狼姫と赤ずきんは誰も止められない

槇瀬陽翔

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ごちゃ混ぜ作品集

耳に光るピアス

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最近あの男に違和感を持つ。何かがいつもと違うと...。

何が?と聞かれればそれは明確には答えることは出来ないんだが、何かが確かに違う。


とは言え俺とあいつはそこまで親しい仲ではない。


クラスが同じなので、クラスメイトではあるし、同じ役職もちで委員会の会議などでは必然と同類に分類される。

が、決して個人的に親しいというわけではない。


他の奴らに比べたら話す機会も多いし、一緒にいる時間も長いんだが...。


お互いに一歩踏み入ってはならない領域があるみたいにそれ以上は親しくなろうとはしない。

俺自身、特にあいつを嫌ってるというわけでもないんだが、特に親しくなろうとは思ってもいない。

そんな俺だが、なんだかあいつの違和感が気になって仕方がない。


なんでだ?


なんて思うがその答えは見つからない。



「会長?何かあったんですか?」
不意に声をかけられ振り返れば阿久津が不思議そうな顔をしながら立っていた。
「イヤ、特に何かってわけじゃないんだ…なんか紀田に違和感を感じてて、その原因がわからないんだ」
隠すことでもないので、俺は考えていたことを話す。

「違和感ですか?」
その言葉に小さく頷けば
「特に変わったことは聞いてないですけどね。そこまで気にしなくてもいいんじゃないでしょうか」
阿久津は風紀からも何も報告はないと告げてくる。

「そうか、わかった。少し休憩してからそっちに戻るから急用が入ったら連絡してくれ」
「わかりました」
俺の言葉に阿久津が返事をしてくれるので、それを聞き俺は目的の場所へと向かうべく歩き出した。



目的の場所。生徒会と風紀委員しか入れぬ温室。鍵を開けて俺は中に入った。



この温室は理事長が丹精込めて作り上げ、管理されている。勿論、花などの世話をしているのは生徒だが、1ヶ月に2回ほど業者が来て整備いていく。


温室の奥へと足を進めていけば、温室の中央に位置する場所に設置されているソファに座る人影が見えた。


この場所に人がいるなんて珍しいなと思いながら近づけば思いもよらぬ人物だった。


「この場所に来るなんて珍しくないか?」
声をかけるのを躊躇いながらも声をかければ
「あぁ?」
なんて言いながら振り返った。その顔は少し険しいモノだが、疲労も見え隠れしていた。
「悪いな、邪魔したか?」
傍に行き紀田の前に立てば

「お前さんか、イヤ、邪魔じゃねぇし、邪魔だというなら俺の方だろよ。ここはお前さんの休憩場所だからな」
溜め息交じりに言われた言葉に驚く。この場所が自分の休憩場所だと知っていることにだ。
「イヤ、それはいいんだが…。疲れてるのか?お前にしては珍しく顔に出てるぞ?」
溜め息をついてるその顔はやっぱり疲れが出ていた。

「ん、少しな。ここなら静かだから気が休まるかと思ってよ」
案外すんなりと答えるこの男にまた驚いた。
「なら、俺がいない方がいんじゃないのか?」
人がいれば気が散るだろうし、話をしないとと思うかもしれない。

「イヤ、いるのは構わねぇよ。それより頼みがあんだけど?」
「なんだ?」
その言葉に返事をすれば
「少しの間、膝枕いてくれや」
そんなことを言われた。それにはさすがに驚く。
「俺でいいのか?」
なんてつい聞いてしまった。

「んー、俺が頼んでんだ、だからいいんだよ」
少し眠そうな声で言われ俺は慌ててソファに座った。俺が座るのを確認すると、本当に俺の膝に頭を乗せてきた。
「これでいいのか?」
確認の為に聞けば
「んー、寝ちまったら10分ぐらいで起こしてくれやぁ」
と言ってる間にも紀田は眠りの中に落ちていった。


「珍しいこともあるもんだ…」
俺は冗談抜きに驚いていた。普段はこんなことしないし、この男が疲れて仮眠をとるなんて初めてのことだ。
よっぽど疲れていたんだろう。俺の足に頭を乗せてすぐに寝てしまった。

男の俺の足なんて柔らかくもないから堅いだろうに。

なんて思いながら一応時計を見て何分に起こせばいいのかを確認する。


ゴソリと寝返りと打った瞬間に紀田の耳に見慣れないものを見つけた。


「ピアス?こいつ今までピアスなんてつけてなかったことないか?」
ここの所の違和感はこれか。と納得する。紀田の耳についてるピアスは少し長い髪で隠れてるから普段は見えないのに気が付いた。

