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星に願いを
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「な、何をしたの? 真田さん! あ、アベルが、いや、祖母や叔母、みんな、こ、降参ってどういうこと?」
電話を切った直後に、動揺のあまり、舌が上手く回らない歩美が、頑張って喋り出した。
寝転んでいた真田がゆっくりを起き出した。
打ち寄せるゆっくりとした波の音がやけに大きく歩美の耳に響いた。
「……おめでとう。歩美さん、君は自由ですよ……」
真田がシャンパンが入ったグラスを歩美に手渡した。
自分も言われるがままに、片手にそのもう一個のグラスを持ち上げていた。
また耳鳴りのように波音が、響いてくる。
ざばぁーんと大きな波音が自分の胸に響いた。
カチンっと二人のグラスが重なり合う。
「ふふ、まだ実感が湧かないですか? 自由ですよ。借金の契約もないです……」
「え……自由?」
今まで自分が、欲していたものがこんなあっさりと手に入っていいのだろうかと疑わしくなる。
真田が持っていた別の端末で、アベルが転送してきた祖母との契約の破棄、また歩美の生活に今後、関わらないことを記入してある誓約書が歩美の目の前で開示された。しかも、当面困らなくて良いだけの資金が歩美宛に振り込まれることが記入してある。そのあと、何か色々書いてあったが、専門用語過ぎてわからなかった。ただ、負債はないし、あちらからも訴えられたり、妨害されることがないようなことだけはわかった。
「こ、これは……」
「もう、誰の言うことも貴方は聞かなくていい。アベルに対抗するような策士を見つける必要はないし、星空だって自由な思いで鑑賞できる……」
「……な、なんで、し、知っているの?」
ただ真田はにっこりと笑みを浮かべた。
言葉がうまく出ない。
全ての鎖が身体から外されて、囚人がいきなり外の世界に投げ出されたような感覚だった。
まだ正直、信じられないのだ。
目の前の信じられないような星の輝きのようだった。
「さ、真田さん、いつから、知ってたの?」
シャンパンを飲みだした真田が横でくつろぎながら、話し出す。
「え、貴方が将棋と天体観測が好きなことですか? 」
「……も、もう、ど、どうして貴方はいつもそうはぐらすのが、上手なの……」
真田が一口、その冷たく冷やされたシャンパンをまた口にした。
「……さあ、いつからでしょうか? そんなに大事ですか?」
「……いえ、きっと貴方のことだから、美代から聞いたのね………」
「ああ、そうですね……。そういうことにしておきましょうか……」
「……え? なにその口調……もしかして、その前から……」
「歩美さん、私にはヨーロッパで情報収集をしている弟がいます。色々と面白い話は入ってくるのですよ……。でも、貴方が美代様のお友達になられて本当に……運命のようですね……」
歩美はなにか降参というか諦めた表情で、前方の暗闇を見つめた。
「……いつも、星に憧れたわ。宇宙人とか時空の旅を想像したりして……」
なににも囚われないという空想の宇宙旅行は、小さな歩美の心に自由を与えていた。
そんな幼い日のことを思い出す。
その様子を真田じっと見つめていた。
「ほら、こんな満点の星空なんですよ。私は、星空は全くの素人。なにか教えてくれませんか? ここは意外に星空鑑賞のスポットですよっと不動産に言われて購入したんですから……」
「え、それだけで購入したの? ちょっと騙されたんじゃない……でも、まあ、本当にすごい。南半球の星がいっぱい観れるわ……」
その答えに苦笑しながら、真田が答える。
「歩美さん、レクチャーしてくれますか? 私は貴方の解放のためにちょっと頑張ったのですから、ご褒美で教えてくれると嬉しいです」
「ほ、褒美? え? 天体の話し? と、止まらないわよ……。私が話し出すと……」
正直、褒美とは程遠いのではないかと思った。
だいたい歩美がウンチクを述べだすとほとんどの周りが引いていくのだ。
歩美に好意を持っている男性達を引かせるのには効果的だが、ここで真田にせがまれるとは思いもしなかった。
良いのだろうか?
