私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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七瀬くん、歩美にいろいろ助言される

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 真田さんがみんなに凝視されて固まっている。
 さきほどの歩美の『策士発言』が尾を引いていた。誰も何も言わない。

 「あれ、皆様、如何なされましたか? 無言で見つめられても何も出ませんよ。あの、今日はささやかな誕生日の夕食を大原邸にでも用意してありますが、突然の事ですので、皆さまもご都合がありますよね」
 「ええ、真田さん! そんなことしてもらっては……」
 
 美代が突然の提案で驚いている。

 「いえ、本当にささやかですよ。この前の御節みたいなものです」
 「あれ最高に豪勢でしたよ!」
 「いえいえ、そういう意味ではなく、内輪で超ささやかなものです」
 「そうなんですか? なんと言っていいか、甘えてもいいのでしょうか?」

 にっこりと笑みを浮かべ、真田が『もちろんです』と答えていた。

 今日は休みを取って、学校の講義で忙しかったと思っていたところ、あの会長様が現れて、大騒動になってしまった。
 いや、いつからだろう。こんな賑やかなライフになってしまったのは……。
 あの銀座での経験もなんだか可笑しかったし、その前の初詣もヘリコプターまで乗っちゃって、訳わからないけど、いつもドタバタ、なんだか騒がしい。
 でも、そんなに悪くない。

 なんだろう、自分の家族というか親戚が増えた感じだ。
 それはそれで、ちょっと嬉しいかも、と美代は感じた。

 「どうされますか? お二人は?」
 「わりー、美代。おれ今日はバイト入っているんだよ。6時から、まじ、残念だよ。すごいタイミングが悪すぎるな。ちょっとあの会長さんにも言いたいことあったけど、まあそのチャンスお預けみたいだしな」
 「美代。ごめん。わたしも家庭教師のバイトが入っているの。そのあと、星空研究会の会合があって、あああ、もうなんで言ってくれなかったの!!」
 「みんな、いいの。そんな誕生日会なんてほとんど最近していないし、でも、予定が狂っちゃったけど、駅でカフェに寄れたら、最高に嬉しい!!その時間、みんなある?」
 「それぐらいあるよ!」
 「泣けるよ、そのお願い、じゃー、今から行こう!!」

 「「じゃー真田さんも一緒に行く?」」

 二人の女が同時に聞いた。

 「え? わたしがですか?」
 「そうそう、たまには如何ですか?」

 美代がめずらしくいたずらな目線で真田を見る。

 「いえ、そんなわたしのような者が入ったら、進む会話も進みませんよ……」
 「いや、大丈夫。来て欲しいです。ちょっとだけですから」

 美代がなぜかとても乗る気だ。

 「そうですね。わたし真田さんになぜ聞きたい事もありますし」
 美少女が微妙な笑みを浮かべて真田を見た。
 「……わかりました。少しだけなら、ご一緒させていただきます。でも、すぐに邸宅に戻りますが、ご了承ください」
 「やったーーー!!」
 「み、美代!喜びすぎ!!」

 美少女歩美の頬がなぜか少し赤い。美代は自分の恋愛のことにはまったく鈍感なのだが、友達の歩美がはじめて興味を見せた男性に対して、自分が手伝いができていると思って大喜びだ。

 3人のラフな格好の大学生と一人だけ、燕尾服を着込んだ男が大学から駅までの並木道を歩いていく。ちょっと異様な雰囲気ではあるが、当人たちはまるで気になっていないらしい。

 「おい、なんだか今日は、すごい一日過ぎて、おれついていけるか自信がなくなった」
 「な、なに言ってんのよ! 七瀬くん。あんた戦力外通知、今日公式に出されたからね。公式だから!!」
 「ええ、まじかよ。なんだよ、おれだってな、気持ちだけはな」

 道が狭いので、歩きながらふざけている歩美と七瀬が前を歩き、そのあとを真田と美代が歩いていた。

 歩美が急に横を振り向き、ぐいっと真田を自分の顔に引きつける。驚いて目を見張る真田。目の前に歩美という美少女が自分を凝視しているのだ。

 立ち止まったのに気がつき、振り向いた美代も七瀬も、事態をどう把握して良いのかわからない。なぜなら、歩美はいつも奇想天外で、彼らの予想をはるかに上回るのだ。

 「あ、あのね……(小声)なんで、七瀬くんのこと、会長に言わなかったの? 知ってたんでしょ?」

 美少女の、そのアーモンド型の美しい目が、真面目という言葉がとても似合う男を見つめた。
 普通なら、それだけでほとんどの男が、頬を赤く染めるような見つめ方だ。しかし、真田の顔色は全く変わらず、しかも、眉でさえも動きもしない。

ーーすごい、この男……。

 歩美は彼に感嘆するばかりだ。ここまで表情を崩さない男なんて、見たことがなかった。

 真田は見つめている歩美をお構いなしに、違う事を考えているようだった。そして、なぜか思い出したかのように、含み笑いをした。

「……ふふっ。そうですね。知っていたと聞かれれば、もちろん、存じあげておりましたよ」
 かなり顔を接近させて、おしゃべりをしている真田と歩美は、ハタから見れば、ただ仲良くささやきあっている恋人同士にもみえる。注目を美代と七瀬から集めてると感じた歩美は、さっと顎で七瀬に指示する。

 (ほら!!あんた今チャンスでしょ!? 美代に話かけろ!)
 (おおおおーーーーーっ)

