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最終章 焼きそばパン大戦争
第百三十二話 母親の話
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「逃げ出そうとした、ということは何か妨害があってそれは実行できなかった?」
パン屋の店主として目の前に座る紗菜の姿を見て、和美は事が上手く進まなかったことを察する。
「そうね。花菜と奈菜を西生家──祓い師の使命から連れ出すことは許されなかったわ。本家分家から数人がかりでね、まるで鬼退治するみたいに追っ手がやってきた。私も西生家の一員だから、娘たちの為、それなりに戦えると思ったのだけど多勢に無勢という言葉をひしひしと身に染みたわ」
「あの・・・・・・踏み込んだ質問で申し訳ないなと思うんですけど、その、奈菜たちのお父さんはどうしたんですか? その、紗菜さんの手助けはしてくれなかったんですか?」
「ああ、その辺りも聞いてないのね。夫は随分昔に亡くなってるの、奈菜がまだ物心つく前にね。あの人も分家の者として祓い師をしていたから、鬼との戦いの最中に、ね」
あ、と和美は踏み込み過ぎた自分の質問に反省する声を小さく上げる。
紗菜は小さく手を横に振って、気にするなと示した。
「私の父、花菜や奈菜にとっては祖父に当たる人も祓い師として亡くなってるからね。死んでしまったばかりの頃は悲しかったけれど、どこかでそういうものだと受け止めていたわ。今もそう、夫は祓い師としての使命を全うして死んだ。そういうものだ、と受け入れてしまってるの」
生まれも育ちも祓い師として生きてきたから、死を隣合わせのものであると受け入れてしまっている。
鬼との戦いの中ではそれは覚悟であり、覚悟という言葉で薄れてしまった感覚であった。
死ぬことは、恐ろしいことである、と。
「二人の娘を連れ出して逃げることは必死だったわ。言葉通り、私は死を覚悟していた。私の命を賭しても、花菜と奈菜には普通の女の子としての人生を生きさしてやりたかった。でも私は簡単に捕まってしまってね、花菜と奈菜は母親──西生真菜に取り上げられた」
「お婆さんに、二人を?」
「そうね、娘である私の身勝手な行動──西生家としての失態を、西生真菜は自身のそれまでの実績と花菜と奈菜の将来性を交渉材料にして、総本家やそれに連なる分家に目を瞑ってもらったの。花菜は既にその才を発揮していたから話は通りやすかったのかもね」
「花菜さんと奈菜、二人は今も祓い師として鬼と戦っている・・・・・・」
母親の願いをあの二人は知っているのだろうか?
知っていて、それでも西生家として、祓い師として使命を果たしているのだろうか?
「それで、紗菜さんはどうしたんですか? なんで、パン屋さんに?」
話の流れの中でパンの一文字も出てきていないので、よくよく考えると今こうしてパンに囲まれながら踏み込んだ家族の話を聞いているのは不思議な話だった。
「パン屋をやってるのは・・・・・・私が祓い師として活動をし始める以前、真菜から祓い師としての術を叩き込まれている幼い頃に、何となく夢見ていたからね。特別強い憧れがあった訳じゃなくて、子供には厳しい修行の日々からの現実逃避として描いた空想の一つでね。そういう空想は頭の隅にずっと抱えてあって、妻として母親として作る料理のレパートリーにパンがあって、それが家族には好評だったの」
亡き夫も愛する娘二人も、新しいパンを焼く度にとても嬉しそうに微笑んでくれた。
「西生家を逃げ出した私を捕まえた祓い師達は、けれど捕縛はしたものの処分することにはならなかった。祓い師の力は鬼に由来するものだから、その力を悪用されぬよう抜けた者を処分──殺すことは公とはならないルールとしてあったのだけどね」
鬼を祓う者として力を研ぎ澄ましてきた一族。
故に、祓う力──殺す力に長けてはいるものの、封印するなどと都合のいい技には疎い。
「私は、母親に助けられたの。母親も何処かでは考えていたのよ、西生の力が命を代償にしてるその恐ろしさを。だから、母親は私に情けをかけた。母親、総本家に多少の意見を通せるほど実績を残してきた人だからね。私は西生に関わらないことと力を行使しないことを約束させられて、分家の監視下で自由にさせてもらってるの」
監視下で自由、という言葉に和美は自分の立場を重ねた。
和美も鬼として扱われ祓われる判断から、奈菜が無理を通して庇われている。
「まぁでも、私が西生に関わろうとしなくても、花菜はたまにお店にやってくるし、小鬼なんて見えちゃうから巻き込まれそうな人をさりげなく逃がしたりとかはしちゃうんだけどね」
和美も力を使っていいと許可を得て試練を受けているので、ジャッジが緩いのか、花菜が強引に通しているのか。
パン屋の店主として目の前に座る紗菜の姿を見て、和美は事が上手く進まなかったことを察する。
「そうね。花菜と奈菜を西生家──祓い師の使命から連れ出すことは許されなかったわ。本家分家から数人がかりでね、まるで鬼退治するみたいに追っ手がやってきた。私も西生家の一員だから、娘たちの為、それなりに戦えると思ったのだけど多勢に無勢という言葉をひしひしと身に染みたわ」
「あの・・・・・・踏み込んだ質問で申し訳ないなと思うんですけど、その、奈菜たちのお父さんはどうしたんですか? その、紗菜さんの手助けはしてくれなかったんですか?」
「ああ、その辺りも聞いてないのね。夫は随分昔に亡くなってるの、奈菜がまだ物心つく前にね。あの人も分家の者として祓い師をしていたから、鬼との戦いの最中に、ね」
あ、と和美は踏み込み過ぎた自分の質問に反省する声を小さく上げる。
紗菜は小さく手を横に振って、気にするなと示した。
「私の父、花菜や奈菜にとっては祖父に当たる人も祓い師として亡くなってるからね。死んでしまったばかりの頃は悲しかったけれど、どこかでそういうものだと受け止めていたわ。今もそう、夫は祓い師としての使命を全うして死んだ。そういうものだ、と受け入れてしまってるの」
生まれも育ちも祓い師として生きてきたから、死を隣合わせのものであると受け入れてしまっている。
鬼との戦いの中ではそれは覚悟であり、覚悟という言葉で薄れてしまった感覚であった。
死ぬことは、恐ろしいことである、と。
「二人の娘を連れ出して逃げることは必死だったわ。言葉通り、私は死を覚悟していた。私の命を賭しても、花菜と奈菜には普通の女の子としての人生を生きさしてやりたかった。でも私は簡単に捕まってしまってね、花菜と奈菜は母親──西生真菜に取り上げられた」
「お婆さんに、二人を?」
「そうね、娘である私の身勝手な行動──西生家としての失態を、西生真菜は自身のそれまでの実績と花菜と奈菜の将来性を交渉材料にして、総本家やそれに連なる分家に目を瞑ってもらったの。花菜は既にその才を発揮していたから話は通りやすかったのかもね」
「花菜さんと奈菜、二人は今も祓い師として鬼と戦っている・・・・・・」
母親の願いをあの二人は知っているのだろうか?
知っていて、それでも西生家として、祓い師として使命を果たしているのだろうか?
「それで、紗菜さんはどうしたんですか? なんで、パン屋さんに?」
話の流れの中でパンの一文字も出てきていないので、よくよく考えると今こうしてパンに囲まれながら踏み込んだ家族の話を聞いているのは不思議な話だった。
「パン屋をやってるのは・・・・・・私が祓い師として活動をし始める以前、真菜から祓い師としての術を叩き込まれている幼い頃に、何となく夢見ていたからね。特別強い憧れがあった訳じゃなくて、子供には厳しい修行の日々からの現実逃避として描いた空想の一つでね。そういう空想は頭の隅にずっと抱えてあって、妻として母親として作る料理のレパートリーにパンがあって、それが家族には好評だったの」
亡き夫も愛する娘二人も、新しいパンを焼く度にとても嬉しそうに微笑んでくれた。
「西生家を逃げ出した私を捕まえた祓い師達は、けれど捕縛はしたものの処分することにはならなかった。祓い師の力は鬼に由来するものだから、その力を悪用されぬよう抜けた者を処分──殺すことは公とはならないルールとしてあったのだけどね」
鬼を祓う者として力を研ぎ澄ましてきた一族。
故に、祓う力──殺す力に長けてはいるものの、封印するなどと都合のいい技には疎い。
「私は、母親に助けられたの。母親も何処かでは考えていたのよ、西生の力が命を代償にしてるその恐ろしさを。だから、母親は私に情けをかけた。母親、総本家に多少の意見を通せるほど実績を残してきた人だからね。私は西生に関わらないことと力を行使しないことを約束させられて、分家の監視下で自由にさせてもらってるの」
監視下で自由、という言葉に和美は自分の立場を重ねた。
和美も鬼として扱われ祓われる判断から、奈菜が無理を通して庇われている。
「まぁでも、私が西生に関わろうとしなくても、花菜はたまにお店にやってくるし、小鬼なんて見えちゃうから巻き込まれそうな人をさりげなく逃がしたりとかはしちゃうんだけどね」
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