二連のピアス。赤と青の小さな石が付いていた。

ピアスのことが気になってる自分に気が付き苦笑が浮かぶ。


そして違和感に気が気になって仕方がなかったのは自分がこの男のことを気にしてるからなんだと納得した。


「紀田、約束の時間だぞ」
時計を見てそろそろ時間だと起こせば
「んっ、時間か…わりぃな重かっただろ?助かった」
意外にすんなりと起きた。その顔は少しだけスッキリしたのかさっきよりは疲れが取れているようだった。

「イヤ、大丈夫だ。いつ、ピアスつけたんだ?」
ついそんなことを口にしてしまったと思った。お互い踏み込まない領域に踏み込んだ気がしたからだ。
「気になるか?」
なんて反対に聞かれて
「まぁ、少しは」
素直に答えた。答えたとしても教えてくれるとは限らないんだけどな。

「着けたのは2週間前だ。穴は元々開いてたからな」
答えてもらえぬと思ったことをすんなり言われて驚いた。
「誰かとお揃いなのか?」
こんなことを聞いてどうするんだと自分でも思うが口から出た言葉は撤回なんて出来やしない。

「今日は踏み込んでくるな」
なんて小さく笑いながら言われ
「悪い、自分でも驚いてる」
素直に答えた。本当に今日の俺はいつになくこの男に踏み込んでいる。お互い干渉しない存在だったはずなのにだ…。

「聞いたって面白くねぇと思うけどな。お揃いじゃねぇよ。ってか恋人なんかいねぇし、まぁ好きなやつはいるけどな」
案外すんなり教えてくれるこいつにも驚いた。
「えっ?お前のことだから誰かと付き合ってるのかと思った」
この男は結構モテるのだ。だからその付き合ってるやつがいると思っていた。


思ってはいたが、恋人がいないときいてホッとしてる自分と好きなヤツがいると聞いてガッカリしてる自分がいて驚いた。


「なに考えこんでんだよ。難しい顔になってんぞ。俺の色恋沙汰なんざ会長様には退屈な話だろうよ」
苦笑を浮かべいう紀田の瞳は少し悲しげだ。それにいつになく揺らいでいた。
「えっと、退屈だとかは思わねぇし、正直驚いてる。自分の感情もだし、すんなり答える紀田にも驚いてる」
本当に驚いてた。自分自身の感情の変化もだし、すんなり答える紀田にもだ。


「イヤ、普段は聞かれねぇから言わねぇだけだし、聞かれれば答えるぞ」
苦笑気味に言われた。確かに普段は聞かねぇなとか思う。
「なんていうか、正直言って自分がなんでこんな複雑な心境なのかが謎なんだが…」
だから自分の心境を口にしていた。相手に踏み込んでいったのなら自分もそれに応えるべきだと思ったからだ。

「複雑な心境になることなんざなかろうよ。俺の色恋沙汰を聞いて…ん?んん??」
自分の色恋沙汰んか面白くないだろと言いかけて何かを感じた紀田が首をかしげる。


あっ…なんかすっげぇ嫌な予感がする…


「なぁ…それってもしかして、俺のこのピアスの事と俺の思い人のこと聞いてか?」
なんて今度はこいつが踏み込んでくる。
「ずっとお前の違和感が気になってたんだよ。いつもと違うって…そしたらピアスついてるし…」
だから自分でも驚いてるんだ。

「なぁ、もし俺の思い人がお前だって言ったらどうする?」
なんていきなり言われて頭がフリーズした。


予想もしてなかった言葉だ。


「まぁ、そうだったとしてもお前には迷惑だろうけどな」
なんて勝手に自己完結させやがった。
「迷惑かどうかなんてお前が決めるな。俺は誰とも揃いじゃないって聞いて嬉しかったし、好きなヤツがいるって聞いてガッカリしたんだからな」
だから俺は複雑なんだよ。

「お前、それって…俺に脈ありじゃねぇか。なぁ、俺はお前が好きだ。可能性があるんだったら付き合ってくれねぇか?」
急に真面目な顔をして言われ返事に困った。
「俺はまだ自分の気持ちがわかんねぇんだぞ?それでもいいのか?」
紀田のことは嫌いじゃないんだ。好きか?と聞かれればわからない。

「かまわねぇよ。俺の惚れさせてやるよ」
なんて言われた。
「楽しみにしてる」
なら俺を惚れさせてみせろ。俺はそう挑発した。

「さてと、生徒会室まで送る。阿久津に言い訳しねぇとお前さんが怒られるからな」
急に立ち上がって言う言葉に苦笑が浮かぶ。
「確かに怒られそうだ」
少しどころじゃなくなってる気がするからな。


こうして俺は紀田に送られるという形で生徒会室に戻り、紀田の言い訳を聞き阿久津が苦笑をしていた。二人揃って怒られなかっただけましだ。


この一件から3ヶ月後に俺の耳のピアスが着いたのは内緒だ。


Fin


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