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史上最強のツンデレ誕生
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〈歩美が受付からこの会長室までにたどり着くまでの経緯〉
歩美はこの会社にたどり着いてから、イライラしていた。受付嬢達のあからさまな軽視の態度。真田代行と言った瞬間に、相手はうまく隠しているかもしれないが、敵意さえ感じた。しかも、なにか見定められる感じ。
なに? こいつら、もしかして、みんな真田狙いなの?
歩美は心の中で呟いた。
ムカついたから、自分でも最高の笑みをかえしてやった。
どうかな、ちょっとはビビったかな?
この一流企業のロビーに立つと、否が応でも、真田と自分の違いを思い知らされた。
今の私には何もないのだ。自分という個人以外……。
「美代もこんな気持ちだったのかな」
歩美は自分を叱咤しながら、やって来た秘書水元薫子の案内に続く。
だが、穏便には会長室にたどり着かなかった。このエグゼクティブフロアにエレベーターから降りてから、会長室へ繋がる短い距離の廊下にハンカチが10枚以上落ちていた。
「あっ、大丈夫です。そのままで」という秘書を無視して、歩美が拾ってみたら、ハンカチに名前とメルアドが記載してある。
なに? これ? 名前はわかるけど、メルアドって変じゃない?
すると、若い女性社員がもう一台のエレベーターで降りてきた。私たちを完全に無視しながら、話している。
「うわ、もうこんなに来てる!」
「いや、もうくじ引きに近いよ!」
「えー、もう、みんな拾ってすてたい!」
「早く! 課長にどこ行ってたって、お小言もらっちゃうよ」
彼女たちはなぜか同じようにハンカチをフロアに置いて去っていく。
歩美は、行きましょうと言ってくる秘書を無言で無視して、彼女達が置いたハンカチを拾う。
またハンカチに名前、電話番号、メルアドだ。増えてる、個人情報。
「あの秘書の水元薫子さん、質問があります」
いきなり、フルネームで呼ばれて、水元は焦った。自分にはネームタグは付いていないのだ。彼女の記憶力に驚いた。
「この廊下、いえ、正確に申し上げれば、このエレベーターから右に曲がって真っ直ぐの道、どんな殿方が使います?」
薫子はまた、この美少女の言動にあせる。
「と、殿方っということは男性ですか? でしたら、来客されます方と、矢崎秘書、大原総裁会長、そして……今日は真田総裁兼会長代行に、なります」
「このハンカチ、昨日までありました?」
なぜか食いついて質問をしてくる。出来たら、言いたくないが、真面目な自分の性分を薫子は恨んだ。
「いえ、ありませんでした……」
「そう、やっぱり……非常にムカつくわ。拾いましょう。薫子さん」
「え?」
「こんな正面から勝負しない女、私が許さない……」
歩美と薫子は全てのハンカチを拾い終えたあとに、それらを手元に持つ。実際、秘書水元薫子はドキドキしていた。自分も実は置きたかった。ただもうアラサーに、そんなチャンスがあるとは思えず、若い女子社員に混じってそんな真似は出来なかった。
会長室まえの秘書達がいるデスクを通る。
その中に入り、歩美がどんっと音も出るはずのないハンカチの束を彼女らのデスク前に置いた。
「秘書課なら、もっとお客様のこと考えて、通る廊下くらい綺麗にするもんじゃない?」
ギョッとしている秘書課の女性社員がざわつく。
「わざわざ、当社の落し物を拾っていただきまして……」
突然の美少女の登場とその言動に秘書たちの笑顔がひるんだ。
「いえ、本当はゴミ箱に捨てようかと思いましたが、使えるものを捨てるのは、自分のポリシーに反しますので……あと、今日は誰か廊下に立たれた方がいいんじゃないですか? 廊下は綺麗にした方がお客様にはいいですし、いらない虫を歓迎するって、私にはよくわかりません」
酷い言われようだが、秘書達は確かに、ハンカチはやり過ぎたと感じていた。自分達も置いたが、仲間たちのも黙認していた。他のお客様にも迷惑になるし、見た目もみっともない。