 七瀬はいま歩美が真田さんを占領すれば、この短い駅までの歩く時間、美代と二人だけで話せることに気がついた。そして、がんばって、美代に色々話しかけ始めた。

 その様子を歩美と真田は歩きながら、じっと見ていた。

 すると、
 「じゃーー、なんで報告を!」
と言いながら、美少女が真田に詰め寄った。

 「統計的に……まあ程よい当て馬がいると、言いみたいですので」
 「ええ? なにその理論。でも、ただそれだけで?」
 「まあ、彼もいい人みたいですから……」
 「でも、なにか言いたそうね……」
 「……かないませんよ。どう考えても……」
 真田がちょっとメガネの位置を直した。男らしい手首が見えた。

 「かなわない?」
 「どう考えても、蓮司様に匹敵しないでしょう。心配する存在ではないということです」

 ゆっくりと真田は微笑んでいる。メガネ越しではあるが、彼は意外に目鼻立ちは整っている。
 歩美はその表情を見て、生まれて初めて背筋がゾクゾクとする感覚を覚えた。

 「でも、あの、すみませんが、どう考えても、おたくの上司、変態というか、バカというか、まあその何ていうか、恋愛下手れんあいべたですよね」
 「……そうですね。今回に限り、そういう点はあるでしょうね」

 そう言いながらも、真田の態度は、どう考えても蓮司会長が美代を最後に堕とす自信がある様子だった。

 「でも、なんでそこまで自信があるんですか? どうしてそんなに蓮司会長が美代を手にいれる事が出来ると思っているのですか? やっぱり、お金の力? 権力なんですか?」
 歩美はあえて嫌味を含ませた。美代のことを思うなら、この蓮司会長にいつも付き添うこの男を把握しなければならないと思ったからだ。

 ふーーーと息を真田が吹き出す。

 「君は……本当に知りたがりだね」

 え、、なんなのこの視線。
 さっきと全然違うんですけど……。
 歩美は真田のちょっと変化したその目線にたじろいだ。

 男の目だ。
 それもただの男ではない……。
 獣のような目。

 ちょっとこの変貌に美代の助けを呼ぼうと思ったが、前を見たら、美代と七瀬は楽しくまだ話している。
 くっ、邪魔はしなくない。

 歩美の微妙な変化を察したか、真田の表情が柔和になる。すると、また元の七三分けが似合う真面目な真田に戻っていた。

 「歩美さん。あなたは貴重な美代様のご友人。どうぞそのままでいいですので、美代様と今まで同様、お願いいたします」

 「え、なに、まあ、わかっているわよ。友達なんだからね、悪い男には捕まらないようにしなくちゃね」

 「先ほどの質問ですがね、お金も権力も大事ですよ。なにせ大原のトップなんですから」
 「……」
 「でも、本当の彼を知ったら、貴方も美代様もどう思うんでしょうかね……」
 「どうって、ただの変態金持ちでしょ?」
 「ふふふっ。はははは。本当に貴方も面白い感覚の持ち主だ……」
 「前にも言いましたよね。歩美さん、蓮司という男……いままで、欲しいと思ったものを取り逃がしたことはないんです」

 真田のメガネの奥の目が光った。
 また、その表情が歩美を震えさせた。

 「たとえ、それが、大原という巨大組織のバックがなくても、彼の力と才能は……大原という大きい器でさえ、狭すぎるのですよ……」
 「なっ。そんなこと有り得ないでしょ!」
 「いえ、あり得ますよ。私は何度か見ていますから……」
 「え?」
 「蓮司会長を超えるいい男なんていないですから、まあ七瀬くんは身の丈を知るぐらいにがんばっていただいて……」
 「え、もしかして、その後、消すの?」
 「まあ、状況次第ですね……その方が本人のためってこともありますし」

 珍しく真田がニヤリと笑みを浮かべた。
 その口角の上がり方がかなり悪魔的だ。

 「ええ、、か、かわいそーーー。七瀬!!」
 なぜかうるうるした目で歩美は七瀬を見つめる。二人の会話が詳しく聞こえていない七瀬が、自分だけの名前だけは聞こえて振り向き、その歩美の憐れむ視線を受けて、気分を害す。

 「な、なんだよ。その可哀想なものを見る視線。どういうことだよ!」
 「あんた、不憫だね……強くなれ。少年よ!」

 急に、真田がなぜか少し考えた様子で小さい声で言葉を加える。

 「それに」
 「それにって、まだなんかあるの?」
 「伝える、伝えないの話ですが、前に会長に知らせてしまえば、七瀬くんが学校に無事に通える生活が送れるか、不安でしたので、以前にも美代様の近くの男が飛ばされた経緯がありまして、自分の采配で、まあ今の所、無害判定をさせていただきました。彼はいい友人でもあるみたいですしね。今のところですが」
 「うわーー、もっと七瀬がかわいそうに思えてきた」
 「……でも、まあ今日までですよ」

 先ほどから自分の話をされているのがわかった七瀬が近づいてきた。
 「すみません。歩美に真田さん、先ほどからなにを話しているんですか? 絶対になにかおれの噂しているでしょう。しかも悪いほうのやつを!」
 「いや、ちがうよ。噂じゃないよ。今後の七瀬の予定を考えてやっているんだよ。七瀬、これからが根性の見せどころだよ。もう蓮司会長がお前の存在を知っちゃったんだから、煮ても焼かれても悔いのないように。最後の遺言だけ、おれ(歩美です*注意)が預かってやるよ……」
 「な、なんだよ。遺言ってそれ不吉すぎるじゃんか!!」
 「なかなか歩美さんもいいことをおっしゃる。わたしもお聞きしておきますよ。七瀬くん。君の最後の頼みは、一応、聞き届けよう」
 「お、おい!!真田さんまでなんだよ」
 「あれーー、みんなもうカフェ着いたよ」
 呑気な美代だけが、カフェに着いたことをワクワクとしていた。

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