狼姫と赤ずきんは誰も止められない

槇瀬陽翔

文字の大きさ
4 / 6
ごちゃ混ぜ作品集

月の影

しおりを挟む
「っ、ぁ、ん、ぁっ」

俺の上で腰を振るこいつの腰を掴み下から突き上げればカリカリと腹に爪を立てる。

恋人でもない、セフレでもない、それなのにこの男はふらっと来ては抱かれていく。

何のためにこんなことを繰り返してるのかさえもわからねぇ。

「んっ、ぁ、やぁ、ぁぁ、っ、ぁ」

時折見せる悲しげな瞳は何を意味するのか?


「んっ、ぁ、やぁ、もぉ、ぁぁ」
小さく首を振り訴えてくる。
「イケ、俺もイク」
こいつの腰を掴み、いかせるため、自分がいくために何度か下から突き上げれば

「ぁっ、ぁぁ、やぁ、ぁぁぁ」
何度も首を振り、腹に爪を立てていった。俺もこいつの中に吐き出した。

「…ごめん…」
そんな呟きと共に泡となって消えた。


「はっ?英田!」
あまりにも突然で意味が分からなかったが、英田翠姫の姿は泡となって消えて、どこにもなかった。

勿論、部屋中探したし、英田の部屋にも行ったが姿はなかった。


「なんだよこれ…」
ベッドの下にあるはずの英田の服もなく、本当にどこにもいなくなっていた。


結局その日、英田を見つけることはなかった。



翌朝、学校へ行けばそこに英田の姿があった。


あれは一体何だったのか?


あいつの様子を窺いながら授業を受けていたが、微かな違和感を感じる。何かが違う。


「碧紀、さっきからずっと翠姫を見てるけど何かあったのか?」
英田の幼馴染である駿平が声をかけてきた。
「ん?いや、なんかいつもの英田じゃねぇ気がしてよぉ」
英田を見たまま答えればゆらりと英田が揺らめいた気がした。

「碧紀の思い違いじゃないか?」
駿平は気のせいだと告げてくる。
「そうか?まぁ、いい」
俺は気にしつつも曖昧に答えて会話を終えた。


妙に何かが引っかかる。何と聞かれればそれはわからないが、何かが違う。俺は本能的にそう思っていた。



そんな不思議なというか奇妙な日常を疑問に思いながらも過ごしていた。


ただ、違ったことは英田が俺と接触を一度もしなかったということ。役職もち同士でなにかと顔を合わせる機会は多いはずだが、全然あいつに会うことはなかった。


ふと部屋の窓から外を見れば月が輝いていた。



紅い満月。


妙な胸騒ぎ。今行かなければいけない。そんな衝動にかられ俺は部屋を飛び出していた。


そんな衝動のまま俺が行きついたのは温室。英田がよく利用していた温室。役員じゃないとは入れない場所。

俺は躊躇うことなく鍵を開けて中に入った。


中に入れば花の香りが広がる。


奥へと進むにつれて花の香りが強くなる。


部屋の中央。月の光が照らし出すその場所にいたのは英田だった。ゆらりと揺らめく影。


消える!


咄嗟にそう思った。


俺は急いで英田の腕を掴み抱き締めた。


「消えるな!」
強い力で俺は英田の身体を抱きしめ消えるなと告げる。


「…ありがとう…」
そんな言葉と共に腕の中に抱きしめた存在は泡となって消えた。


「んでだ…なんで消える…」
自分の両手を見ながら呟けば静寂の中、何かに呼ばれた気がした。


呼ばれたその方向へとゆっくりと進んでいけばきらりと月が輝く。


紅い満月の光に照らされて横たわっているのは今、自分の腕の中から消えた英田翠姫だった。


俺は急いで駆け寄りその身体を抱き起せば眠っているだけだった。

「…っ…よかった…」
そんな言葉と共に俺はその身体を抱きしめた。
「…んっ…」
小さな声が聞こえ身体を離し顔を覗き込めば
「…っ…ここは?…」
自分がどこにいるのかわからないのか聞いてきた。

「お前さんがよく利用してる温室だ」
場所を教えれば
「温室…そっか…」
納得して呟く。俺はそんな英田を抱きしめ

「消えるな…俺の前から…いなくなるな」
まるで悲願のように呟いた。
「…ぅん…」
俺の呟きに英田が小さく頷く。


「立てるか?」
英田の身体を離し聞いてみるが
「あー、無理っぽい。足に力が入らねぇ」
苦笑を浮かべる。
「わかった、じゃぁ暴れるなよ」
俺は英田の身体を抱き上げた。そして自分の部屋に連れて帰った。


「理由は聞かねぇの?」
自分の部屋に連れ込んだ後で英田が聞いてくる。俺は少し考え
「聞かねぇ。こうやってお前が戻ってきたならそれでいい」
答えた。
「そっか…」
小さな呟き。
「あの月がお前をくれたからな」
窓の外に見える月を指させば、驚いた顔をしたが少しだけ泣き笑いの顔を見せた。


俺はそんな英田をそっと腕の中に抱きしめた。



ゆらりと月の影が揺れた。


月が見てる中、俺たちはそっとキスを交わした。



Fin

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...