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蓮司会長、愛の告白を完全に間違える
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その後、恙なく、ささやかな誕生日会が開かれた。美代は、まさかこんな手作り感満載の誕生日会だとは思わず、その装飾に驚いた。
オーク材を惜しげもなく使用しているいつものダイニングルームに、100円ショップで買ってきたような紙製のバースデイサインが掛かっている。手作り感が満載だ。折り紙を繋げた輪飾りまであるではないか。
美代が中に入っていくとクラッカーが焚かれ、彼女を驚かした。
蓮司、真田、伊勢崎、松田さんがなかで頭にこれまた紙製のコーン型の帽子を被っていた。
「お誕生日おめでとうございます」
みんなが美代に叫んだ。
「おめでとう。美代。さっきは、学校まで押しかけて悪かったな」
「え、ま、ちょっとびっくりしました」
特にほっぺにキスとかよくわからないことをされたことを思い出して、何やら訳の分からない感情に心を乱される。
「子リスのことだ、あんまり大掛かりなものは、好まないだろう?」
蓮司会長が頭にコーン型の帽子を乗せながら、話して来る。あまりにも不釣り合いというか、似合わないというか、こんなことをするような人ではなかったはずだ。子供の誕生日会などを思い出させる安っぽい紙帽子は、この眉目秀麗な男には、何かの冗談にしか思えないような姿見だ。あの銀座のクラブの絢爛豪華な世界の方がよほど似合っている。
「そ、そうですね。あまり私も派手なものは、困りますね」
「そうか、よかった」
「でも、だれがこんな用意をしてくださったんですか?」
その言葉を聞いただれもが顔をうつむかせて、何もいわない。
すると、横から伊勢崎が美代の耳元で囁いた。
「……美代様、蓮司様ですよ。自ら買い物も飾り付けもなさってですね。みんなハラハラでしたよ」
そう言えば、なんとなく全ての飾り方が素人っぽい。
え、待って、何て言った?
蓮司会長自ら買い物して、飾りつけ?
「か、会長! 買い物と飾り付け?」
蓮司会長が顔を赤くさせている。
「き、気にするな。問題ない。は、早くみんな席につけ! ほら、真田も松田もなにボヤッとしているんだ!」
真田も寄ってきて、美代の耳元に呟いた。
「大変だったんですよ。アメリカのFBI長官との面談を変更までさせて完成させたんですから!」
「えーー!!」
「真田も余計なことを美代に言うな!いいか、みんな座れ!」
松田も真田もニヤニヤしながら、自分達の場所に戻る。蓮司会長は、なにか秘密をバラされた子供のように落ち着きがない。
松田シェフは、
「では、また!」
と、言いながら厨房に消えていった。
みんなが席に着く。料理がドンドンと運ばれ、その盛り付けとその味の素晴らしさに感嘆する。
食事は松田さんが作ったものだが、まあ当たり前だが、ほっぺたが落ちそうなくらいおいしかった。本人は、まあ簡易なフレンチのフルコースですっと言っていたが、レベルが違う。前菜からきれいなカラフルな飾り付けで、それが全部野菜出来ているのも忘れてしまう。
くだらない会話を皆でしながら、 肉料理まで食べ終わった。
次はデザートのはずだ。でも、出てきたのはチーズだった。移動式のトレイに色々なチーズが盛られていた。その様子を見て、美代の目が輝いた。
「あ、あれ? 松田さん、簡易なフレンチなはずって……」
簡易なフレンチコースには、チーズは入らないのだが、格式高いフレンチコースには、必ずチーズが肉料理アントレ、サラダ、チーズになり、デザートとなっていた。松田は、サラダを抜いて、チーズだけをコースの中に入れていた。
