79 / 120
第79話 聞いてガラージュ見てガラージュ 11
しおりを挟む
羽音町五丁目。
建設中の大型物流倉庫。
延床面積は約六万平方メートルの大規模な工事は、七割程度の工程を終わらせて本日の作業を終えていた。
通常なら複数業者が関わり二十四時間態勢で進む作業なのだが、倉庫主である大企業様が下請け業者の勤務時間にも厳しく言われる世の中に配慮して、暗くなり始める前には一斉に終わるというお行儀のいい現場となった。
七階層と背も高い倉庫の三階。
自立制御ロボットの導入を想定して実質四階部分も一緒くたにした巨大な構造は、実際まだ何も機材が搬入されていないのでだだっ広い空間となっていた。
「女、しかも子供を一人誘拐するのに大袈裟なことになったものだな」
広い空間、剥き出しのコンクリートに反響する男の声。
七三分けの白いスーツの男、米倉ビルのスナックにて勝を蹴り転がした男。
「ああ、次失敗したら頭弾いとくから、今回は大目に見てやってくれないか?」
答えるのは、首もとまで伸びた茶髪を揺らす男──野上花康。
赤いパーカーの上に、派手めな紺のジャケットを羽織っている。
「お前が立てた作戦だろ? 失敗は手下の責任か?」
「あぁ? 何? 焦ってんの、なーさん。ストレンジャーはさ、絆で結ばれたブラザーフッドじゃないんだよ。何処のどいつか知らねぇヤツらで行く末は商売敵? まぁ、対等なライバルってなれそうなヤツはいねぇから、邪魔者ってとこかな」
野上は、自分となーさんと呼んだ男──那念を交互に指差し、俺達もそういうこと、と付け加える。
「だから駒扱いなのは当たり前で、オレの指示で失敗したらそいつは使えねぇってことで弾いちゃってさ、将来の小石も先に蹴飛ばしとく感じだよね。使えるヤツはもちろん、扱いは良くするつもりだよ。商売敵じゃなく今後も肩組んでやっていける可能性はあるしさ」
野上は再び自分とニアンを交互に指差し、ね!、と強調し付け加える。
「誘拐沙汰が大袈裟になったのも、それでわかりやすくするためなんだよ。オレ達の敵がどんなヤツらか、撒き餌に引っ掛かって今集まって来てくれてるよ。英雄さんが宣言してるこの街ぶっ壊すって願望を叶えるなら、まぁ一網打尽が早い話じゃない? なーさんもさ、独立成功させるなら手柄の一つも上げた方がやり易いんじゃない?」
野上は人差し指を立てて、一、とニアンに示す。
一本でかいのを取れたならば、抜け出た組織も一目置いてくれるだろう。
理由はなんであれ、はぐれものを独断専行許すまじ、ではあるものの価値を計るというのは組織ゆえの習性なのだろう。
価値があれば排除対象から商売仲間としての格上げだってある。
「私に千代田組の若頭を仕留めろと、そう指示するつもりか?」
「いやいや、なーさん。流石にオレもそんな偉そうな発言は出来ないよ。オレがアンタの上にいるわけじゃねぇんだ、指示なんてしねぇ、提案するだけ。あの若頭を首狩り出来ればアンタの名前は一気に箔がつく。細けぇことを説明せずともわかるだろ、なーさん」
遊川のいる千代田組は、東條会の一組織だ。
しかし遊川という存在は東條会でも一目置かれていて、その戦闘力だけでも本来は東條会の中で幹部にのしあがれる程のものがある。
「幼稚なけしかけだが、乗るのが手か」
日本の小さな街の極道の幹部を殺れば、母国からの使者から逃れられるのであるなら、賭けない理由はなかった。
「あのロシア人もやらせるのか?」
昨日勝に倒されたティホンは、その汚名を受け入れられず今日は一日怪我の治療を兼ねてウォッカを浴びるように飲み、潰れていた。
一階の出来上がった事務室予定の場所で、長いソファーに横わたっている。
「そうティホン君を馬鹿にしてやるなって、なーさん。彼はアレだよ、やるときはやる男なんだよ、多分。だから、ティホン君にもオレから指示するつもりなんか無いよ。時が来たら暴れてくれんでしょ」
「それに合わせて昼間誘拐を失敗したヤツらか」
寄せ集めのデメリットがハッキリと見えてニアンは、眉をひそめた。
「誰しも失敗ってあるじゃない。なーさんもさ、何か失敗して組織抜け出したんでしょ?」
軽口を叩く野上をニアンが睨む。
しかし、野上はそれを気にも留めない。
「だからさ、一度の失敗は大目に見てやろうよ。チャンスをやろうよ。アイツらもいきり立ってるんだよ、次は必ずぶっ殺す、なんて物騒なことを素面で言っちゃってんだから」
ははっ、と無邪気に笑う野上。
「失敗したヤツ、はぐれもの、総戦力で迎え撃とうぜ。商売始めるための地ならしをしようぜ」
倉庫に響く笑い声。
その声の主が本当は何を狙っているのか、ニアンにもまだ掴めずにいた。
建設中の大型物流倉庫。
延床面積は約六万平方メートルの大規模な工事は、七割程度の工程を終わらせて本日の作業を終えていた。
通常なら複数業者が関わり二十四時間態勢で進む作業なのだが、倉庫主である大企業様が下請け業者の勤務時間にも厳しく言われる世の中に配慮して、暗くなり始める前には一斉に終わるというお行儀のいい現場となった。
七階層と背も高い倉庫の三階。
自立制御ロボットの導入を想定して実質四階部分も一緒くたにした巨大な構造は、実際まだ何も機材が搬入されていないのでだだっ広い空間となっていた。
「女、しかも子供を一人誘拐するのに大袈裟なことになったものだな」
広い空間、剥き出しのコンクリートに反響する男の声。
七三分けの白いスーツの男、米倉ビルのスナックにて勝を蹴り転がした男。
「ああ、次失敗したら頭弾いとくから、今回は大目に見てやってくれないか?」
答えるのは、首もとまで伸びた茶髪を揺らす男──野上花康。
赤いパーカーの上に、派手めな紺のジャケットを羽織っている。
「お前が立てた作戦だろ? 失敗は手下の責任か?」
「あぁ? 何? 焦ってんの、なーさん。ストレンジャーはさ、絆で結ばれたブラザーフッドじゃないんだよ。何処のどいつか知らねぇヤツらで行く末は商売敵? まぁ、対等なライバルってなれそうなヤツはいねぇから、邪魔者ってとこかな」
