私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

文字の大きさ
140 / 200

バカップルは朝食時にはいらないと気がついた件

しおりを挟む

 蓮司の髪の毛から水の雫が滴り落ちていた。

 「……ふう、ありがとうと言うべきかな、歩美さん?」
 
 蓮司が前髪を掻き分けながら、話をする。
 
 「そうよ、た、たとえ相思相愛でも、人前でやっていい事と悪い事があるわ!」
 「歩美ちゃん!」
 「……美代、まだ返事をもらってない」
 「え?」
 
 美代に返事を請う蓮司の瞳が、目の前にあった。
 なんだろう。彼に目線が合わせられない。

 「一緒にいてくれる? いつまでも」

 蓮司がほとんど歩美を無視しながら、美代に体をすり寄せて、懇願している。

 「ち、ちょっと、人の話をきいているの?」

 花瓶を持って立ち尽くした歩美は言葉が出ない。

 「……美代、俺を捨てないよな?」
 「「!!!!」」
 
 美代と歩美が驚愕する。
 蓮司はまさしく昔話で、姫を目の前に愛を説く王子のように、足をまだ跪きながら、美代の答えを待っているらしかった。

 「美代が俺を見捨てたら、俺、死んじゃうかも……」
 「し、死んじゃう? な、何、馬鹿なこと言ってんですか?」
 
 美代は口をアワアワさせながら、話している。
 さっきから、蓮司の変容に美代はついていけないのだ。
 しかも、今朝、蓮司を見ていたら、なにか自分の心臓がドキドキしてしまい、緊張していた。
 
 「じゃーいてくれる?」

 いつもの蓮司ではありえないくらいの甘えん坊的な蓮司が上目遣いで美代を覗く。
 む、無理!!
 会長の目が、凶器だ!
 その目を見ているだけで、自分が心臓の病気なんではないかと思うくらいに鼓動を早める。

 もう美代は降参するしかなかった。

 「もう、わかった! いるから!! そんな格好しないでください!」

 よしっといって蓮司は立ち上がる。
 すると、主人の行動を全てわかっていたかのように、大きなタオルを真田が蓮司に持ってくる。

 受け取った蓮司は、真田に軽く礼を言うと、自分が濡れているはずなのに、なぜか美代の体にタオルを巻きつけた。

 「風邪、引いたら困るしな……」

 おでこにちゅっとキスをされる。
 そして、そのまま美代を抱き上げて、ダイニングの席についた。
 どうやら先ほどのタオルは、濡れた自分の身体から美代が濡れるのを避ける為であったことがわかった。
 美代の顔は真っ赤を通り越し、声さえもだせない。
 
 「じゃー、一緒に食べよう! 昨日はちょっと俺を心配させすぎだ、お前は!」

 なぜか蓮司の膝に横抱きにされる。

 「え? 蓮司さん、ちょっとなんで私、ここなの?」と言おうとした瞬間、
 「はい、美代。あーーん! 口を開けて」と蓮司に言われる。

 スプーンにオムレツがすくってのってある。

 「なっ、無理!!」
 「え、無理? ああそうか、美代はケチャップ派? いまつけてあげるよ」
 「ち、ちがうんです!!」
 
 いそいそとケチャップを出している蓮司を見つめる美代が、もう完全に茹でタコ状態で、蓮司の膝上で震えている。

 またスプーンを口元に出され、にっこりと蓮司が微笑んでいる。
 爽やかな微笑であるのに、なぜかそれに寒気を美代は感じた。
 フルフルと首をふって拒否している美代に、蓮司が話す。

 「恥ずかしいのか? 美代。一応、歩美さんに見せようよ。俺たちは仲のいいカップルなんだって」
 「っ、いやーーー!! むりむりむり!」

 そうすると、美代の耳元で超低音のあの色気を含んだ声色で、いきなり囁かれる。

 「美代。今、約束しただろ? 一緒にいるって。それとも、ここで、また俺のものって証拠、躰に付け直す?」

 身体中に電流に似たゾクゾクとした感覚が走る。
 ああ、この声でさえも奴には武器なんだと思えてくる。

 「え!いや、それだけは!」

 恥じらいながら、蓮司がスプーンで作ったオムレツを口に含む。
 
 先ほどの花瓶をテーブルに置き、真田に急かされて、彼らの斜め横に座った歩美は唖然として口が閉まらない。
 歩美も、あの大原財閥の総裁の鬼とまで呼ばれている男が、ここまで、親友美代のために、訳のわからないものに成り下がり、目を見張りながら様子を見守っていた。

 「ああ、ちょっと歩美様には目の毒かもしれませんね。私が目隠しをして差し上げましょうか?」

 こんな状況でも冷静な真田は、申し訳なさそうに言葉をかける。

 「ば、バカじゃない。目隠してどうやって食べるのよ。早くしないと遅刻になっちゃうんだから! ああ、でも元サヤに収まって、よかったんじゃない!」

と言って、朝からのバカカップルを無視して朝食を食べ始めた。

 すると、いきなり、歩美の目が、立ち上がって後ろに回った真田の手によって隠された。
 
 「な、何よ。見えなかったら何も食べれないでしょ?」
 
 その返事をなぜか耳元で真田に囁かれた。

 「私も、上手ですので……」

 真田がそういった瞬間、立ち上がった歩美は、真田に平手打ちを食らわした。

 「ふ、ふざけないで!! もう、学校に行く! 美代、あんた!もう置いていくからね!」
 「あ、歩美ちゃん!! 私もいくから!!!」

 そう言いながら、女性陣はダイニングリームから退出した。
 蓮司はなぜか美代にウィンクしながら、『またあとで!』と口パクをした。

 そして、歩美は部屋の出口で、ばっと振り返り、思いっきり、あっかんべーっと、まだ打たれた頬を抑えている真田にむかってした。

***

 二人の嵐のような女性が立ち去った後、蓮司がちろっと真田を見た。
 その表情は、何かとても珍しいものを見たという感じだった。

 「……慎一郎しんいちろう、なにか面白いことになっているじゃないか?」

 もう忘れかけていた自分の名前を言われて、真田はどきっとする。

 「……蓮司様、今日はどうなされますか?」

 その言葉を聞いて、まだ真田は自分に心の内を話さないのだと理解した。

 『そうか、わかった』っと蓮司はただつぶやいて、真田と今後の仕事についての調整を始めた。







しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...