私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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なぜか気を使う誘拐犯

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 「な、なんなの? これ?」
 
 なぜか誘拐すると脅迫してきた男に放置され、ソファに座りながら唖然とする。
 先ほどの悪魔の微笑みの男はいきなり消え、真田は会長のデスクにまた戻り、仕事を始めた。

 「ああ、まだ仕事が残っているんですよ。きっとまだ美代様はどっかで遊んでるか、または自分の世界に入り浸っているでしょうから、蓮司会長もいますし……時間がまだあります。一応、定時までは仕事させてください」

 先ほどなにか真田の元に連絡があった。その内容のせいかのか、真田がいきなり態度を変えたのだ。
 美代が無事かどうなのか、まだ教えてくれない。

 「さっきまでは顔を青ざめて心配していたくせに! どんだけ頭の切り替えが早いのよ。それに、あんた、どんだけ頭がおかしいの? 仕事するから、誘拐されるの待つバカがどこにいるの? もし美代が大丈夫そうだったら、帰してくれてもいいんじゃない?」

 「そうですよね、歩美さん。あなたは今ならこのドアから帰れますよ。でも、これから美代様がどうなるか気になりませんか?」

 「!!!むかつく。どういう誘拐犯なの? そういうのただのいやがらせっていうのよ」

 「うーーーん、そうですか?」

 歩美に無駄口を叩きながらも、きちんと仕事を真田は続けていた。
 さきほど、誘拐するっと脅かされたのに、完全にさっきから肩透かしを食らっている。
 まさか行方不明になっているとは知らなかったが、美代が区役所から逃げたことは状況から察知した。
 真田が仕事をしている間に美代に電話したが、電源が切れているような感じだ。仕方がないのでテキストだけ送る。あとで美代が気づいてくれることだけを願った。

 『みんな心配してる。連絡して!』

 美代がまさか劇場で演劇を鑑賞中のため、電源を切っていることなど、誰も知らないことなのだ。

 歩美はいま心配しているのは美代の事だけの問題ではない。我が身も大事だと感じる。
 まったくこの真田という男が掴めない。

 しかも誘拐するといった誘拐犯が、
 「この後、予定は大丈夫ですか?」とか、
 「寮のほうへは別に連絡をしなくても大丈夫ですか?」とか、
 「館で必要なものは準備させますので、どうぞご自由にいってください」とか、訳がわからないことを言われる。

 「ふ、ふざけないで! 美代は心配だけど、帰る!」
というと、なぜか真田はガタッと席をたち、
 「歩美さん、わたくしに卑怯な男の手を使わせないで欲しい……」
と信じられないほどの男の熱い視線を送ってくるのだ。
 見られているだけで、クラクラする。
 信じられない!

 「ふん! バカにしないで!」
 「ではなにか、交換条件を出しましょう。誘拐されてくれるなら、何をお望みですか?」
 ちょっと諦めたような顔で真田が答えた。

 「え?」と歩美が驚いた顔をする。
 「私ができる範囲ならなんでもしましょう。一応、私は蓮司様の補佐ですが、あなたが考えている以上に出来るんですよ」
 「……本当ね。何でもしてくれるの?」
 「はい、美代様が帰られて落ち着き次第、歩美さんの望みを叶えましょう」
 ちょっと歩美は思考する。
 「ほ、本当ね? するのね」
 「まあ蓮司会長や美代に迷惑にならない範囲でお願いしたいですが……。あと、いきなりエッフェル塔買え、とかは無理ですよ」
 「ふ、そんなこと言うわけないでしょ……わかったわ」
 「本当ですか?」
 「ええ、されても、よろしくってよ」
 「ありがとうございます。歩美さん」

 ここで世にも不思議な取り決めがなされた。
 誘拐する方とされる方。
 双方がなぜかにっこりと本心が見えない笑顔で見つめ合い、お互いの約束の確認をした。

 そして、ようやく矢崎の入室も許され、中に入ってきた。

 「ああ、矢崎秘書。すいませんでした。大丈夫です。蓮司会長と連絡がつきました。切り札もこちらにありますし」
 「え、切り札ですか?」
 「はい、こちらの歩美さんです」
 「切り札って呼ばれるのは微妙だわ。美代の安否が確認するまで一緒にいるわよ。でもね、じーーとしてんの性に合わないの! なんか仕事させて! あとお腹すいた。おい、真田! なんか食べさせろ!」


 矢崎が呆れている。
 び、美少女なのに、なんてもったいない言葉遣い! しかも天下の大原蓮司の右腕の真田代行を呼び捨て。
 呆れるというか、驚きというか、開いた口が塞がらない。

 「はいはい、お嬢様。これは大変だ。矢崎、悪いがなにか軽い軽食でも持ってきてくれるように頼めますか? 歩美さん、サンドイッチのようなものでいいですか? それとももっとボリュームがあるものがいいですか?」

