焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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最終章 焼きそばパン大戦争

第百四十一話 化け物の狙い

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 一方その頃、乃木市中央、小山周辺の道路上。

「なんや突然やってきて、けったいなことするなぁ」

 白い小袖に緋袴ひばかま。巫女装束の西生花菜の足下には、白の装束に麻の法衣を羽織った者たちが数人横たわっていた。花菜の眼前、緑の少女が宙にふわりと浮かんでいた。
 小早志真理亜。乃木市中に散らばらしていた分体とは違い、紛れもなく本体。祓い師たちの結界により、小山に囚われていた本人だ。

「いい加減うんざりしていたところなんです。中途半端に力を通せてしまうあたりなんて本当にがっかりですし。全員殺せばうざったい壁も無くなるかと思ったんですけど、そうでもないというのが更に最悪ですね」

 花菜の周りの死体は、小早志真理亜が現れた直後に放り投げたものだった。それぞれ、刺したり斬ったりと色々な殺し方を試されたようであった。

「それで、ウチを殺せばええんやと思いついたわけかいな?」

「最初からそれで良いとは思っていたのですが、西生先輩のお姉さんを呆気なく殺してしまうなんて申し訳なくて──」

 言葉と裏腹に小早志真理亜は頬笑みを浮かべ、右手を上へとかざす。

「──でもまあ、もういいかなって」

 小早志真理亜の手の動きに操られるように、アスファルトに横たわっていた分家の者たちの死体が起き上がる。腕が無い者、脚が無い者、頭が無い者。四肢の状態お構いなしに、花菜を囲うように起き上がった。

「とことん悪趣味な嬢ちゃんやな、ほんま。これも、興味、ちゅうわけかいな?」

 人形遊びならぬ死体遊び。小早志真理亜がかざした右手を振り下ろすと、死体たちはまるで生きているかのように俊敏に花菜へと攻撃を繰り出す。失われた四肢を補う緑の光、それが武器となって花菜に襲いかかってくる。

 回避は、無用だった。

 正拳突き、上段回し蹴り、頭突き。死体たちの繰り出す攻撃は、花菜に直撃する前に身体ごと弾かれる。一言も発することなく、ただ花菜は木の葉が落ちるように右手をゆらゆらと宙に滑らした。二車線の道路に散らばる死体たちの身体から、緑の光が霧散して消えた。

「さすがに強い──」

 小早志真理亜の言葉の続きを、光放つ手が遮る。一瞬にして距離を詰め、花菜が小早志真理亜の顔面を掴む。

「当たり前やろ、天才や言われとんねん、ウチは」

 抵抗しようと緑の光が小早志真理亜の身体から発しようとする刹那、花菜は手に力を込めて小早志真理亜を吹っ飛ばした。小山の中、木々へとぶつけられる小早志真理亜。
 顔面を掴む為に飛び上がっていた花菜はスタっと地面に着地し、ゆっくりと小早志真里亞に近づいていく。

「さっきアンタのことを引っ張り出した時に言うたやろ、こっちの代表は妹や、って」

 小早志真理亜がぶつかった木々が、連鎖するようにミシミシと音を立てて倒れていく。受けた痛みを堪えながら、小早志真理亜は木にもたれかかった身体を起こす。
 本体だから痛みが生じている、という単純な話ではない。むしろ、本体なのに痛みが生じている、という奇妙な現象が起きている。
 乃木市に散りばめた分体はあくまで緑鬼の力を分けた存在で、つまり本体は分体と比べるまでもなく大いなる力の塊である。
 殺して遊び道具にした分家の祓い師たちなら、指先一つも必要としない力の差があった。
 分家と本家に力の差はあるだろう、祓い師ではない小早志真理亜にもそんな理屈は予想出来る。
 しかし、これは、何だ?
 この痛みは、何だ?

「アンタには悪いけど、妹と戦ったって欲しいんよね、こっちは。そやないと──」

 ゆっくりと近づく花菜の姿を小早志真理亜は睨みつける。それが唯一出来る反抗だと悟ってしまったから。
 花菜は手のひらを小早志真理亜に向け、光を放つ。一瞬の閃光が、小早志真理亜の身体をもたれかかっていた木に押しつける。
 前面から押し潰されそうな圧迫。動かそうとしても小早志真理亜の身体は微動だにしない。ミシミシと音を立てるも木は倒れない。花菜の術によって強固な壁のように補強されている。
 いつでもこうやって捕らえることが出来た。花菜が語らずとも、その屈辱的な事実を小早志真理亜は思い知らされる。力を分けた分体の感触は小早志真里亞本体も共有していた。多くの人間に死をもたらせた指は、ピクリとも動かせない。

 圧倒的な力がゆっくりと近づいてくる。花菜に対して小早志真理亜が抱くのは恐怖ではなかった。馬鹿にされている、気づいた屈辱に悔しさを抱いていた。自分のことも、笠沼正太のことも。この女は──。

「──奈菜の修行にならへんやろ?」

 夕闇に染まり始めた小山の中、花菜はお姉ちゃん・・・・・としてそう頬笑み、小早志真理亜は頬を引き攣らせた。
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