ウザいと思われないだろうか……。
一抹の不安が好きな人を前にした歩美の表情に現れていた。
「いいんです。お願いしたい……」
真田が真剣に頼んできた。
ああ、もう知らないからっと思う。
「わ、わかったわ。いくわよ……つまらなくても止まんないから!」
いきなり星空満天の中、歩美の星観察教室が始まった。
横を見ると、自分の視線に真田が気がついて、その優しげな笑みを浮かべる。
どきっとして、自分の視線を星に巡らす。
もう、星空鑑賞モードに入るしかなかった。
あんな蕩けそうな目線を見続けていたら、自分が崩壊しそうだった。
「……だから、今のよく知られている星座はギリシャ神話からの命名が多かったり、月を決めた古代エジプトの星空観察に使われた星達からでも分かるように、北半球での天体観測から命名されたものが多いの。だから、ほとんどが北半球の夜空にあるものなのよ……」
「なるほど、考えてみるとそうですね……」
「そう、だから、結構最近になって、南半球の星座は名前をつけられているのよ……」
「変わった星座名ってあるんですか?」
「あるわよ……。18世紀に発見された“ぼうえんきょう座”よ。名前の通り、望遠鏡で発見させてそう命名されたのよ……」
「あ、もしかして観られるかしら……」
歩美が空に目を凝らしていると、「わ!」と驚きの声をあげた。
「す、すごい! アレが観られるなんて!」
「何が観えるのですか? そのぼうえんきょう座ですか?」
「ううん、違うの」
「な、何ですか? それは……」
「あそこの水平線を見て……。一時の方角……」
「よく靄みたいなのが、かかって見えませんが……」
「そう、その靄みたいのが、大マゼラン雲よ。日本では大マゼラン銀河ともいうわね。小マゼラン雲と、いつもの伴っているから伴銀河とも呼ばれているわ。天の川銀河の周りを回っているって言われているの。でも、最近の研究ではただ通り過ぎるだけとも言われているの……。南半球でしか見られないものよ。私も初めてみた……」
「大マゼラン雲ですか……。聞いたことはありますが、私も初めてですね。こうやって改まって星空など見ないですから……」
「1520年に、世界を周遊したマゼランが記録に残したことから、命名されたのよ」
「すごいですね。そんな年号まで覚えているだなんて……」
「好きなことだと、結構覚えるのが苦じゃないの。私……」
少し風が吹いた。
歩美がくしゃみをする。
真田が立ち上がり、歩美に自分の着ていたジャケットを被せた。
飛行機の中で着替えていたのか、真田はまたスーツを着ていた。
南国とスーツが全く合っていない。
「それとも、もうなかに入りますか?」
「え? そんな、勿体無い。もう少し観賞させて……」
「やっぱりそうですよね。そうだと思いました。どうせ今日は日本に帰れませんから、どうぞゆっくりとしてください……。どうぞ、鑑賞会を続けましょう……」
その後も、どんどんと星空を鑑賞しながら、歩美はウンチクを述べていた。
不思議だ。
今までの怒涛が嘘のようだった。
あの銀座の高級店での買い物から、自分がここにいる間の出来事を思い出していた。
美代はあの美代が誘うのが初めてのデート。
どうだったのだろうか。
電話するほど野暮ではないが、あの曲者御曹司がうまく美代を納得させてくれていたら、いいと思った。
わかっている。
蓮司は美代にベタ惚れだ。
疑いようもないくらいに……。
あの館で、嫌と思うぐらいに思い知らされた。
ただ、美代がもうちょっと自信をつけるのと、蓮司がもうちょっと寛容になることが、あのカップルには必要だなっと歩美は思う。
そう他人のカップルを思い、自分はどうなんだろうとおもった。
星を指差しながら、隣で静かに聞いていたと思っていた真田を見た。
寝息をたてて、寝ていたのだ。
腕を組み、そのよれた白いシャツが今までの旅の疲れを表しているようだった。
「やっぱり退屈だったかしら……」
歩美はちょっとガックリした。
でも、新たなる考えが自分を責めた。
そうだ。
今回の逃走劇で、この男が寝ているのを一回も見たことがなかった。
その完全にリラックスして寝息をたてている真田の顔をまじまじと覗き込んだ。
ちょっとやはり疲れている様子だった。
すごい、頑張ってくれたんだ。
本当に、感謝だ。
疲れているのだろうと思い、寝かせてあげることにした。
波の音がまた、胸に響いてくる。
またちらっと真田を見た。
眼鏡取ると、結構イケメンなのよね……。真田さんって……。
その黒い長い睫毛とその口元が歩美をドキドキさせた。
そう、私達、キスしたのよ!
