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IV
22 抗戦と更なる疑惑
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顔面に黒鉄の拳を叩き込まれたスピュートは後方へ転がり、室内の木製の丸テーブルに激突した。
テーブルの脚は簡単に折れてしまい、丸い天板がへたり込むスピュートの前に落ちた。
その天板にアースカが追撃にと放った矢が三本、突き刺さった。
スピュートはその天板を片手に持ち上げて立ち上がり、盾のように構えて再び武志に向かって駆け出す。
さっきの一撃は、慢心と予想外が重なった、まさに痛恨のミスだった。
スピュートの狙いは、通りへ出ていこうとするふらつく武志ではなくその先にいる弓使い──アースカだった。
それ故にスピュートは魔素を使わずに己が持つ元々の俊敏性のみで武志をすり抜ける算段であった。
魔素による外装に加え、援護の矢まで飛んでくる。
厄介な相手と見て、優先順位を変更したのだ。
予想外だったのは、武志が黒鉄の外装を拳に纏ったところで速度まで増したことである。
「魔素を全身に纏うとは、正気か!? やっぱり気持ち悪いな、テメェは!」
今度の突進は完全に武志に向けてのものであった。
効果時間は短いが、魔素によりスピュートは加速する。
テーブルの天板が盾となり武志の眼前に迫っていた。
天板が視界を遮り、スピュートの姿も──何より本命の槍の動きも見えなかった。
見えない。
速度についていけない。
ならば、武志にできることは一つ──
正面切って殴りつける。
武志は再び、左足を踏み込んで右腕を大きく振りかぶった。
木製の丸い天板は、黒鉄の拳に簡単に打ち抜かれる。
拳の形に打ち抜かれた天板はそこから縦に割れていき──その影から槍の先端が現れる。
真っ向からぶつかる鉄製の槍と黒鉄の拳。
「クソがぁ!──」
吠えるのは、スピュート。
砕けゆくのは、鉄製の槍。
鉄槍の刃をものともせず、黒鉄の拳はスピュートの鎧──胸元に刻まれたフクロウの紋章を真正面から打ち抜いた。
再び、スピュートの身体を家の中に押し返した。
「オイ、嘘だろ、スピュートさんの槍を砕きやがったぞ」
壁の崩れた住居で行われる戦闘。
ギルド員の一人がそう驚きの声を上げると、ヴィンドは自分に注意を向けるように仕込み杖を軽く横に振った。
「こちらとしては誤解されたままの無駄な戦闘は避けたいのです。これ以上大きな被害になる前に、ギルドの方には引いて頂きたいのですが?」
「避けたいってのは方便か? 引かなきゃ武力行使も辞さないってことかよ、ジイサン?」
「こちらもただ好き勝手にやられる訳にはいきませんからな」
腰に下げた鉄製の剣に手を添えたままもう一人のギルド員は考え込むように頷いた。
スピュートはギルド・アルペッツステーレが契約する傭兵の中でもやり手の傭兵だ。
旅の途中で寄った旅人たちなら保身に避ける厄介な魔物退治も率先して引き受け、あっさりと片付けてしまうほどの実力者だ。
その実力の持ち主である槍使いの攻撃は弾かれ、自慢の鉄槍も砕け散った。
ギルド員の前に立つ老人の威圧感から察する力量。
そして、遠く離れた位置から正確に矢を放つ弓使いの実力。
どちらも計り知れない。
人数的には三対三であるが、スピュートにも実力が程届かないギルド員二名を数に入れるには無理がある。
ここは退くべきか、そうギルド員の男が鉄製の剣に添えた手を離した時、立ち並ぶ住居の影から一人の女性が現れた。
「ちょっと待って、ギルドの人たち。この襲撃を仕組んだのは──あの一団よ」
砂埃で汚れたマントに身を覆い、細身で長身、腰まで伸びた金髪をなびかせる女性。
艶のある声が、襲撃された喧騒の街中でハッキリと通った。
「・・・・・・誰だ、アンタは?」
ギルド員の一人は鉄製の剣に再び手を添えて、突如現れた女性に向かい警戒する。
「魔に飲み込まれた北の大国──ソルから逃げ延びた者と言えば大体の事情は察してくれるかしら?」
艶のある声の女性は、両手を広げて見せて武器は持っていないとギルド員に示す。
「ソル、ですと?」
ギルド員より早くヴィンドがその国名に反応する。
「ソルの人間じゃないと知らないと思うのだけど、そこのお爺さん、知る人ぞ知るってお爺さんでね。それにそのお爺さんが仕えてる人物も──」
ヴィンドが女性の言わんとすることに勘づくと同時に、艶のある声の女性はヴィンドに向けてウィンクを送る。
「──北の大国ソルを魔素漬けへと陥れた第一王子、ノールって名前の青い甲冑の騎士がこの街にやって来てるわ。この魔狼騒動も彼が引き起こしてる、間違いないわね。彼らはその一行なのよ、ギルドの人。今すぐ捕まえないと、街が危険だわ」
ソルという国名が今どれほどの危険性を孕むのかギルド員の男たちは理解していた。
突然現れた女性の言葉に軽々と従うつもりは無かったが、女性の告発が終わるや聞こえるのは街を襲う魔狼の咆哮。
デトハーが北の大国のように魔素に飲み込まれるなどあってはならない。
街を守り続けてきたギルド員達はその使命に、非力だとわかっていても、確信の無い可能性の話だとしても、己が持つ武器を構えざるを得なくなった。
