焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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最終章 焼きそばパン大戦争

第百四十二話 この度は大変申し訳ございませんでした

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「修行? 修行、だって?」

 花菜の思惑で駒として扱われる事実、そしてその願望の無謀ぶりに小早志真理亜は笑いを堪えれなかった。木に張り付けられた姿で笑いだす小早志真理亜に、花菜は首を傾げる。

「ボケたつもりはないんやけど。アンタ、変なとこツボなんやな?」

「西生先輩とはまだ直接殺りあってないですけど、あの人、さっき赤の鬼に殴り飛ばされてましたよ? 修行って、馬鹿みたいな戦いをして死ぬことなんですかぁ?」

 修行相手なんて馬鹿にされた扱いを理解した今、素直にそれを受け入れるつもりなんて小早志真理亜にはさらさらなかった。次に奈菜に出会った際は、出会い頭に首をはねてしまおう。花菜との力の差を今ひしひしと感じているように、奈菜とは逆の力差を感じている。小山内で捉えた奈菜の力の気配は、小早志真理亜にとってはそこらで死体として転がる分家の者と大差無かった。
 それに小早志真理亜は知っていた。西生奈菜の無能ぶりを。笠沼正太が緑鬼の力を行使しようとした際も、小早志真理亜が緑鬼にならんとした際も。西生奈菜は、結局何も出来なかったのだ。

「姉として妹への期待は大きいみたいですね。応えてくれそうにもないですけど」

「それは奈菜のこと、過小評価しすぎってとこやな」

 小早志真理亜の身体は動かせないままだ。会話が出来るようにと首から上は自由がきくが、だからといってそこを変化させて反撃に出る隙は与えられていない。圧迫感はあれども、あくまでもその場に留まるように固定されているだけ。花菜の気分次第でいつでも祓われる、そういう理解をさせられる程の力の差を感じるも、その一撃は訪れない。
 一撃に出ようとした瞬間に逃げる算段で、過剰に煽ってやろうとする小早志真理亜の目論見は、今のところすかされ続けている。

「まぁ、急ピッチも急ピッチでやっとるから、そう見られてもうてもしゃーないところはあるんやけどな。ウチが、ウチの思とる以上にはよ出世してもうたからなぁ、予定ずれたんよね」

 可愛い妹の擁護なのか、結局単なる自己自賛なのか。傾げた首を元に戻し花菜は笑みを浮かべるが、小早志真理亜にとってそれは嫌味なものにしか映らない。

「もうちょっと一緒に鬼祓いの仕事やったって、奈菜の成長に付き合ってやりたかったんやけど。ウチ、本家に呼ばれてもうてそっちに割く暇無くなってもうてな。西生家のために本家には早いとこ力見せつけとかなあかんかったから、奈菜には独りで強なってもらわなあかんかったんよ」

 現当主である祖母から受ける修練のその先、現在の鬼祓い・・・・・・を行っていくうえで必要な力。祖母や分家の者たち、祓い師が行使する光の術──命を削り行使する術を存分に扱えず、長生きしてきた者たちには辿り着けない領域。
 そこへ奈菜を辿り着かせるために、花菜は修行の場を用意することにした。

「一応、謝っとかなあかんなぁとは思っとるんよ。もうわかっとるとは思うんやけど、ウチが直接手を出してたら笠沼正太は緑鬼になろうとする以前に祓ってたし、アンタのこともここまでわーわー騒ぐ前に静かにさしてた」

 屈辱的な事実を改めて言葉にされる。この女は謝る気など本当にあるのだろうかと小早志真理亜は、花菜への視線をより鋭くする。

「そもそも、乃木市に鬼のタネみたいなん撒いてた元黒鬼──齋藤のことを放ったらかしてたんも、ウチが決めたことやしな。適度に奈菜の相手を作ってもらわなあかんからな」

「あんな黒鬼、さっさと祓ってしまえばいいのに」

 小早志真理亜として、齋藤というスクールカウンセラーに対する恨みや怒りなど何一つ無い。しかし、蒼龍に囚われかけている緑鬼としては四方の守護者として穴を埋める黒鬼に殺意と嫌悪感が勝手に湧き出てくる。

「そこも重ね重ね謝っておくわ。ごめんなぁ」

 重ねられた謝罪は、軽々しいものだった。

「ほな、謝罪も済んだし、予定通り奈菜の相手してきてやってくれへん?」

 花菜が、手のひらを左へと滑らした。
 小早志真理亜を捕らえていた圧迫感が無くなり、代わりに引っ張られるような力が全身へとかかる、
 小早志真理亜の了承も、抗議も、何一つ聞く耳持たず。小山を強引に突っ切るように、強制的に小早志真理亜は奈菜のもとへと吹っ飛ばされた。

 小山の木々がいくつか折れ、倒れていく。余計な時間を取らせた罰だと、花菜はその様子を涼しい顔で眺めていた。
 倒れゆく木々とは、逆方向から気配を消すこともなく近づく影がひとつ。

「……何や用やろか? カウンセリングする相手なら、ここにはおらんで?」

 白のワイシャツに黒のネクタイ。今にもはち切れそうなパンパンに張った喪服のような服装は、土煙舞う荒れた小山には似つかわしくなかった。

「正直言えば、西生家次期当主と緑鬼がぶつかった後の漁夫の利を狙ってきたのですが……今は──そうですね、鬼として人間に舐められているという事への意趣返しをしておこうかと思いまして」

 現れた影──齋藤は貼り付けたような笑みを浮かべると、右手に黒い光を放った。光は前後に伸びると、一瞬にして集約し槍のような形を成した。齋藤はその槍を掴み、即座に花菜へと投げつけた。目に捉えられない速度の一撃、いや、いつの間にか投げられた槍は十数本に増えていた。

「どいつもこいつもいきなりなんなん? けったいやわ、ほんま」

 ぼやく花菜はその場を一切動かずして、十数本の槍の攻撃を避けていた。全身を包むように作り出した光の壁が、齋藤の攻撃を遮っていた。
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