ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

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Ep.4 兄弟

.10 不安分子

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 入社九年目。
 マーケティング部の部長としての仕事は順調に行えていた。
 部下たちも優秀で、僕が指示を出さずとも自分で考えて行動してくれている。
 おかげで、僕の仕事は取引先との打ち合わせや、部下たちでは判断出来ない案件についてのみとなっていた。
 仕事が順調であれば、プライベートも順調にいけていた。
 僕は結婚することになった。
 相手は海外事業部の寺尾聡美さんだ。
 同期であり上司と部下、部下と上司と関係性をころころと変えながら共に仕事をしていた間柄だったが、部署が離れたことで仕事抜きの関係性になっていた。
 国内海外問わず出張の多い海外事業部の仕事に限界を感じ始めていた彼女の相談相手をしたりして、関係性を深めていった。
 職場での彼女の印象は、人付き合いが苦手なタイプなのかと思っていた。
 僕の後任として管理職についた後も、その冷たい態度に部下から不満が溢れていたこともしばしばあったが、僕が部長補佐として仲を保っていた。
 そんな彼女が、ある日突然僕のことを好きだと言ってきたのだ。
 正直驚いた。
 でも、それ以上に嬉しかった。
 それからはトントン拍子だった。
 お互い忙しい身ではあったが、時間を作ってデートを重ねたり、一緒に食事をしたりした。
 そして、先日プロポーズをした。
 彼女は涙を流して喜んでくれた。
 僕は幸せだった。

「部長! 大変です!」

 昼休みになり、社員食堂で昼食を食べ終えコーヒーを飲んでいるところだった。
 慌てた様子の部下が駆け寄ってくる。

「どうしました?」

「それが……」

 彼は言いづらそうに口ごもる。

「落ち着いてください。ゆっくり話せば大丈夫ですよ」

「すみません」

「いえいえ」

「実は、うちの商品がリコールの対象になったらしく……」

「あぁ、そうですか」

「……驚かないんですか?」

「まぁね。いつかはそうなると予想はしていましたからね」

「はぁ……。それでですね、回収するにあたって対象製品をリストアップしたので目を通しておいてくださいとのことなんですよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 僕は紙を受け取ると、ポケットからスマートフォンを取り出して電話をかけ始めた。

「もしもし、私です。例の件ですが、やはり対象製品になっていましたよ。はい、はい、よろしくお願いします。失礼します」

 電話を切ると、再びメールを開き、送られてきたリストを確認する。

「ふむ、なるほど」

 兄が父親のあとを継ぎ社長に就任し、僕が出世コースであるマーケティング部の部長として業務を順調に行っている。
 そんな同族経営を真正面から行えば、社内から不満の声があがるのもわかりきっていたことだ。
 それが直接的な言葉ではなく、こういったリコール商品を生み出すといった諸刃の剣みたいなやり方でやってくるのだからタチが悪かった。
 送られてきたリストには不満を抱いているだろうと予想される社員の名前がズラりと並んでいた。
 厳しさで会社を締めつけていた父親が社長の時は良くも悪くもこういった不安分子を押さえつけていたのだろう。
 父親が退任したことで、そのタガが外れて積み重なった不満が腹にダイナマイトを巻き付けて特攻するみたいな事をさせているのかもしれない。

 リストは父親から送られてきていた。
 退任したとはいえ未だに自分の会社であり、株を大量に保持している。
 なので、僕や兄以外にしっかりと会社内に優秀な駒は置いたままらしく、そこから情報を集めているようだ。
 父親の協力もあり、この一年は兄と共に不安分子を排除していくことも仕事の一部になっていた。
 初めての家族共同の仕事がこんな形なのは何とも言い難い悔しさがあるのだが、こんな状況になったのは父親が撒いた種のせいだとも思えるので最後まで父親には手伝わせるつもりだった。

 まるでモグラ叩きみたいに不安分子を潰していこうとも、後手後手に回ってしまっているのは確かだった。
 結局リコール商品を世に出してしまったことは、会社の経営に多大なダメージを与えることになった。
 なったが、膿を出す為ならば最早仕方ないと言える。
 リコール商品を世に出した責任を担当部署に取らせる。
 わざとこんなことになってしまった、という証拠もしっかりと揃えて晒し首にしてやる。
 不安分子を潰し社内の浄化を行っていく。

 受けたダメージ以上にしっかりとした建て直しを行い今後へと繋げていくつもりだ。
 今後。
 いつしか兄に代わり僕が社長となった時に会社の経営が安泰であるように準備を進めていく。
 これは必要な痛みだった。
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