きゃーーっと一人で、静かな砂浜で悶絶する。
だがふと我にかえり、事実を考えてみる。
あれから、軽いスキンシップはよくあるものの、真田は一回も歩美の唇には触れなかった。
なぜかそれが歩美を切なくさせた。
(ねえ、自由なの……。私……。どうしたら良いの? 真田さん)
風が頬にあたり、歩美は今度はさっき借りていたジャケットを真田に返そうとした。
立ち上がったその時、そのジャケットのポケットから小さな水色の四角い箱が落ちた。
それを砂の上から取り上げた。
手に入りきるくらいの宝石用の箱だった。
まさかと思い、震える手で、その中身を思わず開けて見た。
息が止まるくらいに驚いた。
そして、寝息をたてて寝ているこの箱の所有者をみつめた。
波がまた歩美の中で音を激しくたち始めた。
電話を切った直後に、動揺のあまり、舌が上手く回らない歩美が、頑張って喋り出した。
寝転んでいた真田がゆっくりを起き出した。
打ち寄せるゆっくりとした波の音がやけに大きく歩美の耳に響いた。
「……おめでとう。歩美さん、君は自由ですよ……」
真田がシャンパンが入ったグラスを歩美に手渡した。
自分も言われるがままに、片手にそのもう一個のグラスを持ち上げていた。
また耳鳴りのように波音が、響いてくる。
ざばぁーんと大きな波音が自分の胸に響いた。
カチンっと二人のグラスが重なり合う。
「ふふ、まだ実感が湧かないですか? 自由ですよ。借金の契約もないです……」
「え……自由?」
今まで自分が、欲していたものがこんなあっさりと手に入っていいのだろうかと疑わしくなる。
真田が持っていた別の端末で、アベルが転送してきた祖母との契約の破棄、また歩美の生活に今後、関わらないことを記入してある誓約書が歩美の目の前で開示された。しかも、当面困らなくて良いだけの資金が歩美宛に振り込まれることが記入してある。そのあと、何か色々書いてあったが、専門用語過ぎてわからなかった。ただ、負債はないし、あちらからも訴えられたり、妨害されることがないようなことだけはわかった。
「こ、これは……」
「もう、誰の言うことも貴方は聞かなくていい。アベルに対抗するような策士を見つける必要はないし、星空だって自由な思いで鑑賞できる……」
「……な、なんで、し、知っているの?」
ただ真田はにっこりと笑みを浮かべた。
言葉がうまく出ない。
全ての鎖が身体から外されて、囚人がいきなり外の世界に投げ出されたような感覚だった。
まだ正直、信じられないのだ。
目の前の信じられないような星の輝きのようだった。
「さ、真田さん、いつから、知ってたの?」
シャンパンを飲みだした真田が横でくつろぎながら、話し出す。
「え、貴方が将棋と天体観測が好きなことですか? 」
「……も、もう、ど、どうして貴方はいつもそうはぐらすのが、上手なの……」
真田が一口、その冷たく冷やされたシャンパンをまた口にした。
「……さあ、いつからでしょうか? そんなに大事ですか?」
「……いえ、きっと貴方のことだから、美代から聞いたのね………」
「ああ、そうですね……。そういうことにしておきましょうか……」
「……え? なにその口調……もしかして、その前から……」
「歩美さん、私にはヨーロッパで情報収集をしている弟がいます。色々と面白い話は入ってくるのですよ……。でも、貴方が美代様のお友達になられて本当に……運命のようですね……」
歩美はなにか降参というか諦めた表情で、前方の暗闇を見つめた。
「……いつも、星に憧れたわ。宇宙人とか時空の旅を想像したりして……」
なににも囚われないという空想の宇宙旅行は、小さな歩美の心に自由を与えていた。
そんな幼い日のことを思い出す。
その様子を真田じっと見つめていた。
「ほら、こんな満点の星空なんですよ。私は、星空は全くの素人。なにか教えてくれませんか? ここは意外に星空鑑賞のスポットですよっと不動産に言われて購入したんですから……」
「え、それだけで購入したの? ちょっと騙されたんじゃない……でも、まあ、本当にすごい。南半球の星がいっぱい観れるわ……」
その答えに苦笑しながら、真田が答える。
「歩美さん、レクチャーしてくれますか? 私は貴方の解放のためにちょっと頑張ったのですから、ご褒美で教えてくれると嬉しいです」
「ほ、褒美? え? 天体の話し? と、止まらないわよ……。私が話し出すと……」
正直、褒美とは程遠いのではないかと思った。
だいたい歩美がウンチクを述べだすとほとんどの周りが引いていくのだ。
歩美に好意を持っている男性達を引かせるのには効果的だが、ここで真田にせがまれるとは思いもしなかった。
良いのだろうか?
