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最終章 焼きそばパン大戦争
第百三十九話 そして、彼女もやってきた。
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赤の小鬼、青の小鬼、緑の小鬼。
小山に並ぶ木々の陰から、紅葉落ちる獣道から、次々に現れる色とりどりの小鬼を和美は駆けながら右手に構えた白光の刀で斬り捨てていく。
ここまでの道のりで対峙した小早志真里亞の分体に比べれば、小鬼の動きなどゆったりとした物に見えて和美は討ち漏らすことなく刀を振っていく。
「ちょい、和美?」
和美の二歩後ろぐらいの距離でついてくる奈菜が不満気な声を漏らす。
不満を抱かれる理由に見当がついていた和美は、聞こえないふりをして次の小鬼に向けて刀を振り下ろす。
「ちょい待ちぃ、って!」
控えめな不満では無視するつもりだと察した奈菜は、遠慮せず大きめにツッコミの声を上げた。
二歩。どれだけ足を速めても、その距離感を保たれて和美は奈菜より先行する。先行し、小鬼を一人で斬り払っていく。正面の小鬼だけでなく、左右に現れた小鬼にすら強引な身体の割り込みを挟んで、奈菜に手を出させようとさせない。
付かず離れずの気まずい距離感、という訳ではなくその白光の刀の範囲らしい。
「話、聞いてた? この錫杖、試したいって言うてるやん? これやったら、身体を支える杖としての耐久テストしかでけへんねんけど?」
錫杖を振るう暇すら与えられず、白鬼の力を使うことを監視するという約束を取り付けた身にまざまざとその脅威を見せつけられている。
姉である花菜の独断の許可が下りたとはいえ、奈菜の目に映る和美の姿は好き放題暴れ回ってるようにも見える。
力を使う代償を含めて、そういうのをさせない為に色々奔走した奈菜としては釈然としない光景である。
「まぁまぁまぁ。そんなピリピリしないで、もう少し休んでいてよ。奈菜のお母さんのパンって、疲労回復効果ある感じだけどさ、けど即効性って訳でもないでしょ? 新しい顔だよ、って全回復するわけじゃないでしょ?」
「何その、パン屋やからってボケ? 今いる?」
「ほら、ピリピリしてる。アドレナリン、だっけ? それが分泌されてるとかなんとかで興奮気味なんじゃない? もっと冷静にならないと」
落ち着け、と説教されるとは思ってもみず奈菜は頭を横に振った。冷静に、と言われ苛立つのだから冷静さを欠いてる証左である。
冷静に、と口にする和美はまるでモグラ叩きのように、現れた小鬼達をたんたんと処理していく。もう地面から腕が生えようが、木の枝から脚が生えようが、木々の空間から目玉が現れようが、見慣れたものであった。
「奈菜の──私達の狙いは、この小山の何処かにいる小早志さんでしょ? 本命までは体力温存、準備万端で行かないと」
「確かに和美の言うてることは一理も二理もあると思うんやけど・・・・・・いや、けど、錫杖のことはぶっつけ本番でどうにかせぇってこと?」
小鬼を斬り払いながら先行する和美は木々を抜けて、奥へと突き進んでいく。
小早志真里亞の気配は、小山――花菜達が張っている結界の中に確かにあるのだが一点に捉えようのないほど分散している。
小早志真里亞を狙うと言う和美が何処に向かっているのかわからないが、奈菜はそのあとをついていく。依然として二歩の距離は変わらない。
何処に向かっているのかはわからないが、突き進もうとしてる先は確か奈菜を殴り飛ばした赤鬼がいる方向であった。いや、いた方向であった。
殴り飛ばされた時には強く感じていた赤鬼の気配は、今はもう察知出来ない。消えたのか、消されたのか。
「大丈夫。んー、大丈夫? そのさ、錫杖のお試しは多分すぐ出来ると思う」
「何なん、その曖昧な予定?」
「だからね、あの、ほら、言ってなかったんだけど──」
赤の小鬼が何も無い空間から現れたのを、当たり前のように斬り上げる和美。小鬼はケタケタと笑う声すらあげることなく身体を真っ二つに縦に裂かれていき──その身体を扉を開くように左右へと退ける手が現れる。
「──見ぃつけた!」
手で掴まれ離れていく赤の小鬼の身体。その間から姿を現すのは、目を隠すような黒いロングウルフカットのパンチジャンキー──那間良。
「面倒な人がずっと追いかけてきてんのよね。奈菜、悪いけど手伝ってくれない?」
白虎の試練が終わり、乃木市中央にある小山に向かう道中で再び那間良と遭遇した。南図書館での一件が終わった後も、和美を探して市内を走り回っていたらしい。
エル・プラーザでの一戦も、南図書館での一戦も結局のところ和美は那間良に対して一対一では勝てていなかった。
昼過ぎには四神の試練が完了していたのに、実際奈菜の元にたどり着いたのが夕方になったのは那間良を撒くのに時間がかかったからだった。
和美が振り上げた刀を持つ手を目掛けて、那間良の拳が伸びる。顔を合わせればすぐ戦闘になるのは、いい加減辟易とする。こんな出会い方をしなかったとしても、絶対に仲良くなることは無いなと和美は那間良の顔を睨んだ。
敵意を向けられて喜ぶのが那間良で、闘う気になったのだと口角が上がる。その不敵な笑みに対して、金色の錫杖が伸びる。
「和美から《お手伝い》のお願いって・・・・・・ええやんええやん!」
