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プロローグ、ペンは剣よりも強し編
再試験。
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「オイィィッ!!美裸ァッ!!コレどう言う事よォォッ(笑)!!」
余りの威力に、それを放ったエリスは驚いて笑うしかなかった。足元ではコニーがケラケラ笑いながら転げ回っていた。
「…あひゃひゃっ、エリス、ぼかんしたっ!!」
「…いや~ゴメンゴメン。まさかこんなに威力が凄い武器だとは思ってなかったのよ~(笑)」
二人の後ろで、ランスが苦笑いしていた。まさか一撃で昇級試験が終わるとは思ってもいなかったからだ。
「この『弓』一体いくらしたのよッ!?この弓一つで、豪邸一軒買えるんじゃない!?」
エリスに問われた美裸を、ランスがチラッと見る。
「…コレね~、武器屋で格安で売ってたのよ。武器屋のおじさん曰く『この弓は余りにも威力が強過ぎる上に使用者との相性が良くないと全くその力を発揮しないんだよ。だから買い手が付かないんだ』って言ってたのよ。で、『いるなら格安で売ってやるよ?』って言うから30000ゴールドで買った(笑)」
「…30000ゴールド…充分、高いわよ…」
相変わらずコニーが笑い転げる中、ランスがエリスの持つ弓『キャノンエクスプロード』を見て説明する。
「…それは神器に近い武器ですね。この世の中に幾つもない逸品ですよ。その弓は使用者の属性を増幅させて攻撃出来る武器なんです…」
「ランスさん、やけに詳しいですね~」
エリスに聞かれて頷くランス。
「僕も一応、Aランクハンターですからね。今回、退治を失敗した場合、皆さんを救助出来るように一緒に来ているんですが…」
そう言いつつ、ランスが続けて話す。
「僕は以前、英雄カインさんのPTに参加させて貰った事があるんですよ。カインさんの持つ聖剣が正に、使い手の力を増幅させる特殊な武器なんです。それと同じ効果を持っていますね」
「エリス、良かったね~。あ、所で実はまだ話してない事があるんだけど…」
「…何?話してない事って…?」
「…その武器、相性悪いと爆発するんだって(笑)!!おじさんが言ってた(笑)!!」
その瞬間、鬼の形相で美裸の首元を掴み上げるエリス。
「ウオォォィッ!!美裸アァァッ!!今、それ言うなぁァァッ!!わたしが爆発したらどうするつもりだったのよォォォッ!!」
「まぁまぁ、そう興奮しなさんなって、エリスさんや(笑)。爆発してもわたしの能力でどうとでもでもなるし(笑)」
「そうかもだけどォォッ!!」
二人の遣り取りを見て、増々笑い転げるコニー。だいふくもなんだが楽しくなってきたのかぴょんぴょんと跳ねていた。
◇
ようやく笑いが落ち着いたコニーと、エリスの怒りを収めた美裸の前で、ランスも苦笑いを見せつつ話す。
「しかし今回、エリスさんの能力向上の可能性が見えたという点では、そう怒る事でもないですよ?」
「…ランスさん、それは他人事だからそんな事言えるんですよ!!」
喰って掛かるエリスを宥めつつ、ランスが説明をする。
「その弓は、そもそも使用者が属性を持っていなければ発動しない仕様になってるんです。あ、僕は『鑑定』持ってるんで解るんですけどね。という事はそれがどういう事なのか解りますよね?」
ランスの問い掛けにしばらく考えるエリス。
「…もしかしてわたし、炎の属性持ってるって事ですか?」
「その通りです!!エリスさん。3ヵ月間レベルが停滞し、スキルもなかったあなたがまさかの属性を持っている。それはつまり魔法を使える可能性がある、という事です!!」
ランスの言葉に、自分の両手を見つめるエリス。
(…まさか魔法を…何も出来なかったわたしが…?)
