私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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野生のリスは完全にペットとしてお勧め出来ないらしい。

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 蓮司のムスクの香りがする大きな胸板の中に抱っこされたまま、美代は動きが取れないことをもがいていた。自分の心臓がドキドキしてしまう。こんな男性に近づかれたことはもちろんない。恥ずかしさで顔が真っ赤なのがわかる。

 「か、会長......降ろしてください。歩けます」
 「だめだ。車まで連れていく」

 他のホステスやら銀座の通行人が立ち止まって凝視する中、狭いエレベーターで下に降りた。

ーーな、なんだか違うじゃん!?
 ぎゃふんと言わせるはずが、なんだかこんなことになってしまい、歩美ちゃん! 違うんですけど! と叫びたかった。

 店の外に降りると、改めてこの会長が変態ながら見た目だけは最上級のイケメンであることを思い知る。通行人たちが一斉に蓮司たちを見つめた。

「ちっ......」
 蓮司がいつもならそんな癖がないはずなのに、珍しく舌打ちをする。
 器用に抱っこしながら、美代の後頭部をぐっと自分の胸に押し当てた。

 「おまえがこんな格好するから、いけないんだ......」

 つぶやくように蓮司が腕のなかの美代に囁く。

 ええ、そんなにおかしいの......いいけど。そういうの。まあそういうの慣れているし

 自分の容姿について云々言われるのは、はっきり言って慣れている。傷つくとかそういうレベルを超えている自分の感性が時々ありがたいと思ってしまうぐらいだ。ブスっとはっきり言われるのは、まあちょっと傷つきますが、『あれはないよね~』的な視線はお茶の子さいさいだ。

 そりゃー、こんな美形の会長様の隣だと、落差激しすぎるしね.....ああ、ホステスのオネー様もなんだか同情的な視線で見ていたな.....

 今までに起こったことを回顧しつつも、蓮司の言葉への返答に困りながら無言でいた。すると、気がついたらすでにいつもの黒塗りのベントレーが静かに目の前にやってきていた。

 伊勢崎さんが運転席から出てきて、ドアをわざわざ開けてくれる。

 「どうぞ。美代様。ご無事でなにより。ご自宅までお送りします」
 「......!」
 なにか蓮司が言いたそうだったが、この恥ずかしすぎるお姫様だっこを強要している会長を無視して伊勢崎さんに言葉を返す。
 「伊勢崎さん。すみません。ありがとうございます。ちょっと、か、会長......離してください。自分で歩けます」
 「......だめだ。車の中まで連れていく」
 筋肉のせいなのか、それともこの大男の腕力なのか、グイッと力を入れられこの男から離れられない。
 そして、有無を言わせられないまま、車の中まで運び込まれる。


****

 「え、会長......なぜ私、膝だっこなんですか?」
 「......ぽいから」
 「はぁ? 聞こえませんけど......」
 「おまえが......リスっぽいから......」
 「リス?」


 今、伊勢崎さんが運転する車は車内はかなり広い。さきほどから、車にだっこで入れられた思ったたら、あっという間にまた腰を掴まれて、蓮司会長の膝の上に横すわりの抱っこ状態になったのだ。

 「真田がいないしな......」
 「真田さんがいない事とリスとこの膝抱っこってなんの意味があるんですか?」
 「......わからないのか?」
 「これって何かの連想クイズとかですか?」
 「...ああ、そうだ、クイズだ」
 「......」

 美代はこの目の前の蕩けるような顔をしてるイケメンを見つめる。

 はあぁ、正直、わたしが普通の女の子だったら、恋に瞬間に落ちていきそうなイケメン様だ。この見た目。アリエナイ。ちょっと変態っぽいけど、あの時計のプレゼントとか......心に響いた。でも、私は知っている。みんな蓮司会長を好きになっちゃうのだ。この忘れ物お届け係をしてよくわかった。よくスーパーパワーが使えるヒーローがいる。蓮司の場合、どの女性もメロメロにしてしまうフェロモンパワーがあるのだ。こんな初期的な間違えを侵してはいけない。しかも、真田に言われたではないか、雇われた時、『蓮司様の魅力に呑まれこまない方を探している』と......

 確かに、これは結構くる。この笑みが私を飲み込んでしまいそうだ。もしかして、このクイズもなにかのテストなのだろうか??

