92 / 146
最終章 焼きそばパン大戦争
第九十一話 ミニチュア錫杖
しおりを挟む
「な――」
和美と矢附、そして齋藤も思わず息を呑んだ。カウンセリングルームに現れていた小早志真理亜の幻影が、突如身震いしたかと思うと掻き消えたのだ。耳にこびりついていた小早志真理亜の声も、跡形なく消え失せる。
何が起きたのか――そう言葉にしかけた瞬間。
ガラガラ――ドンッ。
スライド式のドアが豪快に開き、巫女装束の女性が姿を現した。
「邪魔するでー」
和美は驚きに目を丸くした。
矢附は心当たりのある人物とは違う装束に首をかしげ、齋藤の微笑みはわずかに引きつった。
「この部屋には、招待した人物しか入れないはずだったんですが……無視できるとはね、西生花菜さん?」
「無視やないよ。こんな小細工しはるから、高城さん探すのに余計時間かかったわ」
鬼の結界が効かない体質? いや、そうではない。力でこじ開けて侵入してきたのだ。齋藤の笑みはさらに引きつる。
「私を、探してたんですか?」
「そうや。奈菜を手伝ってほしい思てな」
――奈菜の仕事に首を突っ込むな。以前突きつけられたのは忠告ではなく、警告だった。言うことを聞かなければ力づくで阻む。そんな意味合いのはずだった。
それが一転、手のひらを返したような提案。和美は呆気にとられる。
「白鬼の力が必要ってことですか?」
「あ? いやいや、勘違いせんといて。鬼の力を便利道具みたいに扱う気はない。アンタに頼みたいのは尻拭いや。こんな事態になったんは、アンタが余計なことしたせいでもあるやろ?」
「余計なこと?」
「さっき言うてた白鬼の力や。余計な巻き戻しに、余計な蘇り。それで生まれた僅かな希望が、かえって小早志真理亜を狂わせたんよ」
わかっとるやろ? と花菜は続ける。
「そこのオッサンは西生家の失態やなんや言うとるかもしれん。でも、不用意な巻き戻しが残滓を顕にして、それが覚醒につながったんは事実やろ? アンタが姉さんのことを受けとめて、何もかも助けようなんてアホなこと考えんかったら、こんなことにはならんかった」
突きつけられる言葉に、和美は返す言葉を失った。
「あの、それはちょっと――」
「いいの、舞彩」
庇おうとした矢附を、和美は制した。責任の押し付け合いに意味はない。
「それで、花菜さん。私がやる尻拭いって?」
「まぁまぁ、言い方がキツかったのは認めるわ。そんなケンケンせんでええ。高城さんがいつもやっとる《お手伝い》感覚でやってくれたらええんよ」
そう言って花菜は腰の巾着から掌サイズの錫杖を取り出した。
「何ですか、それ……ミニチュア?」
「よう出来とるやろ。ウチの神社のお土産として人気の品や。ご利益もある、れっきとしたもんやで」
ほら、と花菜はミニサイズの錫杖を放った。和美はしっかり受け取り、掌の上でまじまじと見つめる。
「神社に錫杖……? 錫杖って仏教の道具じゃなかったですか?」
先ほどは止められた矢附が、思わず口を挟む。
「おお、矢附さんは詳しいな?」
名前を呼ばれ、矢附は動揺した。把握されていたことに驚いたのだ。
「いえ、ちょっと聞いたことがある程度で……」
「そもそもウチらの家は神道でもなけりゃ、仏教でもない。世間体のために形だけ真似しとるだけで、どっちつかずの立ち位置なんよ」
巫女装束をひらりと揺らしながら、花菜は淡々と語った。
和美と矢附、そして齋藤も思わず息を呑んだ。カウンセリングルームに現れていた小早志真理亜の幻影が、突如身震いしたかと思うと掻き消えたのだ。耳にこびりついていた小早志真理亜の声も、跡形なく消え失せる。
何が起きたのか――そう言葉にしかけた瞬間。
ガラガラ――ドンッ。
スライド式のドアが豪快に開き、巫女装束の女性が姿を現した。
「邪魔するでー」
和美は驚きに目を丸くした。
矢附は心当たりのある人物とは違う装束に首をかしげ、齋藤の微笑みはわずかに引きつった。
「この部屋には、招待した人物しか入れないはずだったんですが……無視できるとはね、西生花菜さん?」
「無視やないよ。こんな小細工しはるから、高城さん探すのに余計時間かかったわ」
鬼の結界が効かない体質? いや、そうではない。力でこじ開けて侵入してきたのだ。齋藤の笑みはさらに引きつる。
「私を、探してたんですか?」
「そうや。奈菜を手伝ってほしい思てな」
――奈菜の仕事に首を突っ込むな。以前突きつけられたのは忠告ではなく、警告だった。言うことを聞かなければ力づくで阻む。そんな意味合いのはずだった。
それが一転、手のひらを返したような提案。和美は呆気にとられる。
「白鬼の力が必要ってことですか?」
「あ? いやいや、勘違いせんといて。鬼の力を便利道具みたいに扱う気はない。アンタに頼みたいのは尻拭いや。こんな事態になったんは、アンタが余計なことしたせいでもあるやろ?」
「余計なこと?」
「さっき言うてた白鬼の力や。余計な巻き戻しに、余計な蘇り。それで生まれた僅かな希望が、かえって小早志真理亜を狂わせたんよ」
わかっとるやろ? と花菜は続ける。
「そこのオッサンは西生家の失態やなんや言うとるかもしれん。でも、不用意な巻き戻しが残滓を顕にして、それが覚醒につながったんは事実やろ? アンタが姉さんのことを受けとめて、何もかも助けようなんてアホなこと考えんかったら、こんなことにはならんかった」
突きつけられる言葉に、和美は返す言葉を失った。
「あの、それはちょっと――」
「いいの、舞彩」
庇おうとした矢附を、和美は制した。責任の押し付け合いに意味はない。
「それで、花菜さん。私がやる尻拭いって?」
「まぁまぁ、言い方がキツかったのは認めるわ。そんなケンケンせんでええ。高城さんがいつもやっとる《お手伝い》感覚でやってくれたらええんよ」
そう言って花菜は腰の巾着から掌サイズの錫杖を取り出した。
「何ですか、それ……ミニチュア?」
「よう出来とるやろ。ウチの神社のお土産として人気の品や。ご利益もある、れっきとしたもんやで」
ほら、と花菜はミニサイズの錫杖を放った。和美はしっかり受け取り、掌の上でまじまじと見つめる。
「神社に錫杖……? 錫杖って仏教の道具じゃなかったですか?」
先ほどは止められた矢附が、思わず口を挟む。
「おお、矢附さんは詳しいな?」
名前を呼ばれ、矢附は動揺した。把握されていたことに驚いたのだ。
「いえ、ちょっと聞いたことがある程度で……」
「そもそもウチらの家は神道でもなけりゃ、仏教でもない。世間体のために形だけ真似しとるだけで、どっちつかずの立ち位置なんよ」
巫女装束をひらりと揺らしながら、花菜は淡々と語った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。
神崎あら
青春
10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。
それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。
そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる