会長様は別れたい

槇瀬陽翔

文字の大きさ
34 / 42

34話

しおりを挟む
施設の入り口まで三枝さんが見送りに来てくれたから俺は
「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
三枝さんに声をかけて外へと出た。このまま車に乗って送ってもらえばいいんだよなって思って大我に声を掛けようとして口を開いたとき
「ゆい、唯斗くんでしょ?」
「唯斗だよな?」
そんな声が聞こえた。声がした方を見れば男女二人がこっちへ駆け寄ろうとしていた。その瞬間、イヤな記憶が蘇ってきた。


あの、雨の降る日の出来事。車で転寝をしてる間にこの施設の前に捨てられた時の記憶。あの雨の夜の記憶が…。


「っ、ぁ、」
俺が大我を呼ぼうとするよりも早く俺の身体は大我の腕の中へと抱きしめられていた。
「大丈夫だ、大丈夫だから深呼吸をするんだ」
耳元で囁かれる言葉。自分がまた呼吸の仕方を忘れてるんだってことに気が付き、言われたとおりに深呼吸を繰り返した。
「なんですかあなたたちは?」
俺の異変に気が付いてゆきママが2人に声をかけた。
「あんたたちこそなんだ?」
「その子は私たちの子よ!返して!」
2人はゆきママの言葉に怒鳴り返してきた。
「知ってる人か?」
2人に聞こえるようにわざと大我が俺に聞いてくる。大我がまだ怒ったままだからこそ、わざとやってるんだって俺にはわかった。
「ごめん、俺にはわかんない」
だから俺もそれに答えた。知らない人だと。
「嘘よ、そう言えって言われてるのよね?」
「俺たちの事がわからないわけないだろ?」
2人が俺の掴みかかろうとするが、それを遮るようになおパパとまさパパが前に立ち、大我が俺を自分の後ろに隠す。
「本人が知らないと言ってるんだ」
「本当にわからなんだろ?」
パパたちの言葉に
「うるさい!お前たちには関係ないことだ。なぁ唯斗」
「そんなところにいないで母さんの所へいらっしゃい。帰りましょう」
2人がそんなことを言ってくるけど、俺にはその言葉は届かない。心に響かない。
「誰が誰の母で誰が誰の父だって?」
自分でも驚くほど低い声が出た。
「誰って俺が唯斗の父親じゃないか忘れたのか?」
「そうよ、私があなたの母親じゃない」
俺の言葉に2人が言い返してくるけど、
「5歳にも満たない自分の子供を雨が降る夜に捨てるような人が俺の両親だって?」
俺はそんな2人にそれが親だと言えるのかと聞いてみた。
「あっ、あの時は仕方がなかったんだ」
「そうよ、すぐに迎えに来るつもりだったのよ」
なんて2人が弁解をするが、そんなのは真っ赤の嘘。本当にこの2人は俺の事が邪魔で捨てたんだってことを知っている。そして、今だからこそ俺を迎えに来たということを…。今回の内藤夫婦のことで連絡が来た時に、コウちゃんとヒロさんが俺に内緒で俺の本当の両親のことを興信所を使って調べてくれたんだ。なぜ今になって俺に接触を取ろうとしてるのかを…。
「12年もほったらかしで、高校卒業が間近になってから迎えに来たってバカじゃないのか?」
自分でも段々冷たくなってきてるのがわかる。この2人に何の感情がない。会いたいだとか、会って嬉しいとかそんな感情が湧かない。思い出したくない記憶だけが蘇ってくるイヤな存在。それだけだった。
「そんなことはない。俺たちだって必死だったんだ」
「そうよ、あなたを迎えに来るために頑張ってたのよ」
2人はあくまでも俺を迎えに来るためだという。
「阿保らしい。俺が邪魔でこの場所に捨てて、2人で色々と遊びまくって、ギャンブルにはまって借金こさえて、支払っていくのが大変になってきたから、今更この場所に迎えに来て俺が就職したら借金を支払わせるつもりなんだろ?冗談じゃない。俺はあんたたちの玩具じゃない」
コウちゃんとヒロさんが教えてくれた真実。借金で首が回らなくなったから俺を迎えに来て支払わせるつもりなんだと…。
「嘘だ!そんなことはない!」
「そうよ!そんなことはないわ!」
2人が嘘だと訴えてくるが
「大我、あれ持ってる?」
俺は大我に声をかけた。
「あぁ、ほら」
大我は俺に返事をして、書類を渡してくれた。俺はそれを受け取り元両親であった2人に投げつけた。
「それが証拠だよ。あんたたちが俺を今更この場所に迎えに来たな」
興信所の調査結果のコピー。ヒロさんがパパの会社の弁護士と話をして、コピーを預けてくれたんだ。証拠になるからこれを叩きつけて自分から縁を切れるようにって。
「うっ、嘘だ」
「こんなのでたらめよ」
書類を見た2人が騒ぐが俺は気にせずに
「それが真実だから。それに悪いけど、俺の両親はここにいる人たちだからあんたたちじゃない。12年前に捨てられて孤児になった俺に優しく手を差し伸べてくれたのはこの人たちだから。決してあんたたちじゃない!」
ハッキリと言い切った。
「そんな、嘘だろ」
「嘘よ唯斗くん」
2人がまだ騒ぐが
「俺はあんたたちなんて知らない。これ以上この場所で騒ぐなら今すぐに警察を呼ぶから」
俺は言いきって自分の携帯を取り出す。
「っ」
「唯斗くん…」
2人は顔を歪めその場を逃げるように去っていった。
「ゆい」
不意に大我に呼ばれて振り返れば両手を広げてた。俺は迷わずその腕に飛び込んだ。でも、まだこの場所で泣くわけにはいかない。この場所で大我に甘えるわけにはいかないんだ。
「寮に戻るまで大丈夫か?」
耳元で囁かれる言葉に俺は何度か頷いた。やっぱり大我は気付いてたんだ。
「このまま寮に送った方がいいのか?」
なおパパが大我に聞いてる。
「あぁ、悪いけどそうしてもらえると嬉しい。薬が寮だから」
大我だからわかる俺の変化。
「わかった。送る」
それだけの会話で何を意味するのか分かる当たりパパもすごいなって思った。
「もう少し落ち着いたら実家に来なさい。そこでまた話をしましょう」
ゆきママの言葉に
「わかった。来れるようにこっちも調整する。日程は兄貴から伝えてもらうから」
大我が答えながら落ち着かせるように俺の背を何度か撫でていく。
「今はゆっくりしないとな。予定外なことが多すぎた」
「そうね、でもゆいちゃんは私たちの子供だからね」
まさパパとみきママの言葉に
「うん、ありがとう」
俺は素直に返事をした。俺は今日から2人の事もだから…。


