焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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最終章 焼きそばパン大戦争

第百三十三話 《なかったこと》にする術

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「・・・・・・と、話が大分私の身の上話に逸れちゃったけど、今日のパンが坂進高校に入荷出来なかった話、だったっけ?」

「そうですね、その話の途中で小鬼の事が出てきたんで私が引っかかっちゃった感じでした」

 小鬼は鬼に関わる者にしか見えない仕組みになっている。鬼の力を使う者、鬼に宿主として根付かれた者、鬼の獲物とされた者。
 現在、乃木市は市全域で小早志真里亞の影響下にあり、いわば市民全員が鬼の獲物とされた者であるので小鬼の目撃談自体は唐突なものでは無かった。
 和美が引っかかってしまったのは、紗菜がその突然現れたはずの小鬼に対して以前から見慣れたモノであるように言ってのけたことであった。小鬼、という呼称も一般的なモノのように言葉にされると、紗菜の事情を知らなかった和美には不思議な感覚であった。

「高城さんは何処まで市内の様子を把握してる感じ?」

「花菜さんから頼まれた《お手伝い》で市内を走り回ってる最中でして、小鬼と、小早志さん・・・・・・その、緑鬼の力に目覚めた子が作り出した分身みたいのが街中にいるのは見てきました」

「花菜のお手伝い? あの娘が珍しいわね、他所様を巻き込むようなこと頼むなんて」

 紗菜が少し驚いた表情を取ったので、和美は話を進めるためにその辺りの事情を含めて色々と説明をした方がいいなと考えた。
 かくかくしかじかで話が全て伝われば良いのになと思いながら、和美が西生奈菜と出会った頃からの話をざっと話すことにした。

 思わぬタイミングで情報の整理をする事になったなと思いながら、和美は一通りの話を紗菜に伝え終える。西生家の事情を聞くことになったので、こちらも明かす必要があるなとも思っていた。娘の友人ということへの信頼に応える意味もある。

「・・・・・・なるほど、やっぱりただ偶然アナタに出会ったわけじゃなさそうね、高城さん」

「花菜さんに言われてたのでこのお店には来るつもりでしたけど、朱雀に飛ばされた結果で紗菜さんのもとへ導かれたという話なら流石に怖さもありますけどね」

 四神は人間に深く干渉せず力を貸さない、とかそういう都合良い存在ではないぞと釘を刺されてたはずなのに、試練に直接関係の無いことに協力してくれていたとなると朱雀の思惑に何か裏がありそうで怖くなる。
 実際は朱雀の領域に無断で入り込んだ小早志真里亞に対しての嫌がらせに近い助力だと考えられるが、神と奉られる存在の考えが全て理解できるとも思えない。

「・・・・・・話を戻すことになるけど、今市内は高城さんが見てきたように小鬼と緑鬼の娘の被害で大混乱になってるわ。逃げて乗り捨てられた車が道路を邪魔するかたちになっちゃって、警察や救急も対応が遅れてるみたいね。そもそも一般の警察官が鬼相手に何か出来るものでもないし、救急は高城さんの話からすると病院が丸ごと凄惨なことになってしまったみたいね」

「あの、ここまで大きな事態になっても、いつもの鬼を祓った後に起こる復元する力は働くんですか?」

 学校でも、エル・プラーザでも、青鬼や赤鬼を祓った後に起きた西生家の《何もなかった》ことにする術。奈菜から詳しくは説明を聞いてはいないが、鬼に対応する為鬼に由来する力を得ている祓い師の術、だと考えると元は白鬼の《なかったことにする》力なのかもしれない。

「そうね、きっと働くと思うわ。その術式を作り上げた者が大昔にいたらしくてね。どういう仕組みなのか実のところそのご先祖しか理解していないのだけど、何名もの命を代償に作り上げた術は未だに効果を発揮してるわ」

 命を代償にする力。和美がなかったことにしようと白鬼の力を発揮した時にも、その代償量の多さはかなりのものであったと思われる。半日、《なかったこと》になった世界を作りあげた和美は、しかしながらもう半日もその世界を維持していたら人として存在を保てていなかっただろう。
 そしてその次の日には、鬼としても生きてられなかったのかもしれない。

「そういう話、一応部外者ではある私に話して大丈夫なんですか?」

 復元する力について質問したとはいえ踏み込んだ内容まで聞かされると、西生に関わらないように監視されてるという紗菜の立場が心配になる。ベラベラと内情を話しすぎじゃないかとさえ不安になった。

「へーきへーき、大丈夫よ。今が緊急事態で総本家や分家も私を監視してる場合じゃない──って油断からじゃなくてね。総本家や分家にも話が通せる立場にいる花菜から指令を受けて働いてるって立ち位置だからね、高城さんは。そこに情報を与えることぐらいは、説明役を代わってる程度の目の瞑り方は出来るみたいだから」

「そうなんですか?」

「ガチガチの処理ができるほどちゃんと決まっていないのよ。互いに都合よく解釈して判断する感じなのだけど──都合よくと言えば、さっきの話、《なかったこと》にするのって全部が都合よく《なかったこと》にならないのは高城さんも知ってるでしょ?」

 全てを都合よく《なかったこと》にするのは白鬼の力。西生の《なかったこと》にする術は、あくまでも鬼の影響にて起きた事態のみであり、それ以外は元には戻せない。連続殺人鬼──笠沼正太に殺された人々のように。

「病院で小早志さんが殺してしまった人々の死は《なかったこと》に出来ても、その惨殺によって連鎖する他の被害については《なかったこと》には出来ないって事ですよね?」

 和美の確認に紗菜は頷きで答える。
 小早志真里亞が動き出してまだ半日も経っていない。
 それなのに彼女は既に祓えば終いにならない事態を作ってしまった。
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