私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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慎一郎、問い詰められる!

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 「真田さん、お話があります……」

 そこには夜着ネグリジェ姿の歩美が立っていた。
 儚く繊細なデザインのレースで出来ているその夜着は、白い肌の歩美によく似合っていると同時に真田にとっては、目眩を感じさせるほど、いやらしく、そして美しくも見えた。

 「!!! 歩美さん、なんて格好で、男の部屋に来るんですか?」
 「え、だっ、これ、頂いた洋服の中に入っていましたよ……」
 真田は、「くそーー、アントニオめ、余計なこと」と呟いていた。
 「真田さんこそ、そんなバスローブ一枚みたいな格好、どうにかしてください……」

 歩美は視線を下に落として、抗議する。

 「あ、申しわけありません。今シャワーを浴びたばかりで……いま支度を整えますから……申し訳ありませんが、歩美さんも何か上に羽織ってください。お願いします」
と懇願された。

「わかりました」と言って、自分の部屋にもう一度戻ろうとする。
 真田も奥のバスルームに洋服を持ってまた消えた。

 部屋に戻ろうとした歩美の足が止まる。
 ベットサイドのあの小さな宝石箱が見えた。
 やっぱり、明日その地元の女に逢いに行くんだと確信した。
 だって、もう寝る時間の自分にはそんな愛の告白タイムなんて用意されていなかった。
 明日だって、真田さんは忙しいと、きっぱりさっき言われたではないか……。
 あの通常モードの真田に……!

 胸が痛かった。
 祖母や父親を無くした時のような痛みでもなかった。
 何か大切な心の中にあった温かいものが急に弾けて、泡のように無くなっていくような感じだった。
 胸が痛くてたまらない。
 あの口付けや、あの抱擁が全部、すべて嘘なの? と思うと、今まで感じた甘い気持ちが、すべて、ガラスが割れるかのように、ヒビが入ってくる。
 
 そう思うと瞬間に、瞳からボロボロと涙が溢れてきた。
 もう、溢れ出したら止まらない。
 ただ、真田の寝室でそのの入った箱を見ながら、ただ止まらない涙をそのままにしていた。

 声さえも出てこないのだ。

 ようやく真田がバスローブ姿から着替えて、簡易なシャツとカジュアルなパンツ姿になって出てきた。
 ただ、目の前の状況に唖然とする。
 あの上着を取りに行ったはずの歩美が、声も出さずに立ちながら大粒の涙を流しているのだ。

 「え、歩美さん! ど、どうしたんですか? 上着、いや、そうじゃない、どこか具合が悪いんですか?」
 「ゔっ………」

 大粒の涙が止まらない。

 「え、そんなに悪いんですか? ちょっと横になってください……。いま医者の準備を……」

 真田は焦って、歩美をベットの端にすわらせた。
 電話を出して、どこの医者にしようか考えているようだった。

 涙がまるで滝のように流れていた。
 震えている歩美の唇が開いた。

 「馬鹿ぁ! 真田!」
 「え?」

 電話を落としそうな真田が歩美を見つめた。
 歩美が顔を真っ赤にして、怒っていた。

 「わ、私、はっきりと知りたいの……」
 「え、どういう意味でしょうか?」

 歩美が、がばっと立ち上がり、まだ湯上りで髪の毛が乱れている真田に歩み寄った。
 真田はぐいぐいせまる歩美にたじろぎ、壁に押しやられた。
 いつもなら歩美の弧を描いたような眉が歪み、人形のような透き通る大きな瞳が涙を溜めながら、真田に迫った。
 真田が息をのむ音がした。
 
 「真田さん、貴方の好きな人って誰? 蓮司会長とか言ったら、ぶっ殺すわよ!」
 「あ、歩美さん、どうされたんですか? まさか、お酒飲まれました?」

 微かに真田の声は震えていた。
 しかし、それは歩美には分からなかった。
 「何ですって! どうして男ってなんでも酒とか仕事とか訳わからないせいにするの! もう、耐えられない!」

 涙目の歩美が興奮して、手を握りしめていた。

 「歩美さん、どうか落ち着いてください! 」
 「落ち着いているわよ。十分に! 考えて、考えて、ずーっと考えて、今ここにいるの! わかる?」

 歩美の圧倒的な迫力に真田がおされた。
 歩美が自分の人差し指を出して、わかっているの? とばかり、それを真田の顔の前に振り回している。
 歩美の涙は止まっていた。
 ただ目の周りは赤くなっている。

