死痕

安眠にどね

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 廊下は電気がついていないようで暗かったが、教室はどこも明かりがついているようで、出入口から漏れ出た明かりが廊下を照らしているので、暗くて何も見えない、ということはない。場所が場所なので、気をつけないと床を踏み抜いてしまうだろうが、少なくとも人影もなにも分からない、ということはなさそうだ。
 それでも、これだけ薄暗いのは、妙な緊張と恐怖がある。

 廊下も電気がつけばいいのに、と思ったところで違和感に気がついて、わたしは廊下に出るのをやめた。

 ――なんで、電気がついてんの?

 わたしは思わず、バッと教室の天井を見上げてしまった。
 備え付けられている蛍光灯全てが光っているわけではない。ところどころ蛍光灯が光っていなかったり、そもそも蛍光灯が外れていたりで使えていない場所が数か所。同時に、ちかちかと、今にも寿命を迎えそうな蛍光灯もいくつかあった。

 それでも、全体の三分の二は明かりがついている。
 廃墟なのにも、関わらず。

 これがまだ、廃墟になって一か月、二か月、とかいうくらいなら、電気の契約まだ続いているのかな、なんて、自分に言い聞かせることもできた。
 でも、この××分校が廃墟になって、何十年経っているというのだ。十五年前の事件の時点で、相当な廃墟だったはずなのに。

 ただ気絶しただけじゃない。
 その事実に気が付いてしまって、ぞわぞわと鳥肌が立った。

 ××分校は一階建て。窓から逃げ出してしまおうか、とも考えたけれど、窓に近付くのすら怖い。外が安全地帯だとは限らないし、もし、窓に近付いたときに、反射で背後に何かがいるのが見えてしまったら――。
 わたしは慌てて首を振った。嫌な考えが、そのままどこかへ飛んでいってくれないだろうか、と思いながら。

 幽霊なんて、いるわけがない。
 今までだって、心霊体験を一度もしてこなかった人生じゃないか。しかも、普通の人とは違って、積極的に廃墟へと足を運んでいる。心霊スポットだって、一杯あった。――そりゃあ、行くのはいつだって昼間だったけど……。
 い、いやいやいや、そういう考えが良くない!

「と、とにかく、依鶴を探そう。うん」

 わたしは自分を元気づけるために、わざと声に出す。その声は、教室内に妙に響いた。室内に、ものが少ないからか。
 廊下に出るのは怖いが、隣の部屋はすぐそこのはず。小さな分校とはいえ、造り自体は普通の学校とそうそう変わりはしないだろう。単純に、教室数がすくないだけで。
 ばくばくと自分の心臓の音が聞こえる中、わたしは一歩、教室から廊下へと、足を踏み出した。
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