焼きそばパン大戦争

清泪─せいな

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第二章 カレーパン大闘争

第三十話 食品売り場

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 奈菜が突っ込んでいくのを、和美は慌てて追いかけた。
 鬼祓いをしているだけあって、格闘術のひとつやふたつは心得ているのか──奈菜の動きは手馴れたものだった。殴り、蹴り、投げ、迷いなく敵を制していく。巫女装束の裾が翻り、その動きには妙な優雅さすらあった。

 和美はその後をついていき、打ち漏らした者を処理していく。奈菜に注目が集まっているぶん、ほとんどが不意打ちの形になる。それでも不安は募るばかりだった。剣道経験があるとはいえ、本格的な格闘など習ったことはない。女子高生ふたりが老若男女を次々に殴り倒している──その状況が成立していること自体、すでにおかしい。

「怪我させないようにとか言ってなかったっけ?」

「手加減すると、すぐ起き上がってきて、かえって怪我させかねないから」

「……よー分かってるやん。それにしても、おらんなー」

 何人目かの客に大根をぶん投げて怯ませ、蹴り飛ばした奈菜は、辺りを警戒しながら進む。気づけば食品売り場まで来ていた。商品はあちこちに散乱していて、踏み潰された総菜や割れた瓶が床を覆っている。

 奈菜は落ちていたトマトを拾い、ためらいなく敵に投げつけた。食べ物を粗末にするなと叱られそうだが──そのトマトも、すでに誰かに踏みつけられていた。

「……これってさ、解決したあと、この散らかりどうすんの?」

「それは解決してから考えよ」

 奈菜は落ちていた商品や道具を活用しながら、乱闘の群れの中を切り開いていく。近づけば、その視線と怒気は否応なしに二人に集中した。

 鬼主の気配は、依然として見えない。周囲には赤い鬼の気がうっすら漂っているが、それだけ。主たる強い“意思”は、まだ感じられない。

「笠原さん達、無事逃げられたかな……」

「そろそろ、誰かが警察に連絡しとる頃やと思うけどな」

「警察……どんどん話が大きくなってきてるけど、ほんとに大丈夫?」

「だから、解決してから考えよ、って言うてるやん」

 和美はため息をつき、視線を巡らせた。不安を言葉にしても、答えは出ない。なら、できることをやるしかない。

「四階から順に探してるけど、こうも見つからんもんかね」

「動いてる? いや、それなら奈菜が気づくはずか……まさか店に居ないとか?」

「鬼主が不在でも事態が維持されることは……まあ、無いとは言えへんけどな。やとしたら、上司とかやなくて……客?」

「外出中ってこともあり得るよね。たとえば──うーん、思いつかないけど」

「……し、支店長会議じゃないかな?」

 二人の会話に割り込んだ、か細い声。生活洗剤の棚の陰からだった。

 二人が左右に分かれて回り込むと、しゃがみ込んだ矢附舞彩がいた。

「矢附さん!?」

「あっ、やっぱり高城さんだ……もう一人は、西生さん?」

 恐る恐る顔を上げ、安堵をにじませながら和美に向き直る。続いて奈菜に視線を向け、まじまじと見つめた。

「西生さんって……巫女さん、なの?」

「せやで、似合うやろ?」

「奈菜、今それはいいから。矢附さん、なんでここに?」

「え、えっと……晩御飯の買い物に来たの。そしたら、急に……。二人は、だ、大丈夫なんだよね?」

「安心して。ちゃんと理性あるから、私たち」

「う、うん……会話できてるし、大丈夫、だよね」

 矢附がようやく立ち上がろうとしたとき、再び従業員が飛びかかってきた。

 奈菜は滑らかに身をかわし、棚へと倒れこませる。和美はとっさに体当たりし、押し返す。

「ええっ、殴りかかったりしないんじゃ……!?」

「かかられへん限りはな」

 棚が大きな音を立てて崩れ、日用品が派手に散らばる。

「ところでさ、支店長会議って?」

 和美は手を差し出して、矢附の立ち上がりを助けた。

「あ、あの、盗み聞きしたわけじゃないんだけど……誰かの上司さんを探してるんだよね? それなら、店内にいないって可能性もあると思って」

「支店長さん? 矢附さん、知ってるの?」

「お、お母さんがね、ここでパートしてて……何回か、挨拶したことあるの。それにエル・プラーザのこと、よく愚痴で聞かされてたから」

「……ってことは、今日も仕事で来てるの?」

 嫌な想像に思い至り、和美の表情が曇る。それを察したように、矢附は慌てて首を振った。

「ちがう、今日は休みなの。せっかくの休みだから、代わりに私が買い物に来たの」

 ──不幸中の幸い。
 そう言うには、あまりにも重すぎる状況だった。
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