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おじさんは扉に向かって、歩き出した。……しかし、その歩き方は少し変だった。ちゃんと歩いているはずなのに、妙に『引きずられている』という印象を受けるのだ。
「おいおっさん、どこに行くんだよ。勝手な行動するより、ちゃんと協力しあったほうがいいだろ」
笠置さんの言葉に、おじさんはこちらをみない。
「わ、分からない」
おじさんの声は、震えていた。彼の視線は依然扉の方に向いていたが、表情が見な得なくたって、困惑と焦り、恐怖を感じていることは声で分かる。
「分かんないってなんだよ」
「分かんねえもんは分かんねえんだよ! か、体が勝手に――」
おじさんは怒鳴るが、彼の足は止まらない。ゆっくりと、一歩ずつ、確実に廊下へ向かっている。
「――あ」
何かに気が付いたように、端島さんが声を上げた。
「坪野(つぼの)、さん、が、反対してた……。デスゲームなんて、バカバカしい、って、言って、その、後すぐ――」
感情をなくしたんじゃないのか? と言うくらい、うっすらと笑って落ち着いていた端島さんが、初めて動揺していた。
「坪野――坪野富一(とみいち)? 確か、最初に……」
そこから先、晴海くんは口をつぐんだ。デスゲーム事件の生存者がここにいる。そして、あの事件の生存者は、一人。
どうなったか、なんて、言わなくても想像がつく。
「う、ぇ――っ、うっ」
端島さんがうずくまって、えずいた。彼のトラウマを刺激してしまったらしい。もはやこれが答えだ。
おじさんもそれを察したらしい。自分の足が、自分の意思に反して、どこに向かっているかを。
体の自由が完全に効かないのか、ゆっくりと歩いて廊下に向かっているようにしか見えないのに、おじさんの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「や、やめろ、やめろ! ふざけるな! ……っ、なあ、お前らの誰かなんだろ!? ホームレス狩り、ってやつか!? 金はないが、なんでもする、警察にも言わねえ! だから命だけは――」
わたしは、ハッとなっておじさんに近付き、引っ張って教室に引き戻そうとする。どこに向かっているのかは分からないが、廊下に出ては駄目だ。直感でそう思った。
――一瞬、見えてしまったのだ。さっきの倒れ込む人影のように。掃除用具入れの中にあった包丁のように。そして、窓に打ち付けられていたという、板のように。
おじさんの首に、首輪がついているのを。
しかし、びくともしない。わたしまで引きずられて、一緒に廊下へ出されてしまいそうだ。
「ね、ねえ! 誰か――きゃあっ!」
誰か一緒に引っ張って、と言おうとした直後、そして、おじさんが廊下に出てしまう、直前のことだ。ばちん、とわたしは弾かれ、床に投げ出されてしまった。
「う――」
衝撃に思わずつむってしまったまぶたを開けると、一歩、おじさんが廊下へと、でてしまったのが見えた。
――パンッ。
何かが、弾けるような音。
そして、ピッ、と何かの液体が、私の頬をはたいた。
「おいおっさん、どこに行くんだよ。勝手な行動するより、ちゃんと協力しあったほうがいいだろ」
笠置さんの言葉に、おじさんはこちらをみない。
「わ、分からない」
おじさんの声は、震えていた。彼の視線は依然扉の方に向いていたが、表情が見な得なくたって、困惑と焦り、恐怖を感じていることは声で分かる。
「分かんないってなんだよ」
「分かんねえもんは分かんねえんだよ! か、体が勝手に――」
おじさんは怒鳴るが、彼の足は止まらない。ゆっくりと、一歩ずつ、確実に廊下へ向かっている。
「――あ」
何かに気が付いたように、端島さんが声を上げた。
「坪野(つぼの)、さん、が、反対してた……。デスゲームなんて、バカバカしい、って、言って、その、後すぐ――」
感情をなくしたんじゃないのか? と言うくらい、うっすらと笑って落ち着いていた端島さんが、初めて動揺していた。
「坪野――坪野富一(とみいち)? 確か、最初に……」
そこから先、晴海くんは口をつぐんだ。デスゲーム事件の生存者がここにいる。そして、あの事件の生存者は、一人。
どうなったか、なんて、言わなくても想像がつく。
「う、ぇ――っ、うっ」
端島さんがうずくまって、えずいた。彼のトラウマを刺激してしまったらしい。もはやこれが答えだ。
おじさんもそれを察したらしい。自分の足が、自分の意思に反して、どこに向かっているかを。
体の自由が完全に効かないのか、ゆっくりと歩いて廊下に向かっているようにしか見えないのに、おじさんの悲痛な叫びが聞こえてきた。
「や、やめろ、やめろ! ふざけるな! ……っ、なあ、お前らの誰かなんだろ!? ホームレス狩り、ってやつか!? 金はないが、なんでもする、警察にも言わねえ! だから命だけは――」
わたしは、ハッとなっておじさんに近付き、引っ張って教室に引き戻そうとする。どこに向かっているのかは分からないが、廊下に出ては駄目だ。直感でそう思った。
――一瞬、見えてしまったのだ。さっきの倒れ込む人影のように。掃除用具入れの中にあった包丁のように。そして、窓に打ち付けられていたという、板のように。
おじさんの首に、首輪がついているのを。
しかし、びくともしない。わたしまで引きずられて、一緒に廊下へ出されてしまいそうだ。
「ね、ねえ! 誰か――きゃあっ!」
誰か一緒に引っ張って、と言おうとした直後、そして、おじさんが廊下に出てしまう、直前のことだ。ばちん、とわたしは弾かれ、床に投げ出されてしまった。
「う――」
衝撃に思わずつむってしまったまぶたを開けると、一歩、おじさんが廊下へと、でてしまったのが見えた。
――パンッ。
何かが、弾けるような音。
そして、ピッ、と何かの液体が、私の頬をはたいた。
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