しかも、彼女の言う虫については、わかる。わざわざライバルを増やして、どうするんだと思う。
ただ頭を下げてくる美人秘書たちを横目に歩美は、水元に催促されて会長室に入ろうとするが、その前に、秘書水元に耳元で話しかける。
「まさか、薫子さんも置いているの?」
「いえ、そんな、滅相もないです」
その言葉を聞いて、歩美はニコッとする。
「そうよね、貴方はそんなタイプに見えない」
自分が見た目が年を取っているか、美人ではないことを指摘されたのかと思って、屈辱で薫子の口が歪む。
「あ、嫌味じゃないのよ。勘違いしないでください。貴方は私の親友、美代みたい。嘘つけない真面目なタイプね。会ったばかりだけど、そう感じる。さっき受付で、薫子さんが私を迎えに来てくださったとき、すごい笑顔の温かい接客に感動したの。さすがプロだと思った。こんな生意気な小娘に、プロの接客、感動したの。会長は信頼してそうね。あと、さっき、私のくだらない質問に正直に答えてくださってありがとうございます」
「あ、いえ、仕事ですので、、」
だが、その後の小さい声に薫子はビビった。
「でも、水元さん、もし真田さん、好きなら……私とサシで勝負ですから!」
ウィンクして、歩美は会長室までにたどり着いた。
***
「では、失礼いたします」
秘書課の水元薫子は髪の毛を引かれる想いで会長室を後にした。一度矢崎も退出した。
現れた歩美は終始無言だった。
真田は会長のデスクから立ち上がり、笑顔で歩美を迎えた。会長代行らしく、堂々としていて、さりげなくその手を差し出し、目の前のソファーを勧める。
歩美がふくれっ面のまま、なぜか頬を少し赤らめた。
「歩美さん、いかがなされましたか? となりの応接間でなくてすみません。いま業務が立て込んでおりまして……ちょっと仕事をしながらになってしまいますが……」
急に現れた歩美になにも動じず、真田がこたえる。
「に、似合わない……」
ボソッと歩美が呟いた。
「え? なんですか? 歩美さん」
矢崎がお茶を運んできた。
「もしかしたら、初対面かもしれませんね。真田代行の秘書の矢崎と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「こ、こんにちは、工藤歩美です」
かなり緊張しているように歩美が答える。
「真田さん、いつまでこんなこと続けるの?」
「え、どう言う意味でしょうか?」
「そ、そんなカッコつけたビジネスマンスーツをつけて、会長代行なんて、人使いが荒いわね。あの会長さまは!」
「ふっ、ご心配して下さっているんですか? ありがとうございます。私はこの為にかなり日頃から準備をしていますし、この矢崎といつも連絡を取り合っていますから、意外と大丈夫なんですよ」
顔を完全に赤らめた歩美が声を上げる。
「ちっ、違うわよ。心配なんてしてないわよ。何勘違いしてるのよ! たまたま美代から聞いたから、どんだけやっているか、冷やかしにきたの!」
ちょっと微笑みながら、真田は答えた。
「そうですか? 期間はまだわかりません。一応、一年程度を目安にしていますが、どうでしょうかね。蓮司様のご意向によりますね」
やっぱりそうなんだと歩美は確信した。
休学を取らせたくらいだから、それくらいなのかと思っていたが、確信がとれなかった。
「そうなんだ。やっぱり美代の言う通りなのね。でも、真田さん、蓮司は大間抜けよ。いまさっき美代から連絡があって休学届けには無茶苦茶怒ってた。しかも、婚前ハネムーンじゃなくて、奴は婚姻届で美代に迫ったみたいで、たぶん、激昂しているわ!」
「え? 婚姻届! どう言うことですか?」
「悪いが、矢崎、プライベートな話になりそうだ。席を外してくれ」
矢崎は、こりゃー大変だ!と思いながら、席を外して、また部屋から出て行く。
真田は慌てた。やっと蓮司が美代を説き伏せて、うまく婚約させ、さあ愛の巣にでも逃避行させて万々歳なはずだったのに、なぜか蓮司会長が慌てたのだ!
婚姻届にすんなりサインするような女でないはずだ。美代様は……。
それなのに!! 焦ったのか! 大原蓮司!!
