじゃん!」
「え? ざまぁ?」
「受けるよねー。普段あんなに偉そうにしてるくせに、一人にボコボコにやられちゃってさあ。噂によると、あの後、女帝様にもめちゃくちゃ怒られたらしいよ?」
「マジ受ける―。ほんと、マジざまぁ集団だよねー」

 なんか生徒たちは一様に聖騎士団を毛嫌いしているようだ。そして、それをハリセン片手に一人でボコボコにしたハリセン仮面を、凶悪な犯罪者とは見てないような雰囲気だ。というか、むしろ英雄扱い?

 もしかして、こいつらが俺のこと今までさんざんハリセン仮面呼ばわりしていたのは、こいつらなりの誉め言葉だったのか?

 いやでも、どういう事情があれ、俺としてはハリセン仮面呼ばわりされるのは困る。本人だし! 身バレ一直線だし!

「と、とにかく、俺はハリセン仮面なんてやつのことは知らないし、伝説の勇者様の何かでもないんだからな!」

 改めて、強く否定した。
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