私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

文字の大きさ
177 / 200

歩美の告白

しおりを挟む
 え? 今なんて言っちゃった?
 驚いて固まっているのは、自分だけではなかった。

 バカ、バカ、バカっと心で叫び続けた。
 こんなデート? と呼べるかわからない一日のはじめに、大爆弾を投下してしまった。
 前のように二者選択の質問じゃなくて、自発的に言った自分に腹がたつ。

 目の前の真田も目を見開いて驚いている。
 恥ずかしさのあまり、ごまかしながら、崖の端に歩み寄って下を見る。

 「そうそう! こうやって高台から滝壺に落ちていく様子を見るのがいいのよね。とってもなのよ!」
と小学生並みの言い訳をしながら、下を見続ける。
 いや、それ以下かも、と思う。
 ああ、なんて語彙力がないんだろうと反省する。
 怖くて、真田さんの方なんて見れない自分がいた。

 でも、ほどけない手をぐいっと引っ張られた。
 振り向くと、そこには自分が大好きな漆黒の瞳が、じっと自分を見つめていた。
 いつも髪の毛をピシッと分けているけど、この高台に吹く風で、少し乱れている。
 彼の額にかかるたらりと垂れた前髪が心を揺さぶる。

 ああ、やっぱり好きっと思ってしまう。
 自分を見つめていた瞳の男が囁いた。
 その低音が響く。

 「……私も、たまらなく好きです……抑えきれないくらい……」

 一瞬の彼の言葉が、勢いよく自分の胸を突いた。
 立っている膝がガクガクとする。
 腰が抜け落ちそうだった。
 落ちていく自分の体を真田に支えられた。
 温かく強い腕の力を腰に感じた。

 状況は悪化するばかりだ。

 顔から火が出ていると人に言われれば、「はいそうです」と答えられるぐらいに、自分の身体が熱くなっていたと思う。

 「ど、どうして…」

 それしか言葉が出ない。
 なぜそんな困ることしか言わないの!
 滝を見るのがそんなに好きなら、そんな表情かおで、自分を見つめないでと思う。

 あたふたしていると、急に男性のコロンの香りが自分を包んだ。
 信じられないけれど、目の前のシャツから微かに匂う男性的な香りと肌の感じるその体温が、自分が真田に抱き締められていると教えてくれる。

 「!!!!」

 声が出ない。
 
 「歩美さん、そんな表情かおをしていたら、ここから出せません。虫が大勢、貴方に来てしまう……。早くいつもの歩美さんに戻ってください……」
 「な、何よ! そんな難しいこと言わないで! こ、こっちだって……」

 必死に頑張っているのよっという言葉は呑み込んだ。
 もがいても真田の男の腕の力は思ったよりも強靭で、ビクともしない。
 でも、彼の言う、ここって言うのが真田さんの胸だと思うと、それもいいかなと思ってしまう自分がいた。

 ああ、もう私って……。
 また熱が上がりそうだ。

 「ダメですよ。歩美さん。そんな表情は誰にも見せないで……私が離せなくなる…」
 「さ、真田さん……私……」

 本当は貴方のこと、大好きなの…っと言いそうになった。
 でもそれを遮ったのは、まさしくその他大勢の虫だった。

 「お、すげー、美男美女カップルがいちゃついているぞ」
 「あ、若いねー。ほっといてあげなさいよ」
 「いや、あの女の子、モデルじゃないの?」
 「いやー、あんなカップル非現実だな。なんかの撮影じゃない?」
 「いや、あれは芸能人だな。サインをもらうべきだ」

 どうやら、団体客に囲まれていた。
 その声を聞いて、歩美も真田も笑い声を漏らした。
 こんな時に、訳の分からないサイン会などたまらない。
 
 「歩美さん、駆け降りますけど、準備は出来てますか?」
 
 悪戯っ子の様に真田が歩美に微笑んだ。
 もちろん、歩美の返事は決まっていた。

 「ええ、もちろんよ」

 二人は上がって来た道のりを手を仲良く繋いで降りて行った。
 もちろん、その団体の前では走り去っていく。

 「あ、婆ちゃん、やっぱりあの人たち、ゲーノー人だよ。逃げているし! お忍びだ!」

 あはははっと歩美と真田が楽しげに笑う声が空に響いた。


 

 
 
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...