思いに耽るエリスに、試験の結果について話すランス。
「属性を持っているという事が解かった所で、魔法の修練はまた今度やって貰うとして…。今回の退治についてなんですが…」
ランスの次の言葉を待つエリス。
「…今回、退治は完了という事で良いんですが、その過程がですね…ちょっと問題がありまして…」
言葉を濁すランス。その意図を読んだエリスが自ら話す。
「今回はこの『弓』で一気にカタが付いたから、ランクアップの実力測定にはなっていない、という事ですよね?」
「正に!!その通りです。自分で把握していてくれたので助かります。Bランクに相応しい立ち回り、攻撃順、有効打、コボルト殲滅に掛る時間等が確認出来なかったという事なんです」
「…ではどうすれば良いですか?もう一度、退治を受け直した方が…」
エリスの言葉に、待ったを掛けるランス。
「…実はこういったケースはチョイチョイあるんですよ。武器との相性が良過ぎるが故にという事ですね。ですからこういう場合の規定として、別の場所での再試験も可能なんです」
説明を続けるランス。
「これから行く、ケルベロス出現の現場までに幾つか退治ポイントがありますのでそこで再試験を行いましょう」
「ありがとうございます!!助かります!!」
ランスに深く頭を下げるエリス。
続いて一行は、ケルベロスが出現したという山間の洞窟を目指して出発した。
◇
エリスの再試験は山間の洞窟の下に広がる森の手前の丘で行われる事になった。退治するのはその丘から周辺の村や町に出没する狼『ブラッドウルフ』である。
ブラッドウルフは大型犬サイズで、灰色に所々、赤が混ざった様な毛色でそれが返り血を浴びているような模様である事からブラッドウルフと名付けられた。
「再試験で退治して貰うブラッドウルフですが、森のフォレストウルフが変異した個体との報告があります。他の個体よりも狂暴である事も確認されていますので充分に気を付けて下さい…」
ランスの案内で歩いていく3人と1匹の前に、なだらかな丘があった。しかし退治の対象がいない。
「…ブラッドウルフ、見当たりませんねぇ…」
エリスは丘を登りつつ、周辺を見回すも狼らしき生物はいない。しばらく歩いていると先頭を歩いていたランスが掌見せて、全員止まるよう指示する。
「…来ました。森の奥からブラッドウルフが、数体のウルフを連れて群れを作っています…。ではここで準備を始めましょう」
そう言うとランスは、背負っていたバックパックから2本のタガーと弓を取り出した。
「先程の『キャノンエクスプロード』と『ベノムスティンガー』は使用しないで下さい。威力と効果で真の実力が読み取れませんのでこれをお使い下さい」
ランスが渡したのは一般的なAランクからBランクのハンターが使う武器だった。特に効果はないので個人が持つスキルや、動き、攻撃方法でどう退治していくかが問われる。
「ウルフは前方の個体が気を引いて、周り込んだ個体が隙を見て攻撃してきます。囲まれない様に気を付けて下さい。特にブラッドウルフは他の個体より大きいので注意して下さい…」
ランスの説明を聞いたエリスは、武器を受け取ると装備を入れ替える。さっきのコボルト大爆発で幾分か緊張は取れていたのでそれ程、気負いもなかった。
「…では行ってきます」
エリスは静かな声でそう言うと、慎重に風を読んで風下へと移動していく。身を屈めつつ、ウルフ達に気付かれない様に静かに弓の射程まで近づいた。
まだウルフ達は気付いていない。草陰に隠れたままエリスは弓を引き絞った。そして矢を放つ。
ヒュッっと放たれた矢は、ウルフの1頭の足に刺さった。すぐにエリスは他のウルフの足を狙って、間断なく矢を連射していく。
姿を隠したまま、ブラッドウルフ以外の取り巻きウルフをあっという間に行動不能にした。
異変に気が付いたブラッドウルフは、すぐに周囲を探るも風下にいたエリスを発見するのが遅れた。それがブラッドウルフの命取りとなった。
まず、両前脚を射られ藻掻いている所を3の矢がブラッドウルフの赤い眼を貫いた。続く4の矢がウルフの眉間を撃ち抜く。