 「では、何がそんなにお気に召さないのですか?」

 困ったような笑みを浮かべている真田が歩美を覗く。
 もう圧倒されっぱなしのようだった。

 「貴方に決まっているでしょう? 真田さん! 貴方、明日、誰かにプロポーズするんでしょ? 一体どこの誰なの?」
 「え? あ、どうして??」

 歩美の視線がサイドテーブルの上の小箱にいく。
 その視線を真田も追った。
 しばしの沈黙が流れた。
 それを破ったのは、はぁっと深い溜息をついた真田だった。

 「……歩美さん、なぜそれを……いや、違います。プロポーズはしません」
 「え? しないの?」
 「はい、しません。諦めたんです……」
 真田は歩美の攻防から逃げ去るように、目の前の歩美をよけ、自分のベッドの端に座った。そして、そこで座ったまま、手を前に組んだ。
 何か考えているようだった。

 「なにそれ、ヘタレなの? 真田さんって……」
 「……はあ、そう見たいです」

 顔を上げたその顔には、切れ長の目尻に凛々しい眉、そして、優しい双眸そうぼうが自分の前にあった。
 そこには歩美を思いやるような表情があった。

 これだ。
 この微笑みが欲しかった。
 あの帰りにこんな表情かおが見たかったのだ。
 やっと見れた。
 また嬉しくて違う種類の涙が出てきそうだった。

 歩美が思い切って、その情けない顔をしている真田に近づいた。
 ボンって音がした。
 歩美が真田の隣に勢いよく座ったからだ。
 驚いた真田が少し横にずり下がった。
 歩美が真田の組まれている両手をぎゅっと掴むと同時に、自分の唇をその目の前の男のものに向けてチュッとキスをした。
 真田の身体がびくんっと動いた。

 えっと唖然としながら、歩美を凝視する真田がいた。
 歩美がじっと真田を見つめる。
 
 もうたじろぎはしないっと歩美は思う。
 自分はもう決めたんだ。
 このひとしかいないの。

 そのうちに、あの大の男の、鉄仮面で笑みも出来るはずの真田の顔がみるみるうちに赤くなってきた。
 首までも赤かった。
 その色の変わりように、歩美も嬉しさと驚きを隠せなかった。

 何かの反応が欲しかった。
 希望が持てる……。

 自分の作戦が成功して子供のように歩美が嬉しがる。
 歩美の気持ちも上がっていく。
 よかった。

 これで無反応だったら、本当に諦めようと思っていたのだ。
 これなら、私にだってがあると思う。

 「……あ、歩美さん……これってどういうつもりで……」

 ようやく赤面の顔を必死に片手で隠して、恥じらう真田が聞いてきた。
 何なの、この人、恥じらう姿が、かなり可愛すぎるっと歩美は思う。
 でも、今ここで絆されてはいけない!  
 攻めなのだ。

 「あのね、一言ひとこと言わせてもらうわ。その現地の女だか、なんだか知らないけれど、諦めなさい。どうせろくな女じゃないわ。きっとこんなステキな別荘を持っているから、ものスゴイ金持ちと勘違いしているただの金目的な女かもよ」
 「……」
 「まだ、納得しないの? そんなに結婚焦っているの? 真田さん、何才?」
 「え、あのもう三十路になりました」
 「ああ、そうね。おじさんね。もう諦めなさい!」
 「え? 何を諦めるんですか?」
 「だから、よくわからないけど、三十にもなって貴方のような仕事をしている人が伴侶を見つけられないなら、もうってことよ!」

 なぜかものスゴイしょげて青ざめている真田が横にいる。
 そうですよね、と言いながら、歩美の横のベットに座ったまま動かない。

 そのしょげ方にさすがの歩美も可愛そうにと思った。
 でも、このまま突き進むしかなかった。
 ダメ元だ。

 将棋の勘で、今しかないと自分になにかが伝えてくるのだ。

 「だから、そんなもうしょうがない貴方を私が救ってあげる……」
 「え?」

 真田が歩美を見返した。
 ニッコリと歩美が微笑んだ。

 「もう結婚したいお年頃なんでしょ? さっきの私のキスでも赤くなったんだから、大丈夫、きっと私達、うまくいくわ。真田さん、私と!」
 「ほへっ?」

 多分、真田は今までの人生の中で一番情けない声を出した自信があった。
 それくらいに、驚いて、放心して、心を奪われた。

 「すみません。歩美さん、今何と言われましたか?」
 「もう……。こんな大事な時に、難聴になんてならないで……いいわ。もう一回言うわよ! 覚悟しなさい! 慎一郎!」
 「……はい、お願いします」
 「私と結婚!」

 真田が今度は本当に固まった。
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