俺と大我はなおパパの運転で、寮まで送り届けてもらった。


大我は一度、自室へと戻るとヒロさんに電話をしてた。俺はそれをぼんやりと見てたんだ。


ただ、大我に甘えたい。


そう思いながら…。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしてもお金が必要で高額バイトに飛びついたらとんでもないことになった話

ぽいぽい
BL
配信者×お金のない大学生。授業料を支払うために飛びついた高額バイトは配信のアシスタント。なんでそんなに高いのか違和感を感じつつも、稼げる配信者なんだろうと足を運んだ先で待っていたのは。

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい

椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。 その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。 婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!! 婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。 攻めズ ノーマルなクール王子 ドMぶりっ子 ドS従者 × Sムーブに悩むツッコミぼっち受け 作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

幸せごはんの作り方

コッシー
BL
他界した姉の娘、雫ちゃんを引き取ることになった天野宗二朗。 しかし三十七年間独り身だった天野は、子供との接し方が分からず、料理も作れず、仕事ばかりの日々で、ずさんな育て方になっていた。 そんな天野を見かねた部下の水島彰がとった行動はーー。 仕事もプライベートも完璧優秀部下×仕事中心寡黙上司が、我が儘を知らない五歳の女の子と一緒に過ごすお話し。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

素直に同棲したいって言えよ、負けず嫌いめ!ー平凡で勉強が苦手な子が王子様みたいなイケメンと恋する話ー

美絢
BL
 勉強が苦手な桜水は、王子様系ハイスペックイケメン幼馴染である理人に振られてしまう。にも関わらず、ハワイ旅行に誘われて彼の家でハウスキーパーのアルバイトをすることになった。  そこで結婚情報雑誌を見つけてしまい、ライバルの姫野と結婚することを知る。しかし理人は性的な知識に疎く、初夜の方法が分からないと告白される。  ライフイベントやすれ違いが生じる中、二人は同棲する事ができるのだろうか。【番外はじめました→ https://www.alphapolis.co.jp/novel/622597198/277961906】

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

処理中です...