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IV
27 山修行の思い出と三匹の魔狼
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地を這うように迫ってくる魔狼に、武志は手を焼いていた。
背後の崩れた住居に寄りかかるようにしながら、足元から跳びかかってくる魔狼に拳を振るうも空を切る。
無防備になった身体めがけて、別の魔狼が飛びかかってきたため、慌てて腕を振り払った。
気づけば三匹の魔狼が代わる代わる爪を振りかざし、牙を剥いていた。
魔素でできた外装がそれを弾いてくれてはいたが、相手はその程度で諦めるタマではない。
速さが足りない。
槍の男と対峙していたときの言葉が、武志の頭をよぎる。
今の武志の拳は、魔狼の動きに追いつけず、ことごとく空を切っていた。
地を這うように駆ける魔狼には下段回し蹴りで応じたが、ブレーキをかけたように止まってかわされ、体勢を崩したところへ三匹が一斉に襲いかかってくる。
攻撃は弾いても、当たらなければ意味がない。
しかも、魔素の外装が削られた瞬間、形勢は一気に逆転する。
離れた場所ではヴィンドが、魔狼を次々と仕込み刀でなぎ倒していた。
(あのジイサン、強すぎじゃないか?)
僧侶とは名ばかりだったのか──武志は魔狼に警戒しつつも、つい視線をヴィンドへと向けてしまう。
速さが足りない。
そう思うたび、ヴィンドの動きにその答えを求めてしまう。
だが、魔素を操って身体能力を引き上げる術など、武志にはわからなかった。
変身! と気合いを入れて外装をまとわせるのが精一杯で、それ以上の応用は効かない。
──狼と遭遇したのは、小学校高学年の頃だった。
キャンプとサバイバル訓練を兼ねた山修行。
叔父さんと行ったその時、武志は五匹の狼に囲まれてただ怯えるばかりだった。
テントの周囲に現れた狼たちを追い払ったのは、他でもない叔父さんだった。
「相手の動きをよく見ろ」
逃げていく狼を見送りながら、叔父さんが武志の肩を掴んで言った。
あのときは怖くて何も見れなかった。
だが今なら、見えるかもしれない。
あの日の叔父さんの言葉を思い出しながら、武志はヴィンドの動きを目で追う。
山修行の時には怯えてまともに見れなかった、実践する者の動き。
相手の動きを見てその虚を突いていく、速度に速度をぶつける真っ向からのカウンターとは別の動き。
ヴィンドの動きは、標的ではないギルド員の近くにいる魔狼に視線を向けさせ、そこへ一瞬攻撃の素振りを見せて反応を誘い、別角度から斬り払うというものだった。
先手なのか後手の先なのか、まるで魔狼の思考を先読みしているようにさえ見える。
(何だよ、その動きは!)
参考にしようと見た老人の動きが、そもそも理解するのにレベルが違いすぎて武志は悪態がつきたくなった。
そんなのできっかよ、と叔父さんに戦闘技術を学びだした時の気持ちを思い出す。
警察仕込みの捕縛術は、空手やら柔道やらが混ざり合う高等技術だったので相手の手を取ったあとの絡め方など一目見た時にはイリュージョンのようであった。
ヴィンドの動きも今まさに奇術じみていた。
魔狼の頭めがけて仕込み刀を下方から振り上げる、とほんの一瞬だけ動きを入れるとそれに反応して魔狼の巨躯を横一線に薙ぎ払う。
動きをよく見ろ、とは叔父さんによく言われたものだ。
親代わりに武志を育てていく上での叔父さんの教育方針だったらしい。
実践して見せ学ばせる。
だから、見て学ぶということは武志にとって馴染みある行為であった。
あとは取り入れ方の問題だ。
武志を囲む三匹の魔狼による何度目かになる諦めない疾駆。
正面左右と三方から迫る、獲物を必ず噛み殺そうとする強い意志を感じる。
魔素から成る存在であろうと、生物としての本能はあり、その元となった生物を模倣するのだろうか。
武志はまず下段回し蹴りを振る。
先行する正面の魔狼への牽制、即座に反応し蹴りの軌道を読んで地を蹴り跳ねる魔狼。
武志はその魔狼の動きに合わせて振っていた蹴りを強引に地面へと降ろすと、踵で地を蹴り前へと身を乗り出した。
跳ねる魔狼を追いかける武志、両手を前へと伸ばし、魔狼の頭に掴みかかる。
抗う魔狼が大きく口を開き牙を突き立てようとするのもものともせず、掴んだその頭を左右に振りかぶった。
魔狼の巨躯をジャイアントスイングのように振り回し、左右から迫る二匹の魔狼へ牽制すると、それを避けようとする右側の魔狼へと掴んでいた魔狼を投げつけた。
巨躯と巨躯がぶつかって呻くような魔狼の鳴き声が聞こえる。
仲間二匹を攻撃されて左側の魔狼は激高するように吠え、武志へと飛びかかる。
武志は即座に右腕を大きく振りかぶり、槍の男へと見せたカウンターの体勢に入る。
魔素で成り立つ狼は、普通の狼とは別物であり、その身を空に飛びあがらせてもまだ危険に対して反応させることが出来る。
空を叩くように身体を反らせると、武志の振りかぶるパンチの軌道からその身を避けさせた。
だが、しかし、武志の狙いは最初から──。
(まずは、一つ!)