「美代ちゃん、あれ、チーズ好きでしょ?だから、ちょっとこれだけ正式なコースからいれちゃった。ダメだった?」
「いえーーーっ。なんでチーズ好きなことを知っているですか?」
「だってね、時々厨房くるでしょ? 貴方はいつもチーズの食材のところで、目がいつも見開いていたからね。もしやと思ったよ。やっぱりそうだったね。今日は蓮司会長がわざわざヨーロッパから取り寄せた珍しいチーズもあるから、みんなで色々食べてみよう」
「あ、これ!! ブリーチーズ。洋梨もあるということは?!」
「ひひひっ。この食べ方、知っているね」
先ほどまでかなりお腹いっぱいなのに、もっと食べたくなる。
「お願いします!!」
松田がきれいに洋梨を切り取ると、クラッカーとブリーチーズの上に乗せてくれる。シェフ自ら盛り付けなので、シンプルなのに美しい。
一口いただく。うーーーん、美味しい。この味は超久しぶりだ。
「美代様はかなりのチーズ好きなんですか?」
真田さんが美代に聞いてきた。
「んーー、実は、お父さんの影響で……昔は子供なのに、いろいろ味見してました」
「じゃーこれどうだ。かなり通の味だぞ。ウォッシュチーズだ」
松田さんがニヤニヤしている。
「え、これ!! エポワスじゃない?」
「お、やっぱり通だな。お嬢は……」
松田が感心していると、
「フランス・ブルゴーニュ地方のエポワス村で作られ始めたチーズだな」
蓮司会長が付け加える。
「会長もこれお好きなんですか?」
美代が何気なく聞いてみる。
「あ、いや、俺は苦手だ」
「あーそうですよね。癖があるチーズですから」
美代も納得している。
松田が切り取りわけ、真田と美代に分けているようだ。伊勢崎さんはお腹一杯でもう無理ですと言っている。
「うわー、この外皮がすごい、インパクト。中身は、うん、やっぱり濃厚ですね」
松田がなにか大きめのワイングラスに少しだけの液体を注ぎ込む。
「おい、松田。それは美代にはやらんでくれ」
「え、な、なんでですか?」
松田シェフは、すでに美代にも注いでしまっていた。
「お前、前のクリスマスの件、忘れたのか?」
「えー!!」
「あー、ではこちらはさげましょうか。残念ですね。あのナポレオンも好んで食べたチーズですので、やはり同じくブルゴーニュ産の赤ワインをご用意しましたんですが」
「やっぱり、ちょっとだけ試してみたいです」
下げようとした松田の手より美代の手が先だった。
あの銀座の大人達を思い出したか、美代は、美代はあっという間に、ワイングラスを持ったと思ったら、グイっとワインを飲んでいた。もちろん、すかさずチーズも頬張る。
「うわー、なんか芳醇で濃厚。大人な味! ワインと合うーー!」
「はー、お前、マジめによせ。おい、真田も止めろ」
「そーですね。まあ一杯ぐらいには大丈夫じゃないですか?まあ、どなたかの忍耐力に掛かっていますが」
「……おまえ、言うな」
真田が蓮司の言葉をしれっと聞き流し、チーズを食べた。一口食べた瞬間、固まった。真田の顔色が青ざめる。
「……」
「ははは、エポワスはかなりキツイ香りのチーズだ。初めてか? 真田は」
まるで仕返しが出来て喜んでいる小学生のように蓮司が嬉しがっている。
「あー、なに言ってるんですか? 蓮司会長と真田さんが仲が良いは知ってますが、戯れていないて、いきますよ。いろいろチーズ食べて次のデザート、いきましょーー!」
突然、慌てるように、真田が席を立つ。あまりにもチーズが強烈すぎて、厠に行くのかと思いきや今度は、一杯並々と注がれているワインを飲み干した。
「……申し訳ありません。粗相お許しください」
そして、何事も無かったようにまた同じチーズを食べた。みんなが、えっと思ったが、今度はにこっと微笑むと、