既に接近していたエリスが、草陰から姿を現す。ようやく敵を見つけたウルフが、最後の抵抗を見せる。しかし、通り過ぎざまのエリスのタガーが、その首をスパッと斬った。
その瞬間、ブラッドウルフは血飛沫を上げて倒れた…。同時にエリスのレベルが35になった。
◇
「問題なく合格です!!最初に風下に入ったのは良かったです。ヤツらは鼻が利きますからね。敵の機動力である足から潰したのも効果的だったと思います」
試験後に、ランスから良い講評を貰って嬉しそうなエリス。初めての単独退治で冷静に動けたのは自分自身でも驚きだった。
コボルト大爆発によって、緊張が解れていたのが良かったのだろう。ランク昇格確定にエリスは感無量だった。その後、ランスからのサバイバル術としてウルフの解体講座を経て、一行は森の奥にある山間洞窟に向かう。
「森の中には様々なモンスターがいますが、特に注意が必要なのが『ワイルドモンキー』です。コイツらは攻撃こそしませんが、我々の荷物を狙って来ますので要注意です。武器を取られてしまったという報告もあるので気を付けて下さい…」
説明の後、ランスが森の中へ入ろうとすると、コニーがそのズボンの裾を引っ張って見上げる。
「…おなかすいた。おやつのじかん…」
その言葉にランス、美裸、エリスは顔を見合わせる。丘の上で陽当たりも良いのでそこで一旦、休憩する事にした。
「休憩ついでに、森の中のモンスターについてお話しておきます」
コニーがだいふくと一緒におやつを食べている間に、ランス、美裸、エリスもおやつを食べつつ、森のモンスターについて確認する。
「ワイルドモンキーの他に、レッドベア、マッシュアナコンダ、デンジャーボア、殺人蜂などがいます。特に小さい昆虫系は気が付かないうちにやられている事もありますので要注意です」
話を聞く美裸、エリスの二人の傍でレジャーシートの上、だいふくと一緒にゴロゴロしていたコニーはいつの間にかお昼寝をしていた。
「…あらら、コニーお昼寝しちゃったね~(笑)」
「お日様当たって気持ち良いからね。どうしようか(笑)?」
「しばらく寝かせて上げましょう。強いと言ってもまだまだ小さい子ですからね。この時間のお昼寝は必要ですよ」
ランスの言葉に、うんうんと頷く二人。しばらくおやつを食べながらコニーが起きるのを待つ事にした。
◇
コニーがお昼寝から目が覚めた後、一行は森の中を抜けて行く。あちこちからモンスターや昆虫が現れるものの、試験を終えて余裕のエリスが弓で撃ち落とし、タガーで斬っていく。エリスのレベルが36になった。
ワイルドモンキーは美裸の範囲に入った瞬間、その動きを止めてペンタブで斬り付けると驚いてすぐに逃げて行った。
その後もデンジャーボア、マッシュアナコンダ、レッドベアを退け、一行は森を抜けて山へ上がる道に出た。
「この上です。ここを少し上がった所に洞窟があり、そこに『ケルベロス』がいます。ここからはより気を引き締めて下さい」
ランスの言葉に、一同頷く。しばらく山道を登る事、数10分、ようやく洞窟が見えた。
人の気配を感じたのか、洞窟の中にいた『それ』は横たえていた大きな体をゆっくりと起こす。体高1.5メートル、体長2メートルはある赤黒い炎の様な毛並みを持った三つ頭の『ケルベロス』がいた。
「それではコニーちゃんの昇級試験を始めます。準備は良いですか?」
「こにー、すぐいける、ぼかんしてくる」
そう言って飛び出そうとするコニーを止める美裸。
「…コニー、ちょっと待って…」
美裸は、コニーにその耳元で、何やらごにょごにょと話し始めた。
「…わかった、おもしろい、やってくる」
そう言って駆け出すコニー。しかし、何かに気付いて駆けて戻ってきた。
「…これ、もってて…」
コニーは、両手からメリケンサックと雷轟を外すと、ランスに渡した。
「じゃ、ぺろぺろす、げんこつしてくる」
そう言うとコニーは、再びケルベロスに向かって走って行った。
「ぺろぺろすって何(笑)?」
エリスの疑問に、美裸が答える。
