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「廃墟の影からこんにちはー! はいたんちゃんねるのりっちゃんとー」
「いっちゃんでーす」
わたしたちはひらひらとカメラの前で手を振りながらいつもの挨拶をする。一応、顔出しはしないで、カメラを構えた向こう側で手を振っているものの、そこまでかっちりとした顔出しNGでもない。映りこみとか普通に配慮しないし、『はいたんちゃんねる 顔』とかで検索すれば画像は出てくる。
「今日はあの××分校デスゲーム事件があった分校の廃墟に――あれ?」
わたしはスマホの配信画面を見て、違和感に気が付く。接続数もコメント数もゼロのままだ。
わたしたちの動画配信チャンネルはそこまで有名ではないけれど、無名でもない。登録者数は数万人、生放送にはいつも平均で千人くらいの視聴者が来る。どれだけ少なくても、三桁くらいの人数はいる。
だから、開始直後でも数十人はすぐに集まるのだが――今日は誰一人としていない。
「バグ? やば、配信失敗したかな」
わたしはスマホをいじって状況を見てみるも、特におかしなところはない。配信中のアイコンはあるし、時間もちゃんと動いている。
「いっちゃん、ちょっとそっちスマホ確認して?」
「え、映ってない? んー……っと、あれ、配信されてるよぉ」
依鶴が個人のスマホで確認してくれたが、問題なく配信はされているようだ。こちらも、接続人数がゼロから一に変わった。これはたぶん、依鶴のやつ。
……たまたま今日はみんな来ていないだけかな。
そう思っていると、『おつかれさま』というコメントが一つ流れてきた。それを皮切りに、どんどん接続数が増え、コメントも流れてくる。
『おつかれさま』『ちょっと遅れたわ』『まだ待機中?』『おつスパ ¥300』『今日、あの××分校ってマ?』……――。
「び、びっくりした。ちょっとラグあったのかな」
わたしはもう一度、配信開始の口上を言って仕切りなおす。なんだ、ラグで表示されてなかっただけか。
どんどんと接続の数字が上がっていき、段々といつも通りの人数になっていく。どれもこれも、好印象なコメントばかりで、今日、ここに来たことへの批判コメントはなく、ほっとする。
「えー、じゃあ気を取り直してさっそく外側をぐるっと回ってみましょうかね」
校舎の周りを歩くと、ざり、ざり、と足音が妙に響く。
「建物自体結構古いから、もうぼろぼろですねー。でも意外と落書きは少ないかも。こういうところの落書きって、くだらないのとか下ネタばっかだけど、たまに凄いのあるよねー」
「私はこの間行ったアパートの扉に描かれてた奴結構好きかも。皆は、今までの配信でなにか好きな奴あるかな?」
依鶴の質問に、コメントがまた流れる。
『分かる』『ちゃんとしたのに描けばいいのにな』『いうて犯罪だから』『俺もこの間の扉の奴好き』……――。
「犯罪なのはそうなのよー。わたしらみたいに許可取ってやればいいのにねえ。って落書きじゃ流石に許可は出ないか」
なんて、適度にコメントを拾いながらわたしたちは外周を回る。……本当に落書きが少ないな。
廃墟の内部ならまだしも、外周なんて落書きだらけが当たり前なのに。道のりが厳しすぎて、そういうノリの人たちは、もっと別の場所にいくのだろうか?
――と。
わたしは、校舎裏のある落書きの前で足を止めた。
「いっちゃんでーす」
わたしたちはひらひらとカメラの前で手を振りながらいつもの挨拶をする。一応、顔出しはしないで、カメラを構えた向こう側で手を振っているものの、そこまでかっちりとした顔出しNGでもない。映りこみとか普通に配慮しないし、『はいたんちゃんねる 顔』とかで検索すれば画像は出てくる。
「今日はあの××分校デスゲーム事件があった分校の廃墟に――あれ?」
わたしはスマホの配信画面を見て、違和感に気が付く。接続数もコメント数もゼロのままだ。
わたしたちの動画配信チャンネルはそこまで有名ではないけれど、無名でもない。登録者数は数万人、生放送にはいつも平均で千人くらいの視聴者が来る。どれだけ少なくても、三桁くらいの人数はいる。
だから、開始直後でも数十人はすぐに集まるのだが――今日は誰一人としていない。
「バグ? やば、配信失敗したかな」
わたしはスマホをいじって状況を見てみるも、特におかしなところはない。配信中のアイコンはあるし、時間もちゃんと動いている。
「いっちゃん、ちょっとそっちスマホ確認して?」
「え、映ってない? んー……っと、あれ、配信されてるよぉ」
依鶴が個人のスマホで確認してくれたが、問題なく配信はされているようだ。こちらも、接続人数がゼロから一に変わった。これはたぶん、依鶴のやつ。
……たまたま今日はみんな来ていないだけかな。
そう思っていると、『おつかれさま』というコメントが一つ流れてきた。それを皮切りに、どんどん接続数が増え、コメントも流れてくる。
『おつかれさま』『ちょっと遅れたわ』『まだ待機中?』『おつスパ ¥300』『今日、あの××分校ってマ?』……――。
「び、びっくりした。ちょっとラグあったのかな」
わたしはもう一度、配信開始の口上を言って仕切りなおす。なんだ、ラグで表示されてなかっただけか。
どんどんと接続の数字が上がっていき、段々といつも通りの人数になっていく。どれもこれも、好印象なコメントばかりで、今日、ここに来たことへの批判コメントはなく、ほっとする。
「えー、じゃあ気を取り直してさっそく外側をぐるっと回ってみましょうかね」
校舎の周りを歩くと、ざり、ざり、と足音が妙に響く。
「建物自体結構古いから、もうぼろぼろですねー。でも意外と落書きは少ないかも。こういうところの落書きって、くだらないのとか下ネタばっかだけど、たまに凄いのあるよねー」
「私はこの間行ったアパートの扉に描かれてた奴結構好きかも。皆は、今までの配信でなにか好きな奴あるかな?」
依鶴の質問に、コメントがまた流れる。
『分かる』『ちゃんとしたのに描けばいいのにな』『いうて犯罪だから』『俺もこの間の扉の奴好き』……――。
「犯罪なのはそうなのよー。わたしらみたいに許可取ってやればいいのにねえ。って落書きじゃ流石に許可は出ないか」
なんて、適度にコメントを拾いながらわたしたちは外周を回る。……本当に落書きが少ないな。
廃墟の内部ならまだしも、外周なんて落書きだらけが当たり前なのに。道のりが厳しすぎて、そういうノリの人たちは、もっと別の場所にいくのだろうか?
――と。
わたしは、校舎裏のある落書きの前で足を止めた。
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