真田の心中で、蓮司会長を叫ぶ声がした。
ああ、もしかしたらと懸念していた材料が頭を駆け抜ける。
「歩美さん! どう言う事になっているんですか?」
真田がぐっと体を前に寄せ、目の前のソファーに座っている歩美を見つめた。
歩美は急に注がれた真田の真剣な目線に耐えきれず、目線を外して、下を向く。
「あ、あんた達、美代が大切なのはわかるけど、特にあんたの変態上司、時々やり過ぎだから!」
真田の内ポケットの携帯が鳴り始めた。
彼は急に立ち上がり、まさかと思った表情で自分の携帯を取る。
「真田です。蓮司会長、いかがなされましたか?」
一瞬の間があった。
「……真田、美代が消えた……」
蓮司の低い声が電話口から響いた。
真田は、え? と思いながら、眼下で下を向いている歩美を見る。
「蓮司様、しっかりしてください」
「……心配するな、真田。俺は今以上に彼女を求めている気持ちには変わりがない。ただ、あいつが、愛人だとか、28号とかふざけたことを言うから……、安心させたくて、まだあいつがそこまで、決心できていないって、わかっていたんだが……」
二人はなにか伝達事項を交わした後、電話を切った。
歩きながら話していた真田はくるっと向きを変え、歩美の座っている足元に片膝をついて、跪いた。まるで姫に仕える執事のような様だ。
「歩美さん、あなたは何と美代様にアドバイスされましたか? 教えていただきたい」
真田の目が怪しく光る。
「な、なによ。友達情報をそんな容易く、売るわけないでしょ!」
すると、真田がふっと笑った。自分の足元にいたはずの真田が急に立ち上がり、さっとソファーの歩美の隣に座り込んいた。
声色が変わる。
「歩美さん、貴方は私をどのような男か分かっていないみたいですね」
「な、なによ、急に!」
「目的のためには、少々、手段をえらばないんですよ……」
「ど、どう言うつもりよ! ここで押し倒して、この私にどうにかするつもり? ちょっとくらい女達にちやほやされて、あんたも頭に血が上っておかしいんじゃないの?」
「ちやほや? どういうことでしょう? 私には身近にそんな女性たちはいませんが……」
「知らないのね。この阿保スカポンタン補佐! みんなあんたの周りの女達は、ハートマークであんたを見つめているわよ。気持ち悪い!」
「……そうでしょうか? 物珍しいだけですよ」
「ああいう輩には、あんたが一言甘い言葉でも呟けば、いろいろなんでもしてくれるし、お喋りもしてくれるでしょうよ。わ、私は、ち、違うんだから!」
真田は歩美の顎をくいっと長い指先であげた。
「そう? 貴方は、それで、しゃべるような尻軽な女では、ないんですか?」
なぜかその真田の言葉が体を舐めるような感覚を歩美は感じ、ゾワッと背筋がする。
な、なんなの? この真田って男は?!
つ、掴めない!
でも、このぐらいの策士じゃなきゃ……!
でもでも、この大人な男の感じ!
あああ!!
む、ムカつく!
歩美はじっとこの男を見つめ返した。
歩美はこの会社にたどり着いてから、イライラしていた。受付嬢達のあからさまな軽視の態度。真田代行と言った瞬間に、相手はうまく隠しているかもしれないが、敵意さえ感じた。しかも、なにか見定められる感じ。
なに? こいつら、もしかして、みんな真田狙いなの?
歩美は心の中で呟いた。
ムカついたから、自分でも最高の笑みをかえしてやった。
どうかな、ちょっとはビビったかな?
この一流企業のロビーに立つと、否が応でも、真田と自分の違いを思い知らされた。
今の私には何もないのだ。自分という個人以外……。
「美代もこんな気持ちだったのかな」
歩美は自分を叱咤しながら、やって来た秘書水元薫子の案内に続く。
だが、穏便には会長室にたどり着かなかった。このエグゼクティブフロアにエレベーターから降りてから、会長室へ繋がる短い距離の廊下にハンカチが10枚以上落ちていた。
「あっ、大丈夫です。そのままで」という秘書を無視して、歩美が拾ってみたら、ハンカチに名前とメルアドが記載してある。
なに? これ? 名前はわかるけど、メルアドって変じゃない?