「『ケルベロス』→『ぺろぺろす』に聞こえてんじゃない(笑)?」
笑いながら二人がコニーを見ると既にケルベロスと交戦していた。真正面に来たコニーに、3頭が襲い掛かる。それを見切ったコニーが小さな拳を振り抜く。
「おにげんこつっ!!」
左拳で右の犬頭を吹っ飛ばし、続いて右拳で真ん中の犬頭を殴り付けた。
思わぬコニーの力の強さに、体勢を大きく崩したケルベロスだったが、左の犬頭が、拳を振り抜いたコニーの小さな右腕に歯を立てて咬み付いた。
「コニーッ!!」
慌ててコニーの助けに入ろうとしたエリスを、ランスと美裸が止めた。
余りの威力に、それを放ったエリスは驚いて笑うしかなかった。足元ではコニーがケラケラ笑いながら転げ回っていた。
「…あひゃひゃっ、エリス、ぼかんしたっ!!」
「…いや~ゴメンゴメン。まさかこんなに威力が凄い武器だとは思ってなかったのよ~(笑)」
二人の後ろで、ランスが苦笑いしていた。まさか一撃で昇級試験が終わるとは思ってもいなかったからだ。
「この『弓』一体いくらしたのよッ!?この弓一つで、豪邸一軒買えるんじゃない!?」
エリスに問われた美裸を、ランスがチラッと見る。
「…コレね~、武器屋で格安で売ってたのよ。武器屋のおじさん曰く『この弓は余りにも威力が強過ぎる上に使用者との相性が良くないと全くその力を発揮しないんだよ。だから買い手が付かないんだ』って言ってたのよ。で、『いるなら格安で売ってやるよ?』って言うから30000ゴールドで買った(笑)」
「…30000ゴールド…充分、高いわよ…」
相変わらずコニーが笑い転げる中、ランスがエリスの持つ弓『キャノンエクスプロード』を見て説明する。
「…それは神器に近い武器ですね。この世の中に幾つもない逸品ですよ。その弓は使用者の属性を増幅させて攻撃出来る武器なんです…」
「ランスさん、やけに詳しいですね~」
エリスに聞かれて頷くランス。
「僕も一応、Aランクハンターですからね。今回、退治を失敗した場合、皆さんを救助出来るように一緒に来ているんですが…」
そう言いつつ、ランスが続けて話す。
「僕は以前、英雄カインさんのPTに参加させて貰った事があるんですよ。カインさんの持つ聖剣が正に、使い手の力を増幅させる特殊な武器なんです。それと同じ効果を持っていますね」
「エリス、良かったね~。あ、所で実はまだ話してない事があるんだけど…」
「…何?話してない事って…?」
「…その武器、相性悪いと爆発するんだって(笑)!!おじさんが言ってた(笑)!!」
その瞬間、鬼の形相で美裸の首元を掴み上げるエリス。
「ウオォォィッ!!美裸アァァッ!!今、それ言うなぁァァッ!!わたしが爆発したらどうするつもりだったのよォォォッ!!」
「まぁまぁ、そう興奮しなさんなって、エリスさんや(笑)。爆発してもわたしの能力でどうとでもでもなるし(笑)」
「そうかもだけどォォッ!!」
二人の遣り取りを見て、増々笑い転げるコニー。だいふくもなんだが楽しくなってきたのかぴょんぴょんと跳ねていた。
◇
ようやく笑いが落ち着いたコニーと、エリスの怒りを収めた美裸の前で、ランスも苦笑いを見せつつ話す。
「しかし今回、エリスさんの能力向上の可能性が見えたという点では、そう怒る事でもないですよ?」
「…ランスさん、それは他人事だからそんな事言えるんですよ!!」
喰って掛かるエリスを宥めつつ、ランスが説明をする。
「その弓は、そもそも使用者が属性を持っていなければ発動しない仕様になってるんです。あ、僕は『鑑定』持ってるんで解るんですけどね。という事はそれがどういう事なのか解りますよね?」
ランスの問い掛けにしばらく考えるエリス。
「…もしかしてわたし、炎の属性持ってるって事ですか?」
「その通りです!!エリスさん。3ヵ月間レベルが停滞し、スキルもなかったあなたがまさかの属性を持っている。それはつまり魔法を使える可能性がある、という事です!!」
ランスの言葉に、自分の両手を見つめるエリス。
(…まさか魔法を…何も出来なかったわたしが…?)
思いに耽るエリスに、試験の結果について話すランス。
「属性を持っているという事が解かった所で、魔法の修練はまた今度やって貰うとして…。今回の退治についてなんですが…」
ランスの次の言葉を待つエリス。
「…今回、退治は完了という事で良いんですが、その過程がですね…ちょっと問題がありまして…」
言葉を濁すランス。その意図を読んだエリスが自ら話す。
「今回はこの『弓』で一気にカタが付いたから、ランクアップの実力測定にはなっていない、という事ですよね?」
「正に!!その通りです。自分で把握していてくれたので助かります。Bランクに相応しい立ち回り、攻撃順、有効打、コボルト殲滅に掛る時間等が確認出来なかったという事なんです」
「…ではどうすれば良いですか?もう一度、退治を受け直した方が…」
エリスの言葉に、待ったを掛けるランス。
「…実はこういったケースはチョイチョイあるんですよ。武器との相性が良過ぎるが故にという事ですね。ですからこういう場合の規定として、別の場所での再試験も可能なんです」
説明を続けるランス。
「これから行く、ケルベロス出現の現場までに幾つか退治ポイントがありますのでそこで再試験を行いましょう」
「ありがとうございます!!助かります!!」
ランスに深く頭を下げるエリス。
続いて一行は、ケルベロスが出現したという山間の洞窟を目指して出発した。
◇
エリスの再試験は山間の洞窟の下に広がる森の手前の丘で行われる事になった。退治するのはその丘から周辺の村や町に出没する狼『ブラッドウルフ』である。
ブラッドウルフは大型犬サイズで、灰色に所々、赤が混ざった様な毛色でそれが返り血を浴びているような模様である事からブラッドウルフと名付けられた。
「再試験で退治して貰うブラッドウルフですが、森のフォレストウルフが変異した個体との報告があります。他の個体よりも狂暴である事も確認されていますので充分に気を付けて下さい…」
ランスの案内で歩いていく3人と1匹の前に、なだらかな丘があった。しかし退治の対象がいない。
「…ブラッドウルフ、見当たりませんねぇ…」
エリスは丘を登りつつ、周辺を見回すも狼らしき生物はいない。しばらく歩いていると先頭を歩いていたランスが掌見せて、全員止まるよう指示する。
「…来ました。森の奥からブラッドウルフが、数体のウルフを連れて群れを作っています…。ではここで準備を始めましょう」
そう言うとランスは、背負っていたバックパックから2本のタガーと弓を取り出した。
「先程の『キャノンエクスプロード』と『ベノムスティンガー』は使用しないで下さい。威力と効果で真の実力が読み取れませんのでこれをお使い下さい」
ランスが渡したのは一般的なAランクからBランクのハンターが使う武器だった。特に効果はないので個人が持つスキルや、動き、攻撃方法でどう退治していくかが問われる。
「ウルフは前方の個体が気を引いて、周り込んだ個体が隙を見て攻撃してきます。囲まれない様に気を付けて下さい。特にブラッドウルフは他の個体より大きいので注意して下さい…」
ランスの説明を聞いたエリスは、武器を受け取ると装備を入れ替える。さっきのコボルト大爆発で幾分か緊張は取れていたのでそれ程、気負いもなかった。
「…では行ってきます」
エリスは静かな声でそう言うと、慎重に風を読んで風下へと移動していく。身を屈めつつ、ウルフ達に気付かれない様に静かに弓の射程まで近づいた。
まだウルフ達は気付いていない。草陰に隠れたままエリスは弓を引き絞った。そして矢を放つ。
ヒュッっと放たれた矢は、ウルフの1頭の足に刺さった。すぐにエリスは他のウルフの足を狙って、間断なく矢を連射していく。
姿を隠したまま、ブラッドウルフ以外の取り巻きウルフをあっという間に行動不能にした。
異変に気が付いたブラッドウルフは、すぐに周囲を探るも風下にいたエリスを発見するのが遅れた。それがブラッドウルフの命取りとなった。
まず、両前脚を射られ藻掻いている所を3の矢がブラッドウルフの赤い眼を貫いた。続く4の矢がウルフの眉間を撃ち抜く。
既に接近していたエリスが、草陰から姿を現す。ようやく敵を見つけたウルフが、最後の抵抗を見せる。しかし、通り過ぎざまのエリスのタガーが、その首をスパッと斬った。
その瞬間、ブラッドウルフは血飛沫を上げて倒れた…。同時にエリスのレベルが35になった。
◇
「問題なく合格です!!最初に風下に入ったのは良かったです。ヤツらは鼻が利きますからね。敵の機動力である足から潰したのも効果的だったと思います」
