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清泪─せいな

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プロローグ

2 目と目で通じ合う

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 よしっ、とでも言ったのか、大男はひと声叫ぶと、大剣で地面を小突き武志の意識を引き戻した。
 大男は右手の人差し指と中指を自分の目に向けたあと、手首を返して武志の目を指す。
 そのジェスチャーの意味する事、つまり――。

「アイ、コンタクト? 本気かよ、アンタ?」

 武志は困惑の表情を浮かべる。
 それもそうだ、今会ったばかりで、言葉も通じない相手だ。
 目の動きだけで意思疎通なんて、できるわけがない。
 武志の困惑を理解したのかしていないのか、大男は力強く頷いた。
 再び、互いの目を指差すように指を動かした。
 四の五の言わずにやれ、と言っている様だ。
 やらなければ、トカゲ人間の食糧となるだけ。

 武志は大男がした様に小さくため息を吐いて、ああわかったよ、と頷いた。
 今のところ言葉は通じなくても、ジェスチャーだけは通じている。
 だったら、その延長線上としてアイコンタクトも上手くいくかもしれない。
 ほんの少しの可能性に賭けて、武志は腹をくくる事にした。
 じっとしてるよりはマシだろうし、最悪あの大剣の邪魔にならない様に勝手に動けば済む話だろう。
 ちゅるちゅるちゅる、と音が鳴る。
 トカゲ人間の目まぐるしく動く舌の音だ。
 不規則に動き回るその舌。
 不規則に聞こえるその音。
 一匹が音を鳴らすと隣に並ぶもう一匹が応える様に鳴らす。
 もしかしたら、あの音はトカゲ人間達の言葉なのかもしれない。
 それならば尚更、明らかに、武志の知っている“モノ”とは異なる。
 彼の知るそれは、人の言葉――少なくとも日本語を話した。

 トカゲ人間達は少しずつ少しずつ武志達との距離を詰めてきている。
 トカゲ人間達がじわじわと接近する中で、武志は彼らの装備に違和感を覚えた。
 防具のサイズというものが合っていない、大きかったり小さかったりマチマチだ。
 それに所々に血がついている。
 血はトカゲ人間達が持つ各々の得物にもついている。
 手斧、短刀、槍、棒。
 武器にも統一性が無い。
 そもそも持つ手を見てみると指は三本しかなく、自分達で装備を作り上げそうな器用さを感じない。
 武志はある一つの推測に辿り着いた。
 その装備と血痕の意味に思い至った瞬間、草原の風に混じる違和感を鼻が捉えた。
 草の匂いや爬虫類独特の匂いの中に紛れる様な微かな香り。
 死臭。

 トカゲ人間達は、人を襲い人を殺しそして人から装備を奪ったのだ。
 大男が地面に突き刺さっている大剣を左手で引っこ抜く。
 片手で軽々と引っこ抜き、回すように持ち方を変えて肩に担ぐ様に構える。
 右半身を後方へと開き膝を僅かに曲げる。
 大男の戦闘態勢だろうか、どうやら身の丈ほどある大剣を片手で扱うらしい。
 馬鹿げた怪力の持ち主か、あるいは、武志の知らない軽量の金属で大剣が造られているのかもしれない。
 大男は空いた右手でもう一度アイコンタクトのジェスチャーをしてみせる。
 武志は理解していると頷いて答えた。
 武志の返事に大男はまた不器用な笑みを浮かべて、そして動いた。

 右足、左足と二歩で詰め寄り、間髪入れずに大剣を振り下ろした。
 容赦なく躊躇なくトカゲ人間の一体が縦に真っ二つに割けた。
 あがる悲鳴らしき声と飛び散る血飛沫。
 大男は間髪入れずもう一歩踏み込むと右隣にいたもう一体を右手で殴り飛ばした。

 あまりの豪快な攻撃に唖然としていた武志に大男のアイコンタクトが送られる。
 視線は武志を見てから、真っ二つになったトカゲ人間のその先へと動く。
 つまり。

 道は開いた、さぁ逃げろ、だ。

 多勢に無勢、ということだろうか。
 大男の攻勢からしてみればいくら相手が大勢とはいえ敗北しそうにも思えないのだが。
 思えないが、武志は大男の指示に従う事にした。
 ここは見知らぬ土地であり、しっかりと状況を把握できていないという大前提がある。
 見たものだけで状況を理解しようとするには危うい。
 直後に何が起こるかはわかったものではない。
 郷に入れば郷に従え、と武志は叔父《おやっ》さんに教えられたのを思い出した。

 武志は指示された方に駆け出した。
 それに反応して数体のトカゲ人間が鳴き声をあげ動いたが、大男がそれを制している。
 まるで薙刀の様に振り回す大剣は、横払いにトカゲ人間達を斬り分けていく。

 囲んでいたトカゲ人間の集団の先、武志は用心して駆け抜けるも何者の姿もそこにはなかった。
 あるのは踏み潰された荒れた草原だけ。
 これならば逃げるのは容易だろうと、武志は後ろを振り返った。
 そこにはトカゲ人間の集団と未だ戦い続ける大男の姿があった。
 大男の初撃から続いた圧倒的な攻撃に動揺していたトカゲ人間達も冷静さを取り戻し、大振りな大男の隙を窺い、反撃に出ようとしていた。
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