「美味しいチーズですね。先ほど、自分が未熟すぎて、よく味がわかりませんでした」
とみんなに話しかける。
「だ、大丈夫なの?真田さん?」
「はははは。美代様、もちろん大丈夫でございます。代々大原家に仕えている真田家の人間、好き嫌いなどあってはなりません。しかも、美代様が好きなチーズが嫌いなどと……考えられませんので」
「え、真田さん。別にそんな、強要しないでください」
「美代。気にするな。真田は、ああいう人間だ。時期に慣れる。だがな、問題は、そこじゃないんだ」
蓮司会長が、眉間にシワをよせた。
今度は蓮司が突然松田シェフに命令する。
「俺にも、そのチーズをくれ」
「え、蓮司様。このウォシュチーズ系お好きではないじゃないですか」
「……松田、もう一度言わせる気か?」
「申し訳ありません。蓮司様」
松田シェフはエポワスを蓮司の為に取り分けた。ワインももちろん注いである。
「会長、さっきこのチーズ、苦手って言いませんでしたか?」
一番匂いがキツイと言われるエポワスの外皮ごと、蓮司は口に入れる。そして、味を確かめるようにした後、ゆっくりと色気のある仕草でワイングラスを持ち上げると、グラスを静かに回す。これまた、まるでそのチーズの残り香を消えるのが惜しそうにワインを口に含んだ。
全てを飲み干した蓮司が呟く。
「美代、愛してる」
「はあ?」
突然の蓮司の愛の告白に、美代も気持ちも何もかも追いついては、いなかった。なぜなら、我慢大会のようにチーズを食べた後にいきなりだ。ムードもなにもありゃしないし、超鈍感娘には、ただ会長が美代を揶揄ったとしか思えなかった。
ーーそんな無理してチーズを愛さなくたっていいって!
美代は完全に勘違いしていた。
蓮司としては、ただ自分の嫌いなチーズを好きな美代に、自分がそれを乗り越えられるぐらいに、美代を愛してると伝えたかったのだが、前後が全て抜け落ちていた。
あまりにもの鈍感娘と、漢気をどうやら勘違いして馬鹿なことをし続ける美形上司を真田は優しい目で眺めた。
からかいすぎたかな。
そんな中、美代が口を出した。
「蓮司会長。ちょっと落ち着いてください。もうチーズは、私が食べますから!」
なぜか会長のお母さんになった気分の美代は、蓮司のプレートから残りのチーズを取ってあっという間に食べてしまった。
さらに、口一杯、チーズを頬張る美代は、まるで急いで餌を口に入れたリスかハムスターのようだった。
「美代。なんだよ、リスそのものだな。その可愛さ。やめてくれ」
「はー、会長。TPOが完全におかしいですよ」
いまさらながら、こんな場面で愛の告白をしてしまう上司に真田は提言した。
「お前がこのチーズが好きなら、確かに俺も真田に、負けられない」
「え、なんですか? それ?別に私は真田さんにも、会長にも強要してないですよ」
美代は呆れて二人の男を見つめる。
しかも、美代は食べたチーズがかなり大きかったのか、残りのワインをグイグイと飲み干した。
「あ、おい!ワインはビールじゃないぞ」
蓮司の言葉は到底美代には届いているように思えなかった。
「んもー、このチーズは貴重なんですからね、食べたくない人は、食べないでください!」
横からこれまた呆れた顔の伊勢崎さんが美代に静かな声で話しかけた。
「真田はこうやってですね、蓮司様の好き嫌いを直してきたんですよ。会長は、昔から負けず嫌いですしね。あと、真田のことは文句いいながらも、部下というより家族に近いですからね。なんだかんだお互いに負けず嫌いですから」
「え、そうなんですか?」
「総裁となるべき人間が、人参とか嫌いじゃ、困るでしょ?」
伊勢崎さんがちょっと意味ありげに美代にウィンクした。
そんな会話をしながら、チーズは食べ終わり、というか強制的に食べ終わらせられた。
