私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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貴方が欲しい

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 蓮司がその狂おしい感情を瞳の中に閉じめた。
 今、この瞬間を閉じ込め永遠のものにしたかった。
 ただこの世で自分の命以上に大切で愛おしい人が、自分にあげるものがないと言って、涙を零しているのだ。
 なんという情景。
 なんというピュアで、切なく、美しいのだろうか?
 蓮司は今まで感じたことがないような衝撃を受けた。身体全身が鳥肌が立つような感覚だった。
 こんな泣いている姿だけで、俺をここまで狂わせる女なんて何処にもいない。
 庇護欲なのか、執着心なのか、ただの欲望なのか、美代をこのまま連れ去り、誰にも見せないで、ただ自分のものにしてしまいたいという自分勝手な感情を蓮司は自分の奥にしまう。
 なぜなら、いま目の前で、やっと美代が自分をさらけ出し始めているのに、優しくしなければ、この小鳥はにげてしまうだろうと予感した。

 「美代、泣かないで……」

 切れ長の目が、潤いを含みながら、優しく美代を眺めた。

 「だって、無理! れ、蓮司、優し過ぎ! 私、本当に!!」

 蓮司は本当は俺はそんな聖人ではないといいたかった。ただ自分が、欲しいものを得るため、守るため、自分勝手な行動をしただけの話だ。

 「美代、抱きしめるよ……。いい?」

 何故かいつものエロ大魔神は引っ込んで、美代を優しく抱きしめた。その振る舞いはまるで紳士、温かく情に溢れるものだった。

 「美代、いいんだ……君がここに、俺の隣にいてくれさえば……」
 「そんな、割りが合わないよ……」
 「キスしていいか?」
 「……」 

 一瞬、美代は身体を引いた。ソファから立ち上がろうとした。多分、本能的に男性的な香りが美代をゾクっとさせたのだ。

 「逃げないで……美代」

 蓮司が美代の腕をグイッと引っ張った。力では全く勝負にならない二人だ。ソファに座っている蓮司の膝上に尻餅をつく。

 「きゃっ! あ、で、でも…」
 「優しくするから…」

 厚い男性的な胸板の中で、美代は藻搔いた。
 「いや、なんだか、優しい蓮司、怖い! あ、」

 美代の顔が蓮司の頭の影に消える。彼の大きな手が美代の後頭部をがっちりと捕まえていた。彼の唇がそっと美代を黙らせる。その優しい微笑みに包まれて、心の奥に入り込んでくるような、まるで身体全体が痺れてしまうような甘く切ないキスを受けた。
 蓮司と奥深く、繋がっている、そんな感覚だった。

 柔らな唇の感触が途切れる。

 「美代、愛している……。ただ俺のそばにいてくれ、俺は……」

 蓮司の目線がとても優しいが、目の奥に宿るものは獰猛で、嵐の前触れを予想させるものだった。彼の執拗なまでのキスの嵐が美代の全てを溶かしていく。

 「はあ、蓮司!!」

 美代は言葉を失う。
 もうダメだ。
 この男に芯からやられてしまった。

 「私、もう無理……」

 感情が抑えきれなかった。

 「無理って何? 美代はやっぱり俺が受け入れられない?」

 息絶え絶えに言葉を交わす。

 「ち、違う……ああ、蓮司……」
 「ダメだよ。美代、離さないよ……。愛してるんだから……。一緒にいつもいるって言っただろ?」

 蓮司の止まらない熱情が美代を追い込んでいく。

 「……蓮司、本当にいつもいてくれるの?」

 涙目の美代が尋ねた。
 その質問自体が蓮司を芯から震え上がらせるほど、甘美で切ない物だとは美代は知らない。

 「全くなんて質問なんだ。今更……。ああ、もちろんいるよ。美代。仕事で出かけることはあるけど、美代の為に必ず美代のところに帰る。いつも一緒に寝るんだ」
 「か、確認なんだら!……消えないでよ……。急に消えたら、私、本当に怒るよ……」
 「うん、消えない。お前の為に絶対に……。それが俺の最高の生きがいになるよ」
 「……約束して? お願い……」
 「ああ、美代。そんな約束!!百でも千でも必要なだけしてやるよ……」

 美代はまだポロポロと涙が止まらなかった。もう、この男は自分を砕けさせた。今まで両親を亡くしてから、作り続けてきた全ての壁を巧妙に。そして、いま丸裸になってしまった自分を優しく、時には悪ふざけしながら、自分を包み込んでいるのだ。もう、蓮司と離れるなんて正直、出来ないかもしれない。偽造婚約だってどうでもよかった。あの毎晩に感じる彼の肌の温かみが、自分を融解させていく。それは心も身体も溶かし、自分に新たなる感情を生み出していたのだ。
 最後のあがきで色々難癖つけて、離れようとしたけど、蓮司のなんという愛の深さ、その嫉妬心でさえも、愛おしくなってきていた。こんなパーフェクトな人でも、嫉妬心で自分を失うくらい自分を求めてくれる。彼に何もあげられるものがない美代にとって、それは唯一のあげられるものだった。しかも、あの権利証や元従業員だって……。こんなことまでしてしまう蓮司が本当に信じられなかった。本人は、暇だったからだなんて、到底信じられなかった。普段の蓮司がどれだけ忙しくしているか知っているからだ。

 「わかった。蓮司にあげられるもの……」
 「え? 急に何? どうした? 」
 「……蓮司の場所、作ってあげる……」
 「ど、どういう意味……」
 「前、聞いてきたでしょ? 私の胸に手を当てて、ここに蓮司のスペースが欲しいって……」
 「……ま、まさか、美代」

 美代は蓮司の大きな手を自分の胸にあてがった。蓮司の手のひらに美代の高まる心音を感じた。

 とくんっ、とくんっと美代の心臓の音が蓮司の手を震えさせる。

 「うん、ここね、実はチョーー狭くてね、ほとんど空き地が出ないの。しかも、とってもお高くてそこらの億万長者やビリオネラーでもなかなか買えない場所なの……一等地の中の一等地!」

 ちょっと緊張しているのか、美代の声はかすかに震えていた。
 何が起こるかまだ完全に予測出来ない蓮司は美代の行動を静かに見守っていた。だが、その抑えている手が微かに震えていた。

 「美代……」
 「でも、こんなにいっぱい色々してくれる蓮司に、少し譲ってあげる。チョーー、高いんだから、悪いけど、財閥の総裁でも、支払ったら文無しになっちゃうよ!」

 涙目の美代がにっこりと蓮司に微笑んだ。
 ただそれだけなのに、この史上稀に見る美丈夫であり、天才経営者、大原蓮司の心臓は今まで感じたことがないような高まりを感じた。

「はははっ。なんて素敵なお誘いだ……。ああ、美代、喜んで文無しになりたい。一体それは幾らなんだい?」

 美代をがっちりと両手で捕まえながら蓮司は聞いてきた。

「ダメだよ。せっかくあげるっていうんだから、貰っときなさい……。それでなきゃ、蓮司、文無しだから!」
「美代、君の心が貰えるなら、文無しでもいい……。財閥なんて正直いらない……」
「ダメだよ。蓮司、金がないプー太郎はモテないって……。顔だけの男って言われちゃうよ」

 美代は蓮司を見つめる。その瞳にははっきりと蓮司の嬉しそうな笑みが写っていた。

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