振りかぶる勢いを左足に乗せ地を強く踏み込み、前へと飛び上がる武志。
体勢としては不格好、しかし勢いは増して。
夜を照らす火事の明かりが、避けた魔狼に武志の影を落とした。
真上から、真下。
魔狼の巨躯へと武志の拳が突き落とされた。
背後の崩れた住居に寄りかかるようにしながら、足元から跳びかかってくる魔狼に拳を振るうも空を切る。
無防備になった身体めがけて、別の魔狼が飛びかかってきたため、慌てて腕を振り払った。
気づけば三匹の魔狼が代わる代わる爪を振りかざし、牙を剥いていた。
魔素でできた外装がそれを弾いてくれてはいたが、相手はその程度で諦めるタマではない。
速さが足りない。
槍の男と対峙していたときの言葉が、武志の頭をよぎる。
今の武志の拳は、魔狼の動きに追いつけず、ことごとく空を切っていた。
地を這うように駆ける魔狼には下段回し蹴りで応じたが、ブレーキをかけたように止まってかわされ、体勢を崩したところへ三匹が一斉に襲いかかってくる。
攻撃は弾いても、当たらなければ意味がない。
しかも、魔素の外装が削られた瞬間、形勢は一気に逆転する。
離れた場所ではヴィンドが、魔狼を次々と仕込み刀でなぎ倒していた。
(あのジイサン、強すぎじゃないか?)
僧侶とは名ばかりだったのか──武志は魔狼に警戒しつつも、つい視線をヴィンドへと向けてしまう。
速さが足りない。
そう思うたび、ヴィンドの動きにその答えを求めてしまう。
だが、魔素を操って身体能力を引き上げる術など、武志にはわからなかった。
変身! と気合いを入れて外装をまとわせるのが精一杯で、それ以上の応用は効かない。
──狼と遭遇したのは、小学校高学年の頃だった。
キャンプとサバイバル訓練を兼ねた山修行。
叔父さんと行ったその時、武志は五匹の狼に囲まれてただ怯えるばかりだった。
テントの周囲に現れた狼たちを追い払ったのは、他でもない叔父さんだった。
「相手の動きをよく見ろ」
逃げていく狼を見送りながら、叔父さんが武志の肩を掴んで言った。
あのときは怖くて何も見れなかった。
だが今なら、見えるかもしれない。
あの日の叔父さんの言葉を思い出しながら、武志はヴィンドの動きを目で追う。
山修行の時には怯えてまともに見れなかった、実践する者の動き。
相手の動きを見てその虚を突いていく、速度に速度をぶつける真っ向からのカウンターとは別の動き。
ヴィンドの動きは、標的ではないギルド員の近くにいる魔狼に視線を向けさせ、そこへ一瞬攻撃の素振りを見せて反応を誘い、別角度から斬り払うというものだった。
先手なのか後手の先なのか、まるで魔狼の思考を先読みしているようにさえ見える。
(何だよ、その動きは!)
参考にしようと見た老人の動きが、そもそも理解するのにレベルが違いすぎて武志は悪態がつきたくなった。
そんなのできっかよ、と叔父さんに戦闘技術を学びだした時の気持ちを思い出す。
警察仕込みの捕縛術は、空手やら柔道やらが混ざり合う高等技術だったので相手の手を取ったあとの絡め方など一目見た時にはイリュージョンのようであった。
ヴィンドの動きも今まさに奇術じみていた。
魔狼の頭めがけて仕込み刀を下方から振り上げる、とほんの一瞬だけ動きを入れるとそれに反応して魔狼の巨躯を横一線に薙ぎ払う。
動きをよく見ろ、とは叔父さんによく言われたものだ。
親代わりに武志を育てていく上での叔父さんの教育方針だったらしい。
実践して見せ学ばせる。
だから、見て学ぶということは武志にとって馴染みある行為であった。
あとは取り入れ方の問題だ。
武志を囲む三匹の魔狼による何度目かになる諦めない疾駆。
正面左右と三方から迫る、獲物を必ず噛み殺そうとする強い意志を感じる。
魔素から成る存在であろうと、生物としての本能はあり、その元となった生物を模倣するのだろうか。
武志はまず下段回し蹴りを振る。
先行する正面の魔狼への牽制、即座に反応し蹴りの軌道を読んで地を蹴り跳ねる魔狼。
武志はその魔狼の動きに合わせて振っていた蹴りを強引に地面へと降ろすと、踵で地を蹴り前へと身を乗り出した。
跳ねる魔狼を追いかける武志、両手を前へと伸ばし、魔狼の頭に掴みかかる。
抗う魔狼が大きく口を開き牙を突き立てようとするのもものともせず、掴んだその頭を左右に振りかぶった。
魔狼の巨躯をジャイアントスイングのように振り回し、左右から迫る二匹の魔狼へ牽制すると、それを避けようとする右側の魔狼へと掴んでいた魔狼を投げつけた。
巨躯と巨躯がぶつかって呻くような魔狼の鳴き声が聞こえる。
仲間二匹を攻撃されて左側の魔狼は激高するように吠え、武志へと飛びかかる。
武志は即座に右腕を大きく振りかぶり、槍の男へと見せたカウンターの体勢に入る。
魔素で成り立つ狼は、普通の狼とは別物であり、その身を空に飛びあがらせてもまだ危険に対して反応させることが出来る。
空を叩くように身体を反らせると、武志の振りかぶるパンチの軌道からその身を避けさせた。
だが、しかし、武志の狙いは最初から──。
(まずは、一つ!)
振りかぶる勢いを左足に乗せ地を強く踏み込み、前へと飛び上がる武志。
体勢としては不格好、しかし勢いは増して。
夜を照らす火事の明かりが、避けた魔狼に武志の影を落とした。
真上から、真下。
魔狼の巨躯へと武志の拳が突き落とされた。
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