松田さんが「まだデザートありますから!」と言って、チーズカートをしまってしまったのだ。
そして、デザートの最後に美代のバースデイケーキが来る頃には、美代は完全に出来上がっており、この後起きるであろう事件をだれも想像していなかった。
オーク材を惜しげもなく使用しているいつものダイニングルームに、100円ショップで買ってきたような紙製のバースデイサインが掛かっている。手作り感が満載だ。折り紙を繋げた輪飾りまであるではないか。
美代が中に入っていくとクラッカーが焚かれ、彼女を驚かした。
蓮司、真田、伊勢崎、松田さんがなかで頭にこれまた紙製のコーン型の帽子を被っていた。
「お誕生日おめでとうございます」
みんなが美代に叫んだ。
「おめでとう。美代。さっきは、学校まで押しかけて悪かったな」
「え、ま、ちょっとびっくりしました」
特にほっぺにキスとかよくわからないことをされたことを思い出して、何やら訳の分からない感情に心を乱される。
「子リスのことだ、あんまり大掛かりなものは、好まないだろう?」
蓮司会長が頭にコーン型の帽子を乗せながら、話して来る。あまりにも不釣り合いというか、似合わないというか、こんなことをするような人ではなかったはずだ。子供の誕生日会などを思い出させる安っぽい紙帽子は、この眉目秀麗な男には、何かの冗談にしか思えないような姿見だ。あの銀座のクラブの絢爛豪華な世界の方がよほど似合っている。
「そ、そうですね。あまり私も派手なものは、困りますね」
「そうか、よかった」
「でも、だれがこんな用意をしてくださったんですか?」
その言葉を聞いただれもが顔をうつむかせて、何もいわない。
すると、横から伊勢崎が美代の耳元で囁いた。
「……美代様、蓮司様ですよ。自ら買い物も飾り付けもなさってですね。みんなハラハラでしたよ」
そう言えば、なんとなく全ての飾り方が素人っぽい。
え、待って、何て言った?
蓮司会長自ら買い物して、飾りつけ?
「か、会長! 買い物と飾り付け?」
蓮司会長が顔を赤くさせている。
「き、気にするな。問題ない。は、早くみんな席につけ! ほら、真田も松田もなにボヤッとしているんだ!」
真田も寄ってきて、美代の耳元に呟いた。
「大変だったんですよ。アメリカのFBI長官との面談を変更までさせて完成させたんですから!」
「えーー!!」
「真田も余計なことを美代に言うな!いいか、みんな座れ!」
松田も真田もニヤニヤしながら、自分達の場所に戻る。蓮司会長は、なにか秘密をバラされた子供のように落ち着きがない。
松田シェフは、
「では、また!」
と、言いながら厨房に消えていった。
みんなが席に着く。料理がドンドンと運ばれ、その盛り付けとその味の素晴らしさに感嘆する。
食事は松田さんが作ったものだが、まあ当たり前だが、ほっぺたが落ちそうなくらいおいしかった。本人は、まあ簡易なフレンチのフルコースですっと言っていたが、レベルが違う。前菜からきれいなカラフルな飾り付けで、それが全部野菜出来ているのも忘れてしまう。
くだらない会話を皆でしながら、 肉料理まで食べ終わった。
次はデザートのはずだ。でも、出てきたのはチーズだった。移動式のトレイに色々なチーズが盛られていた。その様子を見て、美代の目が輝いた。
「あ、あれ? 松田さん、簡易なフレンチなはずって……」
簡易なフレンチコースには、チーズは入らないのだが、格式高いフレンチコースには、必ずチーズが肉料理アントレ、サラダ、チーズになり、デザートとなっていた。松田は、サラダを抜いて、チーズだけをコースの中に入れていた。
「美代ちゃん、あれ、チーズ好きでしょ?だから、ちょっとこれだけ正式なコースからいれちゃった。ダメだった?」
「いえーーーっ。なんでチーズ好きなことを知っているですか?」
