焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

文字の大きさ
133 / 146
最終章 焼きそばパン大戦争

第百三十二話 母親の話

しおりを挟む
「逃げ出そうとした、ということは何か妨害があってそれは実行できなかった?」

 パン屋の店主として目の前に座る紗菜の姿を見て、和美は事が上手く進まなかったことを察する。

「そうね。花菜と奈菜を西生家──祓い師の使命から連れ出すことは許されなかったわ。本家分家から数人がかりでね、まるで鬼退治するみたいに追っ手がやってきた。私も西生家の一員だから、娘たちの為、それなりに戦えると思ったのだけど多勢に無勢という言葉をひしひしと身に染みたわ」

「あの・・・・・・踏み込んだ質問で申し訳ないなと思うんですけど、その、奈菜たちのお父さんはどうしたんですか? その、紗菜さんお母さんの手助けはしてくれなかったんですか?」

「ああ、その辺りも聞いてないのね。夫は随分昔に亡くなってるの、奈菜がまだ物心つく前にね。あの人も分家の者として祓い師をしていたから、鬼との戦いの最中に、ね」

 あ、と和美は踏み込み過ぎた自分の質問に反省する声を小さく上げる。
 紗菜は小さく手を横に振って、気にするなと示した。

「私の父、花菜や奈菜にとっては祖父に当たる人も祓い師として亡くなってるからね。死んでしまったばかりの頃は悲しかったけれど、どこかでそういうものだと受け止めていたわ。今もそう、あの人は祓い師としての使命を全うして死んだ。そういうものだ、と受け入れてしまってるの」

 生まれも育ちも祓い師として生きてきたから、死を隣合わせのものであると受け入れてしまっている。
 鬼との戦いの中ではそれは覚悟であり、覚悟という言葉で薄れてしまった感覚であった。
 死ぬことは、恐ろしいことである、と。

「二人の娘を連れ出して逃げることは必死だったわ。言葉通り、私は死を覚悟していた。私の命を賭しても、花菜と奈菜には普通の女の子としての人生を生きさしてやりたかった。でも私は簡単に捕まってしまってね、花菜と奈菜は母親──西生にしお真菜まなに取り上げられた」

「お婆さんに、二人を?」

「そうね、娘である私の身勝手な行動──西生家としての失態を、西生真菜は自身のそれまでの実績と花菜と奈菜の将来性を交渉材料にして、総本家やそれに連なる分家に目を瞑ってもらったの。花菜は既にその才を発揮していたから話は通りやすかったのかもね」

「花菜さんと奈菜、二人は今も祓い師として鬼と戦っている・・・・・・」

 母親の願いをあの二人は知っているのだろうか?
 知っていて、それでも西生家として、祓い師として使命を果たしているのだろうか?

「それで、紗菜さんお母さんはどうしたんですか? なんで、パン屋さんに?」

 話の流れの中でパンの一文字も出てきていないので、よくよく考えると今こうしてパンに囲まれながら踏み込んだ家族の話を聞いているのは不思議な話だった。

「パン屋をやってるのは・・・・・・私が祓い師として活動をし始める以前、真菜母親から祓い師としての術を叩き込まれている幼い頃に、何となく夢見ていたからね。特別強い憧れがあった訳じゃなくて、子供には厳しい修行の日々からの現実逃避として描いた空想の一つでね。そういう空想は頭の隅にずっと抱えてあって、妻として母親として作る料理のレパートリーにパンがあって、それが家族には好評だったの」

 亡き夫も愛する娘二人も、新しいパンを焼く度にとても嬉しそうに微笑んでくれた。

「西生家を逃げ出した私を捕まえた祓い師達は、けれど捕縛はしたものの処分することにはならなかった。祓い師の力は鬼に由来するものだから、その力を悪用されぬよう抜けた者を処分──殺すことは公とはならないルールとしてあったのだけどね」

 鬼を祓う者として力を研ぎ澄ましてきた一族。
 故に、祓う力──殺す力に長けてはいるものの、封印するなどと都合のいい技には疎い。

「私は、母親先代に助けられたの。母親あの人も何処かでは考えていたのよ、西生の力が命を代償にしてるその恐ろしさを。だから、母親あの人は私に情けをかけた。母親あの人、総本家に多少の意見を通せるほど実績を残してきた人だからね。私は西生に関わらないことと力を行使しないことを約束させられて、分家の監視下で自由にさせてもらってるの」

 監視下で自由、という言葉に和美は自分の立場を重ねた。
 和美も鬼として扱われ祓われる判断から、奈菜が無理を通して庇われている。

「まぁでも、私が西生に関わろうとしなくても、花菜はたまにお店にやってくるし、小鬼なんて見えちゃうから巻き込まれそうな人をさりげなく逃がしたりとかはしちゃうんだけどね」

 和美も力を使っていいと許可を得て試練を受けているので、ジャッジが緩いのか、花菜が強引に通しているのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年ぶりに現れた正ヒロインが強すぎて、10年来のダメ系幼馴染型ヒロインが敗北しそうな件について。

神崎あら
青春
 10年ぶりに再会した彼女はまさに正ヒロインと呼ぶにふさわしい容姿、性格、人望を手にしていた。  それに対して10年間一緒にいた幼馴染は、堕落し酒に溺れ、泰平の世話なしには生きられないペットのような生き物になっている。  そんな対照的な2人のヒロインが戦う(一方的にダメ幼馴染が社会的にボコられる)物語が今始まる!!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...