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清泪─せいな

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IV

26 行使される力と予想される最悪

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「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 魔狼に覆いかぶさられたギルド員は、情けない悲鳴を上げながら仰向けに倒れた。
 構えていたナイフが襲いかかった魔狼に突き刺さったことで、振りかぶられた前足の動きが止まり、辛うじて深手は免れたようだ。
 再び動き出す前に、とヴィンドがナイフの突き刺さった魔狼にトドメと仕込み刃を振り抜いた。

「す、すまない」

「礼は結構。次が来ますぞ、立ち上がってくだされ」

 一匹、魔狼が魔素へと還っていけば、また夜の影から新たな魔素が現れる。
 魔素溜りから生まれる自然発生の魔狼とは違う、呼び出された形に見られる現象だ。
 街の高い外壁を乗り越えてきたか、あるいはどこかの穴から侵入してきたと考えるには、数が多すぎた。
 ヴィンドはその可能性を否定する。
 夜の街に都度都度響く狼の咆哮と逃げる街の住人の悲鳴から考えて、襲撃範囲は街全体に広がってるとみて間違いない。
 そんな中で東側の一角であるこの場所にさっと数えるだけで十数匹の魔狼、集まりすぎであった。
 この数が街全体を襲っているとなると、全体で百匹近くの魔狼がいることになり、それがこの夜までギルドの周辺警戒に探知されずに息を潜めていたなどとは考えられなかった。
 ノールや武志への嘘の疑いも含め物知りの野盗が相手では無いということを、ヴィンドは三匹目の魔狼を斬り払いながら考えていた。
 相手は、複数の魔獣使いを擁する団体だ。

「魔獣使いが使役する魔狼ならば、一匹一匹仕留めても埒が明かないかもしれんな」

 魔素を巧みに練り上げることで獣として使役する技術を使うのが、魔獣使いである。
 大気中の魔素を使う為に己が体内にある魔素の消耗は少なく、使役した魔獣が倒されてもそれがまた魔素として大気中へと溶けるため再利用も可能。
 一見、省エネルギーで継続戦闘に向いた便利な技術に思えるが、制御を誤れば自分が襲われる──諸刃の剣とも言える高等技術なのだ。
 故に──。

「魔獣使い? ジイサン、今、魔獣使いと言ったか?」

「左様で。周りを囲む数からして、そういう推察をしたところです」

 鉄製の剣を振りかざし迫り来る魔狼を斬り払ったギルド員の男は、ヴィンドの零した言葉に引っかかっていた。
 念を押して肯定された言葉の意味は、ギルド員の男が今起こってる襲撃に対して想像してるより悪いものである。

 魔獣使いは高等技術であり、故に。

「この襲撃に魔獣使いが加わっているというのであれば、それはつまり、他国のギルド、もしくは騎士団相当の手であると言うことだぞ!?」

 故に──使い手は各国にて制限されている。
 北の国ソルが魔素に飲み込まれてからは、なおさらの処置であった。

「ソルの生き残りだと言われたアンタらが、連れてきた魔獣使いヤツらだと言われた方がマシだぞ?」

 鉄製の剣を振るうギルド員は更に一体二体と魔狼を薙ぎ払っていく。
 魔狼の相手自体はそれなりの戦いの心得があれば苦労することは無い。
 ギルドに所属する者には非戦闘員も多く、尻餅をついたままのナイフを持つギルド員などはその部類で、そういった非戦闘員や街の住人などには多少の脅威となりえる程度だ。

「もちろん我々はこの襲撃に関係ない、と否定しておきましょうか」

 ギルド員よりもずっと速い剣捌きで、次から次へと魔狼を斬っていくヴィンド。
 見た目の年老いた姿からは想像だにつかぬ身体能力で、襲い来る魔狼達の爪や牙を軽々と躱しながら一撃必殺で斬り払っていく。
 しかし自分からは踏み込み追うことはせず、立っている場所は変わらずギルド員たちとの距離は近いままだ。

「・・・・・・だとするとだ。ジイサンの言い分を信じた場合、この襲撃は他所の国からの襲撃だと考えられちまう。わかってんのかジイサン、それはつまり──」

 わかっているか、そう問いをヴィンドに向けるギルド員の男だが、しかしそれは自問でもあった。
 自分たちでは到底敵うはずもないであろう戦闘力を持っている老人が、この場を離れずに防戦している。
 わかっているか、老人がやっていることは防戦だ、倒れるギルド員の仲間を守ってくれているのだ。
 わかっているか、疑いを免れる為にする時間稼ぎなどではないことを。
 わかっているか、それはつまり──。

「──戦争を仕掛けられているのか、このデトハーは!?」

 ギルド員の言葉を肯定も否定もすることなく、ヴィンドは襲い来る魔狼をまた、三匹一斉に斬り払っていた。
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