二人の動きを見届けた女性は、口元だけで微笑み、さながら風のように建物の影へと消えていった。
代わりに魔狼が数体、戦う武志達、対峙するヴィンド達を取り囲むように影から現れた。
テーブルの脚は簡単に折れてしまい、丸い天板がへたり込むスピュートの前に落ちた。
その天板にアースカが追撃にと放った矢が三本、突き刺さった。
スピュートはその天板を片手に持ち上げて立ち上がり、盾のように構えて再び武志に向かって駆け出す。
さっきの一撃は、慢心と予想外が重なった、まさに痛恨のミスだった。
スピュートの狙いは、通りへ出ていこうとするふらつく武志ではなくその先にいる弓使い──アースカだった。
それ故にスピュートは魔素を使わずに己が持つ元々の俊敏性のみで武志をすり抜ける算段であった。
魔素による外装に加え、援護の矢まで飛んでくる。
厄介な相手と見て、優先順位を変更したのだ。
予想外だったのは、武志が黒鉄の外装を拳に纏ったところで速度まで増したことである。
「魔素を全身に纏うとは、正気か!? やっぱり気持ち悪いな、テメェは!」
今度の突進は完全に武志に向けてのものであった。
効果時間は短いが、魔素によりスピュートは加速する。
テーブルの天板が盾となり武志の眼前に迫っていた。
天板が視界を遮り、スピュートの姿も──何より本命の槍の動きも見えなかった。
見えない。
速度についていけない。
ならば、武志にできることは一つ──
正面切って殴りつける。
武志は再び、左足を踏み込んで右腕を大きく振りかぶった。
木製の丸い天板は、黒鉄の拳に簡単に打ち抜かれる。
拳の形に打ち抜かれた天板はそこから縦に割れていき──その影から槍の先端が現れる。
真っ向からぶつかる鉄製の槍と黒鉄の拳。
「クソがぁ!──」
吠えるのは、スピュート。
砕けゆくのは、鉄製の槍。
鉄槍の刃をものともせず、黒鉄の拳はスピュートの鎧──胸元に刻まれたフクロウの紋章を真正面から打ち抜いた。
再び、スピュートの身体を家の中に押し返した。
「オイ、嘘だろ、スピュートさんの槍を砕きやがったぞ」
壁の崩れた住居で行われる戦闘。
ギルド員の一人がそう驚きの声を上げると、ヴィンドは自分に注意を向けるように仕込み杖を軽く横に振った。
「こちらとしては誤解されたままの無駄な戦闘は避けたいのです。これ以上大きな被害になる前に、ギルドの方には引いて頂きたいのですが?」
「避けたいってのは方便か? 引かなきゃ武力行使も辞さないってことかよ、ジイサン?」
「こちらもただ好き勝手にやられる訳にはいきませんからな」
腰に下げた鉄製の剣に手を添えたままもう一人のギルド員は考え込むように頷いた。
スピュートはギルド・アルペッツステーレが契約する傭兵の中でもやり手の傭兵だ。
旅の途中で寄った旅人たちなら保身に避ける厄介な魔物退治も率先して引き受け、あっさりと片付けてしまうほどの実力者だ。
その実力の持ち主である槍使いの攻撃は弾かれ、自慢の鉄槍も砕け散った。
ギルド員の前に立つ老人の威圧感から察する力量。
そして、遠く離れた位置から正確に矢を放つ弓使いの実力。
どちらも計り知れない。
人数的には三対三であるが、スピュートにも実力が程届かないギルド員二名を数に入れるには無理がある。
ここは退くべきか、そうギルド員の男が鉄製の剣に添えた手を離した時、立ち並ぶ住居の影から一人の女性が現れた。
「ちょっと待って、ギルドの人たち。この襲撃を仕組んだのは──あの一団よ」
砂埃で汚れたマントに身を覆い、細身で長身、腰まで伸びた金髪をなびかせる女性。
艶のある声が、襲撃された喧騒の街中でハッキリと通った。
「・・・・・・誰だ、アンタは?」
ギルド員の一人は鉄製の剣に再び手を添えて、突如現れた女性に向かい警戒する。
「魔に飲み込まれた北の大国──ソルから逃げ延びた者と言えば大体の事情は察してくれるかしら?」
艶のある声の女性は、両手を広げて見せて武器は持っていないとギルド員に示す。
「ソル、ですと?」
ギルド員より早くヴィンドがその国名に反応する。
「ソルの人間じゃないと知らないと思うのだけど、そこのお爺さん、知る人ぞ知るってお爺さんでね。それにそのお爺さんが仕えてる人物も──」
ヴィンドが女性の言わんとすることに勘づくと同時に、艶のある声の女性はヴィンドに向けてウィンクを送る。
「──北の大国ソルを魔素漬けへと陥れた第一王子、ノールって名前の青い甲冑の騎士がこの街にやって来てるわ。この魔狼騒動も彼が引き起こしてる、間違いないわね。彼らはその一行なのよ、ギルドの人。今すぐ捕まえないと、街が危険だわ」
ソルという国名が今どれほどの危険性を孕むのかギルド員の男たちは理解していた。
突然現れた女性の言葉に軽々と従うつもりは無かったが、女性の告発が終わるや聞こえるのは街を襲う魔狼の咆哮。
デトハーが北の大国のように魔素に飲み込まれるなどあってはならない。
街を守り続けてきたギルド員達はその使命に、非力だとわかっていても、確信の無い可能性の話だとしても、己が持つ武器を構えざるを得なくなった。
二人の動きを見届けた女性は、口元だけで微笑み、さながら風のように建物の影へと消えていった。
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