すると、若い女性社員がもう一台のエレベーターで降りてきた。私たちを完全に無視しながら、話している。
「うわ、もうこんなに来てる!」
「いや、もうくじ引きに近いよ!」
「えー、もう、みんな拾ってすてたい!」
「早く! 課長にどこ行ってたって、お小言もらっちゃうよ」
彼女たちはなぜか同じようにハンカチをフロアに置いて去っていく。
歩美は、行きましょうと言ってくる秘書を無言で無視して、彼女達が置いたハンカチを拾う。
またハンカチに名前、電話番号、メルアドだ。増えてる、個人情報。
「あの秘書の水元薫子さん、質問があります」
いきなり、フルネームで呼ばれて、水元は焦った。自分にはネームタグは付いていないのだ。彼女の記憶力に驚いた。
「この廊下、いえ、正確に申し上げれば、このエレベーターから右に曲がって真っ直ぐの道、どんな殿方が使います?」
薫子はまた、この美少女の言動にあせる。
「と、殿方っということは男性ですか? でしたら、来客されます方と、矢崎秘書、大原総裁会長、そして……今日は真田総裁兼会長代行に、なります」
「このハンカチ、昨日までありました?」
なぜか食いついて質問をしてくる。出来たら、言いたくないが、真面目な自分の性分を薫子は恨んだ。
「いえ、ありませんでした……」
「そう、やっぱり……非常にムカつくわ。拾いましょう。薫子さん」
「え?」
「こんな正面から勝負しない女、私が許さない……」
歩美と薫子は全てのハンカチを拾い終えたあとに、それらを手元に持つ。実際、秘書水元薫子はドキドキしていた。自分も実は置きたかった。ただもうアラサーに、そんなチャンスがあるとは思えず、若い女子社員に混じってそんな真似は出来なかった。
会長室まえの秘書達がいるデスクを通る。
その中に入り、歩美がどんっと音も出るはずのないハンカチの束を彼女らのデスク前に置いた。
「秘書課なら、もっとお客様のこと考えて、通る廊下くらい綺麗にするもんじゃない?」
ギョッとしている秘書課の女性社員がざわつく。
「わざわざ、当社の落し物を拾っていただきまして……」
突然の美少女の登場とその言動に秘書たちの笑顔がひるんだ。
「いえ、本当はゴミ箱に捨てようかと思いましたが、使えるものを捨てるのは、自分のポリシーに反しますので……あと、今日は誰か廊下に立たれた方がいいんじゃないですか? 廊下は綺麗にした方がお客様にはいいですし、いらない虫を歓迎するって、私にはよくわかりません」
酷い言われようだが、秘書達は確かに、ハンカチはやり過ぎたと感じていた。自分達も置いたが、仲間たちのも黙認していた。他のお客様にも迷惑になるし、見た目もみっともない。
しかも、彼女の言う虫については、わかる。わざわざライバルを増やして、どうするんだと思う。
ただ頭を下げてくる美人秘書たちを横目に歩美は、水元に催促されて会長室に入ろうとするが、その前に、秘書水元に耳元で話しかける。
「まさか、薫子さんも置いているの?」
「いえ、そんな、滅相もないです」
その言葉を聞いて、歩美はニコッとする。
「そうよね、貴方はそんなタイプに見えない」
自分が見た目が年を取っているか、美人ではないことを指摘されたのかと思って、屈辱で薫子の口が歪む。
「あ、嫌味じゃないのよ。勘違いしないでください。貴方は私の親友、美代みたい。嘘つけない真面目なタイプね。会ったばかりだけど、そう感じる。さっき受付で、薫子さんが私を迎えに来てくださったとき、すごい笑顔の温かい接客に感動したの。さすがプロだと思った。こんな生意気な小娘に、プロの接客、感動したの。会長は信頼してそうね。あと、さっき、私のくだらない質問に正直に答えてくださってありがとうございます」
「あ、いえ、仕事ですので、、」
だが、その後の小さい声に薫子はビビった。
「でも、水元さん、もし真田さん、好きなら……私とサシで勝負ですから!」
ウィンクして、歩美は会長室までにたどり着いた。
***
「では、失礼いたします」
秘書課の水元薫子は髪の毛を引かれる想いで会長室を後にした。一度矢崎も退出した。
現れた歩美は終始無言だった。
真田は会長のデスクから立ち上がり、笑顔で歩美を迎えた。会長代行らしく、堂々としていて、さりげなくその手を差し出し、目の前のソファーを勧める。
歩美がふくれっ面のまま、なぜか頬を少し赤らめた。
「歩美さん、いかがなされましたか? となりの応接間でなくてすみません。いま業務が立て込んでおりまして……ちょっと仕事をしながらになってしまいますが……」
急に現れた歩美になにも動じず、真田がこたえる。
「に、似合わない……」
ボソッと歩美が呟いた。
「え? なんですか? 歩美さん」
矢崎がお茶を運んできた。
「もしかしたら、初対面かもしれませんね。真田代行の秘書の矢崎と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「こ、こんにちは、工藤歩美です」