野上は、自分となーさんと呼んだ男──那念を交互に指差し、俺達もそういうこと、と付け加える。
「だから駒扱いなのは当たり前で、オレの指示で失敗したらそいつは使えねぇってことで弾いちゃってさ、将来の小石も先に蹴飛ばしとく感じだよね。使えるヤツはもちろん、扱いは良くするつもりだよ。商売敵じゃなく今後も肩組んでやっていける可能性はあるしさ」
野上は再び自分とニアンを交互に指差し、ね!、と強調し付け加える。
「誘拐沙汰が大袈裟になったのも、それでわかりやすくするためなんだよ。オレ達の敵がどんなヤツらか、撒き餌に引っ掛かって今集まって来てくれてるよ。英雄さんが宣言してるこの街ぶっ壊すって願望を叶えるなら、まぁ一網打尽が早い話じゃない? なーさんもさ、独立成功させるなら手柄の一つも上げた方がやり易いんじゃない?」
野上は人差し指を立てて、一、とニアンに示す。
一本でかいのを取れたならば、抜け出た組織も一目置いてくれるだろう。
理由はなんであれ、はぐれものを独断専行許すまじ、ではあるものの価値を計るというのは組織ゆえの習性なのだろう。
価値があれば排除対象から商売仲間としての格上げだってある。
「私に千代田組の若頭を仕留めろと、そう指示するつもりか?」
「いやいや、なーさん。流石にオレもそんな偉そうな発言は出来ないよ。オレがアンタの上にいるわけじゃねぇんだ、指示なんてしねぇ、提案するだけ。あの若頭を首狩り出来ればアンタの名前は一気に箔がつく。細けぇことを説明せずともわかるだろ、なーさん」
遊川のいる千代田組は、東條会の一組織だ。
しかし遊川という存在は東條会でも一目置かれていて、その戦闘力だけでも本来は東條会の中で幹部にのしあがれる程のものがある。
「幼稚なけしかけだが、乗るのが手か」
日本の小さな街の極道の幹部を殺れば、母国からの使者から逃れられるのであるなら、賭けない理由はなかった。
「あのロシア人もやらせるのか?」
昨日勝に倒されたティホンは、その汚名を受け入れられず今日は一日怪我の治療を兼ねてウォッカを浴びるように飲み、潰れていた。
一階の出来上がった事務室予定の場所で、長いソファーに横わたっている。
「そうティホン君を馬鹿にしてやるなって、なーさん。彼はアレだよ、やるときはやる男なんだよ、多分。だから、ティホン君にもオレから指示するつもりなんか無いよ。時が来たら暴れてくれんでしょ」
「それに合わせて昼間誘拐を失敗したヤツらか」
寄せ集めのデメリットがハッキリと見えてニアンは、眉をひそめた。
「誰しも失敗ってあるじゃない。なーさんもさ、何か失敗して組織抜け出したんでしょ?」
軽口を叩く野上をニアンが睨む。
しかし、野上はそれを気にも留めない。
「だからさ、一度の失敗は大目に見てやろうよ。チャンスをやろうよ。アイツらもいきり立ってるんだよ、次は必ずぶっ殺す、なんて物騒なことを素面で言っちゃってんだから」
ははっ、と無邪気に笑う野上。
「失敗したヤツ、はぐれもの、総戦力で迎え撃とうぜ。商売始めるための地ならしをしようぜ」
倉庫に響く笑い声。
その声の主が本当は何を狙っているのか、ニアンにもまだ掴めずにいた。
6
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
氷結の夜明けの果て (R16)
ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン)
よくある異世界転生?
使い古されたテンプレート?
――そうかもしれない。
だが、これはダークファンタジーだ。
恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも――
まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。
穏やかな始まり。ほのかな優しさ。
だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。
その時が来れば、闇は牙を剥く。
あらすじ
失われた魂――影に見つめられながら。
だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか?
異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。
生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。
――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。
冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、
彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。
だが、栄光へと近づく一歩ごとに、
痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。
光の道を歩んでいるかのように見えて――
その背後で、影は静かに育ち続けていた。
――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。
🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。
🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。
🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。
ヴェイルは進む。
その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。
それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる