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プロローグ、ペンは剣よりも強し編
昇級。
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美裸の身体が強く光り、周りを取り囲んでいた黒い霧を一瞬で吸収した。同時に美裸のレベルが88まで上がり、スキル『怨詛呪殺』を獲得した。
『怨詛呪殺』はスキルがツリーになっていて、『呪音凶殺』と『魔吸尽悪食』を含んだスキルになっていた。
「みんな~、すぐ終わったよ~(笑)」
そう言いながら笑う美裸と、その隣で元気よく跳ねるだいふくを見たエリスは、ホッとしていた。
「だいふく、ぶじ。良かった」
美裸とだいふくが無事、戻って来た所で3人と1匹が、一斉にランスに視線を向ける。
「みらのしけん、どうなった?」
「…うーん、判定が難しい所ですねぇ…」
そう言いつつ、ランスは悩んでいた。実際に奥に封印されていたイビルロードが消滅しているのは確かなのだが、美裸がイビルロードを相手にどう闘ったのか、肝心な事が、全て黒い霧の中での事なので見えなかったのである。
悩むランスに、エリスが声を掛ける。
「…ランスさん。イビルロードは消えてますし、美裸の試験も合格でも良いと思うんですが…」
コニーは戻ってきただいふくを抱っこする。
「だいふく、すこし黒くなった。かっこいい」
コニーの言葉に、ポッと赤く光ると恥ずかしそうにぷるぷるっと揺れるだいふく。イビルロードの残りカスを食べただいふくはダークスライムになった。レベルも32まで上がり、スキル『ダークドレイン』が付いた。
「…うーん、そうですねぇ。それでは一応、退治の経緯を聞かせて下さい」
ランスに言われて説明を始める美裸。
「黒い霧に覆われた後、『呪音ナントカ』で攻撃して来たから思念で圧を掛けて呪われた魂の動きを止めて叩き落してやったんですよ。その後、これならどうだ~って、岩を念で飛ばして来たから釘バットでぶっ壊したらイビルロードが怒っちゃって、『お前の力を取り込んでやる~っていうからずーっと吸わせて上げてたら許容超えたみたいで勝手に自壊始めたから逆に今度はわたしがイビルロードの力を吸い取って搾りカスにしたんですよ。こんな所で良いですか(笑)?」
ざっくり過ぎる説明だったが取り敢えず、退治の経緯を聞いて、その対象も完全消滅させているので今の所は仮合格とした。
「ギルドに戻った後にマスターであるガルロさんからの追認があれば、正式にSランクと認められ昇級になりますのでそれまではご了承下さい」
ランスの説明に頷いた一同はイビルロードの残滓が残っていないか確認した後、王都へ戻った。
◇
ランスの報告に唸るギルドマスターのガルロ。報告によれば確かに、イビルロードを完全消滅させたようだ…。
しかし悩みどころはやはり、その戦闘が全く見えなかった事だった。戦闘の経緯を聞いてもどう判断して良いのかガルロ自身も迷う所だった。
英雄であるカインが苦戦し、負傷した相手がイビルロードである。カインは湯治の為、王国最北にある高山の温泉郷に行く。その後、入れ替わりでSランクの祓い師が命と引き換えに、何とかイビルロードを封印したのだ。
その相手を完全消滅させたのである。通常であれば昇級を認めても良いだろう。しかし、戦闘が見えなかった事が大きく響いた。
「本来なら認めてやってもいいんだが…戦闘が見えていなかったのは判断の難しい所なんだ…」
考えたガルロが出した答えは再々、昇級試験を受けて貰う事だった。
「…悪いんだがもう一度、昇級試験退治に行って貰う。今度は俺が付いていく。直接この目で確かめたいからな…」
「は~い。次の相手はどんなヤツですか~(笑)?」
相変わらず軽い反応に、思わず舌打ちが出るガルロ。
「次は『サイクロップス』だ。2日ほど前から南東の洞窟の中に住み着いてると目撃情報があった。どうだ?すぐ行けるか?」
「は~い、すぐイケますよ~(笑)」
美裸の軽い答えに呆れるガルロ。しかし、今まではそんな美裸を心配していたはずのエリスが妙に落ち着いているのが気になった。
(…この美裸ってヤツに会ってから随分変わったな…。美裸の試験官ついでにPTの実力も見させて貰うか…)
「…しかしだな。何で討伐対象だったケルベロスがここに居るんだよッ!?」
「あははっ!!これだけ凶悪なペットがいればわたしらも箔が付くかと思いまして~(笑)」
美裸の言葉に頭を抱えるガルロの前で、ケルベロスに乗ったコニーが答える。
「ぺろす、コニーのペットなった。もう悪いことしない」
先にランスからの報告で聞いていたが、まさか本当にケルベロスを連れて帰ってくるとはガルロは思いもしなかった。
「…解かった。お前達が並外れた力を持っている事は認める。エリスはBランクに昇級、コニーのお嬢ちゃんはSランクに昇級だ。続いて美裸の試験に向かう」
ガルロを伴ったエリスPTは美裸の再々試験の為に南東の洞窟に向かう事となった。
◇
エリスPTとガルロは、サイクロップスの目撃情報があった洞窟に来ていた。この洞窟に来るまでに、森を抜けてきたが、ガルロはPTの動きに驚きを隠せなかった。
森に入るや美裸がサーチで指示を出し、エリスが森のポイズンスパイダー、キラービー、キャタピラー(芋虫)、軍隊蟻を弓で射殺していく。
ジャイアントコングはコニーがジャンプからのサマーソルトキック、木を足場にしてからの反動を利用したパンチでノックアウト。
更にデスサーペントの噴射毒を美裸が完全に消し去り、サーペントを輪切りにして見せる。一見、バラバラの様に見える動きも、それぞれが役割を理解し、対応していた。
(…もしかしたらコイツら…化けるかもしれん…)
ガルロは自身の武器である二振りの短槍を持って来ていたが出る幕はなかった。
洞窟を前に、ガルロが説明を始める。
「サイクロップスはあの洞窟にいるそうだ。どこから来たかは不明。今の所、周辺の集落に被害はないが食料を求めて移動してきた可能性もある。被害が出る前に討伐するぞ?良いな?」
説明するガルロに、美裸が頷く。
まずはエリスが周辺を確認しつつ、その後にぺろすに乗ったコニー、美裸、だいふくと続いた。最後尾から、ガルロが付いていく。
特にモンスターの姿はなく静けさが逆に不気味なくらいだ。ある程度近づいた所で美裸は、エリスとコニーに下るように言う。
「…ここからはわたしが行くからね~。さて、どんだけデカいブツが出て来るか楽しみだよね~(笑)」
美裸の軽口にも、エリスは慣れたものだ。しかし、不気味なほど静かな周囲の様子に対して美裸に注意を飛ばす。
「…美裸、血の臭いがする…。気を付けて…」
エリスの隣に立ったガルロも、辺りに充満する血の臭いに気付いていた。
「…良く気付いたな。洞窟から血の臭いが流れている。美裸の試験とは別にお前らも気を付けろ、良いな?」
ガルロの言葉に頷くエリスとコニー。
ガルロ、エリス、コニーが見守る中、トコトコと洞窟に近づいていく美裸。その目の前に、赤く大きな一つ目の巨人が、その口に血塗れのイノシシを咥えたまま、のそりと洞窟の中から姿を現した。
体長5メートルの一つ目の巨人、サイクロップスである。落ち武者の様な黒い髪、大きな赤い一つ目と大きな口と牙、青みがかったグレイの肌で筋肉の塊の様な身体をしていた。
サイクロップスはイノシシの頭を引き千切ると大きく唸り声を上げて美裸を威嚇する。
「グオォォォォォッ!!」
「…あー、はいはい。お食事中お邪魔して悪かったです~。あなたにここに住み付かれると周辺の集落が迷惑するんだよね~(笑)」
そう言いつつ、美裸はポケットから呪殺釘バットを取り出した。それを見たサイクロップスが更に興奮する。
「グオォォォオォォォォッ!!」
更なる大きな唸り声を上げて、美裸の身長ほどもある棍棒を振りかぶる。そしてサイクロップスがその棍棒を美裸に叩き付けようとした瞬間、勝負は付いた。
