会長様ははらみたい

槇瀬陽翔

文字の大きさ
13 / 66

13話

しおりを挟む
「神尾ー!!」
またしてもこの人は扉を壊さん勢いで入ってきて俺に拳をふるう。
「ぐぇっ」
そして俺は毎度のことながら床に沈めた。


「ある意味学習しませんね先輩」
俺は先輩を離して溜め息をつく。
「おう、これは俺なりのお前への挨拶だからな」
着崩れた制服を直しながらあっさりと言う。その言葉にやっぱりかと思った。

「ここじゃあれなんで、隣の部屋に行きますか?」
他の委員たちがいる場所で話すのもなんだろうと思い隣の小部屋に行くかと聞けば
「あぁ」
やっぱりな返事が返ってきた。

「間宮、隣の部屋にいる、何かあれば呼んでくれ。会長が来たらここにいるといってくれればいい」
引き継ぎようの書類といまだに格闘してる間宮に声をかければ
「はい、わかりました」
勢い良く返事が返ってきた。その返事を聞き恭先輩と一緒に小部屋へと入った。


「で、何を聞きに来たんですか?」
部屋に入って何が聞きたいのかを確認すれば
「静から連絡がきた。妊娠のことと、接近禁止のこと」
この場所に、俺に会いに来た目的を口にする。

「そうですか。ちゃんと神谷は連絡したんですね」
俺は神谷には言わなかった。恭先輩への連絡のことは…。だけど、この兄弟は仲がいいのは知ってたので、神谷ならちゃんと連絡するんじゃないかって思ったんだ。

「静の、あいつへの、永尾への気持ちはちゃんと聞いた。本当はどうしたいのかも…」
静かに言葉を発する恭先輩はいつもの先輩ではなく弟を想う兄そのものだった。
「神谷が永尾と一緒にいたいのは俺もわかってます。だけど、今あの二人はお互いにちゃんと考える時間が必要だと思いました。二人は先輩たちみたいに計画的にできた子じゃない。だからこそ神谷は悩んで、苦しんで、先輩ではなく俺に相談してきた」
悩み、苦しみ、家族である恭先輩ではなく俺に相談してきたのは、俺が神谷のことも永尾のこともわかってるから…。だからこそ、俺は神谷から永尾を切り離した。二人が離れてお互いのことを考えられやすくするために…。


俺自身が悪者扱いされようがかまわなかった。二人がちゃんと己自身で最良の答えを出せるなら…。


「神尾には辛い役目を背負わせてすまないと思ってる。静の気持ちを優先するということは神尾自身を追い込むことになるってわかってるんだ」
苦笑を浮かべながら告げる言葉に溜め息が出る。
「辛いとかは思わないですけど…。あいつに悪いことしたなって思います」
俺が自分で選んだ決断だからそれは構わないんだ。ただ…あいつには…聖には申し訳ないと思う。

「そうだな…聖には申し訳ないな。あいつは巻き添えを食った形になるもんな」
ますます苦笑を浮かべる。
「まぁ、そのために強力な助っ人を聖の傍にいてもらってるんですけどね」
俺自身にも苦笑が浮かぶ。寂しがり屋の聖を一人にさせることになる。そうなれば聖の精神が不安定になる。それをわかってるから俺は拓輝と煌太さんに聖のことを頼んである。俺が…聖の傍にいられないから…俺自身が聖の傍にいれば永尾を刺激することになる。そうすればますます生徒会役員たちに被害がいく可能性が高くなるのだ。


だから…聖にはみんなを守るために必要以上の接触はしないと告げ、拓輝と煌太さんの所で過ごすように伝えた。だから、聖とは本当にちゃんとは接触してないのだ。会長と風紀委員長、そしてただのクラスメイトという接触以外には…。


「静が望んでるのは永尾と一緒にいることだって気付いてて、どうして神尾はそれを永尾に言わないんだ?」
そんなことを聞かれ
「いえると思いますか?あのバカに?」
呆れながら言えば

「あー、そうだった。あいつ変なところでバカになるんだった。空気読めなくなるし…。なんかますます面倒かける」
その理由がわかったのか盛大に溜め息をついた。


永尾健汰という男は冷静な時は非常に頭脳明晰な男だが、思考が暴走すればただのバカになる。勝手に暴走して意味わからない男になるのだ。神谷のことで愚痴を言いに来るときが大概そういうときだ。神谷に拒絶されてその理由がわからなくて勝手に変な暴走を始めてただの空気の読めないバカになる。それを呆れながらも俺が神谷からのメールを見せて追い返すのだ。元の永尾健汰に戻すために…。

そう、今回、接近禁止令を出した時点で永尾は変な暴走を始めた。その為、俺は聖との接触を避けて永尾を刺激しないようにしている。


あいつのことだから、俺が聖とイチャついてたらお前たちだけなに考えてんだよ!とか言い出しかねないし、他の役員にも八つ当たりしかねない。それだけある意味、永尾は危険な男なのだ。それだけ神谷静哉に惚れているともいうんだがな…。


恭先輩と話をしてる時にコンコンと躊躇いがちにノックされ
「どうぞ」
返事をすれば聖が顔を出す。

「どうした?何かあったのか?」
ここにいるとは伝えてあったが、何かあったのだろうか?
「話し中にすまない。どうしても委員長に確認してもらいたい書類があって持ってきたんだ」
持ってきた書類を俺に差し出しながら言ってくる。

「今すぐに必要か?」
それを受け取りながら確認すれば
「イヤ、後で持ってきてくれれば大丈夫だ」
すぐじゃなくてもいいと返事をする。

「わかった。後でそっちに持っていく」
俺が返事をすれば
「話の最中にすまなかった」
そう告げて戻っていった。俺は小さく溜め息をついた。

「神尾、顔が怖い顔になってるぞ」
聖とのやり取りを見ていた恭先輩が声をかけてくる。
「先輩、少し待っててくれますか?」
俺の問いに不思議に思いながらも頷いてくれるので、俺は部屋を出てもらった書類を確認して風紀委員長のサインを記入してカバンの中から小瓶を二つ取り出し

「三条、仕事を頼みたい」
自分の席で仕事をしてる三条に声をかければ
「珍しいな。何をだ?」
すぐに俺の傍に来て聞いてくるから

「聖唯斗の保護だ。この書類を生徒会に届けてほしい。その足でこの薬を聖に渡して、そのまま保護して神尾先生の所に運んでほしい」
聖の持ってきた書類と小瓶を差し出しながら告げれば
「その役目が俺でいいのか?」
反対に聞かれた。

「救護班の総統括はお前だからな。信用してる。悪いが、頼む」
その理由を口にすれば
「委員長直々の頼みだ。へまはしない。届けてくる」
そう笑って、すぐに行ってくれた。俺は溜め息をつきもう一度、部屋に戻った。

「もういいのか?」
恭先輩が聞いてくるので
「信頼できる人間に任せたので大丈夫です」
少し痛む左目を押さえながら答えれば

「発情の兆しか?」
そう聞かれて
「えぇ。下手したら30分以内には…。なので保護を頼みました」
あいつの発情の周期を考えながら答えれば

「あの一瞬でわかるなんて相変わらず神尾は聖に関することは化け物だな」
小さく笑われた。
「化け物にならないとあいつを守れないんで…」
溜め息交じりに答えればまた笑われた。


あいつを守るためなら化け物にでもなろう。


俺はあいつをやっと手に入れたんだ。


あいつを失わないために化け物にでもなろう。


この学園のすべてを敵に回そうともあいつを、聖唯斗を守るために…



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

処理中です...