焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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最終章 焼きそばパン大戦争

第百二十八話 君が消えるまで殴るのを止めない

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「ぁ──」

 手足、そして首の拘束から解放されて笠原は言葉にならない声を上げて後ろに落ちるように倒れた。

「笠原さんっ!!」

 仰向けに倒れる笠原を呼ぶ鉤の顔に、小早志真里亞は回し蹴りで踵をぶつける。
 蹴られた鉤は、倒れている本棚の背面に転がる。

「大袈裟に大声を上げないでくれる? わかってるんでしょ、このぐらいじゃ死なないの」

 笠原の返り血に濡れる小早志真里亞。まるで赤子をあやす時のいないいないばあのように両手──六つの手を下から上へとゆっくりと動かすと小早志真里亞を赤く濡らした返り血はジュっという音ともに蒸発して消えた。

「んー、今まで気にもとめていなかったけれど、やっぱり返り血って嫌だなぁ。単なる汚れだもの」

 そう言いながら小早志真里亞は、今度は六つの手を上から下へとゆっくりと動かし身体のラインをなぞっていく。分体のぼんやりとした緑色の身体に明確な線が入っていく。
 笠沼正太が殺人行為を行う際に着たレインコート。それを模した緑色のレインコートが、小早志真里亞の身体を包んでいく。

「私、別に緑が好きってわけじゃないんだけど、何から何まで緑色主体に創造されちゃうのがこの力の不満点。なまも──那間良さんは、赤が好きなんですか?」

 小早志真里亞の身体に新たにレインコートが形成されていく完成の瞬間に、横から殴りかかる人影が一つ。

「やっと名前、ちゃんと呼んだね」

 五本の指。那間良が握りしめた左手の拳を小早志真里亞の右手に阻まれた。

「私は好きよ、赤」

 間髪入れずに那間良は右拳を振り上げる。今度は小早志真里亞の左手にそれを掴まれたので、那間良はそのまま踏み込んで小早志真里亞の頭めがけて自分の頭を振りかぶった。
 ゴツンとしっかりとした音と、脳を振動させる衝撃。眩暈を起こさぬよう注意しながら、那間良は足を上げて小早志真里亞の腹に膝を食い込ませた。
 まるで実体かのような感触。余裕の微笑を浮かべていた小早志真里亞の身体がクの字に曲がる。
 掴まれた両手を下へと引っ張って小早志真里亞の身体が前に沈んだところに、もう一蹴り。
 手を離し反撃へと動く小早志真里亞の六本の腕。しかし顔を上げて那間良のことを視界に捉えようとしたところに、下から突き上げるショートアッパー。キュッキュッと床の上で足に捻りを入れる音が聞こえ、解放された左右の拳からなる二連のスマッシュ。
 研ぎ澄まされる赤の怪力に、小早志真里亞の突き上げられた身体は浮かび上がり、那間良はダメ押しとばかりにねじ込むように捻りを加えたストレートを突き出した。

 小早志真里亞の身体が大きく吹っ飛ばされ、いくつか本棚にぶつかり壊し、強い拳圧に壁へと叩きつけられた。

「何ですか、赤鬼の力? それとも、朱雀の力? 朱雀って不死鳥フェニックスに似てますもんね。それで、治癒力が増してるとかですか? そういうよくわからない力、嫌いですね、私」

 殴り飛ばされ、壁に叩きつけられ、崩れる壁を背にして、小早志真里亞は何事も無かったかのようにそう微笑する。赤鬼の力を纏った拳でまるで実体のように殴れたとしても、結局は分体。痛覚など麻痺してるわけでも感度が薄れているわけでもなく、無いのだ。

「それは同意するかも。よくわからないのってなんか面倒臭くて嫌いなのよね、私も。アンタとかさ」

 那間良は気づけば再生していた自分の両手の指をまじまじと見つめた後、小早志真里亞に向かってビシッと人差し指を向けた。

「邪魔してくるしよくわからないし面倒臭い上に、人のこと役たたずみたいに言ってくれたよね、アンタ。ムカつくったらないよね、とことん殴らないと」

「邪魔でよくわからなくて面倒臭い。那間良さんこそ当てはまるって言われませんか?」

 小早志真里亞はそう言って二本の腕を横に広げた。その身体を粒子に変えて瞬間的に移動する前動作。仰々しく必要の無い動きではあるが、演出として好みであった。この動きを視界に捉えたところで、相手に何か出来る隙間など与えることは無い。
 しかし、赤は違った。走る閃光。崩れた本棚を圧倒的速さで踏み散らして、那間良は自身が作り出した距離を瞬時に詰めた。

「とことん、殴るって、言ってんのよ!!!」

 光の粒子に分かれかけている小早志真里亞の身体を再接近した那間良が殴っていく。たった数分前よりも格段に速く、那間良の拳が無数に小早志真里亞の身体を叩いていく。小早志真里亞の反撃も、反応すらも許さない圧倒的な暴力。
 笠原朋美に散々投げられた怒り。
 小早志真里亞に散々斬りつけられた怒り。
 高城和美に届かなかった怒り。
 怒り、怒り、怒り。
 怒りが赤を増していき、怒りが速度を増していく。

 分解していく緑輝く光の粒子は殴られ散って、図書館二階東側の壁が砕けて崩れた。
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