錫杖の使い方について奈菜はまだお試しなので、とりあえず二歩後方からでも届くリーチを有効活用し那間良が拳を振り切ろうとするのを止める。ただの突きであり、牽制として有効な一手であった。
小山に並ぶ木々の陰から、紅葉落ちる獣道から、次々に現れる色とりどりの小鬼を和美は駆けながら右手に構えた白光の刀で斬り捨てていく。
ここまでの道のりで対峙した小早志真里亞の分体に比べれば、小鬼の動きなどゆったりとした物に見えて和美は討ち漏らすことなく刀を振っていく。
「ちょい、和美?」
和美の二歩後ろぐらいの距離でついてくる奈菜が不満気な声を漏らす。
不満を抱かれる理由に見当がついていた和美は、聞こえないふりをして次の小鬼に向けて刀を振り下ろす。
「ちょい待ちぃ、って!」
控えめな不満では無視するつもりだと察した奈菜は、遠慮せず大きめにツッコミの声を上げた。
二歩。どれだけ足を速めても、その距離感を保たれて和美は奈菜より先行する。先行し、小鬼を一人で斬り払っていく。正面の小鬼だけでなく、左右に現れた小鬼にすら強引な身体の割り込みを挟んで、奈菜に手を出させようとさせない。
付かず離れずの気まずい距離感、という訳ではなくその白光の刀の範囲らしい。
「話、聞いてた? この錫杖、試したいって言うてるやん? これやったら、身体を支える杖としての耐久テストしかでけへんねんけど?」
錫杖を振るう暇すら与えられず、白鬼の力を使うことを監視するという約束を取り付けた身にまざまざとその脅威を見せつけられている。
姉である花菜の独断の許可が下りたとはいえ、奈菜の目に映る和美の姿は好き放題暴れ回ってるようにも見える。
力を使う代償を含めて、そういうのをさせない為に色々奔走した奈菜としては釈然としない光景である。
「まぁまぁまぁ。そんなピリピリしないで、もう少し休んでいてよ。奈菜のお母さんのパンって、疲労回復効果ある感じだけどさ、けど即効性って訳でもないでしょ? 新しい顔だよ、って全回復するわけじゃないでしょ?」
「何その、パン屋やからってボケ? 今いる?」
「ほら、ピリピリしてる。アドレナリン、だっけ? それが分泌されてるとかなんとかで興奮気味なんじゃない? もっと冷静にならないと」
落ち着け、と説教されるとは思ってもみず奈菜は頭を横に振った。冷静に、と言われ苛立つのだから冷静さを欠いてる証左である。
冷静に、と口にする和美はまるでモグラ叩きのように、現れた小鬼達をたんたんと処理していく。もう地面から腕が生えようが、木の枝から脚が生えようが、木々の空間から目玉が現れようが、見慣れたものであった。
「奈菜の──私達の狙いは、この小山の何処かにいる小早志さんでしょ? 本命までは体力温存、準備万端で行かないと」
「確かに和美の言うてることは一理も二理もあると思うんやけど・・・・・・いや、けど、錫杖のことはぶっつけ本番でどうにかせぇってこと?」
小鬼を斬り払いながら先行する和美は木々を抜けて、奥へと突き進んでいく。
小早志真里亞の気配は、小山――花菜達が張っている結界の中に確かにあるのだが一点に捉えようのないほど分散している。
小早志真里亞を狙うと言う和美が何処に向かっているのかわからないが、奈菜はそのあとをついていく。依然として二歩の距離は変わらない。
何処に向かっているのかはわからないが、突き進もうとしてる先は確か奈菜を殴り飛ばした赤鬼がいる方向であった。いや、いた方向であった。
殴り飛ばされた時には強く感じていた赤鬼の気配は、今はもう察知出来ない。消えたのか、消されたのか。
「大丈夫。んー、大丈夫? そのさ、錫杖のお試しは多分すぐ出来ると思う」
「何なん、その曖昧な予定?」
「だからね、あの、ほら、言ってなかったんだけど──」
赤の小鬼が何も無い空間から現れたのを、当たり前のように斬り上げる和美。小鬼はケタケタと笑う声すらあげることなく身体を真っ二つに縦に裂かれていき──その身体を扉を開くように左右へと退ける手が現れる。
「──見ぃつけた!」
手で掴まれ離れていく赤の小鬼の身体。その間から姿を現すのは、目を隠すような黒いロングウルフカットのパンチジャンキー──那間良。
「面倒な人がずっと追いかけてきてんのよね。奈菜、悪いけど手伝ってくれない?」
白虎の試練が終わり、乃木市中央にある小山に向かう道中で再び那間良と遭遇した。南図書館での一件が終わった後も、和美を探して市内を走り回っていたらしい。
エル・プラーザでの一戦も、南図書館での一戦も結局のところ和美は那間良に対して一対一では勝てていなかった。
昼過ぎには四神の試練が完了していたのに、実際奈菜の元にたどり着いたのが夕方になったのは那間良を撒くのに時間がかかったからだった。
和美が振り上げた刀を持つ手を目掛けて、那間良の拳が伸びる。顔を合わせればすぐ戦闘になるのは、いい加減辟易とする。こんな出会い方をしなかったとしても、絶対に仲良くなることは無いなと和美は那間良の顔を睨んだ。
敵意を向けられて喜ぶのが那間良で、闘う気になったのだと口角が上がる。その不敵な笑みに対して、金色の錫杖が伸びる。
「和美から《お手伝い》のお願いって・・・・・・ええやんええやん!」
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