美裸は既に、範囲内で『怨詛呪殺』を展開していた。サイクロップスの巨大棍棒は美裸の範囲に入った瞬間、その動きを止める。そして美裸は呪詛エネルギーを込めた呪殺釘バットでその巨大棍棒を粉砕した。
根元から棍棒が粉砕されたサイクロップスもまた、その動きを止められていた。サイクロップスの巨大な身体に、瘴気が纏わり付いていく。
美裸はサイクロップスからの生体エネルギーを瘴気によって吸収していく。同時に範囲内で呪殺釘バットを振るう。
まずは脚、次に腰、腹、胸、腕とガンガン叩いて潰していく。ジェンガをする様に下から潰して、最後にはサイクロップスの頭を粉砕した。
この間、10秒ほどである。
離れていたガルロにも、それは見えていた。動きを止められたサイクロップスは、身体を黒い霧に覆われ、萎んでいく。
それを美裸が手に持った凶悪な武器でガンガン潰し、あっという間に一山の肉の塊にしてしまった。そしてそれを従魔のスライムが身体を伸ばして包み込むと吸収して退治は終わった。
美裸はレベルが97になり、サイクロップスから吸収した生体エネルギーによってバイタルの数値が大幅に上がった。
だいふくはレベル35になり、『サイクロップスビーム』を獲得した。
「…美裸。アンタのスキル、相変わらず反則級だよね…」
「そう(笑)?あのサイクロップス、イビルロードよりレベル低かったけど(笑)?」
「…いや、それにしてもメチャクチャな能力だよ…」
そう言いつつ、エリスはガルロを見る。
「…マスター、美裸の昇級…どうですかね…?」
「…どうもこうも無いだろ…。昇級を認める。美裸、お前も今日からSランクだ」
「は~い。ありがとうです~(笑)。じゃ、ギルドに戻ってPT情報修正して貰いますか~?」
美裸の言葉に、エリスとコニーが頷く。美裸の退治を直接見たガルロは、それ以上疑う事はしなかった。
ガルロは見ていた。美裸の圧倒的な程の思念エネルギーを…。相手の動きを止める絶対領域、空間内での絶大な思念力で、サイクロップスを軽く叩き潰したのだ。
今までのハンターとは違う、異質なものをガルロは感じていた。
「…ついでにお前らのPTランクも一気にAまで上がるからな?明日からしっかり働いて貰うぞッ!?」
メンバーのランクが上がれば、PTとしてのランクも上がる。ガルロの言葉に、3人は強く頷いた。
◇
その日の夕方。宿屋に戻ってきた美裸達がケルベロスを連れているのを見た宿屋の中が大騒ぎになった。
宿屋の主人であるおじさん、料理と受付担当のおばちゃん、料理長と調理担当の従業員、ホール担当従業員、そしてお客さん全員が恐怖で顔を引き攣らせざわついている。
美裸のスキルで少し小さくしたとはいえ、『地獄の番犬』と呼ばれる有名なモンスターである。騒ぎになって当然だった。
このままだと追い出されるのは確実なので、美裸は先程ギルドで更新して貰ったばかりのハンターカードを見せる。
美裸がSランクハンターであり、コニーの従魔で危険はないと話す。そしてぺろすにお手、おかわり、伏せなどの芸をさせて見せると、ようやく宿屋の中は落ち着きを取り戻した。
一度、部屋に戻ってゆっくりと身体を休めた後、夕食の為に一階に降りた美裸達は、食事スペースの隅で祝杯を挙げていた。
「まずは美裸、コニー、Sランクおめでとー!!」
「ありがとナリ~(笑)。エリスもBランク昇級、おめでとん(笑)♪」
「あいがとぅ、エリス。だいふくもつよくなった、おめでとん(笑)♪」
コニーの言葉に、テーブルの上で嬉しそうにプルプルッと身体を揺らすだいふく。皆のテーブルの下には、ペットのぺろすが、伏せたまま貰った骨をガリガリと齧っていた。
未成年なのでお酒の代わりに3人とも、甘々ミルクティーを飲みつつ料理を待つ。3人とも昇級し、PTランクもAまで上がったお祝いに注文したのは5等級の牛肉ステーキだ。
まず、運ばれてきたのはサラダと牛のテールスープ。そしてステーキと牛肉を混ぜたホカホカの牛めしも運ばれて来た。
「おおおッ!!この焼ける肉の音と匂いが良いね…」
「最高級の牛肉らしいよ~(笑)。ホカホカの牛めしも良いね~」
エリスと美裸が話す中、コニーが目をキラキラ輝かせていた。
「…にく、良いにおい。はやく食べたい!!」
コニーの催促で3人がお祝いの食事を始めたその時、宿屋のドアを乱暴に開けた一団が入って来た。
『怨詛呪殺』はスキルがツリーになっていて、『呪音凶殺』と『魔吸尽悪食』を含んだスキルになっていた。
「みんな~、すぐ終わったよ~(笑)」
そう言いながら笑う美裸と、その隣で元気よく跳ねるだいふくを見たエリスは、ホッとしていた。
「だいふく、ぶじ。良かった」
美裸とだいふくが無事、戻って来た所で3人と1匹が、一斉にランスに視線を向ける。
「みらのしけん、どうなった?」
「…うーん、判定が難しい所ですねぇ…」
そう言いつつ、ランスは悩んでいた。実際に奥に封印されていたイビルロードが消滅しているのは確かなのだが、美裸がイビルロードを相手にどう闘ったのか、肝心な事が、全て黒い霧の中での事なので見えなかったのである。
悩むランスに、エリスが声を掛ける。
「…ランスさん。イビルロードは消えてますし、美裸の試験も合格でも良いと思うんですが…」
コニーは戻ってきただいふくを抱っこする。
「だいふく、すこし黒くなった。かっこいい」
コニーの言葉に、ポッと赤く光ると恥ずかしそうにぷるぷるっと揺れるだいふく。イビルロードの残りカスを食べただいふくはダークスライムになった。レベルも32まで上がり、スキル『ダークドレイン』が付いた。
「…うーん、そうですねぇ。それでは一応、退治の経緯を聞かせて下さい」
ランスに言われて説明を始める美裸。
「黒い霧に覆われた後、『呪音ナントカ』で攻撃して来たから思念で圧を掛けて呪われた魂の動きを止めて叩き落してやったんですよ。その後、これならどうだ~って、岩を念で飛ばして来たから釘バットでぶっ壊したらイビルロードが怒っちゃって、『お前の力を取り込んでやる~っていうからずーっと吸わせて上げてたら許容超えたみたいで勝手に自壊始めたから逆に今度はわたしがイビルロードの力を吸い取って搾りカスにしたんですよ。こんな所で良いですか(笑)?」
ざっくり過ぎる説明だったが取り敢えず、退治の経緯を聞いて、その対象も完全消滅させているので今の所は仮合格とした。
「ギルドに戻った後にマスターであるガルロさんからの追認があれば、正式にSランクと認められ昇級になりますのでそれまではご了承下さい」
ランスの説明に頷いた一同はイビルロードの残滓が残っていないか確認した後、王都へ戻った。
◇
ランスの報告に唸るギルドマスターのガルロ。報告によれば確かに、イビルロードを完全消滅させたようだ…。
しかし悩みどころはやはり、その戦闘が全く見えなかった事だった。戦闘の経緯を聞いてもどう判断して良いのかガルロ自身も迷う所だった。
英雄であるカインが苦戦し、負傷した相手がイビルロードである。カインは湯治の為、王国最北にある高山の温泉郷に行く。その後、入れ替わりでSランクの祓い師が命と引き換えに、何とかイビルロードを封印したのだ。
その相手を完全消滅させたのである。通常であれば昇級を認めても良いだろう。しかし、戦闘が見えなかった事が大きく響いた。
「本来なら認めてやってもいいんだが…戦闘が見えていなかったのは判断の難しい所なんだ…」
考えたガルロが出した答えは再々、昇級試験を受けて貰う事だった。
「…悪いんだがもう一度、昇級試験退治に行って貰う。今度は俺が付いていく。直接この目で確かめたいからな…」
「は~い。次の相手はどんなヤツですか~(笑)?」
相変わらず軽い反応に、思わず舌打ちが出るガルロ。
「次は『サイクロップス』だ。2日ほど前から南東の洞窟の中に住み着いてると目撃情報があった。どうだ?すぐ行けるか?」
「は~い、すぐイケますよ~(笑)」
美裸の軽い答えに呆れるガルロ。しかし、今まではそんな美裸を心配していたはずのエリスが妙に落ち着いているのが気になった。
(…この美裸ってヤツに会ってから随分変わったな…。美裸の試験官ついでにPTの実力も見させて貰うか…)
「…しかしだな。何で討伐対象だったケルベロスがここに居るんだよッ!?」
「あははっ!!これだけ凶悪なペットがいればわたしらも箔が付くかと思いまして~(笑)」
美裸の言葉に頭を抱えるガルロの前で、ケルベロスに乗ったコニーが答える。
「ぺろす、コニーのペットなった。もう悪いことしない」
先にランスからの報告で聞いていたが、まさか本当にケルベロスを連れて帰ってくるとはガルロは思いもしなかった。
「…解かった。お前達が並外れた力を持っている事は認める。エリスはBランクに昇級、コニーのお嬢ちゃんはSランクに昇級だ。続いて美裸の試験に向かう」
ガルロを伴ったエリスPTは美裸の再々試験の為に南東の洞窟に向かう事となった。
◇
エリスPTとガルロは、サイクロップスの目撃情報があった洞窟に来ていた。この洞窟に来るまでに、森を抜けてきたが、ガルロはPTの動きに驚きを隠せなかった。
森に入るや美裸がサーチで指示を出し、エリスが森のポイズンスパイダー、キラービー、キャタピラー(芋虫)、軍隊蟻を弓で射殺していく。
ジャイアントコングはコニーがジャンプからのサマーソルトキック、木を足場にしてからの反動を利用したパンチでノックアウト。
更にデスサーペントの噴射毒を美裸が完全に消し去り、サーペントを輪切りにして見せる。一見、バラバラの様に見える動きも、それぞれが役割を理解し、対応していた。
(…もしかしたらコイツら…化けるかもしれん…)
ガルロは自身の武器である二振りの短槍を持って来ていたが出る幕はなかった。
洞窟を前に、ガルロが説明を始める。
「サイクロップスはあの洞窟にいるそうだ。どこから来たかは不明。今の所、周辺の集落に被害はないが食料を求めて移動してきた可能性もある。被害が出る前に討伐するぞ?良いな?」
説明するガルロに、美裸が頷く。
まずはエリスが周辺を確認しつつ、その後にぺろすに乗ったコニー、美裸、だいふくと続いた。最後尾から、ガルロが付いていく。
特にモンスターの姿はなく静けさが逆に不気味なくらいだ。ある程度近づいた所で美裸は、エリスとコニーに下るように言う。
「…ここからはわたしが行くからね~。さて、どんだけデカいブツが出て来るか楽しみだよね~(笑)」
美裸の軽口にも、エリスは慣れたものだ。しかし、不気味なほど静かな周囲の様子に対して美裸に注意を飛ばす。
「…美裸、血の臭いがする…。気を付けて…」
エリスの隣に立ったガルロも、辺りに充満する血の臭いに気付いていた。
「…良く気付いたな。洞窟から血の臭いが流れている。美裸の試験とは別にお前らも気を付けろ、良いな?」
ガルロの言葉に頷くエリスとコニー。
ガルロ、エリス、コニーが見守る中、トコトコと洞窟に近づいていく美裸。その目の前に、赤く大きな一つ目の巨人が、その口に血塗れのイノシシを咥えたまま、のそりと洞窟の中から姿を現した。
体長5メートルの一つ目の巨人、サイクロップスである。落ち武者の様な黒い髪、大きな赤い一つ目と大きな口と牙、青みがかったグレイの肌で筋肉の塊の様な身体をしていた。
サイクロップスはイノシシの頭を引き千切ると大きく唸り声を上げて美裸を威嚇する。
「グオォォォォォッ!!」
「…あー、はいはい。お食事中お邪魔して悪かったです~。あなたにここに住み付かれると周辺の集落が迷惑するんだよね~(笑)」
そう言いつつ、美裸はポケットから呪殺釘バットを取り出した。それを見たサイクロップスが更に興奮する。
「グオォォォオォォォォッ!!」
更なる大きな唸り声を上げて、美裸の身長ほどもある棍棒を振りかぶる。そしてサイクロップスがその棍棒を美裸に叩き付けようとした瞬間、勝負は付いた。
美裸は既に、範囲内で『怨詛呪殺』を展開していた。サイクロップスの巨大棍棒は美裸の範囲に入った瞬間、その動きを止める。そして美裸は呪詛エネルギーを込めた呪殺釘バットでその巨大棍棒を粉砕した。
