会長様ははらみたい

槇瀬陽翔

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48話

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「んっ、んん?」
ふわふわと意識が戻って来て、クスリと笑う声で完全に目が覚めた。
「大我?」
目を開ければ、目の前には見慣れた傷痕があった。子供の頃に出来た傷だと教えてもらった傷だ。

「起きたか?」
ゆっくりと俺の頭を撫でていく手。
「ぅん、俺また寝ちゃったんだ」
撫でられる感触を楽しみながら答えれば

「そうなのか?さっきまで俺は寝てたからわかんないけど。シャワー浴びないか?あのまま寝たから、シャワー浴びたいんだけど?」
撫でたままで言われた。
「ん、俺もそう思った」
今はまだ、発情が治まってるみたいだから、その隙に入りたいなて…。

「なら先に入って来い。朝ごはんの準備もしたいしさ」
大我に促されて、俺は頷き、先にシャワーを浴びることにした。


って、シャワー浴びてから気が付いた。


「だからなんで大我がご飯作っちゃうんだよ!俺は大我に休んで欲しいんだって!!!」
濡れた頭のままで大我の前で叫べば
「頭はちゃんと拭こうな唯斗」
なんて言いながらタオルで俺の頭を拭き始める大我。

「だから、俺の話聞いてるのか大我って!」
それが不満でブスって脹れれば
「聞いてるって、休むって言ってもなぁ、回復したんだからしょうがないだろ?」
なんて言いながらチュッて膨れっ面の俺にキスをした。

「っ!!!」
俺はあまりにも突然のことでびっくりして飛びのいちゃった。
「あははは、さてと、俺もシャワー浴びてくる」
大我は俺の頭を撫でて本当にバスルームに消えていった。


「ホント…勘弁して…大我のやつカッコよすぎなんだよ…心臓いたぁ…」
ドキドキと高鳴る胸が痛すぎる。発情じゃないときの俺は自慢じゃないが二重人格並みだ。通常モードの俺には大我のちょっとした仕草とか、カッコよさとかが心臓に悪い。好きだと自覚してからこれは酷くなる一方で、よくなるどころか治らない。ホントにたちの悪い毒のようだ。


「こら、ちゃんと拭かないとダメだろ?」
ソファの前で蹲っていた俺に後ろから声をかけながら大我がさっきと同じように頭を拭き始めた。
「ふえぇ、ちょ、大我?」
ビックリして振り返ったら少しだけ目の色が変わってる大我がいた。そんな大我にドキリと心臓が跳ねた。
「どうした?」
動かなくなった俺に大我が不思議そうな顔をする。
「…っ…心臓いたぁ…」
自分の胸元の服を掴み呟けば
「じゃぁ、今だけ俯いて俺を見るな。そうすれば痛くないだろ」
小さく笑いながら優しい手つきでまだ少し濡れている髪を拭いてくれる。俺は大我に言われたとおり俯いて見ないようにした。本当、俺って二重人格だよ。でも、大我ってこんな俺でも平気な顔してるし…。なんとも思ってないのかな?
「よし、これで大丈夫だな。終わったぞ唯斗」
拭かれたせいでボサボサになってる髪を手櫛で整えてくれた。そろっと視線を上にあげて後悔した。
「…っ…いったぁ…」
クソッ、なんで今日に限ってこんなに大我のやつカッコいいんだよぉ…。
「あー、悪い。多分、俺が原因なんだろうな」
苦笑しながら大我はそっと俺を抱きしめてくる。
「どういうこと?」
意味が分からなくて、抱きしめられたまま大我の肩に頭を乗せた。
「唯斗にゆっくりと触れたから。唯斗が寂しかったように、俺も唯斗の傍にいられなくて寂しかったからな」
ポンポンとあやす様に背中を叩かれる。
「だからって…なんで…こんな…」
そうだからと言ってなんでこんなにも俺の心臓が痛くなるのかわからない。イヤ、今も抱きしめられててドキドキしてるんだけど…。
「そりゃぁ、久しぶりだからだろ。1ヶ月もまともに会ってなかったし、ちゃんと恋人として会ってなかったんだ。俺に対しての免疫低下してんだよ」
大我のその言葉にあぁって妙に納得した。そうだった、俺、大我と本気でちゃんと付き合い始めた頃もこんな状態になったんだって思い出した。発情が終わってない状態で、発情が落ち着てるときに今みたいな少しだけさかりが始まってる大我の瞳を見て俺はドキドキと胸が高鳴って痛くて半泣き状態になって、そのまままた発情が始まってって…。そう、あの頃は大我の瞳の色の変化には気づいていなかったけど、今ははっきりとわかる。大我にちゃんと教えてもらったから。大我の瞳が変化してる状態なままなのはまだ俺が発情中だという証拠。大我の変化を見るのは好きだ、だけど、そのカッコよさは俺には毒なんだ。
「…もぉ…やだぁ…痛いぃ…」
本当にもうヤダ。1ヶ月ちゃんと会わなかっただけで、こんな状態って俺これから先、大我と会わない時間が増えれば増えるほど、こんな状態になるってことじゃん。でも、それは間違いなく俺が神尾大我に惚れているから…。大我だからこんなにも胸が高鳴って痛いんだ。他の誰かじゃなくて、神尾大我だから…。
「唯斗のスイッチはホント何処にあるかわからないんだよなぁ。でも、今はこうやって抱きしめててやるから慣れろ」
小さく笑いながら大我の手がゆっくりと俺の背を撫でていく。それはまるで俺を落ち着かせるように…。俺はそっと大我の背に腕を回し、大我の温もりに身を委ねた。



俺はもっと、この温もりに包まれていたい…

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