ヒーロー・チェーン: 伝染する呪い、選ばれた者が死ぬ都市伝説

清泪─せいな

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Ex

Ep.5.12 皆の笑顔の為に Ex.剛志

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「だいじょうぶだよ」

 震える私の袖を剛志が引っ張る。
 窓の外から視線を外して振り向くと、剛志が微笑んでいた。
 この言い知れぬ恐怖を剛志は感じていないのか、私の気のせいなのだろうか。
 いや、違う。
 だいじょうぶ、その一言がそれを否定する。

「つよくん?」

 剛志の微笑みに私はいつもなら安心するのに、とてつもなく不安に思えてしまった。
 だいじょうぶ、の言葉に隠された強がりなんかとは違う、剛志のことを失ってしまうような不安。

「ここちゃんのえがおは、ぼくがまもるから」

 剛志の言葉に、私は心臓が止まるかと思った。

 剛志は、わかっているのだ。
 この状況を、わかっているのだ。
 そして、私も、わかった。
 この状況を、わからされた。

「……ダメよ、つよくん。変身したら、ダメ!!」

 剛志の言葉と微笑みに引っ張られるように、ようやく私も状況を理解出来た。
 いや、飲み込めたというべきか。
 さっき調べたばかりのことが、どれも真実だという残酷さと理不尽さを飲み込めた。

 つまり、私には死が迫っていて、それを助ける役目は剛志だということ。
 そして、その役目を全うしてしまえば、剛志が死んでしまうということ。

 唸り声が近づく。
 迫る恐怖に震えが止まらなくなってきた。
 
 皮肉にも今やっと、私は息子からの愛を実感している。
 ママと呼ばれるまで、私はやっぱり他人のままなのだと思っていたのに。
 剛志は私のことをちゃんと愛してくれている。

 なのに、なのに!!

 私は自分の首筋を触った。
 何の違和感もない。
 何の違和感もない!
 何の違和感もない!!

 私は首筋を引っ掻いた。

 皮膚が爪に抉られ、血が指につくのがわかる。
 痛みなんてどうだっていい。
 血が流れようがどうだっていい。

 だけど、だけど!

 生温かいままだ。
 私の体温、そのもののままだ。

 冷たいと、冷たいと書いてあった。
 痣は冷たいのだと、書いてあったんだ!

 ああ、ああ、何故?
 何故なの!?

「つよくん、私は!……私は、つよくんのこと、愛しているんだよ。本当に、本当に、愛しているんだよ!?」

 怖い。
 たまらなく怖くて、剛志の事を抱きしめた。

 私は、剛志のことを愛していないのか?
 剛志は私のことを愛してくれているというのに。
 痣が浮かび上がるほど、愛してくれているというのに。
 そんなこと……嘘だ!

「ここちゃん、泣かないで」

 剛志にそう言われて、私は涙を流していることに気づいた。
 こんなもの流れたって、何にも変わらないのに。
 こんなもの流れたって、痣は浮かび上がらないのに。
 涙は止まらず、流れ続けた。

「私は、つよくんのことを愛しているの! だから、私が、私が! 私が、貴方を守らないといけないの!」

 叫んでも、願っても。
 愛しているのに、守らないといけないのに、私の首筋には痣が現れなかった。

 唸り声が近づいてくる。

 私は――

 剛志を守りたい。
→剛志に守られたい。
 ここから逃げ出したい。

「ここちゃん、なかないで。ここちゃんのえがおはぼくがまもるから!」

 いつの間にか剛志が私の手を握っていた。
 いつもより、強く温かく感じるその手。
 その手が、黒く染まっていく。
 首にあった痣が広がっている。
 剛志の小さな身体を包んでいく。

 ああ、もう終わるんだ。
 剛志との生活が。
 こんなにも呆気なく。
 終わるんだ。

「ここちゃん、みててね、ぼくの――」

 剛志の皮膚が剥がれていく。
 中から光が溢れ出す。
 剛志の身体が光に包まれていく。

「へんちん!」

 光となっていく離れた剛志の手は――

 仄かに――冷たかった。
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