根元から棍棒が粉砕されたサイクロップスもまた、その動きを止められていた。サイクロップスの巨大な身体に、瘴気が纏わり付いていく。
美裸はサイクロップスからの生体エネルギーを瘴気によって吸収していく。同時に範囲内で呪殺釘バットを振るう。
まずは脚、次に腰、腹、胸、腕とガンガン叩いて潰していく。ジェンガをする様に下から潰して、最後にはサイクロップスの頭を粉砕した。
この間、10秒ほどである。
離れていたガルロにも、それは見えていた。動きを止められたサイクロップスは、身体を黒い霧に覆われ、萎んでいく。
それを美裸が手に持った凶悪な武器でガンガン潰し、あっという間に一山の肉の塊にしてしまった。そしてそれを従魔のスライムが身体を伸ばして包み込むと吸収して退治は終わった。
美裸はレベルが97になり、サイクロップスから吸収した生体エネルギーによってバイタルの数値が大幅に上がった。
だいふくはレベル35になり、『サイクロップスビーム』を獲得した。
「…美裸。アンタのスキル、相変わらず反則級だよね…」
「そう(笑)?あのサイクロップス、イビルロードよりレベル低かったけど(笑)?」
「…いや、それにしてもメチャクチャな能力だよ…」
そう言いつつ、エリスはガルロを見る。
「…マスター、美裸の昇級…どうですかね…?」
「…どうもこうも無いだろ…。昇級を認める。美裸、お前も今日からSランクだ」
「は~い。ありがとうです~(笑)。じゃ、ギルドに戻ってPT情報修正して貰いますか~?」
美裸の言葉に、エリスとコニーが頷く。美裸の退治を直接見たガルロは、それ以上疑う事はしなかった。
ガルロは見ていた。美裸の圧倒的な程の思念エネルギーを…。相手の動きを止める絶対領域、空間内での絶大な思念力で、サイクロップスを軽く叩き潰したのだ。
今までのハンターとは違う、異質なものをガルロは感じていた。
「…ついでにお前らのPTランクも一気にAまで上がるからな?明日からしっかり働いて貰うぞッ!?」
メンバーのランクが上がれば、PTとしてのランクも上がる。ガルロの言葉に、3人は強く頷いた。
◇
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美裸のスキルで少し小さくしたとはいえ、『地獄の番犬』と呼ばれる有名なモンスターである。騒ぎになって当然だった。
このままだと追い出されるのは確実なので、美裸は先程ギルドで更新して貰ったばかりのハンターカードを見せる。
美裸がSランクハンターであり、コニーの従魔で危険はないと話す。そしてぺろすにお手、おかわり、伏せなどの芸をさせて見せると、ようやく宿屋の中は落ち着きを取り戻した。
一度、部屋に戻ってゆっくりと身体を休めた後、夕食の為に一階に降りた美裸達は、食事スペースの隅で祝杯を挙げていた。
「まずは美裸、コニー、Sランクおめでとー!!」
「ありがとナリ~(笑)。エリスもBランク昇級、おめでとん(笑)♪」
「あいがとぅ、エリス。だいふくもつよくなった、おめでとん(笑)♪」
コニーの言葉に、テーブルの上で嬉しそうにプルプルッと身体を揺らすだいふく。皆のテーブルの下には、ペットのぺろすが、伏せたまま貰った骨をガリガリと齧っていた。
未成年なのでお酒の代わりに3人とも、甘々ミルクティーを飲みつつ料理を待つ。3人とも昇級し、PTランクもAまで上がったお祝いに注文したのは5等級の牛肉ステーキだ。
まず、運ばれてきたのはサラダと牛のテールスープ。そしてステーキと牛肉を混ぜたホカホカの牛めしも運ばれて来た。
「おおおッ!!この焼ける肉の音と匂いが良いね…」
「最高級の牛肉らしいよ~(笑)。ホカホカの牛めしも良いね~」
エリスと美裸が話す中、コニーが目をキラキラ輝かせていた。
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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