私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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放心した真田さん

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 彼女がそんな淫らな薄着で現れたことに動揺した。
 はやく自分の目の前から押し出さないと大変なことになると頭の中が警鐘を鳴らし続けていた。

「お願いですから、上衣をかけてください」と懇願する。

 自分が彼女を傷つける存在にはなりたくなかった。
 ああ、どうして……。
 バスルームに持ち込んだ洋服に着替えながら、細いか弱げな彼女の肩や白い透き通るようなうなじが浮かんでしまう。

 いけない。
 私は……見守ると決めたんだ……。

 だが、気分を入れ替えて、ドアを開けたらまた信じられない光景が目に入る。
 あの歩美さんが立ちながら、大粒の涙を流していた。
 その姿にまるでナイフで胸をえぐられるような痛みを覚えた。
 大粒の涙が、まるで人形のような大きな瞳から止めどなく流れ出ていた。
 しかし、歩美は声をまるで漏らさない。

 こんな声も出さずに泣いている歩美は、きっと昔からこのように、静かに泣いていただろうとも思わせた。

 一人であの大きな組織と闘ってきた少女なのだ。
 抱きしめたいと思って出てしまった手を引っ込めた。
 
 自分が今まで感じたことのないような痛みと焦りを感じた。

 な、何か具合が悪いのだろうか、やっぱり、この全てのプランが彼女にはかなりの負担だったかもしれないと思う。
 至急、医師を派遣してもらうか、搬送すべきか悩む。
 電話で大原お抱えの医師に連絡をしようとした瞬間、自分の名前を叫ばれた。

 しかも、呼び捨ての馬鹿よばわり。
 な、どうしてと思う。
 いつも高飛車な歩美の戯れ言ではないとわかる。

 え、プロポーズ?
 現地の女。

 何を歩美さんは言っているのだと思う。

 もう頭が混乱してきた。
 でも、一つだけは訂正しなくてはならない。
 私は、プロポーズしない。
 貴方の自由を守ることが、私の愛のあかしなのだから……。

 伝えられない想いをただ、一言に託した。
 「私は、プロポーズはしません……」

 歩美が固まっていた。
 ああ、そんなに見つめないでくださいと懇願したい。
 自分が壊れそうだった。

 しかも、よくわからないが、自分はもう年寄りで結婚を諦めろ的なことを言われる。
 そうかもしれない。
 歩美さんから見たら、十歳以上の年上のおじさんだ。
 現実が見えてきて、がっくりとする。

 ああ、本当に自分は浅はかだとしか言いようがない。
 呆然としてベットの横で肩を落とした。
 本人が諦めろと言っているんだ。
 そうするべきだ。
 いっそ清々しいじゃないかっと自分に言い聞かせる。

 歩美の訳のわからない話を聞いてきたら、瞬間、両手を掴まれた。
 歩美の花のような香りが鼻孔をくすぐる。

 あっと思う。
 唇に柔らかな甘い感触が、覆う。
 現実?

 まるで死んでいた魚が生き返るような電流が体を駆け抜ける。
 先程まで放出を諦めていた熱がまた身体を包み始めた。

 ああ、もうだめだ。
 可愛い貴方の唇は、私を狂わせる。

 何をしているんですか?

 ただ、この幼い少女は、自分が何をしているのか、わかっているのだろうか?
 こんな燃え滾るような想いと、とてもじゃないが貴方には永遠に言えそうもない邪な考えを持ち合わせている男に、こんな挑発するような行為の結果を知らないのだろうか?

 疑問と欲望が入り混じる。
 
 私を救う?
 どういう意味ですか?
 私が貴方を卑しい男から救おうとしているのに……。

 歩美さん、貴方は……悪魔だ。

 それも、今生の女神のような、気高くて、美しくて、私の心を根底から奪いさっていくような……。

 だが、その可愛らしい悪魔が、もっと、酷い誘惑を自分に囁いた。

 私と結婚しなさいと……。
 
 自分は何を基準に幸福を推し量ればいいのか、天に問いたい気持ちになった。


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