ウザいと思われないだろうか……。
一抹の不安が好きな人を前にした歩美の表情に現れていた。
「いいんです。お願いしたい……」
真田が真剣に頼んできた。
ああ、もう知らないからっと思う。
「わ、わかったわ。いくわよ……つまらなくても止まんないから!」
いきなり星空満天の中、歩美の星観察教室が始まった。
横を見ると、自分の視線に真田が気がついて、その優しげな笑みを浮かべる。
どきっとして、自分の視線を星に巡らす。
もう、星空鑑賞モードに入るしかなかった。
あんな蕩けそうな目線を見続けていたら、自分が崩壊しそうだった。
「……だから、今のよく知られている星座はギリシャ神話からの命名が多かったり、月を決めた古代エジプトの星空観察に使われた星達からでも分かるように、北半球での天体観測から命名されたものが多いの。だから、ほとんどが北半球の夜空にあるものなのよ……」
「なるほど、考えてみるとそうですね……」
「そう、だから、結構最近になって、南半球の星座は名前をつけられているのよ……」
「変わった星座名ってあるんですか?」
「あるわよ……。18世紀に発見された“ぼうえんきょう座”よ。名前の通り、望遠鏡で発見させてそう命名されたのよ……」
「あ、もしかして観られるかしら……」
歩美が空に目を凝らしていると、「わ!」と驚きの声をあげた。
「す、すごい! アレが観られるなんて!」
「何が観えるのですか? そのぼうえんきょう座ですか?」
「ううん、違うの」
「な、何ですか? それは……」
「あそこの水平線を見て……。一時の方角……」
「よく靄みたいなのが、かかって見えませんが……」
「そう、その靄みたいのが、大マゼラン雲よ。日本では大マゼラン銀河ともいうわね。小マゼラン雲と、いつもの伴っているから伴銀河とも呼ばれているわ。天の川銀河の周りを回っているって言われているの。でも、最近の研究ではただ通り過ぎるだけとも言われているの……。南半球でしか見られないものよ。私も初めてみた……」
「大マゼラン雲ですか……。聞いたことはありますが、私も初めてですね。こうやって改まって星空など見ないですから……」
「1520年に、世界を周遊したマゼランが記録に残したことから、命名されたのよ」
「すごいですね。そんな年号まで覚えているだなんて……」
「好きなことだと、結構覚えるのが苦じゃないの。私……」
少し風が吹いた。
歩美がくしゃみをする。
真田が立ち上がり、歩美に自分の着ていたジャケットを被せた。
飛行機の中で着替えていたのか、真田はまたスーツを着ていた。
南国とスーツが全く合っていない。
「それとも、もうなかに入りますか?」
「え? そんな、勿体無い。もう少し観賞させて……」
「やっぱりそうですよね。そうだと思いました。どうせ今日は日本に帰れませんから、どうぞゆっくりとしてください……。どうぞ、鑑賞会を続けましょう……」
その後も、どんどんと星空を鑑賞しながら、歩美はウンチクを述べていた。
不思議だ。
今までの怒涛が嘘のようだった。
あの銀座の高級店での買い物から、自分がここにいる間の出来事を思い出していた。
美代はあの美代が誘うのが初めてのデート。
どうだったのだろうか。
電話するほど野暮ではないが、あの曲者御曹司がうまく美代を納得させてくれていたら、いいと思った。
わかっている。
蓮司は美代にベタ惚れだ。
疑いようもないくらいに……。
あの館で、嫌と思うぐらいに思い知らされた。
ただ、美代がもうちょっと自信をつけるのと、蓮司がもうちょっと寛容になることが、あのカップルには必要だなっと歩美は思う。
そう他人のカップルを思い、自分はどうなんだろうとおもった。
星を指差しながら、隣で静かに聞いていたと思っていた真田を見た。
寝息をたてて、寝ていたのだ。
腕を組み、そのよれた白いシャツが今までの旅の疲れを表しているようだった。
「やっぱり退屈だったかしら……」
歩美はちょっとガックリした。
でも、新たなる考えが自分を責めた。
そうだ。
今回の逃走劇で、この男が寝ているのを一回も見たことがなかった。
その完全にリラックスして寝息をたてている真田の顔をまじまじと覗き込んだ。
ちょっとやはり疲れている様子だった。
すごい、頑張ってくれたんだ。
本当に、感謝だ。
疲れているのだろうと思い、寝かせてあげることにした。
波の音がまた、胸に響いてくる。
またちらっと真田を見た。
眼鏡取ると、結構イケメンなのよね……。真田さんって……。
その黒い長い睫毛とその口元が歩美をドキドキさせた。
そう、私達、キスしたのよ!
きゃーーっと一人で、静かな砂浜で悶絶する。
だがふと我にかえり、事実を考えてみる。
あれから、軽いスキンシップはよくあるものの、真田は一回も歩美の唇には触れなかった。
なぜかそれが歩美を切なくさせた。
(ねえ、自由なの……。私……。どうしたら良いの? 真田さん)
風が頬にあたり、歩美は今度はさっき借りていたジャケットを真田に返そうとした。
立ち上がったその時、そのジャケットのポケットから小さな水色の四角い箱が落ちた。
それを砂の上から取り上げた。
手に入りきるくらいの宝石用の箱だった。
まさかと思い、震える手で、その中身を思わず開けて見た。
息が止まるくらいに驚いた。
そして、寝息をたてて寝ているこの箱の所有者をみつめた。
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