ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

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Ep.5 母子

.8 サムズアップ

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 それから、予想通り古田穣治は、須藤さんから電話がかかってきた、という理由でその場から去っていった。
 タイミングよくかかってきた電話の応対口調からして仕事の電話っぽかったので、マネージャーとかそういう関係の人からだったのだろう。
 丸々嘘じゃなさそうなところが、憎めないところなのか、囲みのママさんファン達もその古田穣治の理由に素直に納得することにしたようで、引き止めるような厄介なファンは居なかった。

 古田穣治は立ち上がる前に、自身主演である特撮番組の決めポーズと言えるサムズアップを剛志に向けてやってくれて、古田穣治にくっつく子供達も真似て親指を立てて、それを剛志も真似て返していた。
 毎朝流してる番組の中だと、何となく良いポーズ、ぐらいの認識だったけどこうして見ると凄く良いポーズに見えた。
 今度、真似しようかな。

 主役が居なくなったことで人集りは解散となって、私も剛志を自転車の後部座席に乗せて帰ることにした。
 剛志はすっかりニッコニッコになっていて、あれだけ恥ずかしそうにしていた首筋の怪我も嬉しそうに撫でていた。

「つよくん、嬉しくても怪我あんまり触っちゃ痛くなっちゃうよ」

 怪我の心配をして注意するしかない自分が、古田穣治の後だと情けなく感じる。
 息子が喜ぶ姿に横槍を入れてる母親みたいで、嫌われないか不安になる。

「はーい」

 私の不安とは裏腹に剛志はご機嫌モードなので、素直に返事してくれた。
 それにしても怪我がむき出しに晒されているのは少々落ち着かなかった。
 保育園が剛志の怪我に対して処置を行ってなかったわけではない、らしい。
 絆創膏なりガーゼなり包帯なりと、何かしら付けることで目立つのを剛志が嫌がったのだという。
 先程まで怪我のことを恥ずかしがっていた剛志の意志なのだとは思うが、何もそれを尊重しなくてもと思ってしまう。
 怪我からバイ菌が入るとか、そういうのの心配を優先して欲しかったが、我儘と意志との区別が難しいところなのだろうか?

 どこか保育園への不満が抜けないまま、自転車を漕いで再び帰路に着く。
 古田穣治の対応の良さへの比較か、私が出来なかったことへの不満を八つ当たりしてるのか。
 外にまでは出さない程度の怒りで抑えながらも、こういう不満に思うことも良くないなと自分を戒める。
 やってもらって当たり前はよくない。
 感謝の心持ちとしても物事への心構えとしても、片親としては身に染みて理解しなきゃならない言葉だ。
 私が出来ることは、私がやるべきだ。
 家に着いたら剛志の怪我の処置をしてあげよう。

 自転車を漕いで十数分。
 後部座席で剛志が高らかに歌う特撮番組のオープニングテーマを聴きながら、家に辿り着く。
 思わぬ寄り道になったけど、今日は買い物に行かなくていい日なので良かった。
 一度の買い物で数日分買っておくのはすっかり習慣づいていた。
 毎日買い物に行こうとすると予定立てが大変だからだ。
 剛志と一緒にいると、今日みたいに突然何が起こるかわからない。
 
 ご機嫌なままの剛志を着替えさせる。
 剛志は家に着くなり、朝も見た特撮番組のお気に入りシーンをテレビモニターに再生して没頭していたので、邪魔者にならないよう着替えさせるのはなかなか骨が折れた。

 服を着替えさせたついでに首筋にガーゼと包帯を付けてあげる。
 首が苦しくならないように注意しながら付けてあげるのは、ちょっとだけ手間だった。
 怪我が大袈裟に見えることを嫌っていた剛志だったが、鏡で自分の姿を見るなりどうやら包帯姿が気に入ったようで喜んでいた。
 鏡に映る首に包帯を巻かれた自分に向かって親指を立てては、満足そうに微笑んでいる。

 アレかな、将来ものもらいとかで眼帯付けてテンション上がるタイプなのかな。
 別にいいのだけど。
 私はそういうタイプじゃないしな、そういうテンションの上がり方をされた時にリアクションに困りそうだ。

 曽代みたいな赤いマフラーみたいにして欲しいと剛志に駄々をこねられたが、赤染の包帯なんて怖いだろうと思って私は頑なに断った。
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