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清泪─せいな

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IV

28 速度と威力

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 武志が魔狼の胴へ拳を振り下ろし、殴り貫く。
 魔狼は巨躯に空いた大穴から魔素へと変じ、宙に溶けていった。
 巨躯をぶつけあって怯んでいた残り二匹の魔狼は体勢を立て直すと、すぐさま武志に向かって吠え駆け出す。
 無理な姿勢で跳躍し、打ち下ろした武志は、二匹の魔狼への反応が遅れた。
 魔素の外装の強固さがあっての予想していたことではあった。
 反応が遅れても、魔狼の爪や牙を受ける前に退ける──そう踏んでの算段だった。
 しかしそれは、武志が独りで戦ってきていたからこその算段であった。

 前足を一歩、踏み込んだ距離で飛びかかれば獲物を仕留められる。
 武志へと吠え駆ける魔狼二匹が一撃を構えようとしたその瞬間──ドスッという音ともにその頭部に矢が突き刺さる。
 矢が突き刺さった魔狼二匹は足をもつれさせ、飛びかかろうとした巨躯を上下に揺らし、地面に倒れた。

 武志のいる位置からは少し離れた場所から、アースカが弓矢を放っていた。
 魔素で作り出した矢は、魔狼に突き刺さり動きを止めると役目を果たしたように溶け消えた。
 武志が魔狼の速度に翻弄される中、アースカは冷静に的を射抜いていた。
 アースカの放つ魔素矢は、通常の弓矢のように直線的に放たれたり、放物線を描き放たれるだけではなく、軌道をある程度コントロールすることが出来る。
 操作時間自体は短いものだが、速度で対応するもの相手でも逃すことは少ない。
 ゆえにアースカは、魔狼の速度にも動じなかった。
 しかしながら──。

 グルルッ。

 低く唸る音が、倒れた魔狼二匹から聞こえる。
 少し離れた距離でアースカは、弱々しくも巨躯を起こそうとする魔狼二匹を見て、やはりか、と呟いた。
 動きを捉え狙い撃てるものの、仕留めきれない。
 コントロールを重視する為に、一撃の威力が損なわれている。
 それはアースカが抱えている課題点であった。
 鱗で覆われたリザードマンやドラゴンに限らず、柔らかいはずの魔狼すら仕留めきれない。
 それは“ささやかな課題”などではなかった。
 単純に野生の狼だったなら、頭部に矢を突き立てればその命を奪い取ることは可能だったのだろうが、相手は魔素から生み出されたモノ。
 仕留め損ないの傷はすぐさま修復され、結果として無傷であることと変わらなくなる。
 現状、アースカの射撃では一瞬動きを止めることぐらいしか出来なかった。

 止めた一瞬、倒れ起き上がるまでの時間を作れれば武志ならその拳を振りかざすことは可能だともアースカはわかっていたが、あくまでも援護レベルであり、自身が魔狼に囲まれた際の不利は否めない。
 近接戦闘用に腰に鉄製のナイフを携えているが、武志やヴィンドほどの近接戦闘能力は無いので魔狼相手は手一杯だともアースカは自覚していた。
 一二匹であれば対処は出来るが、十数匹となると危機的な状況であると言わざるを得なかった。

「──タケシ君っ!」

「わかってる!!」

 起き上がる一匹に武志が、もう一匹にアースカが各々の攻撃を繰り出す。
 動き出す前に止める為に繰り出される前蹴り、リプレイされたように正確に同じ場所を突き刺す矢。
 双方の攻撃は、魔素から生み出された魔獣を仕留めるには足りなかった。
 武志に蹴られた魔狼は、ぶつかった衝撃に巨躯を仰け反らせるものの後転し着地すると、体勢を立て直しながら吠えた。
 アースカの矢が突き刺さった魔狼は、一瞬だけ怯むものの、もうふらつく素振りすら見せずにもう一匹と対峙している武志の背中に飛びかかった。

 一撃で仕留められないことは、アースカにとっての課題だ。
 それは今に始まった問題ではなく、これまでの戦いでも繰り返し直面してきた課題だった。
 なので、アースカが放ったのは一矢だけではなく──

 ドドドッ。

 遅れて放たれた魔素の矢が三本、武志に飛びかかろうとしていた魔狼の巨躯に突き刺さる。
 連続の衝撃に魔狼は跳ねた身体を仰け反らせる。
 矢が突き刺さる鈍音に反応した武志は、すかさず腰をひねり、上段回し蹴りで魔狼の頭を捉えて吹き飛ばした。

 音もなく地に落ちて溶けていく魔狼。
 代わりにと吠えるもう一匹の魔狼──へと更に放たれるアースカの矢が突き刺さった。
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