輝きを織り成す祭に誇りを捧げて ─gargle─

清泪─せいな

文字の大きさ
5 / 6

祭が始まる

しおりを挟む
 
 翌日、祭本番。

 夜の七時になって夜空に盛大に花火が舞い上がった。
 それが神輿が動き出す合図だった。
 神輿の進行ルートには昼の間に提灯をぶら下げられていた。
 地元の警察が交通規制をしてくれている。
 何の問題もなく町中を駆け回れば、三十分程度で神輿は神社に到達する。

 神輿の上に乗る頼斗は不安を隠すように大きく掛け声をあげていた。
 自分が抱いた不安が現実のものだとしたなら、と過る考えが心を焦らせる。
 しかし、頼斗は神輿の上に乗っているので駆け出すわけにもいかなかった。
 子供の頃から共にあった祭を壊すわけにもいかない。

 織輝という名前には昔から疑問を抱いていた。
 別にこの町は織物が盛んな町ではない。
 むしろ特産品と呼べるようなものがなく、だから若者達はこの町を離れていくのだ。

 ある時、佐脇の爺さんに一度だけ聞いた事があった。
 織輝とは当て字なのだと。
 本来は食鬼と書くのだと。

 
 巫女装束に身を包み、翼は神社の中に入っていった。
 普段は賽銭箱に近づくだけでも注意されるので、わくわくとする気持ちを抱いた。
 扉を閉めると、直前までついてきてくれていた母親が去っていく足音が聞こえた。
 翼は急に心細くなった。

 明かりが格子から差し込む月明かりぐらいでまだ暗闇になれないので奥までは見えないが、中には小さな輿があった。
 これからこの神社に訪れる神輿よりは、はるかに小さな輿。

 よく考えてみれば、そもそもこの神社の神様が何の神様なのか知らないなと翼は思った。
 初詣やお盆、年越し以外にも何かある度にこの神社に来ては賽銭箱に金を放り願い事を念じてきた。
 随分勝手な崇め方だが、今一度翼は目を閉じて手を合わせた。
 神輿が来るまでの間、自分を守ってもらえるようにと。

 目を開けた時、奥で何かが動いてる様に見えた。
 思わず声をあげそうになった翼は、手で口を押さえた。
 ゆっくりと後ろに下がり、扉に手をかける。

 開かない。

 扉がぴくりとも動かない。

 なんで!?、と声をあげた翼に奥から現れた影が飛びかかった。

 影は翼を押し倒し覆い被さった。
 両手を押さえられて、腰の辺りに乗られているので翼は足をばたつかせるものの何の抵抗にもならなかった。
 影、月明かりに照らされた赤い鬼の面をつけた人物は息を荒々しく吐いている。
 その呼吸と押さえられている手の感触から男だと判断できた。
 嫌、ともがくように抵抗する翼に対して鬼の面の男はただ押さえつけた姿勢のまま何もせずにじっとしていた。
 翼が抵抗するのに疲れるのを待っているようだ。

 翼は必死に身体を動かしてみせた。
 腰の辺りに乗る男の体重でだんだん呼吸も上手くできなくなってきていた。
 それでも翼は必死に身体を動かした。
 この男を退かして、この神社から出れば何事も無かったように事が済むと思っているからだ。
 何事も無かったように済ましたかったからだ。

 そんな翼の必死な抵抗に男は、無駄だよ、と翼の耳元で囁いた。
 男の言葉に、声に翼は絶望した。

 信じたくなかったのだ。
 信じたかったのだ。
 母親の話を。
 彼の事を。

「……オジサン、なの?」

 涙を浮かべ翼は声を震わせながらそう言った。
 鬼の面をつけた男は、翼が聞き慣れた笑い声で返事した。

 
「抵抗しないでくれ、傷付けたくない」

「なんで、こんなこと!?」

「これは伝統ある儀式なんだよ。巫女は鬼に捧げられなければならない」

 尾児が発する声は普段の温かみのある声と違い、抑揚の無い冷たい声だった。

「そんなの、昔話なんでしょ!?」

「違うよ、今も続く伝統ある儀式さ」

 翼には鬼の面が口を開けて笑っている様に見えた。

「鬼なんているわけない!?」

「いるよ、ほらここに。鬼は翼ちゃんの目の前に、ほら!」

 怒鳴るように尾児は言うと、押さえつけていた手を離し翼の胸元に手をやった。
 嫌、と叫ぶ翼の抵抗を無視し装束を強く引っ張る。
 翼のまだ幼い乳房が露になった。

「嫌ぁ、やめて!!」

 翼は尾児の腕を掴んだが、そのか細い小さな手は直ぐ様弾かれた。
 翼は必死に尾児の身体を退かそうと手を伸ばし、鬼の仮面を叩いた。
 ずれた仮面の下に見えた尾児の顔は、下卑た笑みを浮かべていた。
 尾児は舌打ちをして、翼の頬を叩いた。

「大人しく、大人しくしろよ! 儀式なんだよ、伝統ある儀式! これで町は救われんだよ! 毎年毎年、誰かが巫女になって俺にヤられてそれで町は救われてんだよ!! お前の母親だってそうだ!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...