ファンキー・ロンリー・ベイビーズ

清泪─せいな

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第15話 案ずるよりパンクが易し 9

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 183cm、85kg。
 長身で色白の須藤は、黒い服を好む事もありよくか細く見られる。
 だが実際、喧嘩で鍛えた身体は筋肉質で太く重かった。
 その自分が自身よりも少し小柄な男に軽々と殴り飛ばされている事実を、須藤は横倒れになりながら受け入れることができなかった。
 何より自分を浮かせた相手の右足は、二度も左で蹴った足だ。
 時には一発で仕留めることもある自慢のローキックが効いていない?
 須藤は手をつき身体を起こし、勝を睨んだ。
 相変わらず構えず立っている。

 右足が痛い。
 ミドルキックに振り上げた際も、その後踏み込んだ際も、いや立っているだけで勝は痛みを感じていた。
 しかし、左蹴りを得意とする相手には負けられないという意地があった。
 左蹴りを得意とする知り合いがいる、ただそれだけの理由だ。

 立ち上がった須藤は、被っているニット帽をアスファルトに叩きつけた。
 燃えるような赤い髪を両手でかきあげる。
 冷静さを取り戻そうとゆっくり息を吐いた。
 構える須藤。
 口の端が切れてそこから血が滲み、それを左手の甲で拭った。
 アスファルトを摺る足がジリジリと音を立てる。

 三度の対峙。
 先に動いたのは、勝だった。
 構えず垂らしていただけの左手が動いた。
 先程喰らった左フックを警戒して須藤が反応する。
 須藤の右手が勝の左手の軌道を遮ろうと動く。
 しかし、勝の左手は動きを止めた。
 しまった、と須藤が自身の失敗に気づいた時には、バチィィ、と須藤の右足は勝の右ローキックに叩かれた。
 それは須藤自身がやってみせたフェイントだった。
 勝の重い蹴りに須藤の右足は耐えきれず、深く曲がった。

 引いた勝の右足は直ぐ様次の攻撃へと動く。
 沈む須藤の身体に、斧を斬りつける様なミドルキックの軌道。
 須藤は咄嗟に左腕のガードを下げた。
 しかし、勝の足の軌道は変化した。
 僅かに上がる軌道は、沈む須藤の頭を捉えた。
 右ハイキック。

 須藤の身体が左に倒れ、アスファルトに叩きつけられた。
 
「もう立ち上がらないでくれよ」

 蹴りの軌道を変える。
 勝にとってそれは、とっておきの技であった。
 軋む程に筋肉に負担がかかるためにあまり多用したい技ではない。
 とっておきの、相手を仕留める時の技だ。

 クッソ、と須藤がどうにか口にできたのはそんな言葉だった。
 蹴られたからか、アスファルトに叩きつけられたからか、頭がぼんやりとしていて視界も靄がかかったように白い。
 身体に上手く力が入らず、横倒れになったまま動けずにいた。
 その靄がかかった横倒れの視界の中に映ったのは、同じくアスファルトに倒れたままの園村だった。
 オレもアイツと同じか、と須藤は自嘲していた。
 クソ、と吐いてみたものの自身が負けたことは明白だった。
 自分を蹴り倒した男の声も遠くに聞こえる。

 しかし、オレは園村とは違う、と須藤は舌打ちをした。
 アイツほど下っぱとしての役目を律儀に果たすつもりはない。
 自分を蹴り倒した男が何処までやれるものなのかを知りたくもあった。
 鼻からゆっくり息を吸った。

「オイ、テメェ……死ににいく覚悟はあんのか?」

 四丁目にある六階建ての細長い貸ビル。
 須藤が口にした場所に勝は心当たりがあった。
 というのも、その貸ビルは割と有名なビルだ。
 悪い評判の方で。

 三丁目が若者向けの場所と言うなら、四丁目は成人向けの場所と言える。
 賑やかなネオンで彩られた風俗店が建ち並んでいる。
 その貸ビルにも何軒もの風俗店が入り、そしてすぐさま閉店して出ていった。
 立地条件が悪いというわけではない。
 長く営業してる人気店からは少し離れていたし、かといって客層として見込める五丁目からも遠くはない。
 細長い建物ではあるが、奥行きはあってキャバクラ店であってもキャパシティはそこそこ見込めた。
 しかし、そのビルには客が寄り付かなかった。
 県外から進出してきた人気キャバクラも半年ともたずに撤退していった。

 まるで何かに呪われているようだ、とその貸ビルの悪評は有名だった。
 その貸ビルのオーナーが、千代田ちよだ組ということもあり噂は裏で一気に広がった。

 千代田組とは羽音町をシマとしているヤクザのことだ。
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