私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

文字の大きさ
121 / 200

貴方が欲しい

しおりを挟む
 蓮司がその狂おしい感情を瞳の中に閉じめた。
 今、この瞬間を閉じ込め永遠のものにしたかった。
 ただこの世で自分の命以上に大切で愛おしい人が、自分にあげるものがないと言って、涙を零しているのだ。
 なんという情景。
 なんというピュアで、切なく、美しいのだろうか?
 蓮司は今まで感じたことがないような衝撃を受けた。身体全身が鳥肌が立つような感覚だった。
 こんな泣いている姿だけで、俺をここまで狂わせる女なんて何処にもいない。
 庇護欲なのか、執着心なのか、ただの欲望なのか、美代をこのまま連れ去り、誰にも見せないで、ただ自分のものにしてしまいたいという自分勝手な感情を蓮司は自分の奥にしまう。
 なぜなら、いま目の前で、やっと美代が自分をさらけ出し始めているのに、優しくしなければ、この小鳥はにげてしまうだろうと予感した。

 「美代、泣かないで……」

 切れ長の目が、潤いを含みながら、優しく美代を眺めた。

 「だって、無理! れ、蓮司、優し過ぎ! 私、本当に!!」

 蓮司は本当は俺はそんな聖人ではないといいたかった。ただ自分が、欲しいものを得るため、守るため、自分勝手な行動をしただけの話だ。

 「美代、抱きしめるよ……。いい?」

 何故かいつものエロ大魔神は引っ込んで、美代を優しく抱きしめた。その振る舞いはまるで紳士、温かく情に溢れるものだった。

 「美代、いいんだ……君がここに、俺の隣にいてくれさえば……」
 「そんな、割りが合わないよ……」
 「キスしていいか?」
 「……」 

 一瞬、美代は身体を引いた。ソファから立ち上がろうとした。多分、本能的に男性的な香りが美代をゾクっとさせたのだ。

 「逃げないで……美代」

 蓮司が美代の腕をグイッと引っ張った。力では全く勝負にならない二人だ。ソファに座っている蓮司の膝上に尻餅をつく。

 「きゃっ! あ、で、でも…」
 「優しくするから…」

 厚い男性的な胸板の中で、美代は藻搔いた。
 「いや、なんだか、優しい蓮司、怖い! あ、」

 美代の顔が蓮司の頭の影に消える。彼の大きな手が美代の後頭部をがっちりと捕まえていた。彼の唇がそっと美代を黙らせる。その優しい微笑みに包まれて、心の奥に入り込んでくるような、まるで身体全体が痺れてしまうような甘く切ないキスを受けた。
 蓮司と奥深く、繋がっている、そんな感覚だった。

 柔らな唇の感触が途切れる。

 「美代、愛している……。ただ俺のそばにいてくれ、俺は……」

 蓮司の目線がとても優しいが、目の奥に宿るものは獰猛で、嵐の前触れを予想させるものだった。彼の執拗なまでのキスの嵐が美代の全てを溶かしていく。

 「はあ、蓮司!!」

 美代は言葉を失う。
 もうダメだ。
 この男に芯からやられてしまった。

 「私、もう無理……」

 感情が抑えきれなかった。

 「無理って何? 美代はやっぱり俺が受け入れられない?」

 息絶え絶えに言葉を交わす。

 「ち、違う……ああ、蓮司……」
 「ダメだよ。美代、離さないよ……。愛してるんだから……。一緒にいつもいるって言っただろ?」

 蓮司の止まらない熱情が美代を追い込んでいく。

 「……蓮司、本当にいつもいてくれるの?」

 涙目の美代が尋ねた。
 その質問自体が蓮司を芯から震え上がらせるほど、甘美で切ない物だとは美代は知らない。

 「全くなんて質問なんだ。今更……。ああ、もちろんいるよ。美代。仕事で出かけることはあるけど、美代の為に必ず美代のところに帰る。いつも一緒に寝るんだ」
 「か、確認なんだら!……消えないでよ……。急に消えたら、私、本当に怒るよ……」
 「うん、消えない。お前の為に絶対に……。それが俺の最高の生きがいになるよ」
 「……約束して? お願い……」
 「ああ、美代。そんな約束!!百でも千でも必要なだけしてやるよ……」

 美代はまだポロポロと涙が止まらなかった。もう、この男は自分を砕けさせた。今まで両親を亡くしてから、作り続けてきた全ての壁を巧妙に。そして、いま丸裸になってしまった自分を優しく、時には悪ふざけしながら、自分を包み込んでいるのだ。もう、蓮司と離れるなんて正直、出来ないかもしれない。偽造婚約だってどうでもよかった。あの毎晩に感じる彼の肌の温かみが、自分を融解させていく。それは心も身体も溶かし、自分に新たなる感情を生み出していたのだ。
 最後のあがきで色々難癖つけて、離れようとしたけど、蓮司のなんという愛の深さ、その嫉妬心でさえも、愛おしくなってきていた。こんなパーフェクトな人でも、嫉妬心で自分を失うくらい自分を求めてくれる。彼に何もあげられるものがない美代にとって、それは唯一のあげられるものだった。しかも、あの権利証や元従業員だって……。こんなことまでしてしまう蓮司が本当に信じられなかった。本人は、暇だったからだなんて、到底信じられなかった。普段の蓮司がどれだけ忙しくしているか知っているからだ。

 「わかった。蓮司にあげられるもの……」
 「え? 急に何? どうした? 」
 「……蓮司の場所、作ってあげる……」
 「ど、どういう意味……」
 「前、聞いてきたでしょ? 私の胸に手を当てて、ここに蓮司のスペースが欲しいって……」
 「……ま、まさか、美代」

 美代は蓮司の大きな手を自分の胸にあてがった。蓮司の手のひらに美代の高まる心音を感じた。

 とくんっ、とくんっと美代の心臓の音が蓮司の手を震えさせる。

 「うん、ここね、実はチョーー狭くてね、ほとんど空き地が出ないの。しかも、とってもお高くてそこらの億万長者やビリオネラーでもなかなか買えない場所なの……一等地の中の一等地!」

 ちょっと緊張しているのか、美代の声はかすかに震えていた。
 何が起こるかまだ完全に予測出来ない蓮司は美代の行動を静かに見守っていた。だが、その抑えている手が微かに震えていた。

 「美代……」
 「でも、こんなにいっぱい色々してくれる蓮司に、少し譲ってあげる。チョーー、高いんだから、悪いけど、財閥の総裁でも、支払ったら文無しになっちゃうよ!」

 涙目の美代がにっこりと蓮司に微笑んだ。
 ただそれだけなのに、この史上稀に見る美丈夫であり、天才経営者、大原蓮司の心臓は今まで感じたことがないような高まりを感じた。

「はははっ。なんて素敵なお誘いだ……。ああ、美代、喜んで文無しになりたい。一体それは幾らなんだい?」

 美代をがっちりと両手で捕まえながら蓮司は聞いてきた。

「ダメだよ。せっかくあげるっていうんだから、貰っときなさい……。それでなきゃ、蓮司、文無しだから!」
「美代、君の心が貰えるなら、文無しでもいい……。財閥なんて正直いらない……」
「ダメだよ。蓮司、金がないプー太郎はモテないって……。顔だけの男って言われちゃうよ」

 美代は蓮司を見つめる。その瞳にははっきりと蓮司の嬉しそうな笑みが写っていた。

しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...