 急にお嬢さまと呼ばれて、恥ずかしくなった歩美が吃りながら、答える。

 「さ、サンドイッチっで結構よ。あ、あなたはどうなの? お腹空いてないの?」

 よく考えたら、お昼すぎに急いでここにきたので真田は昼食は抜いていた。

 「あ、そうですね。私もいただきます。お気遣いありがとうございます。仕事しながらで行儀が悪いですが……では、矢崎さん、二人分頼めますか?」
 「ふん! 気遣ってなんていないわよ。年寄りが腹を空かせると、体に悪いと思って!」
 「ああ、やっぱり歩美さんはやさしいんですね」
 「ば、ばかぁ!! や、やめてよ!!」

 矢崎はまったく不可解な状況に困惑していた。
 な、仲がいいではないか? この二人。
 いつの間に? という感じだ。

 今度は、矢崎がサンドイッチを運んできたら、会長室にまるで何事もなかったように二人は別々に座り、真田はデスクで書類を、歩美はソファでくつろぎながら、まったくの部外者なのに、大原の書類を見ては何かをチェックしているみたいだった。

 あれ、歩美さん、もうここで働いている人みたいだっと矢崎は思う。

 <おまけ>

 働く可笑しな関係の二人。

 「歩美さん、悪いですね。お手伝いさせて……」

 手の作業を止めないで、真田が謝った。

 「そうよ。あんたぐらいよ。こんな世界一の美少女を捕まえて、しかも労働させて誘拐だなんて!」
 「せ、世界一なんですね。それは知りませんでした。お見それいたしました。手伝っていただいて申し訳ございません」

 真田がちょっと苦笑しながら答える。しかし、そんな事にはお構いなしに歩美は話し出す。

 「あ、これまた間違えている。脱字が多すぎるわよ。この部署。さっきもあったわ。書いた人は、確かこの鈴木って人よ。報告書、きちんと上の人見ているんでしょ」
 「付箋しておいてもらえますか? そのあたりは会長の仕事ではないので」
 「そうよね。どこの会長様が誤字脱字を指摘するのよね」

 サンドイッチをつまみながら、今度は手持ち無沙汰になった歩美がテーブルに置かれた何かの案件に目がいく。
 『(仮)新***モール提案書』と書いてあった。本来ならこのメディファクト社でする案件ではないのだが、忙しい会長のために、資料だけこちらに矢崎が持ってきていた。

 「あ、あんたたちまた懲りずにモール作るのね。どこなの?」

 矢崎が、『あ、それはまだ極秘の案なのでっ』と言おうとしたが、真田がなぜか矢崎に人差指で静かにしろと指示をだす。
 歩美はまったくその様子には気がついていなかった。

 「ああ、あそこ! **町ね。確かに何もないわね。でも、あそこには、素敵な人情味のある商店街があるのよ。むかし、祖母と行ったことがあるわ。とてもいい和菓子屋のお店があったの。あと手焼きせんべい屋さんもあったな。どうしてるかな。つぶれちゃったかしら。あ、まさか強制立ち退きとか、させてんじゃないでしょーね」
 「いえいえ、最近はあまりそういうのは企業のイメージの低下にもなりますし、なるべくそこにあった商店の人たちにも利点がでるように、店舗の優先的確約の保証などいろいろやっております」
 矢崎が説明を入れる。
 「そうよ。あんまりお金ばっかりに動かないでね。あんなすてきな和菓子屋さんなんて、この大原の大企業からみたらアリンコかもしれないけど、その歴史や技術、まして文化的面を考えると、大原なんて、下の下だから!! わかってる! つぶすなよ! 日本文化と味!!」

 矢崎と真田はなぜか微笑みながら、サンドイッチをほうばる歩美を見た。
 なぜか男はお互いに目線を合わせ、ぷっと笑い出した。

 「な、なによ。こどもっぽい意見だって言いたいの?」
 
 サンドイッチをもごもごさせならが、歩美が文句を言う。

 「ち、違いますよ。まさにこの前、蓮司会長がその点を注意しろって我々に言ったからですよ。あなたは意外と蓮司会長と似た感覚を持っているんですね」
 
 矢崎が説明をしたのだが、聞いている真田が口に手をあて、笑いを抑えた。

 「な!!!! ふ、ふざけないで、なんであんな変態男と一緒にされなくちゃならないの? 心外だわ! 心外!!」

 もういい!!手伝わないっと言った歩美は自分のバックから、『1冊で全てわかる 将棋上達の道』を読み始めた。

 そんなどう考えても規格外の美少女を男二人は面白いものを見つけた、というかのように、ちょっとまた口角をあげながら眺めた後、それぞれ自分たちの仕事の作業に戻り始めた。





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