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3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編

356 ベルガドと勇者 Part 2

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「いや、いきなり思念体とか言われてもさあ、お前、亀のモンスターなんだろ? なんで中途半端に人間風なんだよ?」
「なーに、思念体の姿は別に何でもよいのじゃよ。ただ、人間相手には、こういうかわいらしい姿のほうがウケがいいもんじゃろ? ワシ、これでも気遣いのできる亀じゃし? ほら、海千山千亀万年じゃし?」
「かわいらしい姿、ねえ?」

 確かに背中の甲羅がなければ、ほぼ妖精の見た目だからそう言えるんだが。そう、背中の甲羅がなければ……。

「じゃあ、その甲羅を消せよ。めちゃくちゃダサイぞ」
「な、何を言うか! これこそがワシの一番のチャームポイントじゃぞ!」
「チャームポイント……?」

 こいつ本当にディヴァインクラスのレジェンド・モンスターなのか? なんかさっきから、威厳とか貫録とか何も感じないんだが。くそださい亀妖精だし。

「まあ、このさい見た目はどうでもいいや。やっと会えたんだ。実は、俺、あんたに頼みたいことがあって――」

 と、俺が言いかけたその時だった。

「あ、なんかうまそうな亀がいるなー」

 という声とともに、ヒューヴがいきなり起き上がり、その亀妖精を手でつかんで飲み込んでしまった! 完全に寝ぼけている様子だ。

「ちょ、待て! 食うな! 吐け!」

 俺はあわててそのバカに腹パンし、ジャイアントスイングするときのようにブン回した。毒ガエルを食った時と同じ応急処置だ。

 やがてヒューヴは真っ青な顔でゲロを吐き始め、その中から亀妖精も出てきた。

「ふう、よかった。消化されなくて……」
「よかった、じゃないわ! この大うつけ者が!」

 と、ゲロまみれの亀妖精はぷりぷり怒って、俺に突っ込んできた。うわ、汚い! とっさにその突進をかわした。

「なんでそんなに怒ってるんだよ。このバカに飲み込まれたんだから、吐き出させるしかねえだろうがよ」
「はっ、こんなやつに飲み込まれようとも、ワシなら自力で脱出する方法はいくらでもあるわ! それをまあ、こんなにゲロまみれにしよってからに!」
「ふうん? じゃあ、俺が何かする前に早く脱出しろよなー。そもそも、ディヴァインクラスのレジェンドのくせに、こんなバカに食われちゃうこと自体、どうかって思う――」
「た・わ・け・が! ワシは思念体だと言ったじゃろ! この姿じゃ本来の力は発揮できんのじゃい!」

 亀妖精は心底腹立たし気に頬をふくらませて俺をにらんでいる。正直、かなりゲロくさい。あんまり近づかないでほしい。というか、思念体っていうくせに、ちゃんと実体があるもんだったのかよ。ホログラムみたいなもんじゃねえのかよ。

「まあまあ。彼も悪気があってやったわけではないので、お許しください、ベルガド様」

 と、サキが言い、何やらその亀妖精に向けて魔法を使ったようだった。たちまち、その体がきれいになり、ゲロくささも取れた。洗浄魔法か。

「ほう、おぬし、なかなか気が利くのう」

 亀妖精もとたんに機嫌が直ったようだ。意外とちょろいのか、こいつ。

 まあいいや、とりあえず、本題を切り出すか。

「それで、さっきも言ったけど、俺はあんたに頼みたいことがあって――」
「はて? 何も聞こえんなあ?」
「え」
「ワシ、もう寿命間近じゃし? ここのところは、すっかり耳が遠くなってしまってのう。粗暴で礼儀を知らぬ男の声はちーっとも聞こえんのじゃ。すまんのう、そこの粗暴で礼儀を知らぬ男」

 亀妖精はいったん俺を見て、わざとらしくぷいっと顔をそらした。ぐぬぬ。なんかいきなりめちゃくちゃ嫌われてしまったみたいだぞ。やっと会えたのに!

 だが、そこで、

「おや? この男はどこかで……?」

 と、ゲロまみれで気絶しているヒューヴのほうを見て、亀妖精がつぶやいた。

 ああ、そういや、このバカは前にこの亀妖精?に会ったことあるんだっけ。

「こいつは今はヒューヴって名前だが、三百年前はジーグって名乗ってたらしいぜ?」
「ジーグじゃと! そうか、どおりで見覚えのある顔のはずじゃ! ワシが最後に祝福を与えた男のなのじゃからなあ」
「祝福!」

 俺はその言葉にどきっとした。だって、ついにベルガド本人(だよな?)の口からその言葉が出てきちゃったんだもの! そう、ベルガドの祝福はおとぎ話じゃなくて、ちゃんと実在するものだったんだよ! わーい! それを信じてここまで来て、本当によかった。

「しかし、ジーグという男は、かなりの手練れだったはず。それを、寝起きとはいえ、こうもあっさり前後不覚にしてしまうとは、お主、いったい何者なのじゃ?」
「俺? いやーちょっとばかり勇者活動しててさ」
「勇者活動? なんじゃそりゃ?」
「まあ、つい先日、暴虐の黄金竜マーハティカティってやつを、サクっと倒しただけなんだけどな。かるーくな。ほんのちょっとだけ本気出してな」

 俺はクールに、あくまでなんてことのない簡単なお仕事のように言った。ふふ、俺の偉業にひれ伏せ、亀妖精。

「なんと! 暴虐の黄金竜マーハティカティを倒したとな!」

 と、亀妖精は俺の予想通り、驚いて――、

「……で、その暴虐の黄金竜マーハティカティとは一体何なのじゃ?」
「え」

 あ、あれ? なんかこの亀妖精に、俺の偉大さが全然伝わってないんですけど!

「えっと、その暴虐の黄金竜マーハティカティ、略して暴マーさんは超強いモンスターなんでして」
「ふーん?」
「それを簡単に倒した俺はさらに超強いって話でして」
「ふーん?」

 と、亀妖精はひたすら怪訝そうに俺をにらむのだった……。
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