幸福の花束を

天空

文字の大きさ
25 / 35
不時着キキョウ便

25

しおりを挟む
「新郎の入場です」

 鬼灯に背中を押された川波が、少し光の漏れた扉を開くと、そこは夕陽が輝く公園だった。

 その光景は、とても美しく、それが絵という事を俺はその時、思い出す事すら出来なかった。

 まるで高校の時に戻ったみたいだった。

「錨くん、あの日みたいに誓ってくれる?」

 俺が柵に手を置き、夕陽を眺めていると、後ろから菫が花束を持ってやって来た。

「あぁ、俺と結婚してくれるか?」

「もちろん!」

 菫は涙で頬を濡らしながら、花束を放り投げて抱きついた。

 それから俺達はあの頃みたいに、2人他愛もない話をして笑い合った。

「ちょっと、もう帰るってよ」

 スタッフルームに戻った鬼灯が青園をゆすって起こそうとするも全く起きない。

「全く。ごめんね町田さん、先見送っちゃってて」

「……という事で青園先輩はこちらに来れません」

「そっかぁ、挨拶したかったんだけど、まぁ仕方ないか」

「最後にこちら私達花園から、2人の幸福を願って送らせていただきます」

 そう言って町田は白い花束を川波に渡した。

「ありがとう。青園にもよろしく言っといてくれ」

「すみません。最後に1つよろしいでしょうか?」

 町田は新婦がタクシーに向かったのを確認して川波に話しかけた。

「ん? 何か忘れてたっけ?」

「何で青園先輩を置いて行ったんですか?」

「置いてく? あー、あのデザイナーさんには言ったんだが、俺の家夜逃げだったんだよ」

 少し気まずそうに頭を掻く。
 この話をするといつも皆決まって同じ顔をする。可哀想、哀れ、そんなこちらを下に見た顔だ。

「そう、なんですね」

 だが、俺の前に立つ職員さんは今までの誰とも違う顔をした。

「その程度の気持ちの人間が青園先輩と付き合う。なんてことにならなくて本当に良かったです」

 その顔に浮かんでいたのは恐ろしい程柔らかな安堵だった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺と青園が付き合うって、一体何を言ってるんだ?」

「式も終わったんですし、もう良いですよね。今更しらばっくれないで下さい。青園先輩からの告白を無下にした事位、とっくに知ってますよ? その癖、まるで久しぶりに会った友人みたいな面して、恥ずかしく無いのですか?」

 顔は笑顔だが、その目は黒く濁っていた。

「先輩が許しても、私は絶対に許しませんよ」

「そもそもその前提が意味わかんないんだが、青園が俺に告白? 有りえない。だって青園が好きなのは俺じゃ無くて鬼灯って奴だぞ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

疎遠だった幼馴染が彼女と別れて私に会いに来るようになったのだけど

くじら
恋愛
図書館の定位置には、いつも黒縁メガネの女生徒がいる。 貴族同士の見栄の張り合いや出世争いから距離を置いて穏やかに過ごしていたのに、女生徒の幼馴染が絡んでくるようになって…。

嘘コクのゆくえ

キムラましゅろう
恋愛
アニーは奨学金とバイトで稼いだお金で魔法学校に通う苦学生。 生活は困窮、他の学生みたいに愛だの恋だのに現を抜かしている暇などない生活を送っていた。 そんな中、とある教授の研究室で何らかの罰としてアニー=メイスンに告白して来いと教授が学生に命じているのを偶然耳にしてしまう。 アニーとは自分のこと、そして告白するように言われていた学生は密かに思いを寄せる同級生のロンド=ハミルトンで…… 次の日、さっそくその命令に従ってアニーに嘘の告白、嘘コクをしてきたロンドにアニーは…… 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 誤字脱字が罠のように点在するお話です。菩薩の如き広いお心でお読みいただけますと幸いです。 作者は元サヤハピエン主義を掲げております。 アンチ元サヤの方は回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―

佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。 19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。 しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。 突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。 「焦らず、お前のペースで進もう」 そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。 けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。 学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。 外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。 「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」 余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。 理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。 「ゆっくり」なんて、ただの建前。 一度火がついた熱は、誰にも止められない。 兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。

処理中です...