「だってね、時々厨房くるでしょ? 貴方はいつもチーズの食材のところで、目がいつも見開いていたからね。もしやと思ったよ。やっぱりそうだったね。今日は蓮司会長がわざわざヨーロッパから取り寄せた珍しいチーズもあるから、みんなで色々食べてみよう」
「あ、これ!! ブリーチーズ。洋梨もあるということは?!」
「ひひひっ。この食べ方、知っているね」
先ほどまでかなりお腹いっぱいなのに、もっと食べたくなる。
「お願いします!!」
松田がきれいに洋梨を切り取ると、クラッカーとブリーチーズの上に乗せてくれる。シェフ自ら盛り付けなので、シンプルなのに美しい。
一口いただく。うーーーん、美味しい。この味は超久しぶりだ。
「美代様はかなりのチーズ好きなんですか?」
真田さんが美代に聞いてきた。
「んーー、実は、お父さんの影響で……昔は子供なのに、いろいろ味見してました」
「じゃーこれどうだ。かなり通の味だぞ。ウォッシュチーズだ」
松田さんがニヤニヤしている。
「え、これ!! エポワスじゃない?」
「お、やっぱり通だな。お嬢は……」
松田が感心していると、
「フランス・ブルゴーニュ地方のエポワス村で作られ始めたチーズだな」
蓮司会長が付け加える。
「会長もこれお好きなんですか?」
美代が何気なく聞いてみる。
「あ、いや、俺は苦手だ」
「あーそうですよね。癖があるチーズですから」
美代も納得している。
松田が切り取りわけ、真田と美代に分けているようだ。伊勢崎さんはお腹一杯でもう無理ですと言っている。
「うわー、この外皮がすごい、インパクト。中身は、うん、やっぱり濃厚ですね」
松田がなにか大きめのワイングラスに少しだけの液体を注ぎ込む。
「おい、松田。それは美代にはやらんでくれ」
「え、な、なんでですか?」
松田シェフは、すでに美代にも注いでしまっていた。
「お前、前のクリスマスの件、忘れたのか?」
「えー!!」
「あー、ではこちらはさげましょうか。残念ですね。あのナポレオンも好んで食べたチーズですので、やはり同じくブルゴーニュ産の赤ワインをご用意しましたんですが」
「やっぱり、ちょっとだけ試してみたいです」
下げようとした松田の手より美代の手が先だった。
あの銀座の大人達を思い出したか、美代は、美代はあっという間に、ワイングラスを持ったと思ったら、グイっとワインを飲んでいた。もちろん、すかさずチーズも頬張る。
「うわー、なんか芳醇で濃厚。大人な味! ワインと合うーー!」
「はー、お前、マジめによせ。おい、真田も止めろ」
「そーですね。まあ一杯ぐらいには大丈夫じゃないですか?まあ、どなたかの忍耐力に掛かっていますが」
「……おまえ、言うな」
真田が蓮司の言葉をしれっと聞き流し、チーズを食べた。一口食べた瞬間、固まった。真田の顔色が青ざめる。
「……」
「ははは、エポワスはかなりキツイ香りのチーズだ。初めてか? 真田は」
まるで仕返しが出来て喜んでいる小学生のように蓮司が嬉しがっている。
「あー、なに言ってるんですか? 蓮司会長と真田さんが仲が良いは知ってますが、戯れていないて、いきますよ。いろいろチーズ食べて次のデザート、いきましょーー!」
突然、慌てるように、真田が席を立つ。あまりにもチーズが強烈すぎて、厠に行くのかと思いきや今度は、一杯並々と注がれているワインを飲み干した。
「……申し訳ありません。粗相お許しください」
そして、何事も無かったようにまた同じチーズを食べた。みんなが、えっと思ったが、今度はにこっと微笑むと、
「美味しいチーズですね。先ほど、自分が未熟すぎて、よく味がわかりませんでした」
とみんなに話しかける。
「だ、大丈夫なの?真田さん?」
