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2章 ドノヴォン国立学院編

169 ※あくまで治療行為です

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「ついさっき、お師匠様に魔法の通信で教えていただいたんです。ハシュシ風邪の人には、こうすればいと……」

 ユリィは制服を全部脱ぎ終え下着姿になると、俺に説明した。そう、例のスケスケのシュミーズとパンツだけの格好だ。恥ずかしいのだろう、その顔は真っ赤で、手で胸元を覆って隠している。

「こ、こうすればいいってなにがだよ……?」
「そ、その、ハシュシ風邪は、病気の人に触れると移ってしまうものなので」
「なので?」
「逆に、治ったことのある人が肌を重ねれば、よくなることもあると……」
「な、なにその理屈?」

 ウォーズマンもびっくりの謎理論だ。というか、ほぼ間違いなく嘘じゃねえか! あの痴女のことだ。どうせ無垢で純真な弟子をからかっているだけ――いや、待てよ? 本当にそうなのか?

 そうだ。ここは科学が発達した地球ではない異世界だ。病気の原因となる微小な細菌やらウィルスやらの存在は、たぶんきっとまだ確認されてないはずだ。つまりそんな民間療法的なことが普通に行われていてもおかしくない。

  というか、魔法とか呪いとかあるような世界だし、細菌やらウィルスやらとは違う何かかが原因で病気になってもおかしくないだろう。つまり、俺がいた地球での医学の常識は通用しないわけで――つまりつまり、病気を治すために、そういう、えちえちな治療法があってもいいんじゃないの? ねえ?

「そ、そういうことか……は、話はわかったぜ?」

 俺はおもむろにベッドのシーツをめくり、下着姿のユリィに片手を差し出した。できるだけクールに、男らしく。実際はめちゃくちゃドキドキしちゃってるんだけど!

「はい。隣、失礼します……」

 ユリィはやはりもじもじしながらも、俺の隣にすぐに潜り込んできた! うひょー! なんだこのシチュエーション! 謎の民間療法最高じゃねえか!

 俺はそっと、あくまでそっと自分の体をユリィのほうに寄せた。すると、ユリィのほうも俺にさらに体を寄せてきた。一人用の狭いベッドの中で、俺たちの体は大いに密着し、薄いシュミーズの生地ごしにユリィの体のあたたかさが伝わってきた。はわわ……俺ちゃん、マジ幸せぇ……。

 と、そのとき、

『……マス……ター……の……呪いヲ……』

 ベッドのわきに転がしてある巨大十円玉からかすかな念話を受信した。

 呪い? ハッ、そうだ、俺は幸せになり過ぎたら、死んじゃう人だった! 思い……出した!

「どうですか、トモキ様? 寝苦しくないですか?」
「い、いや、そのう……」

 やべえ。今すぐ離れないと、幸せが臨界点まで突破して、呪い発動でバッドエンドしちまう!

「ユ、ユリィ、そのう……」

 言うんだ、こんなことはもうしなくていいって。俺のベッドからとっとと出て行きなさいって! がんばれ、俺!

「もっと俺の近くに……」

 あ、あれ? 俺ちゃんの口、なんか違うこと言ってる?

「そうですね。もっとたくさん肌を重ねたほうがいいですね」

 と、ユリィはさらに俺に体をくっつけてきた! はうわぁっ! なんかやわらかい二つのふくらみが胸板に当たるんだが! 幸せ過ぎるんだが! つか、幸せ過ぎて普通の意味でも死にそう……。

「ど、どうですか? 元気が出る感じですか? よくなりそうですか?」
「ああ……」

 いや、確かに元気になるんだが、この元気はハシュシ風邪を治すタイプの元気じゃない。というか、むしろ体力を消耗しちゃうんだが?

「ユリィ、気持ちはうれしいんだが……」

 よし、今度こそ言うんだ、俺から離れろって!

「肌を重ねるのなら、まずは裸にならないと」

 だ、だから! さっきから俺マジで何言ってるんだああ! 違うだろう!

「あ、そうですね。これじゃ、ちゃんと肌をくっつけたことにはなりませんね」

 ユリィはそう言うと、シーツを頭から被ってベッドでもぞもぞし始めた。そして、すぐに、ベッドの外にスケスケのシュミーズとパンツを捨てた――って、あれ? あれあれ? こいつ今、全裸か? マ、マジで?

「これで、どうでしょう、トモキ様……」

 全裸になったユリィは再び俺に体をくっつけてきた。ぷるんっ! そのむき出しの生乳が、同じくむき出しの俺の二の腕に当たった。当たっちゃった!

「ど、どうって、お前……」

 最高なんですけど! 正直、もう死んでもいいみたいな気持ち――いや、それじゃダメだろう、俺! こんなに幸せいっぱいの気持ちだと、マジでこのままバッドエンドっちまう!

 そうだ、バッドエンド呪いってのは確か、人の運命の因果を捻じ曲げて、幸せの絶頂直前に死亡イベントを発生させるみたいなもんだったはず。つまり……今の状況がまさにそれに当てはまるじゃん! 俺はちょうど5%の確率で死ぬかもしれない病気にかかっているわけで、ここで幸せを浴びるように摂取したら、その直後にハシュシ風邪悪化で死んじゃうでしょ? そういうコースに入る呪いなわけでしょ?

 くうう……やはり俺はこの裸のユリィから離れなければいけない! そして、ベッドから出てすぐに服着て帰れと言わなければならない! がんばれ、俺ッ! 幸せに屈するな、俺ッェ!

「ユリィ、聞いてくれ」

 そうだ、言うんだ!

「せっかくだから俺の着ているものも脱がせてくれ」

 ちがーう! 何が、せっかくだから、だよ! デスクリムゾンで赤の扉選んでるわけじゃねえんだぞ! 俺ちゃん、なんで頑張れなかったの! 死ぬかもしれないのに、バカなの!

「わ、わかりました。では、失礼します……」

 ユリィは再びシーツを頭から被って、ベッドの中でもぞもぞしはじめた……。
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