試験後に、ランスから良い講評を貰って嬉しそうなエリス。初めての単独退治で冷静に動けたのは自分自身でも驚きだった。
コボルト大爆発によって、緊張が解れていたのが良かったのだろう。ランク昇格確定にエリスは感無量だった。その後、ランスからのサバイバル術としてウルフの解体講座を経て、一行は森の奥にある山間洞窟に向かう。
「森の中には様々なモンスターがいますが、特に注意が必要なのが『ワイルドモンキー』です。コイツらは攻撃こそしませんが、我々の荷物を狙って来ますので要注意です。武器を取られてしまったという報告もあるので気を付けて下さい…」
説明の後、ランスが森の中へ入ろうとすると、コニーがそのズボンの裾を引っ張って見上げる。
「…おなかすいた。おやつのじかん…」
その言葉にランス、美裸、エリスは顔を見合わせる。丘の上で陽当たりも良いのでそこで一旦、休憩する事にした。
「休憩ついでに、森の中のモンスターについてお話しておきます」
コニーがだいふくと一緒におやつを食べている間に、ランス、美裸、エリスもおやつを食べつつ、森のモンスターについて確認する。
「ワイルドモンキーの他に、レッドベア、マッシュアナコンダ、デンジャーボア、殺人蜂などがいます。特に小さい昆虫系は気が付かないうちにやられている事もありますので要注意です」
話を聞く美裸、エリスの二人の傍でレジャーシートの上、だいふくと一緒にゴロゴロしていたコニーはいつの間にかお昼寝をしていた。
「…あらら、コニーお昼寝しちゃったね~(笑)」
「お日様当たって気持ち良いからね。どうしようか(笑)?」
「しばらく寝かせて上げましょう。強いと言ってもまだまだ小さい子ですからね。この時間のお昼寝は必要ですよ」
ランスの言葉に、うんうんと頷く二人。しばらくおやつを食べながらコニーが起きるのを待つ事にした。
◇
コニーがお昼寝から目が覚めた後、一行は森の中を抜けて行く。あちこちからモンスターや昆虫が現れるものの、試験を終えて余裕のエリスが弓で撃ち落とし、タガーで斬っていく。エリスのレベルが36になった。
ワイルドモンキーは美裸の範囲に入った瞬間、その動きを止めてペンタブで斬り付けると驚いてすぐに逃げて行った。
その後もデンジャーボア、マッシュアナコンダ、レッドベアを退け、一行は森を抜けて山へ上がる道に出た。
「この上です。ここを少し上がった所に洞窟があり、そこに『ケルベロス』がいます。ここからはより気を引き締めて下さい」
ランスの言葉に、一同頷く。しばらく山道を登る事、数10分、ようやく洞窟が見えた。
人の気配を感じたのか、洞窟の中にいた『それ』は横たえていた大きな体をゆっくりと起こす。体高1.5メートル、体長2メートルはある赤黒い炎の様な毛並みを持った三つ頭の『ケルベロス』がいた。
「それではコニーちゃんの昇級試験を始めます。準備は良いですか?」
「こにー、すぐいける、ぼかんしてくる」
そう言って飛び出そうとするコニーを止める美裸。
「…コニー、ちょっと待って…」
美裸は、コニーにその耳元で、何やらごにょごにょと話し始めた。
「…わかった、おもしろい、やってくる」
そう言って駆け出すコニー。しかし、何かに気付いて駆けて戻ってきた。
「…これ、もってて…」
コニーは、両手からメリケンサックと雷轟を外すと、ランスに渡した。
「じゃ、ぺろぺろす、げんこつしてくる」
そう言うとコニーは、再びケルベロスに向かって走って行った。
「ぺろぺろすって何(笑)?」
エリスの疑問に、美裸が答える。
「『ケルベロス』→『ぺろぺろす』に聞こえてんじゃない(笑)?」
笑いながら二人がコニーを見ると既にケルベロスと交戦していた。真正面に来たコニーに、3頭が襲い掛かる。それを見切ったコニーが小さな拳を振り抜く。
「おにげんこつっ!!」
左拳で右の犬頭を吹っ飛ばし、続いて右拳で真ん中の犬頭を殴り付けた。
思わぬコニーの力の強さに、体勢を大きく崩したケルベロスだったが、左の犬頭が、拳を振り抜いたコニーの小さな右腕に歯を立てて咬み付いた。
「コニーッ!!」
慌ててコニーの助けに入ろうとしたエリスを、ランスと美裸が止めた。
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高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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