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2章 ドノヴォン国立学院編

164 謁見の間にて Part 4

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「はーい、みんなー、ファニファにちゅーもーく! 女帝様のありがたいお話、そろそろ始まるよー」

 と、ロリババア女帝、ファニファローゼは手を叩き、謁見の間全体に響き渡るような大きな声で言った。

「話って今更なんかあんのかよ? モンスターから学院守ってくれてありがとうってだけだろ?」
「あっは、トモキ君ってほんとおばか。その学院を襲ったモンスターのことをこれから話すっていうのに」

 ファニファローゼは俺を鼻で笑いながら言う。

「まさか、あの金属の輪のついた謎のモンスターたちの出どころとか、もう割れてんのか?」
「えっへ、そうだよ。ファニファってば超有能だもん」
「確かに、仕事が早いな」

 あの魔改造トロルの襲撃から数日しか経ってないのにな。

「あれはねえ、モメモから少し離れたところにある研究施設から放たれたものだったの」
「研究施設?」
「いろんなモンスターを、人に無害な家畜に変えるための研究をやってたところだよ」
「ふうん? つまり、そっから実験用個体のモンスターが逃げ出したってことか?」
「うん。そういうことになってるよ。表向きはね」
「なんだよ、それ。裏向きの話も言え」

 と、俺がファニファに詰め寄ると、

「実験用のモンスターの流出は、人為的に行われたことなのです。陛下のことを快く思っていない輩の手によって」

 リュシアーナが答えた。

「トモキ様は、このモメモに来る途中、施設から流出した個体と思しきトロルとゴブリンに遭遇されましたそうですね。あれらはいわば、『手違いで実験用個体が施設から流出した』という嘘をそれらしく思わせるための、偽装工作のようなものでした」
「偽装工作? アリバイ作りみたいなもんか?」
「そうですね。実際は、実験用モンスターたちは全て、ある悪辣卑劣な目的をもって施設外に放たれていました」
「悪辣卑劣な目的?」
「陛下の暗殺です」
「……そりゃまた、穏やかじゃねえ話だなァ?」

 また俺の苦手な政治の話になってきやがったじゃねえか。しかも女帝暗殺計画ですって。

「なるほど。あのとき、学院に現れたモンスター軍団は、最初からこいつだけを狙ってたわけか」

 近くのロリババア女帝を指さすと、リュシアーナは「はい」と、うなずいた。

「学院に現れたモンスターたちは、はじめから、陛下を抹殺せよと指示されていて、その命令のもとに動いていました」
「だからてめえ、あのとき『こっちのほうが危ない』って、俺に言いやがったのか。ようは、みんなてめえの巻き添え食ってただけだったんじゃねえか」

 俺はファニファローゼをにらみつけたが、当の本人は「ごめんねー」と、テヘペロするだけだった。相変わらず小憎らしいやつだ。

「つか、お前、自分が女帝として超愛されてるとか言ってたよな? それなのに暗殺されそうになってんのかよ。本当に、お前の支持率高いのかよ?」
「高いよー? だから、あんな無理やりなやり方で暗殺されそうになったんだし。つまり、正攻法のスマートなやり方じゃ、ファニファを玉座から引きずり下ろすのは絶対無理ってことの証拠。わかるー、トモキ君?」
「わ、わかるような、わからんような……」

 だから、政治の話は苦手だって言ってんだろうがよ、クソが。

「じゃあ、そのモンスターをけしかけてお前を暗殺しようとしたやつも、もう特定済みなんだろうな?」
「うん。ドノヴォン聖騎士団の騎士団長様だったよー」
「ああ、あの評判が最低のやつか」

 つか、何気にまた仕事はえーな、コイツ?

「たぶん、ちょっと前に、ファニファが騎士団長のこと叱って、更迭するって言い渡したから、それでファニファのこと大っ嫌い、死んじゃえ!って気持ちになったんだと思うの」
「それが動機か……」

 いやまあ、話はわかるんだけどさあ! むしろわかりやすいんだけどさあ! お前のその口調なんとかならないのかよ。シリアスな話なのにシリアスが溶けていくじゃんよ。

「お前の叱り方も問題だったんじゃねえか? 暗殺されそうになるくらいなんだから」
「そんなことないよー。ファニファってば、『あんなハリセン持った変な男に騎士団全員やられちゃって、騎士団長として恥ずかしくないの?』みたいな感じで、軽く煽っただけだし」
「し、叱られた原因は、例のハリセン仮面にやられたことか……」

 そりゃきついな、おい! 確かに、あんな変なハリセン男一人に騎士団全員壊滅させられたとか、リーダーとして恥ずかしすぎるし、そこを上司に責められるとか超つれーわ!

「まさか、ハリセン仮面に騎士団壊滅させられたっていう失態が原因で、その騎士団長様は更迭が決まったのか?」
「うん。まあ、他にもいろいろ原因はあったけど、決定打になった感じかなー」
「そ、そうですか……」

 やべえな。風が吹けば桶屋が儲かる、じゃねえが、この女帝暗殺計画のそもそもの原因は俺でしたよ!

「ちなみに……あくまでちなみに聞くんだが、その騎士団長様の今後の人生はどうなるんだい?」
「えー、そんなの決まってるじゃん。ファニファを暗殺しようとしたんだよ? 第一級国家反逆罪だから死刑しかないよー」
「で、ですよね……」

 やべえ! やべえやべえ! こいつ、こんな顔して、にっこり笑いながら「死刑しかない」って言いやがった! マジで第一級国家反逆罪ってのは死刑しかないっぽい……。

「あと、ハリセン仮面ってのも、捕まったら当然、第一級国家反逆罪で死刑かなー」
「う」
「どこにいるのかなー、トモキ君、心当たりとかない?」
「さ、さあ?」

 俺はファニファローゼから目をそらし、首を振るしかなかった。
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