焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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最終章 焼きそばパン大戦争

第百二十九話 通りすがりのパン屋さん

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 朱雀の領域から強制的に弾き飛ばされた和美は、次の試練場である乃木やすらぎ霊園がある乃木市西側の住宅街へと続く道路の上で仰向けに横たわっていた。弾き飛ばされた衝撃に気を失っていた和美の意識を取り戻そうとするクラクションがひとつ。パァンと鋭く響く音に和美は意識を取り戻すものの身体は起き上がろうとしなかった。
 肌に触れた冷たさと微かに香る匂いで自分がアスファルトの上で倒れているのだと把握した和美は、鳴らされたクラクションがそこを退けという意味なのだと察するも、指さえも和美の意識に従うことなく動かない。金縛りにでもあったかのような意識だけがハッキリとした中で、ようやく瞼だけは開くことが出来て広がる青空が目に映る。
 青空なんだな、と和美は何故だかそれが不思議なものであるかのように思えた。学校病院図書館と試練を受けてきて異形なモノや異常なモノと戦ってきて今もまだその非常事態は乃木市全体で起こってるはずで、そんな中で空は日常的な青さのままなんだなと和美は何故だか不思議に思えた。

 バンッ、と車のドアが閉まる音がした。クラクションを鳴らした車のドライバーが降りてきたのだろう。駆けるような足音がアスファルトを伝って和美の耳に聞こえる。

「ちょっと、あなた、どうしたの? 大丈夫?」

 道路に寝転がるな、という文句を言われると身構えていた和美は、その優しい女性の声に少し意表をつかれた。それはそうか、突然道路に仰向けに倒れる女子高生が現れたなら心配する声もあるか。

「大変、制服がボロボロじゃない! 車に轢かれたの? 意識は、意識はある?」

 和美に近寄る足音。制服がボロボロなのは続いた戦闘のせいか。意識の確認をされて、和美はもう一度身体を動かそうと試みるが、手足は言うことを聞かない。

「だ・・・・・・い・・・・・・じょ・・・・・・ぶ・・・・・・で・・・・・・す」

 どうにか口を僅かにだが動かせて、言葉を発する。

「どこがよ!?」

 和美の捻り出した言葉は近づいてきた女性に呆気なく否定される。和美の視界にセミロングの女性の顔が映る。

「車に轢かれたの? 本当は良くないんだけど、道路で倒れたままになんて出来ないからとにかくここから運ぶわね、いい?」

 女性に問われ和美はもう一度声を捻り出し、はい、と返事する。よしっ、と女性は言うと和美の頭部と太ももの下に腕を差し込むと、持ち上げた。

「へ・・・・・・?」

 優しそうなオバサンという印象を抱いていた女性に軽々とお姫様抱っこをされて、和美は驚き変な声が出てしまった。

「動かないでよ、落ちちゃうから。ウチの車まで運ぶからね。じっとしててよ」

 女性はそういうと和美を少し重たい荷物程度に抱えて、自分の車──後部側面にgarden of lightとデザインされた白いバンへと運ぶ。お姫様抱っこのまま助手席のドアの前に立つと器用に手を動かして開け、和美を助手席に座らせた。

「どこを打ってるかわからないから本当は動かしちゃダメなんだろうけど、今救急車とか連絡が取れないから許して頂戴。とにかく安静に出来る場所にあなたを運ぶから」

 女性はそう説明すると和美にシートベルトを着用し助手席のドアを閉めて、運転席側に回り込み車に乗った。乗り込むと自分のシートベルトをすぐさま着けて、エンジンをかけた。

「あ・・・・・・の・・・・・・ど・・・・・・こ・・・・・・へ」

 意識がはっきりとしてる分、言葉をまともに発せれないことに和美はもどかしさを感じていた。助けてもらった形になったので感謝の意も伝えたかったが、今重要なのは自分が何処に運ばれるのか、試練場となる乃木やすらぎ霊園からどれだけ離れた場所に連れていかれるのかということだ。

「ああ、ごめんなさい、行き先言ってなかったら不安になるわよね。ここから近くでね、ライトガーデンっていうパン屋を経営してるの、私。とにかく一旦、そこに連れていくわ」

 女性はそう和美に答えると、車を走らせた。
 ライトガーデン、その店名に和美は思い当たる節があった。確か花菜に頼まれたパシり──もといお使い先がそんな店名だったはずだ。花菜と、そして奈菜の母親がやっているというパン屋。

「もし・・・・・・かし・・・・・・て、・・・・・・なな・・・・・・の?」

「なな? あなた、もしかして奈菜のお友達なのかしら? あらやだ、だとするとあなた、あそこで車に轢かれたんじゃないのね? その纏った気の感じからして鬼関係なのね、やっぱり。それじゃあ、偶然遭遇したってわけじゃなさそうね」

 女性はそう勝手に察して、次々と和美の事情を理解していった。一人頷き、なるほど、と呟く。

「詳しいことは店に着いてからにして、とりあえず自己紹介しておくわね。西生にしお紗菜さなです。娘と仲良くしてもらってるのかしら? よろしくね、えっと──」

「たか・・・・・・ぎ・・・・・・かず・・・・・・み」

 未だハッキリと動かない身体にもどかしさを感じたまま和美も自己紹介を返した。紗菜は聞いた事があるのか和美の名前を聞くと、ああぁ、と人差し指をピンと立てて知ってるとアピールしていた。
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