 「わかりました......答えが......」
 「え? 美代。わかったのか? まじか......」
「はい、完全にわかったと思います......」
 
 なぜか会長の顔がもっと近づいてくる。

 「美代。教えてくれ。答えはなんだ?」
 「ち、近いですよ。会長。答えはですね......」
「......」
 「ズバリ!! 会長にはペットが欲しいんだと思います」
 「......ペット?」

 「だって、こうなにかリス的なものを抱きしめて愛でたいみたいですし、真田さんがいない時にしたいっていうのは、なにかこういった趣味を暴露したくないというか......」

 最初はその答えに驚いていた蓮司だが、ニヤリと笑みを浮かべた。

 あれ、もしかして地雷踏んじゃった? わたし?

 「美代......間違っていない。抱きしめたいんだ。リスを.....」
 「あ、いえ、わたし、確かにちょこまかしているって、言われますけど、その......あの......リスでぇええ」
 最後の言葉を終える前に、蓮司に思いっきり抱きしめられた。

 「あああ、子リス......」
 その男らしい二の腕が美代の体をきつく抱きしめる。吐息が甘い。

 「え? イヤーー、蓮司会長.....なんか、違います。リスなんて抱きしめられないし......」

 自分が何かの地雷を踏んでしまった感がある。が、この状況は苦しい......

 「美代。リスは喋らんだろ」
 「はぁーー、ですから、わたしはリスではありませんので......しかも、ペットにリスってかなり難しいじゃないんですか?」
 「ああ、だから燃えるな。難しいほど、手に入れたくなる......」
 「......会長ってそういう趣味なんですね。わかりました」
 「ペットだから、もっと近づいてもいいだろう?」
 すでにもう膝抱っこされているから、どうこれ以上近づくのか美代は不安になる。

 「待ってください。ええ? いつわたしペット認定になったんですか? 違いますよ」
 「おまえが悪いんだ。こんなリス......ほっておけないじゃないか......」

 蓮司の顔が美代にどんどんと近づいてきた。もう唇が目と鼻の先だ。

「......美代......もう......俺のものになれ」
 彼の鼻が美代のものと当たりそうになった。

 ガシっ

 美代は思いっきり、蓮司のその筋の通った美しい鼻梁を噛んだ。

 「い、痛てっ、な、なんだ!!」
 「れ、蓮司会長! 忘れていますよ!!リスは噛むんです!!」
 「な、なに!!」
 「野生のリスは噛みますよ!!むやみに手を出すと危ないって教わりませんでしたか?」
 「おまえは野生のリスなのか?」
 「......はあ、よくわかりませんが、そうします。わたし、野生のリスですから!!」

 蓮司は噛まれた鼻を押さえながら、今度は、顔を赤くしてしかめっ面をしている美代を見つめた。

 「.....たしかにおまえ、野生だな」

 その自然な笑みが俺を虜にする。いつも自分の周りに蔓延る化粧や着飾った女たちとは全くの別の生き物。

 「ああ、おまえは天然記念物に近いな......」

 「な、なんか褒められているっていうよりけなされている感じがします」
 「褒めているんだ。美代、わからないのか?」
 「いや、いいです。無理に褒められると、なにか悪いことが起きそうな感じがします」
「まったくおまえは......どうしたらいいか......俺を狂わせるな...」

 呆れた顔の蓮司は美代を見つめる。
ーか、会長!!そんなリスにこのフェロモン!!完全に無駄遣いです!!!と美代は唸りたかった。

 すると、車が急に止まった。

 伊勢崎さんが声を出す。

 「美代様。蓮司様。到着いたしました」

 そこは美代のオンボロアパートだった。

 「あ、ありがとうございます......」
 ドアを開けて車を降りようとした。

 「美代」

 降りる美代の腕をぐいっと蓮司は引いた。

 「俺は待つ......でも、おまえを離すつもりはない......」
 握っている腕の握力が半端でない。

「......か、会長......わ、わかりましたから、離してください」
 美代の返答を聞いてなぜかほっとしたように笑みを浮かべた蓮司。

 どんだけ、ペット欲しいんですか? 会長......

 自宅のアパートでネットで『野生のリス、ペット』っとタイプをし、検索した美代。そして、検索結果に慄く美代......

 会長! 野生のリスって完全にお勧めできないペットらしいです......
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