「はははは。美代様、もちろん大丈夫でございます。代々大原家に仕えている真田家の人間、好き嫌いなどあってはなりません。しかも、美代様が好きなチーズが嫌いなどと……考えられませんので」
「え、真田さん。別にそんな、強要しないでください」
「美代。気にするな。真田は、ああいう人間だ。時期に慣れる。だがな、問題は、そこじゃないんだ」
蓮司会長が、眉間にシワをよせた。
今度は蓮司が突然松田シェフに命令する。
「俺にも、そのチーズをくれ」
「え、蓮司様。このウォシュチーズ系お好きではないじゃないですか」
「……松田、もう一度言わせる気か?」
「申し訳ありません。蓮司様」
松田シェフはエポワスを蓮司の為に取り分けた。ワインももちろん注いである。
「会長、さっきこのチーズ、苦手って言いませんでしたか?」
一番匂いがキツイと言われるエポワスの外皮ごと、蓮司は口に入れる。そして、味を確かめるようにした後、ゆっくりと色気のある仕草でワイングラスを持ち上げると、グラスを静かに回す。これまた、まるでそのチーズの残り香を消えるのが惜しそうにワインを口に含んだ。
全てを飲み干した蓮司が呟く。
「美代、愛してる」
「はあ?」
突然の蓮司の愛の告白に、美代も気持ちも何もかも追いついては、いなかった。なぜなら、我慢大会のようにチーズを食べた後にいきなりだ。ムードもなにもありゃしないし、超鈍感娘には、ただ会長が美代を揶揄ったとしか思えなかった。
ーーそんな無理してチーズを愛さなくたっていいって!
美代は完全に勘違いしていた。
蓮司としては、ただ自分の嫌いなチーズを好きな美代に、自分がそれを乗り越えられるぐらいに、美代を愛してると伝えたかったのだが、前後が全て抜け落ちていた。
あまりにもの鈍感娘と、漢気をどうやら勘違いして馬鹿なことをし続ける美形上司を真田は優しい目で眺めた。
からかいすぎたかな。
そんな中、美代が口を出した。
「蓮司会長。ちょっと落ち着いてください。もうチーズは、私が食べますから!」
なぜか会長のお母さんになった気分の美代は、蓮司のプレートから残りのチーズを取ってあっという間に食べてしまった。
さらに、口一杯、チーズを頬張る美代は、まるで急いで餌を口に入れたリスかハムスターのようだった。
「美代。なんだよ、リスそのものだな。その可愛さ。やめてくれ」
「はー、会長。TPOが完全におかしいですよ」
いまさらながら、こんな場面で愛の告白をしてしまう上司に真田は提言した。
「お前がこのチーズが好きなら、確かに俺も真田に、負けられない」
「え、なんですか? それ?別に私は真田さんにも、会長にも強要してないですよ」
美代は呆れて二人の男を見つめる。
しかも、美代は食べたチーズがかなり大きかったのか、残りのワインをグイグイと飲み干した。
「あ、おい!ワインはビールじゃないぞ」
蓮司の言葉は到底美代には届いているように思えなかった。
「んもー、このチーズは貴重なんですからね、食べたくない人は、食べないでください!」
横からこれまた呆れた顔の伊勢崎さんが美代に静かな声で話しかけた。
「真田はこうやってですね、蓮司様の好き嫌いを直してきたんですよ。会長は、昔から負けず嫌いですしね。あと、真田のことは文句いいながらも、部下というより家族に近いですからね。なんだかんだお互いに負けず嫌いですから」
「え、そうなんですか?」
「総裁となるべき人間が、人参とか嫌いじゃ、困るでしょ?」
伊勢崎さんがちょっと意味ありげに美代にウィンクした。
そんな会話をしながら、チーズは食べ終わり、というか強制的に食べ終わらせられた。
松田さんが「まだデザートありますから!」と言って、チーズカートをしまってしまったのだ。
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