かなり緊張しているように歩美が答える。
「真田さん、いつまでこんなこと続けるの?」
「え、どう言う意味でしょうか?」
「そ、そんなカッコつけたビジネスマンスーツをつけて、会長代行なんて、人使いが荒いわね。あの会長さまは!」
「ふっ、ご心配して下さっているんですか? ありがとうございます。私はこの為にかなり日頃から準備をしていますし、この矢崎といつも連絡を取り合っていますから、意外と大丈夫なんですよ」
顔を完全に赤らめた歩美が声を上げる。
「ちっ、違うわよ。心配なんてしてないわよ。何勘違いしてるのよ! たまたま美代から聞いたから、どんだけやっているか、冷やかしにきたの!」
ちょっと微笑みながら、真田は答えた。
「そうですか? 期間はまだわかりません。一応、一年程度を目安にしていますが、どうでしょうかね。蓮司様のご意向によりますね」
やっぱりそうなんだと歩美は確信した。
休学を取らせたくらいだから、それくらいなのかと思っていたが、確信がとれなかった。
「そうなんだ。やっぱり美代の言う通りなのね。でも、真田さん、蓮司は大間抜けよ。いまさっき美代から連絡があって休学届けには無茶苦茶怒ってた。しかも、婚前ハネムーンじゃなくて、奴は婚姻届で美代に迫ったみたいで、たぶん、激昂しているわ!」
「え? 婚姻届! どう言うことですか?」
「悪いが、矢崎、プライベートな話になりそうだ。席を外してくれ」
矢崎は、こりゃー大変だ!と思いながら、席を外して、また部屋から出て行く。
真田は慌てた。やっと蓮司が美代を説き伏せて、うまく婚約させ、さあ愛の巣にでも逃避行させて万々歳なはずだったのに、なぜか蓮司会長が慌てたのだ!
婚姻届にすんなりサインするような女でないはずだ。美代様は……。
それなのに!! 焦ったのか! 大原蓮司!!
真田の心中で、蓮司会長を叫ぶ声がした。
ああ、もしかしたらと懸念していた材料が頭を駆け抜ける。
「歩美さん! どう言う事になっているんですか?」
真田がぐっと体を前に寄せ、目の前のソファーに座っている歩美を見つめた。
歩美は急に注がれた真田の真剣な目線に耐えきれず、目線を外して、下を向く。
「あ、あんた達、美代が大切なのはわかるけど、特にあんたの変態上司、時々やり過ぎだから!」
真田の内ポケットの携帯が鳴り始めた。
彼は急に立ち上がり、まさかと思った表情で自分の携帯を取る。
「真田です。蓮司会長、いかがなされましたか?」
一瞬の間があった。
「……真田、美代が消えた……」
蓮司の低い声が電話口から響いた。
真田は、え? と思いながら、眼下で下を向いている歩美を見る。
「蓮司様、しっかりしてください」
「……心配するな、真田。俺は今以上に彼女を求めている気持ちには変わりがない。ただ、あいつが、愛人だとか、28号とかふざけたことを言うから……、安心させたくて、まだあいつがそこまで、決心できていないって、わかっていたんだが……」
二人はなにか伝達事項を交わした後、電話を切った。
歩きながら話していた真田はくるっと向きを変え、歩美の座っている足元に片膝をついて、跪いた。まるで姫に仕える執事のような様だ。
「歩美さん、あなたは何と美代様にアドバイスされましたか? 教えていただきたい」
真田の目が怪しく光る。
「な、なによ。友達情報をそんな容易く、売るわけないでしょ!」
すると、真田がふっと笑った。自分の足元にいたはずの真田が急に立ち上がり、さっとソファーの歩美の隣に座り込んいた。
声色が変わる。
「歩美さん、貴方は私をどのような男か分かっていないみたいですね」
「な、なによ、急に!」
「目的のためには、少々、手段をえらばないんですよ……」
「ど、どう言うつもりよ! ここで押し倒して、この私にどうにかするつもり? ちょっとくらい女達にちやほやされて、あんたも頭に血が上っておかしいんじゃないの?」
「ちやほや? どういうことでしょう? 私には身近にそんな女性たちはいませんが……」
「知らないのね。この阿保スカポンタン補佐! みんなあんたの周りの女達は、ハートマークであんたを見つめているわよ。気持ち悪い!」
「……そうでしょうか? 物珍しいだけですよ」
「ああいう輩には、あんたが一言甘い言葉でも呟けば、いろいろなんでもしてくれるし、お喋りもしてくれるでしょうよ。わ、私は、ち、違うんだから!」
真田は歩美の顎をくいっと長い指先であげた。
「そう? 貴方は、それで、しゃべるような尻軽な女では、ないんですか?」
なぜかその真田の言葉が体を舐めるような感覚を歩美は感じ、ゾワッと背筋がする。
な、なんなの? この真田って男は?!
つ、掴めない!
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